半沢直樹(銀翼のイカロス)で描かれた「帝国航空再生タスクフォース」とは

池井戸潤氏の小説「ロスジェネの逆襲」を題材にした第4話まででは、半沢直樹(堺雅人)が、東京中央銀行の子会社であるセントラル証券において大手IT企業「電脳雑伎集団」と東京中央銀行の密約を暴き、東京中央銀行で暗躍する幹部に対し「倍返し」をする。「電脳雑伎集団」への巨額貸し付けの貸し倒れを未然に防ぎ、銀行の窮地を救った男として、東京中央銀行の営業第二部の次長に昇進する。
第5話から「銀翼のイカロス」が原作となり、そこでは経営が悪化した「帝国航空」の再建と700億円の債権回収、大臣直轄のタスクフォースとの対峙という、銀行にとって極めて重要なミッションが彼を待っていた。

これは、2009年9月に民主党政権(当時)の前原誠司国土交通大臣のもとで設置された「JAL再生タスクフォース」を題材にしたものと想定される。

(以下ストーリーを含む)

政府主導タスクフォース 一律7割の債権放棄めぐり行内は対立

帝国航空の再建計画は当初、準メインバンクの東京中央銀行主導で、半沢が帝国航空の社員と一緒になって作成していた。
しかしながら、突如、新任の白井国土交通大臣(江口のりこ)の就任記者会見で、帝国航空タスクフォースを政府主導で結成し、タスクフォース主導で一律70%の債権放棄を前提とする再建計画を策定する旨の表明がなされた。

その後、タスクフォースリーダーで弁護士の乃原正太(筒井道隆)が、高圧的な態度で帝国航空に乗り込み、再建計画を策定するための「タスクフォース部屋」を確保し、半沢を中心とした銀行チームと激しい対立をすることになる。

東京中央銀行内にも、政府に逆らうべきではないことを理由に500億円の債権放棄に賛成する紀本常務(段田安則)派と、大和田取締役(前作では常務、香川照之)と半沢を中心とした債権放棄反対派との間で、東京中央銀行の取締役会でも対立が生じた。
半沢は知恵を絞り、取締役会決議の内容をメインバンクの開発投資銀行の賛成を前提とした条件付き債権放棄賛成決議とする旨を頭取に直訴し、その通りに決議がなされた。

その後、半沢は開発投資銀行の谷川次長(西田尚美)を説得し、メインバンクの開発投資銀行を債権放棄反対方針に変えさせたのであった。
その結果、債権放棄を前提とした再建計画につき賛同を得るべくタスクフォースが開催した債権者会議において、白井大臣が出席する中、見事に債権放棄反対を債権者団総意の意向として表明させることに成功し、白井大臣のメンツは丸つぶれになったのである。

「帝国航空」(ドラマ)と「日本航空」(リアル)両TFの類似点

ここまでの話は、「半沢直樹」を見た視聴者の方からすれば、2009年に結成された日本航空のタスクフォースとの違いが何であったか、10年以上も前のことなので記憶も定かではなくなり、分からない方も多いのではないかと思われる。

もちろん、ドラマ(小説)と現実は別物であるのが当たり前であり、その差がどうであったかを考えるのは無意味かもしれない。しかし、日本航空のタスクフォースの一員としてその当時執務をした筆者にとっては、あえてここでその比較をしてみたくなったので、ご容赦いただきたい。

まず、共通する点であるが、日本航空のタスクフォースでは、当時の民主党政権で注目されていた前原国土交通大臣が、自らの直轄のタスクフォースを結成したこと。そしてそのタスクフォースの法的な位置づけが曖昧であったことは、ドラマとも共通する。

筆者も、この当時法的位置づけの曖昧さに苦労した記憶があり、ドラマで、半沢がその法的根拠の曖昧さを乃原に対し指摘しているシーンは、「そうだったよね。」と思わず心の中で思ってしまった。

乃原弁護士の態度について

また、実際のタスクフォースメンバーは5名であり、うち(筆者も含む)2名が弁護士であった。それらのメンバーが、日本航空に乗り込んでタスクフォース部屋を設置させた点も、ドラマと類似している。ドラマの乃原リーダー(弁護士)は、日本航空社員に対し足を組んで話したり、机を叩いたりと横柄な態度をあえてとっているのが印象的であった。

私自身を振り返ると、決してそのような態度をとっていなかったと思っているが、その当時のことは正確には覚えていない。

日本航空の社員からすれば、突如として乗り込んできた政府のタスクフォースは、そのような横柄な態度に見えることは無理からぬものであったと思われる。

ドラマとの相違点

実際の構図とドラマのそれとの違いであるが、日本航空のタスクフォースは、日本航空の社員とともに債権放棄を伴う再建計画を策定していた。半沢直樹のように銀行主導で再建計画を策定するチームとの対立というものは存在していない。

また、実際のタスクフォースは、実態債務超過約7000億円超に匹敵する債権放棄(又はDES)を、金融債権者に対し求める再建計画を策定していた。

再建のための資本増強を行う必要があったものの、そのための出資者の手当てができない中、結果として再建計画の完成を見ることなく、官民ファンドの企業再生支援機構に約40日間で再建の担い手を引き継いでいる。

企業再生支援機構は、会社更生法の申請を前提に支援決定を行い、その後、京セラの創業者の稲盛和夫氏を経営者(会長)として招き、見事に日本航空を再建させている。

「半沢直樹」から学ぶべきこと

半沢直樹の行動は、企業という大きな組織にいる社員が普段したくてもできないアグレッシブなものである。ある意味、多くの人にとって「夢」と「理想」と「爽快感」を提供するものだ。

特に、金融機関などの大企業の場合、上司に指示に従うことは絶対であり、「ミスがない人が優秀」と評価されるケースも多い。半沢のような社員は、仮に存在したとしても結果的に左遷されたり、退職を余儀なくされたりする場合が少なくないであろう。
だからこそ、ドラマの半沢が、一旦左遷はされるものの見事に復活し、悪役の上司や組織幹部に「倍返し」する姿は、見ていて気分がスカッとする。
自分が半沢直樹であったら、どのように行動するかを考えながら、日々の仕事をしてみるのも悪くない(それを実践に移すのは、待った方が良いが。)。

変革の時代に必要な「半沢」型社員

人口減少の時代、コロナの時代と現在の日本企業が置かれている経済環境は厳しい状況にあるが、そのような時代こそ企業が変革をすべき時期であり、それを行うのは企業の経営者である。しかしながら、企業の経営者が十分な変革を行わないときに、経営者をつき動かすのは企業に所属する社員に他ならない。
そのためには、企業において、半沢のように上司や組織に対し積極的な提言を行っていく挑戦文化の浸透が重要である。それが実現できるか否かが、中長期的に企業が成長するか、衰退するかの分水嶺になるのではないかと筆者は考える。

半沢直樹から学ぶ、リーダーに必要な6つの要素

変革が必要なときに、半沢直樹の行動は大変参考になる。
まず、半沢は、リーダーとして重要な要素を多分に持っている。

1 組織としての戦略の構築力
2 戦略と方向性を部下に説明する際の説明力

半沢が、セントラル証券の社員を燃えさせるためにとった発言シーンや、帝国航空社員を再建のために一つにまとめていくシーン等から、際立っている。ドラマであることはさておき、私自身も、実際の企業再建の仕事において、似たようなシーンが過去にあったが、明らかに半沢直樹の方が格好良い。

また、リーダーには、

3 戦略を実行する際の戦術の構築
4 それを実行する際のステークホルダーへの根回し、説明の徹底

上記の二つも重要な要素である。所属する東京中央銀行に「電脳雑伎集団」への融資を中止させる際に、同集団の過去の買収時の問題に目を付けるとともに、かねてからの敵役であった大和田取締役(前作では常務)とも手を組むのは、戦術の策定力、実行力において見事という他はない。

加えて、リーダーには、

5 目的を達成するための執念

が必要である。取締役会で帝国航空への債権放棄が可決しそうになった際に、メインバンクの開発投資銀行の賛成を条件にするよう頭取に進言し、その裏で開発投資銀行の次長を反対に転じるよう説得するのも、執念がなす業であろう。

そして最後に、リーダーには、

6 部下や関係者(時として敵役)への愛情と寛容の精神

が必要である。2013年の前作でも、銀行からタミヤ電機に出向中の近藤(滝藤賢一)が半沢を裏切ったにも関わらず、剣道のシーンにおいて近藤を許す場面があった。今回の第4話でも、セントラル証券から銀行へ戻るために、銀行の証券営業部長伊佐山(市川猿之助)と組んで半沢を裏切る諸田(池田成志)を、セントラル証券の社員に対し詫びさせて許すシーンがあった。半沢が怒りをもって悪に加担した者を制裁しつつも、どこかで愛情をもって部下や同僚を許して更生させるリーダーとしての寛容さは印象的である。

倍返しと恩返し

半沢直樹は、「倍返し」という悪に対する大きな制裁を行いながら、同時に、銀行という組織(頭取等)や部下・同僚等に対する「恩返し」を行うヒーローである。
私自身も、是非、見習っていきたいと思っている。

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