「GAFAM不在」は問題なのか?日本経済の成長に必要なこと

日本経済が長年低迷する理由をアメリカの「GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)」のような新興企業の不在に求める声が大きい。ユニコーン企業待望論などはまさにその文脈で出てくる主張だろう。しかし、冷静に欧州の経済大国を眺めると、GAFAMのような企業が経済を牽引しているわけではないことに気づく。本稿では日米欧の時価総額大手10社の概観を紹介する。

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マクロ経済にGAFAMやユニコーン企業はそれほど重要か

マクロ経済にGAFAMやユニコーン企業はそれほど重要か

日本ではアメリカ経済の持つダイナミズムへの憧憬が強い。なかでも、アメリカ・カリフォルニア州のシリコンバレーを中心に次々と創業される新興企業の成長に目を奪われがちだ。

Google、Amazon、Facebook(現・Meta)、Apple、MicrosoftというIT企業5社の頭文字を用いて「GAFAM」と呼ぶのが普通になった。最近では、5社にNVIDIAとTeslaを加えて、「マグニフィセント・セブン(壮大な7社)」と呼ぶ声もある。

一方、日本では政官財あげて、新興企業の成長支援に躍起になっている。経団連もユニコーン企業(創業10年以内で時価総額10億ドル以上の未上場企業)の多産を目標の一つにしている。

新興企業の急成長がアメリカ経済を刺激していることは否定しない。ただし、GAFAMやユニコーン企業の有無が、マクロ経済の雌雄を決するわけではないと筆者は考える。

日本にGAFAMはいない。ユニコーン企業の数も限定的だ。ただ、欧州の経済大国でも日本と状況は変わらない。欧州と日本の違いは、マクロ経済も株式市場も堅調が続いているという点だ。

5か国(日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス)の時価総額大手10社を比較すると筆者の主張が浮かび上がってくる。なお、各社の株価は2023年10月末を用いている。

社歴の短い企業が上位にランクインするアメリカ

社歴の短い企業が上位にランクインするアメリカ

本稿で使用する表には、5か国の時価総額大手10社の創業年を記した。なお、合併等で新たに創業された会社については、合併前の社歴が最も古い企業の創業年を使用している。

創業年は4つの期間で区分している。

  1. 20世紀以前(~1900年)
  2. 20世紀初年から第2次世界大戦終了までの期間(1901~1945年)
  3. 第2次世界大戦終了後から冷戦終了までの期間(1946~1989年)
  4. 冷戦終了から現在までの期間(1990年~)

アメリカでは上位10社の社歴が短い。多くが冷戦終了後に創業されている。冷戦終了前に創業されたAppleやMicrosoftも、創業年は1970年代半ばと比較的最近である。

Berkshire社は繊維メーカーとして1839年に創業されたが、ウォーレン・バフェットに1964年に買収されて投資会社となった。実質的に20世紀以前に創業されたのはEli Lillyのみである。

アメリカと比較すると、日本の上位10社のなかに冷戦終了後に創業された会社は1社も入っていない。19世紀に創業された財閥系商社や銀行を除くと、ほとんどが第2次大戦直後から高度経済成長期に創業された企業である。

こうした日米比較を見ると、「日本経済の低迷は新興企業の不在が問題なのだ」という主張が正しく見えてくる。しかし、欧州企業を見ると、様相はたちまち変わってくる。

図表1_日本の時価総額合計上位10社企業とその占有率(2023年10月) 図表2_アメリカの時価総額合計上位10社企業とその占有率(2023年10月)

戦後起業された大手企業が1社しか存在しないドイツ

戦後起業された大手企業が1社しか存在しないドイツ

2023年、ドイツの名目GDPが日本を上回って世界第3位になった可能性があるという報道があった。では、ドイツの時価総額大手10社を見てみよう。

ドイツの大手企業は日本よりも社歴が古い。形式上歴史が浅い企業が2社ある。ただし、2017年創業のSiemens Healthineersは、1847年創業のSiemensから分社化された企業に過ぎない。Deutsche Telekomも、民営化によって1989年に設立された企業だ。

ドイツでは、第2次大戦後に起業家によって創業された大手企業はSAPだけだ。伝統的な社歴の長い大企業が、サラリーマン社長に牽引されて時価総額を増大させているのがドイツなのだ。ドイツにGAFAMはいない。それでも、マクロ経済は日本を超えた。

図表3_ドイツの時価総額合計上位10社企業とその占有率(2023年10月)

イギリスとフランスの大手10社はドイツよりもさらに社歴が長い

イギリスとフランスの大手10社はドイツよりもさらに社歴が長い

欧州のほかの経済大国であるイギリスとフランスを見てみよう。ドイツよりもさらに社歴の長い企業に時価総額ランキングを占有されているのが実態である。

イギリス大手10社の創業はほとんどが19世紀まで遡る。20世紀に入って創業された企業も、第1次世界大戦開始(1914年)よりも前の創業である。

フランスでも状況は同様だ。第2次大戦後に創業されて時価総額上位にランクインしたのはChristian Dior1社のみ。

ドイツと異なり、イギリスやフランスの時価総額大手企業の特徴は、国内に留まらず国際的なM&Aによって業容を拡大したことである。

フランスではブランドコングロマリットのLVMH、眼鏡世界最大手のEssilorluxotticaがM&Aによって成長した好例だ。Sanofiも、Total Energiesの子会社とL’Orealの子会社の統合で発足した。

イギリスの大手企業はさらに国際色豊かだ。Shell、Unilever、RELXは、それぞれオランダ企業との統合で誕生した。Astra Zenecaはスウェーデン企業との統合企業である。British American Tobaccoもその名の通り、イギリスとアメリカの統合企業だ。

図表4_イギリスの時価総額合計上位10社企業とその占有率(2023年10月) 図表5_フランスの時価総額合計上位10社企業とその占有率(2023年10月)

日本の100年企業は社会的富を生み出せているのか

日米比較だけを見ると、日本では新興企業が育っていないように感じる。しかし、欧州と比較すると、日本の方が第2次大戦後に時価総額を伸長させた企業が多いとさえ言える。

欧州では、伝統的な企業が他国とのM&Aを含めて大胆な成長戦略で時価総額を伸ばしている。日本ではオーナー企業でないと大胆な戦略ができないという都市伝説があるが、それは真実ではなさそうだ。

日本は100年企業が世界一多いと言われている。その真偽のほどは不明だが、少なくとも言えることは欧州と比較したときに100年企業の多くが社会的富を十分に生み出せていないということではないだろうか。

欧州にはSAPなど一部の例外を除けば、GAFAMは不在だ。ユニコーンの数も極端に多いわけではない。アントレプレナーシップを持った新興企業が続出しているわけでもない。しかしながら、「GAFAMがいてくれなくても」マクロ経済の成長は可能なのだ。

日本は失われた30年で、大手企業の成長力が削がれているという「不都合な真実」から目を背けている可能性がある。新興企業の育成が、必ずしも大手企業の成長力低下を補填できるわけではない。

最後に各表に記されている「上位10社の占有率」を比較してみよう。日本の大手10社の時価総額構成比は18.7%と、5か国中で最下位にある。他国では28~54%という水準に位置している。日本では大手の時価総額が十分に大きくないのだ。

つまり、日本では大手企業の成長力や収益力が、他国の大手企業の状況と比較して十分ではない可能性がある。今こそ、政官財ともに、この事実にしっかりと向き合う必要があるのではないだろうか。

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