哲学とビジネス⑥ビジネスシーンでも役に立つ「アリストテレスの哲学」

アリストテレスという哲学者の名前を聞いたことがないという人はほとんどいないだろう。「プラトンの弟子」「プラトンの最大の批判者」「万学の祖」という呼称で呼ばれている偉大な古代ギリシャの哲学者である。一方で、紀元前300年代を生きたアリストテレスの哲学が現在も我々の生活やビジネスを支えていることを理解している人は少ないのではないだろうか。本稿ではアリストテレスの思考方法の中でも、現代のビジネスに役に立つ考え方を紹介する。

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はじめに

はじめに

哲学を学ぶ際に、ギリシャ哲学の勉強から始まり、現代のポスト構造主義やそれ以降の新しい哲学まで順を追って勉強すると、哲学研究者でない限り途中で挫折することが多い。私もその一人だった。

これまで私がシリーズ化して執筆してきた「哲学とビジネス」では初期シリーズで、現代に生きたマルクス・ガブリエルやジャック・デリダを取り上げている。これは、現在のビジネスに生かせる考え方を順不同で紹介するためであり、哲学を体系的に説明する趣旨はない。

もっとも私は、哲学科出身ではない法学部出身の人間であり、体系的に哲学を学習していないので、哲学の真の理解に基づく網羅的な内容のご紹介でないことをご容赦願いたい。

広辞苑によると「哲学」とは

「世界や人生の究極の根本原理を客観的・理性的に追求する学問」

のほか

「自分自身の経験などから作りあげた人生観・世界観。理念」

の意味で定義されている。

私は哲学こそ、大学などで学ぶことだけを目的とした学問ではなく、自分の人生を円滑に生きるための強力な武器だと考えている。そして、各人の人生の中で大きな比重を占めるビジネス(仕事)においても、当然ながら哲学は生かされるべきだとも考えている。

アリストテレスとは?プラトンとの違いについて

アリストテレスとは?プラトンとの違いについて

アリストテレス(紀元前384~前322)は医者の息子として生まれ、プラトンの弟子として哲学を学んだ偉大なギリシャ哲学者である。しかしアリストテレスはプラトンの最大の批判者でもあった。

プラトンが個々の事象とは独立した唯一絶対の存在である「イデア(観念・理念等)」を重んじる理想主義者だったのに対して、アリストテレスは個々の事物に向き合い、現実を間近で観察する現実主義者だった。また、プラトンは机上で計算する数学を重視したのに対し、アリストテレスは経験を重んじる自然学を重視した。

偶発性についての捉え方も、プラトンとアリストテレスでは大いに異なっていた。

例えば、私自身が弁護士から現在のコンサルティング会社の経営者となったことは、たまたま産業再生機構という組織に属したという偶然によるものである。

アリストテレスはそうした偶発性を認めているが、プラトンはこれを「必然」としている。すべての事象が必然によって生じるなら、人間が努力しても運命は変えられないが、アリストテレスは偶然に生じた事象を受け入れた上で、人間の行動や努力を推奨するのだ。
余談だが、プラトンとアリストテレスとの違いについて述べる場合には、ルネッサンス時代の画家ラファエロの作品『アテネの学堂』が引き合いに出される。

  • アテネの学堂

この絵の中央に位置する2人の人物のうち、右手を上に向け、天を指差している方がプラトンであり、右手を前方に差し出して、手の平を地面に向けている方がアリストテレスである。この絵画は「理想主義者」と「現実主義者」の違いを示していると言われている。

アリストテレスの学問①(論理学・三段論法)

アリストテレスの学問①(論理学・三段論法)

アリストテレスは哲学(形而上学)を中心に据えつつも、政治学、倫理学、心理学などの文科系学問、動物学、植物学、生物学、気象学、天文学、自然学等の自然科学的学問、これら両系の学問を一つに統一する方法論としての論理学などを生み出した。

そのため、すべての学問の祖である「万学の祖」として高い評価を受け続けてきている。その中でも特に、現在でも多くの人々に利用されているのが論理学の中の「三段論法(演繹法)」だろう。

三段論法は「ルール(一般法則)」である大前提と、「観察事項(個別情報)」である小前提の2つの情報を関連づけて、そこからの因果関係によって結論を導き出す思考法である。

例えば、よく哲学書に記載されている例を以下に示す。

  1. 大前提:すべての人間は死ぬ(一般法則)
  2. 小前提:ソクラテスは人間である(個別情報)
  3. 結 論:ソクラテスは死ぬ(結論)

これを概念図で示すと、別図1の通りとなる。

別図1

なお別図1で、その関係性を記号で示すと、

  1. 大前提:すべてのAはXである(一般法則)
  2. 小前提:BはAである(個別情報)
  3. 結 論:すべてのBはXである(結論)

となる。

通常のビジネスにおいても、下記の通りこのような三段論法を駆使して結論を導くことは多い。例えば、

例1

  1. 大前提:メリットよりもデメリットが少ない議案は、賛成すべきである
  2. 小前提:議案Aは、メリットよりもデメリットが少ない
  3. 結 論:議案Aは、賛成すべきである

という趣旨の議案を重要な会議で意思決定している企業は多い。

しかしこれらが成り立つのは、この大前提である一般法則と小前提である個別情報がいずれも正しい場合であり、その確認が重要である。

例2

  1. 大前提:値下げをすると売上高が増える
  2. 小前提:商品Bを値下げする
  3. 結 論:商品Bの売上高は増える

例2の場合は「値下げをすると売上高が増える」という大前提は一見正しそうに思えるが、実際は正しくないこともある。

値下げをした場合に商品の販売点数は増える場合が多いが、実際の売上高は販売点数×1品単価で計算するため、販売点数が増えても単価減による影響度が大きい場合には売上高が増加するとは言えない。

それに加えて値下げをした後の単価が競合店の単価よりもいまだに高いような場合には、販売点数すらさほど増えない可能性が高い。

したがって例2では大前提が正しくないときには結論も正しくなくなる。

また三段論法は、その因果関係の成立に関する正確な理解も必要である。次の例は、

例3

  1. 大前提:オーナー企業では経営者に権限が過度に集中しているため、経営者の不
    正が起こりやすい
  2. 小前提:C社はオーナー企業ではない
  3. 結 論:C社は経営者の不正が起こりにくい

というものだ。

例3は一見正しい推論のように見えるが、大前提となる一般法則では、オーナー企業の特徴について述べているにすぎず、非オーナー企業については何も触れていない。

そのため、そもそも三段論法としての因果関係が成り立っていない。この関係性を先ほどのベン図を利用して説明する。

別図2

例3でオーナー企業をA、不正が起きやすい企業をX、不正が起きにくい企業をY、C社をBとして捉える。

その場合、Aではない非オーナー企業のBは、不正が起きやすい企業(X)に属する場合と、不正が起きにくい企業(Y)に属する場合の両方の可能性があるので、上記の結論は誤りになる。

このように三段論法を活用する際は、大前提である「一般法則」と小前提である「個別情報」が正しいことの確認と、因果関係の成立の有無を正しく見極めることが重要である。

アリストテレスの学問②(形而上学・四原因論)

アリストテレスの学問②(形而上学・四原因論)

アリストテレスは万物の根源について、「起動因」、「目的因」、「質料因」、「形相因」の4つがあることを明らかにし、それぞれの特性とその相互の関係について論じている。

これは「アリストテレスの四原因論」と呼ばれている。具体的には、以下の通りだ。

起動因:物事の出発点(起動又は始動の起点)
目的因:物事の目的(終点又は終局)
質料因:事物の材料(内在的要素)
形相因:事物の形相又は原型(外形的要素)

  「アリストテレスの四原因論」を「家の建築」に当てはめて考えてみる、以下の通りである。

【家の建築】

  • 起動因:建築家
  • 目的因:家としての機能の具備
  • 質料因:木、土、石
  • 形相因:家の設計図

ビジネスの世界の場合、企業の例で考えてみると、分かりやすい。

企業の場合

  • 起動因:起業家・経営者
  • 目的因:企業理念・パーパス・利益の計上
  • 質料因:金銭(株式払込金)、技術、事業内容(ビジネスモデル)、人財等
  • 形相因:株式会社・合同会社他

企業には必ず創業者(起業家)が存在し、企業の形態としては株式会社形態が一般的だ。
そして、企業の目的には「企業理念」や「パーパス」がまずあげられるが、通常の場合、利益の計上も目的と言えよう。

一方で、企業の質料因が何かと考えると意外に難しい。会社の設立の際に株主が拠出した金銭(株式払込金)と定款に記載した事業内容がまずは思い浮かぶが、製造業の場合には技術があるし、その後に雇用をしていく人財なども質料因となるだろう。

初めての企業を分析する際、一般的に会社の業務内容や業績などにすぐに目が行きがちだが、大事なことはそれに限らない。

その企業の創業者(実質的創業者を含む)はどのような人か、どのような思いで企業を設立したのか、そしてその企業の目的である経営理念やパーパスは何か、ということも重要だろう。企業の本質を理解する上で、この「アリストテレスの四原因論」に沿って考えることは大変有用である。
企業内で新規事業を行う意思決定をする場合にも、この「アリストテレスの四原因論」に沿った整理は役に立つものだと考えている。

新規事業の場合

  • 起動因:新規事業の担い手・責任部署(役員)
  • 目的因:新規事業のパーパス・目指すべき利益目標
  • 質料因:資金、技術、事業内容(ビジネスモデル)、人財など
  • 形相因:事業部内・別会社・合弁会社ほか

新規事業の担い手や責任役員が明確でない場合には、その事業の行く末は前途多難だろう。

また、事業の目指すべき意義・目的や利益目標もしっかりと設定する必要があり、この点があいまいだと、上手くいかなかった場合の撤退の判断も難しくなる。

事業運営に必要な資金や人財も、最初の段階で具体的な意思決定の前提として説明をしておかないと、後から資金や人の不足等を要請してもなかなか企業としては対応が難しい場合が多い。

そして最後に重要なことは、新規事業の遂行の形態だ。当初は事業部内で1つのプロジェクトとして進めたとしても、軌道に乗る見込みが出てきた場合には別会社化をして事業責任者などに権限とインセンティブを与える工夫も必要だ。

また、他社のノウハウがないと事業展開が難しい場合には、他社との合弁会社方式で事業を遂行することも柔軟に検討すべきだろう。

アリストテレスの学問③(倫理学・ニコマコス倫理学)

アリストテレスの学問③(倫理学・ニコマコス倫理学)

アリストテレスは倫理学についても重要な議論を展開している。

まず人間の行為の最終目的は「最高の善」であるということだ。「最高の善」とは、人間にとっては「幸福」である、と述べている。

そして人間の「幸福」は、人間がそのすぐれた在り方としての「徳」を発揮できる生き方によってもたらされるとしている。

この「徳」には2種類あり、理性を持つ部分の「思考に関わる徳」と、理性に聞き従う部分の「人柄に関わる徳」に分かれるという。

人々が目指すべき「善き人(「幸福」な人)」は、「思考に関わる徳」と「人柄に関わる徳」の2つを持っているのだ。

アリストテレスは
「思慮を欠いていては本来的な意味での善き人になりえないし、人柄の徳を欠いては、思慮ある人にはなりえない」(倫理学第6巻)
と述べている。

この「徳」を発揮した倫理的な考え方の例としては、以下の3例の比較をしてみるとわかりやすい。最後の徳の倫理こそ、アリストテレスが言う「徳」を発揮した倫理的な考え方に他ならない。

①義務的倫理に基づく考え方

嘘をつくことがいけない理由は、噓をつくことが社会のルールや道徳義務に違反する
からだ。したがって、いかなる場合でも嘘は許されない。

②損失論的倫理に基づく考え方

嘘をつくことがいけない理由は、嘘をつくことで社会に危害や悪影響が及ぶことから
だ。そうであれば、損失が出ない場合には嘘をつくことも認められるはずだ。

③徳の倫理に基づく考え方

嘘をつくことがいけない理由は、嘘をつかないことが人間として徳のある誠実な行為
であるからだ。そうであれば、同居している女性にストーカーが来た場合に女性が
不在であると嘘をつくことは女性の救済保護の見地から、徳のある誠実な行為であ
り、このような場合には嘘をつくことも許される。

アリストテレスの言う「徳」とは、「中庸の徳」と呼ばれ、超過と不足の中間を意味する。

プラトンが永遠で普遍的・絶対的な道徳を基準として人間を導こうとするのに対し、アリストテレスは運に支配されたこの世の中で、すべての人の行為を普遍的・絶対的な概念によって律するのは無理だと諦め、概念ごとに相対的に考えられる倫理を基準として考える。

少しは「マシ」になるように、状況や時代の変化に応じてその都度、適切な行動を選んでいくほうが好ましいという現実的な考え方だ。

例えば、「勇気」という概念をとって考えてみると、理想の勇気について考える必要性はなく、無鉄砲と臆病のちょうど中間の状態を最善と考えるのである。
「徳とは、選択にかかわる性向であり、我々との関係のおける中間性であり、ロゴス(分別)によって、つまり思慮ある人がそれに基づいて選択するロゴス(分別)によって定められている」

我々はビジネスにおけるいくつかの利益が相反する場面で、どのように倫理的な行動を行うべきかを考えさせられる場面に遭遇する。

例えばカーボンニュートラルのように、倫理的には一切の炭素を排出しないでビジネスができればよいといえるが、一方で企業の経済活動が順調にいかないと雇用の維持や給料の増加を実現することはできず、社員が健康で文化的な生活を維持することができなくなる。

アリストテレスの言う「中庸の徳」に従えば、この双方の利益の中間でバランスをとったところに、倫理的な「徳」のある決断があることになる。

なかなか難しい概念ではあるが、絶対的な道徳的な行動というのが必ずしも明確とはならない現代の複雑な社会において、このアリストテレスの「中庸の徳」による倫理的な行動を実行することが我々を「幸福」にする「徳」ある生き方になるのではないだろうか。

最後に

みなさまはアリストテレスについてどのような感想を持っただろうか。

私は古代ギリシャ時代の哲学者の考え方が、現在のビジネスにも十分に通用することに驚きを隠せない。

アリストテレスは、
「すべての人間は、自然本性によって知ることを求める」(「形而上学」)
と述べた上で、
「われわれにとって知られること」「ことの知」)(手許にあったり、とりあえず得ることができたりするデータや情報から知ることができること)
に加えて、
「事柄の本性に即して知られること」「なぜの知」)(ある事物や事象、ないし現象について、その原因や原理、根拠を知ること)
が重要と述べている。

我々はこのアリストテレスの教えに従い、データ収集からその本質的な分析によって原理・根拠を知る知的活動を行うことが人間の本質であることを認識しながら、日々の活動することが良いのではないだろうか。

参考文献

・アリストテレスの哲学(中畑正志著:岩波新書)
・アリストテレス(今道友信著:中公文庫)

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