フィットネスクラブの進化は続く カギ握るシニア層

現在のフィットネスクラブの原型が生まれたのは、1964年の東京オリンピック直後。それから約60年が経過し、フィットネスビジネスはコロナ禍前で売上高約3,400億円のビジネスに成長した。そして今後もなお、人口動態やシニア層の健康維持や運動に対する意欲からみて、まだ成長の余地がある。日本のフィットネスビジネスの歴史から始めて、この業界が今後向かうべき方向を考察する。

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フィットネスビジネスの過去から現在

フィットネスビジネスの過去から現在

1960~70年代 水泳選手の強化・育成を目的としたクラブ設立が原点

東京オリンピック直後の1965年、水泳選手の強化・育成を目的とした日本初のスイミングクラブとして代々木スイミングクラブが誕生した。それ以降、全国にスイミングクラブが急速に広がったのが、日本のフィットネスクラブの始まりとされる。

現在の大手クラブであるセントラルスポーツやコナミスポーツも、ともに1970年前後にスイミングスクールを前身として事業をスタートしている。1973年にオイルショックが起こり景気は減速したが、1970年代後半になるとジョギング、ジャズダンス、テニスなどのスポーツブームが起こった。

この時期、1979年に創業した現在のルネサンス(当時は大日本インキ化学工業の社内ベンチャー)は、テニススクールとして事業をスタートさせている。

1980~90年代 日本初のフィットネスクラブの誕生

1980年代前半には、若い女性の間でエアロビクスブームが起こった。エアロビクスをプログラムに取り入れ、日本で初めて「フィットネスクラブ」の名を冠したクラブが、1983年に開業したセントラルフィットネスクラブ新橋だ。

1980年代後半はバブル経済の時期でフィットネスクラブの新設も相次ぎ、1980年代最後の3年間は、年間200件を超える総合型のクラブが開設された。

一方、バブル崩壊後の1990年代前半には多くのクラブが赤字に陥り、新規開設も大きく減少した。それでも、続く1990年代後半、バブルの後遺症で低迷する他産業とは異なり、フィットネス業界では大手の収益が高水準であった。

その背景として、会費の実質的な値下げを含む数々の販促策により会員数が増加。客単価は低下したが売上は増加し、コスト削減も効いたことが挙げられる。ただし独立系の収益は低迷し、業界は二極化した。

2000年代初頭~ 業界再編と多様化するサービス

2000年から2001年にかけては、ディックルネサンス(現ルネサンス)とスポーツクラブトリムの合併(2000年)、ティップネスとレヴァンの合併(2001年)など、業界再編の動きが相次いだ。

一方で2000年代前半頃から、マッサージやエステなどのリラクゼーションサービスやパーソナルトレーニング、フラダンスなどのカルチャー系プログラムやダイエットプログラムなど、会員個々の多様なニーズに適合するプログラムを提供するクラブが増え始めた。

なかでもヨガは大ブームとなり、クラブ離れの傾向にあった若い女性層を再び呼び戻すことに寄与した。また、2003年に女性専用の小規模サーキットトレーニングジムのJ-サーキット苦楽園が開業して以降、急速に小規模ジムの出店が増えた。

2006~18年ごろ 24時間営業とパーソナルトレーニングへ進化

2006年から2012年頃まで、フィットネス業界の売上規模は横ばいで推移。この間、2008年にはリーマンショックが起こった。

2010年になるとアメリカのエニタイムフィットネスが日本に上陸し、東京・調布で1号店をオープンした。年中無休の24時間営業をうたい、主に20-30歳代の男女の需要を取り込んだ。

2012年にはパーソナルトレーニングを標榜するライザップが、1号店の神宮前店を開き、強気なマーケティング戦略で事業を短期間のうちに急拡大させた。

2012年末にアベノミクスがスタートした後の景気回復もあり、フィットネス業界の売上は2012年より再び増加トレンドに入る。しかし増収は2018年で終わり、2020年からコロナ禍の影響が顕著に出始める。

2020年~現在 コロナ禍で売上3割減からの回復過程

経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、コロナ禍前の2018年にフィットネスクラブの売上高は3,373億円、会員数は337万人でピークをつけた。

その後、2020年に入ってコロナ禍がパンデミックとなり深刻化し、フィットネス業界は大きな影響を被った。同年のフィットネスクラブの売上高は前年比33.2%減の2,235億円、会員数は同20.2%減の269万人にまで減少した。

ただし2021年以降、売上高は回復過程にあり、2022年は前年比9.6%増の2,683億円にまで回復した(図表参照)。

図表_フィットネス業界の売上と会員数の推移

まだある伸びしろ フィットネスクラブの潜在力

まだある伸びしろ フィットネスクラブの潜在力

① 健康意識と運動欲求の高まり

明治安田生命が2023年7月に実施した「健康」に関するアンケート調査結果によれば、コロナ禍の時期と比べた現在について、34.9%の回答者が「健康への意識が高まった」と答えている。

うち53.8%が「運動·スポーツを行うようになった」と回答し、昨年の38.6%から上昇した。コロナ禍をきっかけに健康意識が高まり、運動をしたいという欲求が増していることがうかがえる。

② 中でもシニア層の健康志向と運動意欲は高い

厚生労働省が2019年に行なった「令和元年 国民健康・栄養調査報告」によれば、運動習慣のある人の割合は、男性の場合20歳代で28.4%、30歳代で25.9%、40歳代で18.5%、50歳代で21.8%、60歳代で35.5%、70歳以上で42.7%であった。

一方、女性の場合は、20歳代で12.9%、30歳代で9.4%、40歳代で12.9%、50歳代で24.4%、60歳代で25.3%、70歳以上で35.9%だった。つまり、男性は60歳、女性は50歳から、運動習慣をつける動機が高まる傾向があるといえる。

③ 最大顧客は60歳以上のシニア年齢層

高齢化がもたらす健康意識や運動習慣の高まりに呼応して、フィットネスクラブの会員もシニア年齢層が増えている。

会員の年齢層を開示しているルネサンスによれば、5年前の2018年9月に60歳以上の会員の全体に占める構成比は30.5%、50歳以上は50.7%であったが、直近の2023年9月にはそれぞれ35.1%及び56%に上昇した(ルネサンス 決算説明資料)。

④ シニア年齢層は今後20年間増え続ける

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年)」は、65歳以上の人口は2043年まで年率平均0.4%増のペースで増え続けると推計している(出生中位·死亡中位推計)。

つまり、フィットネス業界の最重要顧客であるシニア年齢層は、今後も増え続ける。もちろん、シニア人口増の一部は59歳以下の若年層の人口減で相殺される。それでも、59歳以下の若年層は、前述のルネサンスでいえば全体の半分以下の44%に過ぎない。

更に、若年層に比べてシニア年齢層の方が健康への意識が高く、運動・スポーツへの欲求も強い。そこでフィットネスクラブの会員予備軍の数という観点で考えれば、若年層の名目値が減っても、実質的な会員予備軍の数はネットで十分プラスになろう。

従ってシニア年齢層のニーズにうまく応えることが出来れば、フィットネスビジネスにはまだ成長の余地があるといえる。

フィットネスビジネスが今後進むべき方向性

フィットネスビジネスが今後進むべき方向性

テクノロジー

フィットネスクラブでもこれからAI(人工知能)の導入が進むだろう。

主な目的は、AIによるパーソナルトレーニングだ。マシンにAIを搭載し、会員の体力・筋力をAIが分析して最適な負荷での運動をアドバイスしたり、パーソナライズされたトレーニングプランを提案したりする。

トレーニング中には、AI行動解析システムで運動フォームを分析し、必要なアドバイスもできるようになるだろう。

もちろん実用にあたっては、すべてをAIに任せきりではなく、スタッフとのコミュニケーションも必要だ。それでもパーソナルトレーニングのAI化は進み、AI以外にも新しいテクノロジーの導入は進むだろう。

医療への接近

病気やケガなどで手術した場合、かつては術後1カ月間程度の安静が必要だったが、今の考え方は違う。長期間寝たままでいると筋力が落ち、血栓症の心配もあるので、今は術後早い段階からリハビリを開始するのが主流だ。

理学療法士が患者に合った適切な負荷と、経過に合わせた動き方を指導する。これはフィットネスとオーバーラップする世界だ。

また最近はパーキンソン病の患者が増え続けており、厚生労働省は2020年時点での患者数を28万9,000人と推計している。パーキンソン病は治療法がまだ確立していない難病だが、運動療法、即ち筋力トレーニング、有酸素運動、歩行トレーニング、太極拳、ダンスなど、いずれも患者の運動能力の維持・向上に有効であるとの研究結果が報告されている。

運動療法のニーズは、パーキンソン病に限らず広範な疾病におよび、これもフィットネスがカバーし得る分野だ。

アウトドア

フィットネスクラブといえば、インドアのアクティビティをまず思い浮かべる人も多いだろう。ジムに並んだ数々のマシンやスタジオでのエアロビクスのレッスンは、フィットネスクラブを象徴する光景だ。

とはいえ世の中ではいま、アウトドアのアクティビティも伸びている。特にグランピングをはじめとする「ライトアウトドア」分野の成長は顕著だ。そこでフィットネスビジネスにも、アウトドアを取り入れる選択肢が広がってくるといえる。

都市公園を活用したアウトドアフィットネスやウォーキング、ハイキングなどを手始めとして、ヨーロッパで盛んなノルディックウォーキングなど、メニューは多様だ。需要次第では、トレッキングや登山、マリンスポーツも対象となるだろう。

これらのアウトドアのメニューを独立したプログラムとして提供するだけでなく、インドアのプログラムの中に定期あるいは不定期のイベントとして組み入れる選択肢も考えられる。

ミクストユース(mixed-use)

コロナ禍がもたらしたライフスタイルの大きな変化の一つが、在宅勤務の普及だ。最近では、在宅勤務をやめて完全な「出社」に戻した企業も増えているが、大企業を中心にハイブリッドの勤務体制(=在宅と出社の組み合わせ)をとる企業は多い。

ただし住宅事情にもよるが、自宅では仕事に集中できない、あるいは自宅勤務では仕事とプライベートとの切り替えがうまくいかない、といった問題はよく指摘される。その場合、オフィススペースを併設したフィットネスクラブは、自宅に代わる「職場」として十分なり得る。

店舗空間の用途をフィットネスに限る必要はない。ライフスタイルが変化する中で、空間を有効活用したミクストユースが広がるだろう。

コミュニティ

2020年の国勢調査での男女の生涯未婚率(=50歳時未婚率)は、男性28.3%で女性17.8%であった。50年前の1970年は男性1.7%、女性3.3%だったので、生涯独身の男女が過去50年間増え続けてきており、今後も歯止めは掛かりそうにない。

これはつまり、今後フィットネスクラブ会員の中でシニア年齢層の割合が増え、その中でも独身者の存在感が高まることを意味する。

シニアの独身者がフィットネスクラブに求めるものは、単に健康維持·増進だけではないだろう。すべてのシニアの独身者が孤独感にさいなまれていると言うつもりはないが、クラブで知り合った「利害関係も上下関係もない仲間」との気軽な会話を楽しむために通う人も多いと思われる。

そういう意味で、クラブの運営の中に会員相互のコミュニティ感を醸成していくことが求められる。そのようなコミュニティ感は、会員が作った趣味のサークルで実感できる場合もあろうし、運営者がダンスのレッスンで割り振った小グループで生まれる親近感や連帯感の場合もあろう。大事なことは、その感覚が堅苦しいものでなく、心から楽しいと思えるものであることだ。

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