電子部品と自動車部品~さらなる高みへ。「場所」は経営者の責務

一世を風靡したJUDY AND MARYの『LOVER SOUL』(作詞YUKI、作曲TAKUYA、編曲JUDY AND MARY)を覚えているでしょうか。YUKIさんが、冬空のもと、でも暖かい夜に堕ちていく実体験を書いたと思われるこの曲は、バンドの代表曲となりました。そのサビは「あなたの体に溶けて 一つに重なろう」。同じように、電子部品と自動車部品は溶けて一つになり始めています。

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象徴的な順位変動

象徴的な順位変動

図表1は自動車部品企業の営業利益額上位10社の過去10年間の推移です。
図表2は電子部品企業の上位10社の過去10年間の推移です。
図表3はこれら二つの産業あわせての営業利益上位10社の推移です。

自動車部品企業の営業利益額上位10社の過去10年間の推移 電子部品企業の上位10社の過去10年間の推移 これら二つの産業あわせての営業利益上位10社の推移

2021年度、象徴的な順位変動がありました。自動車部品企業と電子部品企業の過去の営業利益を比べてみると、20年度まではつねに自動車部品企業が1位でした。しかし21年度、初めて電子部品企業である村田製作所が1位になったのです。

電子部品企業の自動車向け売上高が拡大する一方(図表4)、自動車部品企業による自動車以外の用途への部品提供が少ないことが一因と考えられます。

電子部品企業の自動車部品セグメント売上高

既存事業がなくなる時 事業転換のための驚きの手腕

既存事業がなくなる時 事業転換のための驚きの手腕

自動車産業界の今後の潮流を示すキーワード、CASE(connected、autonomous、shared&services、electric)。自動車産業が対応すべきCASEはつまるところ電子化です。

内燃機関がなくなる一方で(内燃機関自動車と純粋電池自動車のどちらが本当に環境負荷が小さいのかの議論はここでは措いて)、自動車は電子化される。今後、ますます電子部品の勢力が拡大することは疑いがありません。

既存事業が喪失することの衝撃。最も著名なのは富士フイルムの業態転換でしょう。銀塩フィルムがなくなった後、その技術の展開として光学フィルム、医療、化粧品へと展開したことは見事というほかありません。

同社の事例は数多の経営書で取り上げられているので、ここでは、同じカメラ産業から驚きの事例を一つ。村田朋博著「天邪鬼経営 経営危機には給料を増やす」(日本経済新聞出版)で紹介した甲南カメラ研究所です。

同社は、甲南大学写真学部の西村雅貴氏が1951年に仲間と一緒に設立した企業で、ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)や富士写真フイルム(現富士フイルム)など大手カメラ企業にカメラの技術を提供し、その対価を受けていました。

カメラに関するいくつかの重要技術は同社が開発し、映画「ローマの休日」でグレゴリー・ペック扮する新聞記者が、ライターとみせかけてオードリー・ヘップバーンを盗み撮りするのに使った超小型カメラ「エコー・エイト」も同社が開発したものだそうです。

しかしながら、企業の存続の危機に立たされました(カメラが隙間産業から巨大産業になったことの副作用でしょうか)。

既存事業に将来性がない以上、事業転換を図ることが理想ですが簡単なことではありません。通常はコストを削減し縮小均衡を目指すでしょう。しかし、甲南カメラの経営者はなんと、経理を公開すると同時に、給料を30%増やしたのです。

「わが社は給料を30%増やす。そのため、倒産は早まり、1年後には倒産する。やめたい人はそれまでに次の仕事を探せ。やめたくない人は新商品をつくれ」

驚きです。果たしてその結果はどうであったか。

甲南カメラは現在、コーナン・メディカルと名前を変えています。社名の通り、業態転換に成功したのです。

存亡の危機に瀕した甲南カメラの技術者は、光学技術を活かして眼科用検査機器を開発。今では「非接触式角膜内皮細胞撮影装置」において、国内の過半の占有率を持つ企業に生まれ変わったのです。

豊穣な「場所」はどこに? 問われる経営者の手腕

豊穣な「場所」はどこに? 問われる経営者の手腕

私がこれまでに指導をうけた経営者の中のお一人は、「経営者の仕事は、社員が寝ていても儲かる仕組みを作ること」と言い、私は衝撃を受けました。現場に働かせ自分は楽をしようとする経営者がいてもおかしくないなかで、経営者が考えに考え現場に楽をさせる。昔の日本でいえば親方でしょうか。俺についてこい、幸せにしてやる、と。

そのためには、豊饒な「場所」を探し当てることが不可欠です。すなわちHOW(どうやって利益を出すか、仕組み)の前にWhat/ Where(何をするか、場所)です。What/Whereを間違うとHowでの挽回は大変でしょう。

この連載で過去に紹介したLinear Technologyの経営者はまさに社員に理想的な場所を提供しています。同社はかつて民生機器産業(オーディオ、テレビ、ビデオ、携帯電話など)に半導体を提供していました。

しかし、技術の安売りともいえる熾烈な価格競争に対して、同社のスワンソン会長(当時)は2005年、「民生機器の顧客は価格引下げ要求ばかりだ。このような低収益の市場で我々の貴重な技術者を消耗させて良いのか」と考え、経営資源を民生機器分野から引き揚げ、同社技術が正当に評価される産業分野に展開し、世界有数の高収益企業を創り上げました。

内燃機関がなくなった後の「場所」をどう探すか。自動車産業で磨かれた基礎技術、製品技術、生産技術が極めて高い水準であることは論を俟たず、それらを展開できる「場所」をどう探すか。経営者の腕の見せ所と言えそうです。

さらなる高みへ。フロンティア・マネジメントの取り組み

世界に誇る、日本の電子部品と自動車部品。今後は「溶けて」さらなる高みを目指すことになると期待されます。

フロンティア・マネジメントは、細川拓哉による「自動車部品メーカーは生き残れるか EV化と半導体不足」(2022年5月12日)にもありますように、事業転換の支援を手掛けております。当社の起用をご検討いただけるようでしたら光栄です。

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