日本に「ハードディスカウンター(超安売り業者)」は現れるか?「中間層の低所得者層化」がもたらすもの

21世紀に入り、主要各国で「所得格差」が問題化している。ただ、富裕層がさらに富むようになったのは米国だ。日本や欧州では、米国のような「富裕層のさらなる富裕化」は見られない。日欧ではむしろ、中間層の下方シフトが顕著だ。欧州の小売業界では低所得者層の増加を背景に「ハードディスカウンター(超安売り業者)」が急成長している。同じ現象は日本でも起こるのだろうか。

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ミラノの主要客はアメリカ人

ミラノの主要客はアメリカ人

フロンティア・マネジメントは2023年7月、Athema社(本社:フランス・パリ)への出資を発表するなど、欧州拠点の拡充に乗り出している。

現地を訪れた当社の幹部社員が2023年末、イタリア・ミラノまで足を延ばした際の興味深いエピソードがある。

ミラノの名所ドゥオモの脇には見事なアーケードがあり、数多のスーパーブランドが出店している。当社社員はPRADA(プラダ)のミラノ本店に立ち寄り、店員とよもやま話をしたそうだ。

「最近、お客さんどう?」

と当社社員が聞くと、プラダ店員は

「20年前は日本人ばかり、10年前は中国人ばかり、今は米国人ばかり」

と返答したという。

ひと昔前に比べて、パリでもミラノでも英語を話す店員が増えている。このエピソードを聞き、今や世界のツーリズムの中心は日本人でも中国人でもなく、アメリカ人になっているのかもしれないと感じた。

実際、富裕層がさらに裕福になったのは米国なのだ。日米欧の「上位0.1%の富裕層」と「上位1%の富裕層」の所得シェアをそれぞれグラフ化した(図表1)。

図表1_日米欧の上位層所得シェア(1980-2022)

このグラフを見る限り、ミラノの店員の肌感覚は正しそうだ。

米国では1980年に「上位0.1%の富裕層」が占める所得シェアが3.4%だったのに対して、2022年には約3倍の10.0%に達している。また、「上位1%の富裕層」が占める所得シェアも、同期間に10.4%から20.9%へと2倍に増えている。

一方、日本の「上位0.1%の富裕層」と「上位1%の富裕層」はそれぞれ3.5%→4.4%、10.7%→12.9%と微増で、欧州でもそれぞれ2.6%→4.2%、8.4%→11.4%という形でわずかな上昇幅に留まっている。

富裕層がさらに富んだ米国、中間層が脱落した日本と欧州

米国の格差は主に所得格差が中心のように見える。先ほどのグラフは「所得」が対象だが、各世帯が保有する「資産」(図表2)を見ると、資産格差の拡大は顕著には見られない。

図表2_米国における純資産パーセンタイル別の企業株式および 投資信託株式の占有率(1990Q1~2023Q3)

ただこのグラフを見ても、上位10%の富裕層が、企業の有価証券や投資信託の80%以上を保有していることは明白である。また、上位1%が40%以上を保有しているのだ。

株価上昇は資産効果による消費拡大をもたらすが、21世紀初頭に米国でそうした資産効果を享受したのは上位10%の富裕層だ。

資産効果と所得増によって、米国の富裕層は世界消費を牽引した。

日欧では、米国ほどの「富裕層のさらなる富裕化」は見られない。一方で、中間層が低所得層にスライドしている。

「中間層の低所得層化」には、高齢化や移民、シングルマザーなどの複数の要因が考えられる。高齢化については、経済学者の大竹文雄氏の著書「日本の不平等」(2005年日本経済新聞出版)が詳述しているので、本稿では繰り返さない。

急増する日本の生活保護世帯

日本では低所得者層が根雪のように逓増している。

図表3は日本における生活保護世帯数を示したものだ。21世紀に入って顕著な増加が目立つ。

図表3_日本の生活保護世帯数の推移(1975-2021)

図表を見る限り、職を失った高齢者が生活保護世帯数を押し上げていることがわかる。一方で、母子家庭の生活保護世帯数が増えていない。

年間の離婚数を婚姻数で割った数値を「特殊離婚率」と呼ぶ。日本の特殊離婚率は1990年の21.8%から、2020年には36.8%となっており、30年間で15%も増えている。

厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022)」によると、シングルマザー(母子家庭)の平均年収は約300万円で、そのうち給料などの稼働所得は約230万円、そのほかは児童手当などとされている。

図表3に現れないが、親や親戚のサポートを受けながらの低所得者層も存在すると推測できる。

欧州で急成長する「ハードディスカウンター」

欧州で急成長する「ハードディスカウンター」

日本や韓国では2%前後の婚外子出産の比率が、米国や欧州では40~60%とされており、欧州における「中間層の低所得者層化」の原因は、移民と若者にあると考えられる。

欧州の失業率は6~7%と十分に高水準だが、25歳未満の若者の失業率は15%前後とさらに高水準である。

なかでも、スペイン、イタリア、ポルトガルなど南欧での若者の失業率は20%以上。経済大国フランスでも、若者の失業率は15%前後だ。

冒頭に触れたプラダなどスーパーブランドでは、世界の富裕層の需要が高まっていることで毎年値上げをしている。中古品マーケットも盛況である。

一方、欧州では急増する低所得者層を対象にして、従来よりもアグレッシブな低価格戦略を行う「ハードディスカウンター(超安売り業者)」と呼ばれる業態が急成長している。

好例は、ドイツ発祥の「ALDI(アルディ)」だろう。

アルディは全体の95%をPB商品で品ぞろえし、ローコストオペレーションを徹底することで超安売りを実現している。

21世紀に入ってアルディは創業家のアルブレヒト家の経営から外れ、積極経営に乗り出した。現在では米国を含め世界18カ国で1万店以上を展開している。近い将来、日本にも上陸するかもしれない。

まとめ:日本でも「ハードディスカウンター」は勃興するか

筆者は2000年代初頭から流通業界をウォッチしてきた。筆者の認識における欧州小売業界は、大手スーパー3~5社が各国のマーケットシェア50%以上を握る寡占状態だ。

この状態に風穴を開けたのが前述のアルディである。欧州と同様に中間層の下方スライドが生じている日本でも、アルディのようなハードディスカウンターが成長する可能性は高い。

GMSや食品スーパーの多くは、現時点ではこの対応が十分できていない。日本のPB商品は高質シフトの流れが散見されるが、その方向性だけで十分だろうか。

消費財メーカー、卸売業、小売業、外食、サービス業……

これらの業界は、長年無風区だった欧州市場の変容のように、日本でも消費市場が急変する可能性を考慮する必要がある。

マクロ的デフレは潮目が変わったように感じられる。

しかし、消費関連業界はマクロ経済とは独立して、本当のミクロ的価格競争が始まる時代に備えるべきではないだろうか。

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