2023年の企業不祥事から考える「健全な組織」の構築に必要な「薬」とは

2023年は企業の不祥事が目立った1年だった。ジャニーズ事務所の性加害、ビッグモーターの保険金不正請求、日大アメフト部の違法薬物事件と組織統治問題ほか、多数の問題が露呈した。今回は、昨年起きた組織の不祥事を例に挙げながら、その原因分析とともに健全な組織の構築・運営に不可欠な要素を解説していく。

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2023年の企業・組織の主な不祥事

2023年の企業・組織の主な不祥事

組織的な不祥事の多くは、業界や組織にとって都合がいい「歪んだ常識」が常態化していることが根底にある。これが内部告発などのきっかけで明るみになっていくのだ。まず、2023年に報道された主な不祥事の具体例を時系列で見ていこう。

4月:三菱電機の子会社5社で新たな不正が判明。顧客との契約とは異なる材料を製品に使用したほか、事前報告とは異なる方法で製品試験を実施したことなどが判明。

7月:中古車業界最大手のビッグモーターによる保険金の不正請求が明るみに。

8月:強豪校で知られる日本大学アメリカンフットボール部の薬物事件と組織統治問題が露呈。

9月:ジャニーズ事務所が、創業者による長年にわたる性加害を会見で初めて認めた。きっかけは、『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』(英公共放送BBC)が3月に放送されたことだった。

10月:沢井製薬で治療薬の品質確認試験で過去数年にわたり不正な試験を実施していたことが判明。

12月:ダイハツが64車種にわたり、安全性を確認する認証試験で新たな不正を行っていたと発表。

このほかにも、助成金の不正請求や水増し請求など、組織規模の不祥事が次々に報道された。おそらく内部では、「業績のためには仕方ない」「上からの指示で」「前からやっているから」などと正当化して事態を看過してきたのであろうことは想像にかたくない。

組織の不祥事が明るみに出て、社会問題化する理由

組織の不祥事が明るみに出て、社会問題化する理由

先述したような組織の不祥事は、SNSが浸透した今の社会では、瞬く間に拡散されていく。新聞やテレビ、週刊誌が報じたことをネットメディアが取り上げ、それがSNSで拡散され、社会問題化が加速するという流れを何度も見てきた。

そうなれば、俎上にのった会社や組織は、活動が困難になるほどの打撃を受ける。場合によっては、回復がほぼ不可能なほど壊滅的な状態になる組織もあるだろう。先人たちが培ってきた組織への信頼やブランドイメージが瓦解し、顧客どころか内部の人間も組織から去っていくことになる。

こうした事態を招く不祥事が明るみに出る要因は、大きく2つある。1つ目は、世の中全体のコンプライアンス意識が高まっていることだ。かつては不正やハラスメントが起きても口をつぐむ人が多かったが、今は個人の問題意識が高まり、「自分と社会のために告発しよう」という意識を持つ人が増えてきているように感じる。また、そのような不正を通報する者を法的に保護する制度として「公益通報者保護法」が制定され、企業不正などを通報した従業員が、不当な解雇や人事上の不利益をこうむらない手当てがなされていることも、不正の表面化に拍車をかけているものと思われる。

2つ目は、メディア側が変化し始めていることだ。かつては、権力を持つ組織の都合や意向を汲んだ報道をする傾向にあったが、情報社会の発達で報道の透明性が増したことで、触れることがタブーとされてきた組織の不正も取り上げるようになりつつある。その例が、ジャニーズ事務所の性加害問題だ。海外メディアが報じたことで、国内メディアも堰を切ったようにこの問題を扱い始めたことは記憶に新しい。この件については、当事者であるジャニー喜多川氏が亡くなったから活発な報道がなされるようになった、という向きもあるが、メディアが変わっていくさらなる契機になっていると言えるだろう。

こうした傾向は10年ほど前から強まりつつあり、組織側も法令遵守のみならず、公序良俗や倫理観、社会規範というコンプライアンスに従った公正な企業活動を重視するようになってきた。コンプライアンス専門の部署や規定を設け、内部の通報制度の整備を行う企業も増えている。

不祥事が明るみに出やすく、許されにくい社会になっていくことは自明であるのに後を絶たないのは、社内外の「監査システム」の問題もある。特に「非上場」の会社は規制が十分に及ばないので、コンプライアンス違反問題などのガバナンス不全に陥りやすいと考えられる。

非上場会社はなぜ不祥事が起きやすい環境なのか

非上場会社はなぜ不祥事が起きやすい環境なのか

平たく言えば、非上場会社は上場会社に比べて、制度上の「第三者の監視の目」がゆるいため、不正が起きやすい環境になり得る。

というのも上場会社の場合は、証券取引所から「有価証券上場規程」において、取締役・執行役または理事の職務の執行が、法令及び定款に適合するように、そして会社の業務が適正に行われる体制を構築するために、内部統制システムの整備・運用を求められる。

また、上場会社は、東京証券取引所が有価証券上場規程の別添として定めた、コーポレート・ガバナンスを実現するための主要な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」も尊守する必要がある。

さらに、上場会社は「金融商品取引法(第24条の4の4)」に基づいて、「内部統制報告書」を提出する必要がある。経営者には財務報告に関わる内部の管理体制を構築し、かつその有効性を自ら評価して、結果を外部に報告する責任がある。さらにそれを外部監査人が監査し、適性性を確保することが求められている。

加えて、会計上の不正を防ぐために、上場会社は「有価証券上場規程」において、会社の機関として会計監査人(※)を設置し、計算書類等に対して監査を受けなければならない。

会計監査については、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の両方があり、前者は会社法上の「大会社」が対象だ。一方で後者の監査の対象は大会社に限らないが、より厳格であるとされている。

こうした規程により、上場会社は特に会計上の不正が起こりにくいシステムを正常に維持できているかどうか、常に問われている。

しかし、そのような規制が及んでいる上場会社においても、不正は起こっている。形だけ規制を遵守しても、やはりコンプライアンス意識が欠けていれば不正は発生してしまう。ましてや、上場会社のような規制がない非上場会社の場合は、厳格な規制が働いていないため、不正を働きやすい状況にある。

(※)会計監査人は公認会計士または監査法人の必要がある。

組織の破滅を招く「みんなでやれば怖くない」という風潮

組織の破滅を招く「みんなでやれば怖くない」という風潮

健全な組織の運営には、公序良俗や倫理観、社会規範も含めた「コンプライアンス」を遵守する意識が必要だ。この意識を欠いてしまうと、組織内で「歪んだ常識」が生まれ、不正が常態化し、やがてそれらが世間に露呈することになる。

例えば、最近世間を騒がせたビッグモーターは、トップダウン型の縦割り組織で、現場には重いノルマを課していた。報道によると同社は、事故車両の修理費用として、1台あたりの粗利の合計額を平均14万円前後に設定していた。

ノルマが未達の店舗の店長や工場長は会議で叱責され、降格や左遷が常態化していたという。追いつめられた現場は、ゴルフボールやドライバーで車体を損傷させ、修理費用を水増しして損害保険会社に保険金を請求。やがてこの手段は社内で横行していったという。

一個人としてなら、他人の車を故意に損壊するのは犯罪だという認識は誰もが持つはずだ。しかしながら、組織の一員となると、掲げられた「ノルマ達成」などの名目やプレッシャーを前に犯罪だという意識が薄れてしまう。犯罪が発覚した場合のデメリットが大きくても、表面化する確率が低いのであれば、「ノルマ未達」に伴うデメリットと比較して、思わず犯罪に手を染めてしまうのだ。

また、他の社員も不正行為をしている会社の場合は、「みんなでやれば怖くない」という風潮が芽生え、自分だけ空気を読まずに不正行為を躊躇すると、「疎外されるのではないか」という意識に繋がる。

昔も今も多くの学校内で程度の大小は別として「いじめ」はあり、悪いとは思いつつもいじめに加担したり、被害にあっているクラスメートを無視したり、といった現象が起こっている。そのような現象と根源は共通しているのだろう。

不祥事が起きてしまった組織のための「治療薬」

不祥事が起きてしまった組織のための「治療薬」

組織の大小を問わず、コンプライアンス問題による不祥事は、企業の存続に関わる。不祥事が起きてしまった場合に「治療薬」として最も有効なのは、資本と経営陣の刷新だ。

例として触れたビッグモーターも経営陣が入れ替わり、外部の企業が入ることで、対外的な信頼を獲得しようとしている。今後は利益のために手段は問わないという企業文化を排して経営方針を立て直し、再出発を目指すはずだ。

不祥事が起きてから事業再生をはかったケースでは、2023年6月に東京都公安委員会から暴排条例に基づく勧告を受けた三栄建築設計がある。創業者が反社会的勢力に利益供与した疑いが浮上したことで、代表を辞任。同社は住宅戸建て大手のオープンハウスグループに買収された。

その際、当社はファイナンシャル・アドバイザーとして、オープンハウスグループによる三栄建築設計の株式の公開買付けを支援した。今後、三栄建築設計がオープンハウスの子会社として事業活動を継続し、再建することを期待したい。

このように、外部の資本と経営陣の見直しで再生の道を模索していく形は、典型的な手法として実施されている。しかし、中途半端に経営体制を交代させて刷新を図ったとしても、時間の経過とともにいずれコンプライアンス意識が鈍麻し、再度不正に手を染めてしまう企業も少なくない。

不祥事を起こさない組織にするための「予防薬」

不祥事を起こさない組織にするための「予防薬」

自分が所属している会社や組織に不祥事の芽は育っていない、と本当に言い切れるだろうか。ここからは、不祥事を起こしにくい組織づくりに必要なことを解説していく。

まず、高い精度で内部統制がはかれる組織作りが大切だ。財務や経理周りの手続きには会計システムのツールやAIなどを活用し、人間を極力介在させないようにするのも有効だろう。

また、外部機関による会計監査を受け、社外取締役を任命し、第三者の目による監視を徹底する方策も重要だ。これらの人選は、経営陣に対して忖度や迎合をしないよう、利害関係がない人にするべきだ。関係が近い人の場合、不正を黙認したり、発言を自粛してしまうことが起こり得る。社内外に関わらず、不正にものを申せる環境づくりが大切だ。

加えて、社内の罰則や制度の策定も当然すべきだろう。

これらは「監視の目を光らせる」ための施策であり、不祥事を起こさないための強力な「予防薬」になる。

とはいえ、組織は人間が動かしている。いくら監視をしたところで、そこをかいくぐることはできる。仮にAIなどのシステムによる監視を行っても、不正に作動させる者がいれば、これらのシステムは機能しなくなる。

そして、企業の本質は利益の追求にあるため、業績が下がれば「ノルマ」達成のために、不正に手を染める者が生じやすい企業体質に変わってしまう可能性は否めない。

会社もまた、人のように「体質」があると考えている。不正が起こりやすい会社は、そもそもコンプライアンス意識を高く持つ文化が醸成されていないので、ルールを設定しても形骸化し、不正を繰り返してしまうのだ。

負の連鎖を起こさないための「漢方薬」

負の連鎖を起こさないための「漢方薬」

では、会社の体質を改善するにはどうすればいいのだろうか。そのための環境づくりとして有効なのは、まず部門の垣根を超えた横のつながりを醸成するとともに、中途採用の活発化やダイバーシティの徹底により、外部の異質な血を積極的に入れていくことだ。

部門間でつながりができれば、他部署との協力体制を構築しやすくなる。社員間の交流によって理念・ビジョン(コンプライアンス意識を含む)の共有や浸透が起これば、まとまりがある組織へとつながっていく。そして、活発な人事異動などが部門間で生じれば、不正を部門内で隠蔽しにくい企業体になりやすい。

一般的に、縦割り組織では自分の上司と周囲の環境だけを見てしまうため、仮に上司の不正があったとしても、それを指摘すれば、自身の今後の昇進可能性は低くなると考え、黙認してしまう心境になりやすいだろう。

他部署との連携や交流が活発であれば、各部署の判断基準や慣例を知ることで、所属部門の体制や状況を俯瞰でき、課題を発見することが容易となる。現場の社員が自身の周囲で起きている不正の予兆や歪みに気付いた場合も、交流がある他部門の幹部などに相談できれば、自部門の不祥事の芽を摘み取る第一歩となるかもしれない。

ただ、従来からだいぶ変容してきたとはいえ、特に伝統的な大企業では、まだまだ新卒から同じ環境で育ってきた社員が中心であるため、「社員は運命共同体」という意識が少なからずある。よって、残念なことに内部告発した人を裏切り者とみなす傾向がある。

告発者の中には、表面的な降格や降給がないとしても、実質的な閑職に追いやられ、隠密裏に退職勧奨をされる人もいることが想像できる。また、勇気ある告発が表面化した場合、告発をした社員が仮に転職を企図したとしても、日本ではまだまだこのような社員をプラス評価した上で、積極的に迎え入れる会社は少ないように思う。このような現状は問題だ。

本来、内部告発者は「世のため人のために行動できる勇気の持ち主」として、リスペクトされるべきであり、会社はもとより、社会全体が正義を貫いた人を尊重する文化を育てていく必要がある。

これだけ企業の不祥事が起こっているのだから、体質を健全にするために、内部告発をした経験がある人やコンプライアンス意識が高い人を積極的に採用する実例が出てくるのではないかと思っている。時代が変わり、価値観が変わったとしても、道徳的な価値判断は普遍だ。人道的な判断基準を持った社会人が今後、より重用されるようになるだろう。

そして、中途採用の社員を積極的に取り入れ、ダイバーシティ(性別、国籍などの多様性)を徹底すれば、「新卒から同じ環境で育ってきた社員が中心の企業」から、「相互に刺激し合う仲間が、同じ目的のために協働していく企業」に変化することができるはずだ。

そうして社員を真に企業の戦力として生かすことができる企業が増えてくれば、上記で述べたような「言いにくい・指摘しにくい雰囲気」や「忖度する者が昇進する」ような悪しき企業風土を変えていくことに繋がる。

また、経営者自体、外部から来た人を登用することも一つの有効な手法であろう(この手法は、もはや「漢方薬」ではないが)。

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「ステークホルダー資本主義」で社会全体の当事者意識は高まる

「ステークホルダー資本主義」で社会全体の当事者意識は高まる

今、世の中では従来の株主資本主義から「ステークホルダー資本主義」へと移行している。この考え方に注目が集まったのは、2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)で、討議テーマが「持続可能で団結した世界を目指すステークホルダー連携」だったことも影響しているようだ。

これまでの「株主資本主義」では、企業は株主の利益を最優先していた。そのため、短絡的な利益志向が生まれやすかった。

しかし、「ステークホルダー資本主義」は、株主、従業員、取引先、顧客、自治体ほか、関連するステークホルダーの利益に起業活動を通じて貢献すべきだという考え方で、格差の是正や持続可能な会社・社会へとつながりやすい。

これからの時代の経営においては、正しいことを持続的に行うことが何よりも大切だ。今はあらゆる情報を簡単に得られるため、誰もがステークホルダーとして企業とつながることができるからだ。

例えば、「不祥事を起こした企業の素材を使った製品は買わない」といったように、企業に対する個人の当事者意識も高まっている。ステークホルダー資本主義の現代では、たった1度の不祥事で会社が滅びる可能性もあることを忘れてはならない。

不祥事という最大のリスクを実質的に防ぐために大切なのは、本稿で紹介した「予防薬」と「漢方薬」を両方取り入れることだ。こうした対策は、社員が高い目的意識を持って、安心して活動できる環境づくりにもつながっていく。

そうなれば、不正が未然に防げるだけでなく、社会や情報の変化に合わせた提言もしやすくなり、ひいては会社のバリューやサービスの向上・進化にもつながり、「持続可能な強い組織」となっていくはずだ。

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