続「ポストコロナ危機」消費社会の構造変化に備えよ

4月初旬に配信した前回コラムでは、主に消費者の価値観や行動様式の変化に着目したが、この続編では、消費社会の構造変化を見据えた企業戦略について考察したい。

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コロナが生んだ、小売業界の地殻変動

コロナ倒産

日本政府による緊急事態宣言を受けた自粛期間における店舗休業や消費活動の縮減に伴い、小売、外食、生活サービス、観光など多くの生活産業が窮状に置かれている。販売急減に伴う資金流出など短期課題への打ち手はもちろんだが、コロナ危機を契機とした消費社会の構造変化に備えたビジネスモデル転換の検討もまた、多くの経営者にとって急務だ。

コロナ感染者数が世界最大となった米国(5月12日時点)では、老舗百貨店のニーマンマーカスとJCペニーが相次いで経営破綻した一方で、米国配車大手ウーバー・テクノロジーズがデリバリーサービスのグラブハブ社に買収提案を行ったとも報じられており、コロナ禍は流通小売業界の地殻変動をもたらし始めている。

消費者は戻るのか

bicuniqlo

コロナ危機の渦中にある現在、消費企業の経営者が最も頭を悩ませているのは「消費者は再び店舗に戻ってきてくれるのか?」という命題であろう。筆者の肌感覚は、「多数が戻ってくるが、宅配サービスに歩留まる人も相応に出てくる」というものだ。

都市化の進展と不可分であった人類史を顧みても、連休中に自粛対象のグレーゾーンとなった公園や大型商業施設(ホームセンター等)の賑わいをみても、人々は容易に「集う」という行動様式を捨てないと考えられる。むしろ、自粛ムードが去った後には、反動的な消費拡大、いわゆる「リベンジ消費」が発現する可能性さえあるかもしれない。事実、他国に先駆けて外出制限等を解除した中国では、リベンジ消費の動きが出ている。

しかしながら、コロナ危機後の消費市場が以前と同じ形で出現するとは考えにくい。Eコマース等の既存のオンラインサービスに加えて、多くの飲食店がコロナ禍をきっかけに新規参画したデリバリーやテイクアウト(オンライン等で事前注文)等の利便性を知った消費者の多くは、今後もこれらのサービスを利用し続けるであろう。

結果として、消費財の供給者である製造業、飲食業、ブランド企業等が消費者とダイレクトに繋がるデジタルサービス(D2C)に舵を切り、それがさらに宅配サービスの普及に拍車をかけるような循環が生まれるかもしれない。

分散化のすすめ

マスク入荷

コロナ危機を変節点とする構造変化を見据えて、リアル店舗等の資産を持つ消費企業は、どのような行動を起こしていくべきであろうか。ひとつ確かに思えることは、コロナ禍での「一極集中」に伴うリスクを軽減するための「分散化」の必要性だ。

コロナ影響による企業活動への影響は、業種や地域によってまちまちであった。従来の企業戦略では、事業ドメインや展開エリアを集約することは、資本効率や集約効果という観点から筋の良い打ち手と考えられてきた。しかし、今回のような緊急事態では、そうした一本足打法の持つ危うさが詳らかとなってしまった。これは消費産業に限った話ではないが、ポストコロナ危機の企業戦略は、事業ドメイン、地域、顧客、調達、生産、販売チャネルの分散化に向かうのではないであろうか。

殺風景

とりわけ、多くの消費企業がコロナ危機下で痛感したのは、販売チャネルを分散させることによるリスク軽減の必要性であろう。ECやテイクアウト等の販売手法を強化することに加えて、リアル店舗の再定義も待ったなしだ。求められるのは是々非々の検討である。

19~20世紀に活躍した米国の建築家ルイス・サリヴァンが「形態は機能に従う(Form follows function)」と言い残したように、小売業を始めとする消費企業は、コロナ危機後のあるべき消費者サービスという「機能」に関する仮説をゼロベースで構築し、それに合致する「形態」、すなわち店舗施設やサービス体系を設計していくイノベーター視点が必要である。現存する店舗をどう活用するかを考えるのではなく、提供したいサービスから逆算して店舗のあり姿を考えるという発想だ。

ポストコロナに備える新組織が必要

新宿

目指すべき「機能」に則して「形態」を変えていくべきなのは、企業組織においても同様である。ポストコロナの新たなビジネスモデル構築を迅速に推進するには、既存の組織フレームの枠外に新たな組織を設ける必要がある。新組織の成功には、相応の人材、権限、予算枠、独立性、外部連携等の要素が不可欠であり、既存の社内組織による検討にはおのずと限界が生じるであろう。

業種・業態によって事情は異なるが、例えばスーパーやコンビニを念頭にポストコロナ危機のリアル店舗が実装すべき設備やサービスを挙げると、非接触型の販売サービス(オンライン注文&決済、店内外の受け渡しスポット)、お届けサービスの起点となる自動倉庫機能を兼ねたバックヤード、個別最適化された商品・サービスの提供、リアルタイム店頭在庫情報のオープン化、などである。

まとめ

ポスコロナの消費産業では、(1)事業リスクの分散、(2)新しい消費者選好を満たす「機能」から逆算した事業の「形態」の再構築、(3)変革を推進するための組織改革、を急ぐ必要があるだろう。

▼過去記事はこちら
「ポストコロナ危機」 消費社会の構造変化に備えよ

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