PK戦 キッカーはどこに蹴りキーパーはどちらに跳ぶべきか

サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会が終わってしまいました。今回も素晴らしい試合ばかりで、また、決勝戦は史上最高の試合となり、当面の間、喪失の日々となりそうです。話題満載、議論沸騰ですが、その一つはPK戦でしょう。4年に一度の祭典ですので、今回は楽しい内容をお届けします。

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PK戦はハラハラドキドキ

PK戦はハラハラドキドキ

リオネル・アンドレス・メッシ・クッシッティーニ、ネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオール、遠藤保仁選手ら一部の天才は、キーパーが飛ぶ方向を見極めてから蹴ることができます。いわゆる「ころころキック」です。

しかし、それら特異な才能を持った選手を除けば、キッカーは走り出した時には蹴る方向を決めているし、キーパーは飛ぶ方向を決めており、どちらに蹴るのか、どちらに跳ぶのか、選手も観客も「ハラハラドキドキ」します。

高校サッカーを見ていると、どちらの方向に蹴るのか予想できることが多いように思います。人間はどうしても蹴る方向を見てしまうのです。

今回のW杯はキッカーの後方からの映像なので、キッカーの表情はわからないですが、高校サッカーではキッカーの前方からの映像のことがあり(W杯では高校サッカーよりも遠方から撮れるカメラなのかもしれません)、キッカーの表情を見ることができます。

しかし、プロ選手となるとそうそう読めなくなります。天才中の天才フォン・ノイマン、モルゲンシュテルン、ナッシュなどにより確立されたゲーム理論を学ぶ初歩の初歩では、サッカーのPK戦は格好の題材として使われます。以下、キッカーはどちらに蹴るべきか、キーパーはどちらに跳ぶべきか考えてみましょう。

ゲーム理論から考える成功率

ゲーム理論から考える成功率

右利きの選手の場合、右に蹴ったほうが得点確率が高いと仮定しましょう。一方、キーパーはそのことを認識していて、右に飛んでくる確率が高いと予想することでしょう。

そうなると、キッカーは左に蹴ったほうがよいと考え、そうなるとキーパーは左に跳ぶ、キッカーはやはり右にする……と堂々巡りになります。じゃんけんと同じで解答がないように見えます。どうしたらよいでしょうか?

ここでは、以下の仮定をしてみます(左右はキッカーから見て)。

  • キッカーが右に蹴り、キーパーも右に飛ぶ:ゴール確率50%(キーパーからみると阻止確率50%)
  • キッカーが右に蹴り、キーパーは裏をかいて左に飛ぶ:90%(同10%)
  • キッカーが裏をかいて左に蹴り、キーパーは素直に右に飛ぶ:70%(同30%)
  • キッカーが裏をかいて左に蹴り、キーパーも左に飛ぶ:10%(同90%)

このようなとき、キッカーはどちらに蹴り、キーパーはどちらに飛ぶべきでしょうか? まずはキッカーの観点から考えてみます。キッカーが右に蹴るべき確率をx%とすると、キッカーの成功確率は以下のようになります。

キーパーが右に跳ぶ:0.5×x+0.7×(1-x)=0.7‐0.2x グラフA
キーパーが左に跳ぶ:0.9×x+0.1×(1-x)=0.1+0.8x グラフB

PK戦でのキッカーの成功確率

グラフAは切片0.7の右肩下がりのグラフ、グラフBは切片0.1の右肩上がりのグラフになります。グラフAとグラフBの交点のxは0.60=60%。この60%は何を意味するのでしょうか。

グラフAは、キーパーが右に跳ぶときのキッカーの成功確率ですから、左に蹴った(x=0)ほうがよく、グラフで右に行けば行くほど(xが大きくなる=右に蹴る)、得点確率が下がります。

グラフBはキーパーが左に跳んだ時のキッカーの成功確率ですから、右に蹴った(x=1)ほうがよく、グラフで左行けば行くほど(xが小さくなる=左に蹴る)、得点確率が下がります。

したがって、二つのグラフの交点x=60%は、キーパーが右に跳んだ場合、左に跳んだ場合どちらにおいても、得点確率が最も低くならない点を示しており、キッカーは60%の確率で右に蹴ったほうが良いとなります。これはミニマックス戦略と呼ばれています。

逆にキーパーの観点で考えてみましょう。キーパーが(キッカーからみて)右に跳ぶ確率をy%とすると、キーパーの阻止確率は

キッカーが右に蹴る:0.5×y+0.1×(1-y)=0.1+0.4y  
キッカーが左に蹴る:0.3×x+0.9×(1-y)=0.9‐0.6y

この二つのグラフの交点はy=0.8。したがって、キーパーは80%の確率で右に跳んだほうが良いとなります。

確率・駆け引き……現実のPK戦では

確率・駆け引き……現実のPK戦では

以上のように、ゲーム理論を使うと、キッカーは60%の確率で右に蹴り、キーパーは80%の確率で右に跳ぶのが最適解(いわゆる「ナッシュ均衡」)となります。

とはいえ、PK戦でそれぞれの選手が蹴るのは一回限りですから、60%の確率で右に蹴れと言われても、現実には適用が難しいところです。

一歩進んで、キッカー5人全体として、右に蹴る確率、右に跳ぶ確率を検討する必要があるかもしれませんし、さらに変数を増やす――真ん中に蹴る(今回の大会でも真ん中に蹴った場合の得点確率が高かったように思います。(左右でなく)上に蹴る/下に蹴る(ゴールの上1/4に蹴れば、キーパーは左右を正しく読んで跳んだとしても捕れないでしょうが、一方ポストを超えてしまう可能性が高くなる。いわゆる「ふかす」)――などの工夫もありえます。

イングランドはPK戦のために心理学者を採用すると報道されていました。確かに心理戦ですし、また、外してしまった選手の精神のケアも必要ですが、統計学者、ゲーム理論学者の採用も面白いのではないかと思います。

FIFAへの提言

筆者は熱狂的とはいえませんが、そこそこのファンとして、――2006年のW杯ドイツ大会は現地で観戦。ホテルは日本代表と偶然一緒で、ホテルのトイレではジーコ監督と隣り合わせでした。ワールドカップ開催中のドイツはまさにW杯一色で、朝の駅には飲みつぶれたファンの人たちがあちこちで寝ていました。この世とは思えないほど楽しく、仕事なんてしている場合ではないと感じ、FIFAに履歴書を送りました(が、採用されず、今に至っています)――、FIFAに四つ提言をいたします。

一つ。PK戦も確かに楽しいのですが、選手への精神的負担が大きすぎるし、サッカーの本来の能力と必ずしも比例するものではありません。Vゴール方式の無制限延長戦にすべきでしょう。

11対11だと何時までたっても決着しない可能性があるのは確かなので(それも楽しいですが)、5分経つごとに両軍から一人ずつ減らしていき、10:10、9:9、8:8……としてはどうでしょう。

一つ。試合中のペナルティキックは、ペナルティキックを獲得した選手が蹴るべきではないでしょうか。

一つ。グラウンドでの唾吐き禁止。選手の皆さんはスライディングしたり寝転んだりする場所ですし、極端に言えば聖地でしょう。

一つ。次の大会のグループステージは、3チーム×16グループが検討されています。グループステージの最終戦は緊張感あふれる良い対戦が多くなりますが、3チームではこの最終戦の盛り上がりが期待できなくなります。再検討が必須でしょう。

日本代表はもちろん、32チームの選手・関係者の皆様、素晴らしい試合を有難うございました。4年後、2026年の大会を楽しみにしています。

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