【7月1日施行】中国の会社法改正と現地法人における検討点

2024年7月1日から中国にて新会社法が施行される。上半期から、日本企業の中国法人への影響などを各社のメディアが報じているが、変更された部分の実際の運用については不明点もある。今回は、事業者側が検討する新会社法への対応ポイントを考察する。

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新会社法と外商投資企業に求められる対応

新会社法と外商投資企業に求められる対応

2023年12月29日に、全国人民代表大会常務委員会にて会社法(中華人民共和国公司法)の改正が承認された。同法は1993年に制定後、過去5回改正が行われ、6回目となる今回の改正法は7月1日から施行される。

これに先立つ形で、2020年1月1日に外商投資企業(以下:外資企業)に対し、「中華人民共和国外商投資法(以下:外商投資法)」が施行され、これまでの外資企業への制度を規定した「外資三法」(「中外合弁経営企業法」「外資独資企業法」「中外合作経営企業法」の総称を指す)が廃止された。

外資企業(独資、合弁含む)も、中国企業同様に中国「会社法」に準拠した組織、経営への移行が必要となった。2020年以前に設立した外資企業であれば、2024年12月末までが移行期限として規定されている。

2020年以前設立の企業が、すでに会社法に対応していた場合や猶予期間内での改組を検討中の場合も、「新会社法」への対応が必要となる。

新会社法に未対応の外資企業もまだある

新会社法に未対応の外資企業もまだある

では、この改正に外資企業は対応できているのだろうか。

前述の外商投資法では、2025年1月1日以降、市場監督管理部門は、新会社法に対応していない外資企業に対してその他登記事項の変更申請を受理せず、かつ状況を公示すると規定している(同法 第44条)。

これを受けて市場監督管理部門は、指導を強化し企業の登記変更への便宜を図ると示しており、各地域の同部門は外資企業へ対応指導を行っているはずである。そのため多くの外資企業においては、すでに必要な変更申請は行われていると推測するが、意外と対応していない企業も見受けられる。

その理由としては、次のようなものがあげられる。

  1. 規模が小さい独資企業のため、影響が少ないと考える
  2. 合弁企業でパートナー中国企業が動かない、関心がない
  3. 中国事業を見直している など

対応していない企業は、7月1日施行の新会社法対応を急ぐ必要がある。

現地法人の経営における検討点とは

現地法人の経営における検討点とは

新会社法は、過去改正規定から、16条文を削除し、228条文を新規追加および修正を加えている。

これまで、日本企業向けで報道されている項目は、「登録資本金の払込期限(設立から5年以内)」とそれに伴う「株主の義務と権利(未払い株主の権利喪失)」「董事の役割」についてが多い。

現地法人の経営で確認、検討する点は、具体的には以下5つがあると考える。

a)株主会の設置と権限
以前の海外独資、また中外合弁企業では、「董事会(取締役会)」を最高決議機関と定款規定しているケースが非常に多い。

新会社法の前に制定された外商投資法では、外資企業の最低出資比率(25%以上)の規定はないが、中国企業同様、「株主会」が最高決議機関と規定されている。

多くの日本独資企業では、董事長含め董事は本社からの派遣人員および本社役員が非常勤として就任しているため、「董事会=株主会」と捉えるのか、定款変更していない企業がみられる。

さらに、新会社法では「株主会」の決議事項から「会社の経営方針と投資計画」「年度予算案、決算案審議」が外れている。株主会と董事会の役割を分けることを目的としているためだ。

また、外商投資法施行前に設立された合弁企業のほとんどは、定款で「経営に関する重要事項は董事会メンバーの全員一致」を条件としている。このため、日本側がマジョリティ(多数派)を保有していても中国パートナー企業からの董事が1人反対すれば、企業運営が止まりかねない状況も発生した。次の4つは、株主会の3分の2以上の議決権を有する株主で決議可能としている。

  1. 定款修正
  2. 増減資
  3. 解散・清算
  4. 合併・分割

これは2020年の外商投資法施行以降、定款変更できる点であるにも関わらず、パートナー企業との交渉や、パートナー企業の体制により内部決裁を得るのに時間がかかることもあり、討議を後回しにしていた企業もある。今こそ取り組むべき時機だと言えるだろう。

b)董事資格者
外資企業では、前述の通り、株主(出資者)側から董事を派遣している事例が多い。従業員の権利保護として、従来労働組合が設立されていない企業において組合設立を妨げることはできず、要望があれば組合設立を行うと規定されている。

新会社法では、300人以上の従業員を抱える有限責任公司の場合、従業員代表董事の設置が必要となる。独資企業より合弁企業のほうが、経営支配権の保有、維持のため董事会構成員数の変更などが必要となることもある。

一方、会計、財務監督の権限を有する監事に従業員代表が就任した場合は、従業員代表董事を設置しなくてもよいと規定されており、企業経営で検討する点となる。

c)マイノリティ権利の強化
合弁企業の場合、マジョリティ出資者が支配権の乱用により、会社、そして他株主に重大な損害をもたらした場合、マイノリティ(少数派)の他株主は会社に対し、合理的な価格で保有株式(出資持ち分)の買取請求ができることとなる。

これまでも第三者譲渡前のパートナー企業への譲渡、買取優先権はあり、また5年以上利益計上しているにもかかわらず配当していない合弁企業に対し、マイノリティ出資企業はマジョリティ企業への買取請求ができていた。

今回の改正により、出資パートナー企業の経営問題から合弁企業の経営が劣後し、業績悪化が継続する場合など、経営方針の相違から自社持ち分の譲渡を行い、合弁事業から撤退がしやすくなるとも言える。

d)減資について
減資申請については、有償減資として新会社法制定前にも可能としている。実例はあまり聞いていないが、当社はこれまで、日本企業の独資、合弁事業での減資申請をサポートし認証を得ていることから、少し説明をする。

減資とは払い込み済みの登録資本金の一部を減額し、株主に減資配当として戻す。申請条件はいくつかあるが、債務超過ではないこと、資本金を減額し運転資金が不足しないことが前提にある。

減資を行う株主側の状況としては、下記がある。

  1. 対象会社の事業規模に対し、過剰資本金である資金を回収し、他の投資に回す
  2. 譲渡を検討している際、資本剰余金が現金として残っており買収側からすると事業規模に対して買収価額が高くなることから先に減資を行い、譲渡しやすい状況をつくる
  3. 解散、清算による撤退を進める際、撤退必要資金以上に現金が残されている場合、先に回収を行う。清算実務では、従業員補償、資産売却、債権債務の処理などを経て、最終的に税務局の認証を得ることとなり、清算開始から配当までに要する時間は長い。先に一部回収を行おうとする株主にとり検討手段となる
e)無償減資
無償減資は形式減資とも言われ、新会社法下で可能な減資方法となる。
この条件として、次の3つがあげられる。

  1. 累損がある(利益剰余金がない)
  2. 債務超過ではない状態である
  3. 資本積立金(法定積立金)を使用しても欠損が解消できない

また、有償減資では、債権者への個別通知、場合により債務の期限前弁済または担保の提供が必要となるが、無償減資では不要となる。資本金減額分を累損の減額に充てることで、翌期以降収益化できれば配当へつなげることができる。 

ただし注意点がある。

追加規定として、収益化した場合、利益の10%は法定資本準備金として積み立てる必要があり、それ以外に任意に資本準備金を設定しても、累計額が減額資本金の50%を超えてから、その後の利益を配当に回すことができるとしている。

株主が無償減資を行い、配当時期を早めることで資金繰りに影響を与えて債権者に不利益とならないように、この規定が設定されていると言われる。

ただし、企業の初期投資が大きく、累損が大きく、配当に時間がかかる場合、検討してよい施策と考える。

まとめ

最近の中国関連の業務を基に、新会社法で日系企業が検討してはと思う点を記述した。

実際の運用は2024年7月1日からとなり、現時点(同年6月24日)で当局に打診しても明確な回答は得にくい状況だが、連携している法律や税務の専門家とも、記述した通りのの理解でいる。

加えて、「新会社法への対応」と「組織運営の変更」が自社に必要かどうかは、移行猶予期間が限定されているため、そろそろ確認しておくべき時期ではないだろうか。

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