資金繰り支援から早期経営支援へ〜監督指針改正のポイント〜

金融庁は、ゼロゼロ融資などで債権が保全されている事業者への金融機関の支援が足りていない事態に警鐘を鳴らし始めた。「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正案が公表されるなど、融資先の早期の経営改善・事業再生支援を先送りせずに取り組むよう促す。本稿では、監督指針改正のポイントと、これを踏まえた金融機関が取り組むべき早期支援について解説した。

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共同執筆:奥野総合法律事務所 パートナー弁護士 増江亜佐緒先生

I 監督指針改正の経緯

I 監督指針改正の経緯

2023年11月末、政府と金融機関において「事業者支援の促進及び金融の円滑化に関する意見交換会」が行われ、年度末に向けて企業の資金繰り等支援体制に万全を期すよう話し合いがもたれるとともに、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正案が公表された。①経営改善・事業再生支援等の本格化への対応、②一歩先を見据えた早めの対応の促進、③顧客に対するコンサルティング機能の強化、が概要として示され、金融機関もまた実務上これに則って対応することが求められる。

以下、地域金融機関に求められる対応を中心に、2022年3月に公表された中小企業の事業再生等に関するガイドライン(以下、「事業再生ガイドライン」)の活用状況・余地についても概説する。

Ⅱ 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正案

Ⅱ 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正案

(1)改正に至る背景

①政府による「経営改善・事業再生支援の徹底等」についての要請

政府より、2023年11月27日に「『デフレ完全脱却のための総合経済対策』を踏まえた経営改善・事業再生支援の徹底等について」と題する文書が発出された。

新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類感染症に移行したことを受け、社会経済活動の正常化が進みつつある一方で、物価高騰や人手不足の影響等により、依然として厳しい状況に置かれている事業者が数多く存在している。こうした中、政府においては、以下の事項について、改めての要請がなされている。

  1. 資金繰り支援
  2. 条件変更、借換え
  3. 資本性劣後ローン
  4. 経営改善・事業再生支援等
  5. メイン先以外への支援と信用保証協会の役割
  6. 経営者保証
  7. 住宅ローン等
  8. ALPS処理水放出の影響を受けた事業者支援

②金融機関による経営改善・事業再生支援の一層の推進

政府による要請に呼応する形で、金融庁より、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正案(以下、「監督指針改正案」)が公表された。改正案の背景として、2023年7月以降、民間ゼロゼロ融資の返済が本格化していることも踏まえて、問題を先送りせず、金融機関による経営改善・事業再生支援の一層の推進を図る必要性が指摘されている。

中小・地域金融機関においては、3月末の決算期が迫るなか、監督指針改正案を踏まえ、改めて、取引先企業に対するより踏み込んだ対応の検討推進が望まれる。

(2)改正のポイント

①経営改善・事業再生支援等の本格化への対応

コロナ禍の資金繰り支援フェーズから、事業者の実情に応じた経営改善・事業再生支援フェーズへの転換が求められるところである。

監督指針改正案によると、例えば中小企業をはじめとする顧客企業の経営改善等に向けた取り組みについて、「先延ばしすることなく」といった文言が追加されているが、逆説的に言えば、今期までは已む無く本格的な再生支援への舵切りが難しかった事情が推察される。

筆者の経験上、中小・地域金融機関の多くは、与信業務以外の業務も含めて多忙であること、労務管理や働き方改革の過程にて顧客との接点が薄くなりつつあること、資金繰り破綻や不正等による「突発死」案件も生じるようなケースもあり、経営改善レベルでの関与・指導は限度・限界がある状況とも推察される。

②一歩先を見据えた早め早めの対応の促進

だが、事業者の現状のみならず、状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応が求められる。具体的には、状況悪化の兆候を有する顧客企業に対して、正確な状況認識を促すとともに、プッシュ型で提供可能なソリューションを示していく必要がある。

また、信用保証協会付融資が多い顧客企業やメインでない顧客企業への支援について、信用保証協会や他の金融機関との早めの連携が望まれる。

なお、信用保証協会においては、例えば東京都では「新型コロナウイルス感染症・ウクライナ情勢・円安・エネルギー等対応緊急融資」制度が2023年4月に新設され、全国統一制度に加えて各都道府県独自での制度も存在していることから、改めて確認のうえ利用を検討されたい。

③顧客に対するコンサルティング機能の強化

提案可能なソリューションについて、早期の経営改善に関する計画策定等を提案し、その実行状況を継続的かつ適切にモニタリングしていくことが基本となる。

計画策定における選択肢について、例えば事業再生ガイドラインについても監督指針改正案にて言及されているが、同ガイドラインが公表されて約2年経過しているところ、さらなる活用促進に向けて、弁護士や会計士・税理士等の支援専門家との関係・連携強化がポイントとなる。

また、政府系金融機関と連携のうえ、例えば資本性劣後ローンの導入検討など、計画策定の枠組みのなかで資金繰り対応にも資するファイナンスを検討・アレンジしていくことも、立派なコンサルティング機能と評価されうる。

なお、金融庁は、昨年11月末頃にかけて、事業者支援の状況確認ヒアリングを銀行・信用金庫・信用組合等に実施、実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資などで債権が保全された取引先のフォローは後回しになっている傾向を確認している模様であり、対応格差の原因把握と改善を促す動きが既に聞かれる。

Ⅲ 地域金融機関に求められる対応

Ⅲ 地域金融機関に求められる対応

(1)不振取引先の再生可能性見極め

「先延ばしすることなく」抜本再生への対応を強化していくに際しては、先ず、メイン先でかつ不振取引先を改めてリストアップのうえ、事業・財務・経営面を中心に、再生可能性を見極めていくことが肝要となる。

①事業性評価

改めて事業性評価を行うことが第一歩となる。

当該取組みについては何も目新しいことではないが、評価行為自体が目的化されていたり、内容自体の更新が後手となっていることが懸念される。既にコロナ禍影響は解消されているが、インバウンドなど回復状況の程度や、資源高騰・物価高・人手不足など、業界次第ではあるが外部環境は近年相当に変化している。もし評価手法としてSWOT分析を駆使しているのであれば、まずは「Threats(脅威)」及び「Weaknesses(弱み)」に着目、損益不振に陥っている理由を具体的に把握し、改善策の協議・指導へと繋げていくことが望まれる。

②財務健全性分析

同時に財務健全性分析も必要となるが、ここでは手法というよりも着目すべきポイントとして資金繰り予測及び実態純資産の試算を挙げたい。

資金繰り予測について、多くの不振企業はコロナ融資を活用した上でも資金繰りがタイトにて、当該融資の返済期を迎えても返済を十分には出来ず、返済猶予を求められているケースが生じているものと推察される。

資金繰り表において、事業CFを将来最低半年程度見渡したうえで、財務CFにおいて仮に返済猶予の応諾が得られた場合において、トータルでの資金繰りが当面持つかどうかが重要な確認事項となる。

仮に抜本再生検討へ移行するとしても、スポンサー探索・交渉や、複数金融機関における金融支援検討など、目安として半年程度は私的整理での合意形成まで時間を要する。また、仮に資金繰りの確保を見通せない場合は、プレDIPファイナンスの検討(出し手の紹介)も必要となる。

もう1点、実態純資産の試算について、基本的に既に金融機関内で試算を行っていると思われるが、少なくとも時点更新としての借入・現預金の直近把握反映に加え、抜本再生への移行も見据えると、例えば棚卸資産の評価など、簡易または甘い評価になっていないかの再点検が必要となる。そのうえで、外部専門家による財務DDの実施が必要不可欠となるが、顧客企業による必要性理解や、外部専門家による調査期間を見通したプロジェクトロードマップを早めに棚卸し、外部専門家との意識あわせをしておくことを勧めたい。

③経営者の意欲・資質

特に、事業性評価とも関連するが、自助努力での再生可能性を見極めるに際し、「経営者の意欲・資質」についての確認も改めて必要となる。

現状の外部環境や経営課題をヒアリングし、どのような対策を立案・推進しようとしているか、経営計画において具体的なアクションまで落とし込もうとする意欲を有するか、右腕に資する幹部人材との関係は良好かなど、改めて確認整理を行うことになる。

顧客企業が中小企業の場合は不足・不十分と判断されるケースが多いだろうとも推察されるが、例えば金融機関OBの紹介を含む人材斡旋や、自行からの出向検討あたりも選択肢と思われる。

抜本再生局面においては、経営者だけでなく、経営企画や財務機能に関する有能人材が手当されているかも重要なポイントとなるため、外部専門家によるサポート選択肢も含めて、能動的な働きかけを期待したい。

(2)抜本再生へのシナリオ検討

図表_手法選択の判断プロセス

再生可能性の見極めを経て、自力再生が可能かどうか、顧客企業が有する経営支援の有無・程度も踏まえて初期判断することになる。

図表「手法選択の判断プロセス」を掲載するが、このような選択軸に基づき顧客企業毎に再生支援の程度判断を行い、スポンサー支援を要するか、金融支援をどれくらい要するか、トータルとして私的整理で済むかどうか、等の検討が進んでいく。

仮に自力再生が困難であったとしても、すぐに諦めず、スポンサー支援による要件の充足や補強を検討、どの手法を選択するかで経営者に求める経営責任の程度が異なってくる点を予め認識されたい。

(3)経営者との対話

事業性評価やシナリオ検討に基づき、仮に自力再生では困難と判断される場合は、スポンサー支援も検討の必要が生じるが、金融支援や一定の経営責任もセットで協議交渉していくことになる。

経営責任を誰がどのタイミングで迫り覚悟を促すかは慎重な判断検討が必要だが、一度の対話では済まないのが通例であることから、何を諦め覚悟し、何を残すのか、再生の意義(大義名分)をしっかり考察し、対話を重ねていくことが必要であり、相応の時間を要することも念頭に入れたスケジュール設定や決断リミットを設けてリマインドしていくことが、手遅れや、破産といった望まない事態を防ぐためにもなる。

Ⅳ 事業再生ガイドラインの活用状況・余地

Ⅳ 事業再生ガイドラインの活用状況・余地

(1)事業再生GLの活用状況

2021年6月に政府により公表された「成長戦略実行計画」を受け、全国銀行協会を事務局とする「中小企業の事業再生等に関する研究会」が、中小企業者の事業再生・事業廃業(以下「事業再生等」)に関する考え方や具体的な手続等について検討し、2022年3月、中小企業の実態に合わせた準則型私的整理手続を定めた事業再生ガイドラインをとりまとめ、公表した。

ガイドラインは、有事における早期の経営改善、事業再生等実行の重要性のみならず、中小企業者と金融機関が平時から信頼関係を構築することが早期の事業再生等に資するとし、中小企業者、金融機関の双方にとって予防的対応の重要性を強調している。

また、ガイドラインは、再生型私的整理手続に加えて、廃業型私的整理手続を定めている点で新しい。(2)の検討の結果、実態純資産の毀損や資金繰りとの兼ね合いで、事業を再建するための施策を実行しその効果を見極めることができない、事業の承継先も見つからないといった場合に、取引先、従業員、金融債権者等の利害関係者の迷惑をできる限り小さくする方法として、廃業を選択することも可能となった。

事業再生ガイドラインは、廃業型私的整理手続においても経営者保証ガイドラインを活用して保証債務との一体整理を図るよう努めることを定めており、経営者が個人破産を懸念して事業の整理を先送りしないことが期待される。

なお、令和6年1月17日、事業再生ガイドラインの改定(注1)が公表された(同年4月1日から適用)。事業再生における関係者(債務者・債権者・実務専門家等)の平時からの一層の連携等を促すほか、利用実績を踏まえた運用面における改善や明確化等が改定の目的であるとされている。

事業再生ガイドラインの活用状況に関しては、金融庁が2023年10月に事例集(注2)を公表した。

これによれば、2022年度には、官民金融機関において、債務減免を含む再生型11件、債務減免を含まない再生型8件、廃業型9件、計28件の事業再生計画・弁済計画が合意されたとのことである。

公表事例は、借入金額が数千万円から数億円、対象債権者数取引金融機関数も数社と小規模の案件が多く、また事業再生等の検討から事業再生計画・弁済計画の合意までに要した期間が1年未満の案件が多く、リスケジュール案件に関しては半年程度である。

事業再生ガイドラインの活用に関して、いわゆる中小企業活性化協議会スキームとの役割分担が難しいところであるが、対象債権者が少数で金融調整がスムーズな案件において速やかな手続進行が可能であること等により差別化がされているように思われる。

また、再生型のみならず廃業型についても積極的に活用されており、資金繰り破綻による突発死を回避する手段としての定着が望まれる。

この点、廃業型私的整理手続においては、再生型と異なり、金融債権者のみならずリース債権者も原則として対象債権者に含めるとされており、債権者間の負担割の衡平への配慮が求められる(前記改定後の事業再生ガイドラインQ&A 61参照)。また、事業や資金繰りの傷みの少ない早期の段階で廃業を決断し、少しでも有利な条件で資産を換価・処分する、事業の一部でも承継先を見つけるなどの努力をしないと、破産手続に比較して経済合理性のある弁済計画案を策定することは難しい事案は少なくない(注3)。取引金融機関や外部専門家との十分にコミュニケーションを取りながら早期に手続選択をする必要がある。

(注1)https://www.zenginkyo.or.jp/news/2024/n011701/
(注2)https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20231017/jigyosaiseigl-jirei.pdf

(注3)事業再生ガイドラインQA90によれば、「金融債務の弁済が全く行われない弁済計画案も排除されないと考えられ」るとされているものの、その場合であっても、対象債権者にとって経済合理性のある弁済計画案であることは要件とされる。

(2)更なる活用に向けた課題

2023年10月に帝国データバンクが公表した事業再生ガイドラインの実態調査(注4)によれば、第三者支援専門家を経験した専門家のコメントとして、認知度の低さに加えて、第三者支援専門家の登録が少ないというものがある。

認知度の低さは、活用実績の積み上げで解消されうる問題でもある。他方、第三者支援専門家に関し、事業再生ガイドラインは、対象債権者全員から同意を得てリストに登録されていない専門家を第三者支援専門家として選定することも可とする(同第三部4⑴②参照)ものの、現実には、その適格性が認定されているリスト登録者の中から選定されることが多いと思われる。

第三者支援専門家は、中小企業者及び対象債権者との間に利害関係を有しない者であることが必要であるから、複数の候補者の中から選べることが望ましい。他方で、リスト登録者は、東京、大阪などの都市部の専門家が多く、地方における登録者を増やすことが課題であろうところ、前記事業再生ガイドラインの改定において、第三者支援専門家の認定要件が追加される。

(注4)https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231010.html

Ⅴ 外部専門家との更なる連携に向けて

Ⅴ 外部専門家との更なる連携に向けて

(1)事業・財務アドバイザーとの連携

前述した「不振取引先の再生可能性見極め」に際して、多くの金融機関は既に、案件の状況に応じて外部コンサルティング会社への相談を進め、事業・財務DDの実施へと繋げていると推察される。

今後、「一歩先」を見据えた早めの対応を採るに際しては、「抜本再生へのシナリオ検討」及び「経営者との対話」も必要となるところ、行内においては金融支援(痛み)を伴うシナリオを含めた検討選択肢協議における専門的な判断アドバイス、行外においては利害相反の立場にもなる経営者との対話促進のためにも外部専門家による客観的な説明が円滑な覚悟醸成にも繋がる。特に事業再生GLの活用を視野に入れる場合は、案件全体のコントロールをメインバンクとして意識対応していく必要もあり、事案に即した経験豊富なアドバイザーと連携のうえコントロールタワーとしての協力を早めに求めていくのも有効となる。

(2)弁護士との初期相談

事業再生等の案件において、弁護士への相談は、他の専門家に比較すると遅れがちである。しかし、前記のとおり、事業再生等において重要となる手続選択においては、事業者の事業性のみならず、財務状況、資金繰りの実態等の精査を踏まえ、経営者やスポンサーなどのとの十分なコミュニケーションを行い、早期に適切に行うことが必要である。

特に、私的整理手続においては、通常の取引債務に加えて公租公課、労働債務なども資金繰りの中で支払えること、法的整理の場合の清算価値を上回る弁済ができることが必要となるが、これらの要件を充足しつつ法的整理ではなく私的整理による再生が可能かという判断には、法的な観点も欠かせない。

そのためにも、手続選択を行う検討の初期段階から弁護士に相談することが望ましい。

「銀行実務」2024年2月号(銀行研修社)寄稿記事を転載

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