国内消費重視、「双循環」の5カ年計画

デリバリーイメージ

中国共産党の重要会議である「5中全会」(党中央委員会第5回全体会議)が閉幕し、次の5カ年計画(2021-25、第14次5カ年計画)と共に、2035年までの長期目標が発表された。
5カ年計画では、従来から述べられている「サプライチェーンの構造改革」と「イノベーションの推進」に加え、今年から「双循環」が提唱されている。

一つ目の「循環」は国内でサプライと消費をつなぎ国内市場の活性化と経済成長を図る点
ここが一番重要であり、GDPの個人消費比率は39%で、日本や米国に比べて10%以上の差がある。消費拡大が、成長につながるとしている。

もう一つは「海外との循環」であり、貿易との関係と中国市場への外資取り入れと市場展開の海外投資も含まれていると考える。
長期目標で「キー及びコアテクノロジーで重大なブレークスルーを実現」としており、以前より世界の製造強国となる「中国製造2025」の言葉は使用していないものの、米国が警戒している技術分野では引き続き競合していく事となる。

従い、アメリカ大統領選が終了しても、米中関係緊張が続くとみられ、中国政府はアフターコロナを宣言した今年の春の時点より、国内消費の拡大の重要性を強く打ち出してきている。

遅い外食産業の回復

図表
参照:国家統計局

今回は、国内消費に関してアフターコロナでの中国動向と関係する労働環境を追ってみる。

9月(単月)の社会消費品小売高は、総額35,295億元(54.7兆円)前年同月比3.3%。1-9月累計で同マイナス7.2%。この中で、外食産業は9月(単月)で3,715億元(5.8兆円)のマイナス2.9%。回復しつつあるものの、1-9月累計で25,226億元(39.1兆円)マイナス23.9%と、全体の中で一番回復が遅れている状況となる。

1-9月累計の前年同期比の増加率のトップ3は、「実商品のネット購買」(プラス15.3%)/「飲料類」(プラス12.3%)/「食品類」(プラス10.6%)である。中国は、日本に比べネット購買比率が元々高かったが、コロナ禍が終わっても購買習慣はネットに移行したまま戻っていないとみられる。食品類が増加したのは、豚肉などの相場が上昇したのと、より健康、安全な食品を求める傾向が要因だ。

消費額が下がっている外食産業にとって、原材料コスト上昇を価格に転嫁しにくく、さらに厳しい状況に陥っているとうかがえる。

外食産業の対応

デリバリ―待機イメージ

外食産業の回復策としてイートイン以外でこの数年進めていたテイクアウト、ECデリバリー、そしてリテール(半製品含む)の比率をより上げる動きは以前報告した。
2020年7月 中国で急拡大、シェアリングエコノミー・シェアキッチン with コロナ
デリバリーも増加するECビジネスの一つであるが、調理したての食事の配送は消費者側のニーズからもその他商品より以上に、発注から到着までの時間短縮が望まれる。

30代以下の98%が利用、ECデリバリービジネス(外売)

80后(80年代生まれ)以降の世代で、ECデリバリービジネス「外売」利用経験者は98%。利用者の71.7%は、自らのキッチンでの労働時間短縮につながると考えている。

朝昼晩の食事以外に午後(アフタヌーンティー)、夜食時の利用が全体の20%前後に増加。更に観光地、高速鉄道乗車時など利用時間と場所の広がりが見られる。

消費時間に合わせて、商品の多様性、衛生面を含めた安全性と品質、それらを代表するブランドを見て、消費者はオーダーする。
外食産業はIT企業、食品メーカーとの提携によりニーズへの対応を進め、消費者満足を得ようと努力する。その中でボトルネックになりつつあるのが配送時間と考える。

急速なデリバリー普及とコスト

デリバリーバイク駐車イメージ

デリバリーの配達員は、電動スクーターを移動手段とし、端末で受けたオーダーに従い、店舗で商品を受け取り、消費者へ配送を行う。移動手段を除けば、現在の日本でも頻繁に見られる光景である(日本の都市部では、自転車が多い)。

2019年の「外売」市場は6,535.7億元(約10兆円)対前年比+39.3%で外食市場全体の14%となる。配送業務量は年間182.8億件(他食品配送含む)あり単純平均で毎日5,000万件消費者に届けられている事になる。今年は市場全体が伸びていない中、ECデリバリー率は更に上昇しいていると見られる。
事実、外食デリバリープラットフォーム市場全体の65.8%シェアを保有するトップ企業、「美団」の業績が好調だ。
美団の今年上半期資料では、外食デリバリーGMV(流通取引総額)は前年比+16.9%の1,088億元(1.69兆円)で取引数も同+6.9%。平均単価48.8元(760円)同+9.4%と外食全体が伸びていない中、消費者のECへの傾注が進んでいる事が見られる。

配送員の一日平均配送距離は、30km以上が全体の47.3%で内50km以上が全体の21.0%となる。また調査では1年以上の経験者は45.1%。今後継続するかは状況を見て決めるとするのも45.7%と、参入がしやすいが、流動性も高いと言える。(美団研究院等より)

収入面で見ると、上海市の2020年法定最低賃金は、昨年度から調整せず2,480元/月(38,500円)で、同地域配送員は7,000から1万元(10万8千-15万5千円)であり、配送員自身の取扱いを増やせば収入増に直結する。

小売におけるEC化率が高まるにつれ、外食デリバリーのみならず他食品及び小売商品のデリバリーも増加しており、配送員の募集も増えるものの、事故と応募数の限界、そして利用企業にとってのコスト増が課題となっている。

30分以内の配送、消費者の高い要求

2016年に3km以内の配送時間を1時間以内と設定していたが現在は、外食企業の出店増もあり平均30分台となっている。
店舗稼働状況と地域により異なるもののオーダーした消費者は、システムから配送員がどこにいて、誰かもわかるようになっており、遅延に対して厳しい態度を取る事が多い。

問題が発生すれば、消費者からプラットフォームにフィードバックされ配送員の評価に繋がり、自身の業務への影響が出る。

各プラットフォームは配送員への指導だけでなくシステム改善により、配送時間の短縮を図っている。

398.7万人の配送員が登録される(2019年時)美団の例では、受注1秒後に各配送員の配送ルート、所在地から最適の配送員にオーダーを発信。配送員は通常3から5オーダーを受信し、各商品受取店舗と配送場所までのいくつもの経路から、優先ルートを提示している。

これまでの多くのオーダーから改善を続けて、消費者の手元に届く時間を短縮させている。

悪天候になれば、オーダーは急増する。時間帯によっては高層ビル内のエレベーター移動の時間が読めなくなるなど、配送時間の変動要因は少なくない。その結果、時間制限に追われた配送員は、スピード違反など、法規の「制限」を超えて配送を行い、事故につながっていく。

上海市公安局は2017年2.5日に1人の配送員が死亡と提示している。他でも交通違反、事故の数値が公表される様になり、社会問題となりつつある。

人件費増加の解決策は

デリバリーイメージ

経験、学歴に関係なく就業できる点から、中国の労働人口全体は減少に入っているものの、配送員の多少の増員はまだ可能かもしれない。

その金額規模は上海以外の地域を含め中国で同業平均賃金5,000元/月・人。美団の市場シェア(65.8%)から配送員総数を600万人と試算すると合計人件費300億元(4,650億円)/月で年間3,600億元(5.58兆円)になる。

2020年、即時配送のオーダーは昨年比+31%の240億件を超えるとみられ、この場合、人件費は7.3兆円に拡大(推定)となる。

これは労働市場でもあるが、企業にとっては「コスト」でもある。

先進技術の開発と実用化

フードデリバリーのプラットフォームでトップ2を走る「美団」と「餓了嗎」(ウーラマ)は、消費者に、それぞれ予定より8分、5分の追加時間を認めてほしいと依頼を出している。
また配送員の業務への理解を求めると共に、更なるAIの改善と配送員のラスト1キロの配送をより便利にする為、スマートロッカーの設置を進めていくとしている。

上記大手企業は、スマートロッカーを開発しているスタートアップ企業への出資も行っており、配送員の負荷削減と省人化を進めようとしている。

新たな技術として、上述のスマートロッカーだけでなく、この分野を無人化に置き換えようとの研究は進んでいる。

無人配送車、ドローンの屋外配送とロボットによる屋内配送と2015年から本格化しており、他国の動向を注視しつつ先進の地位を確保の為、実用実験が進み外資企業との連携も行われている。

「怠け者経済」への対応

ただ、人手による外食デリバリーサービスが無人に置き換わるまでとなるには、更なる研究と消費者の要求度の変化が必要と考える。
ECデリバリーが拡大の中、3年程前から「怠け者経済」の単語がメディアで使われている。
時間と体力の消費を抑える志向の人口が増えてきた事からで、自宅消費拡大による「宅経済」と同様、中心は90后(90年代生まれ)と言われている。

消費力は大きく、こだわりも大きく、サービスへの高い要求にも表れる。

交通違反、事故による訴えかけは消費者の心理に届くだろうが、強調すればそこから離れていく可能性も小さくない。

大手外食は、デリバリーサービスにのみ傾注するのではなく、リテール商品の開発と提供も本格的に進める時期であろう。

通常は外食ブランドでリテール商品を開発販売する中、KFC(ケンタッキーフライドチキン)は10月、「開封菜」(Kai Feng  Cai)ブランドで中国料理(米麺、炒飯、スープ)の冷凍食品の販売を始めた。KFC本業のブライドチキンのイートインとは異なるメニューで、EC対応も行っている。

置いておけばいつでも、消費が可能という「怠け者経済」対応商品で、デリバリー以外の事業構築に注力している。

※「開封菜」は、本来「開封地方の料理」という意味だが、KFCを指すネットスラングとして使われてきた。

巨大プラットフォーマー、店舗、食品メーカーとの連携がカギに

出来たてを届けるために、デリバリーの時間短縮を図るには、住宅地域(社区)での小規模店舗が必要となる。細かなサービスのためには、他のリテール店舗との提携も出てくる。
また、メニューの多様化のためには、デリバリー以外の業態を確立し、リテール商品(冷凍、常温、半製品)の開発とマーケティングが必要となり、食品メーカーとの提携が必要となる。こうした連携が進めば、巨大企業(プラットフォーマー)と個(単店)の分化が、進む可能性がある。

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