外資規制の緩和が、活発化

外資規制の緩和が、活発化

ASEAN域内の2022年GDP予測は+4.9%(アジア開銀予測)と、2020年度からの大幅なV字回復は見込まれない状況が続く(同2020年実績:▲3.2%/2021年実績:+2.9%)。

未だ観光収入の改善幅が小さい上、ウクライナ危機等の地政学リスクの高まりを受けた観光客行動・生産活動の一段の減退やインフレリスクもあり、域内の成長幅は更に縮まる可能性が高い。

そのような中で、昨年(2021)来、域内での外資規制緩和の動きが活発化している。従前からの公共インフラ整備目的のみならず、輸出等域内の経済成長ドライバー・雇用創出に、外資への期待が高まっていると考えられる。

以下、それぞれの規制緩和内容を整理する。

①インドネシア:幅広い業種で規制緩和

■インドネシアの外資規制緩和の状況

分類 産業例
優先業種 ・自動車産業
・ニッケル・銅などの鉱石精錬、EV用電池など現地鉱石を原材料とする製造産業
・地熱開発、新エネルギー・再生可能エネルギー等を用いた発電所等の経済的インフラ
・データ処理・ホスティングその他これに関連する事業等のデジタル産業
外資規制が撤廃された業種 ・ディストリビューター業
・倉庫業
・Eコマース小売業
引き続き規制の残る業種例 ・建設業(別法律「建設業法」で現地資本を株主に加える規定があり100%出資は×)
・小型スーパーマーケット(中小企業等のみ対象で外国資本は大企業の分類で実質×)

2021年2月2日、インドネシア大統領により、いわゆる雇用創出オムニバス法(2020年法律第11号)2の施行細則の1つとして、投資に関する新たな規制となる大統領規程 2021 年第 10 号が制定され、同3月4日に施行された。

これにより、従前の外資規制に関する大統領規程 2016 年第 44 号(いわゆるネガティブリスト)は失効し、インドネシアにおける外資規制が大幅に緩和されることになった。

優先業種として挙げられる業種には、ニッケル・銅など資源輸出国からの脱却を目した付加価値製品の他、自動車産業、新エネルギー領域など含み、2045年までに世界第5位のGDP大国を目指す道筋としての国家戦略を反映している。

また、ディストリビューター業や倉庫業など、従前では規制の強かった業種に対する外資規制が撤廃されたことも注目に値する。

②フィリピン:小売業の自由化

②フィリピン:小売業の自由化

フィリピン政府は今年に入り、2021年12月10日にドゥテルテ大統領が小売自由化法(2000年施行)での外資規制を緩和する法案に署名していたことを発表した。

従前同法では、フィリピンにおいて小売業に進出する外資系企業に対して、払込資本金の下限や親会社の業歴や規模を規定するなど、厳しい規制を設けていた。

同法を改正することで、外資系企業がフィリピンで小売業に進出するに当たって参入障壁となっていた各種規制を緩和し、外資系企業によるフィリピンへの投資を活発化させ、業者間の競争を促進させることが狙いとのことである。

本件緩和策については、業種を小売業に絞っている点、ややもすると政治色の強い措置ともとれる動きである上、近年ASEAN域内では日系を含む外資小売業の事業縮小・撤退も散見される中、その効果は不透明である。

一方で、「ドン・キホーテ」を運営するPPIH社がマレーシアやタイでの出店ペースを上げているとの動きもあり、新業態からの進出の可能性に注目している。

③ベトナム:ネガティブリストにより外資にとっての目安が明確に

■ベトナムの外資規制緩和の状況

分類 産業例
禁止業種 ・報道活動・世論調査
・水産物漁獲
・海外への労働あっせん 等
条件付き業種 ・銀行業・保険業(生保・損保・リース)
・不動産業
・建設業
・運送業
・航空業(含むメンテナンス・ケータリング)
・郵便・通信
・石油・セメント
・農業 等

2021年1月、ベトナムにて「改正投資法(61/2020/QH14)」が施行された。同法の特徴は、前投資法では明確にされていなかった「ネガティブリスト」が定められた点にある。

同法施行の2ヵ月後となる3月に、新投資法の詳細を規定する政令第31号/2021/ND-CPが公布され、外資禁止業種が明確に定められた。

これにより、従前では複数の法令をすべて調べる手間がかかっていたものが、ネガティブリストで明確に禁止・制限事業が定められたことで、事前調査も非常に簡素化された点が、規制緩和である。

主要な規制業種は上の表の通りであるが、ネガティブリスト中に含まれない産業群においても、例えば、小売事業で別途ビジネスライセンス取得やENT申請(2024年廃止予定)が必要など、留意点は残る。

前述のインドネシアほど大幅な緩和策とは言えないが、ルールが明確になった分、進出を検討する側にとって、従前に比べて不透明感がなくなり、戦略が立てやすくなった。

インドネシア、フィリピンの事情を考察

インドネシア、フィリピンの事情を考察

以上、域内3か国の外資規制緩和内容を整理してきたが、それぞれの政策に特徴あることが理解できたように思う。

更に興味深いのは、その緩和策発表のタイミングである。

従前では国民投票を行う大統領選の時期ともなると、票田確保の目的でナショナリズムを振りかざして外資に対する風当たりが一時的に強くなる傾向が見受けられるのだが、2022年5月に予定されるフィリピン大統領選や、2024年に予定されるインドネシア大統領選の前哨戦下にもかかわらず、当該両国から外資への開放政策が発表されている。

それほど、国内財政の懐事情が待ったなしの状況との側面もあるが、いずれも現行大統領が続投しないと表明していることも、思い切った政策運営を可能にしていると思料する。

ベトナムも参入ハードル下がる

加えて、共産国家のベトナムでも2021年に新投資法が施行され、ネガティブリストに基づいた明確な外資参入ルールを明示、従前の曖昧且つ属人的な投資環境(=贈収賄・汚職の温床)が整備されたことも、これから進出を検討する外資にとって参入ハードルを下げる効果も期待される。

関連記事

ベトナムの事例から見る海外事業成功の秘訣 「長生き」するにはサステブルな体制の構築を

昨今、海外事業展開に関する相談が増えている。その内容は「コロナ後の海外事業の再活動」という“攻め”の相談から「海外進出をした事業の立て直し・撤退」という“守り”の相談まで様々だ。物理的に往来するには厳しい状況が続くが、充電期間と前向きに捉え、中期の視点で海外事業に関して検討する、再検討する「チャンス」である。今回は教育・人材派遣事業を皮切りに、昨今では小売り・AI・ロボティクスと広く展開、現在13カ国で事業を行っているTribe Holdings Japanの山本氏をゲストに、海外事業成功のヒントを紹介する。

オタク経済からナマケモノ経済へ 変わる中国の食文化

EC先進国の中国では新型コロナウイルス拡散以降、外食デリバリー事業や外食製品や生鮮食品のECビジネスが急激に拡大した。オタク経済からナマケモノ経済への生活習慣の変化と、安全志向の強まる中国食品市場を考察する。

米国の住宅価格の上昇は減速へ

米国の住宅市場は、需要が高水準な一方、抑制された供給は今後も続く。穏やかな金利上昇と緩やかな景気回復を前提とすれば、住宅価格の上昇は続くものの、2021年の二桁上昇から2022年は一桁の前半程度の上昇に減速する可能性が高い。リスクは予想を上回るインフレの昂進と、景気低迷の同時進行にある。

ランキング記事

1

ドミナントデザインとは?優れた製品とイノベーションの関係を解説

世の中には、「これ以上変革のしようがなく、これが当たり前」と思われている仕様の製品やサービスが多く存在します。 そういった仕様を「ドミナントデザイン」といい、産業が進化する過程で研ぎ澄まされた結果として生まれます。 当記事では、ドミナントデザインを生み出す産業構造や、保守的なドミナントデザインに対する革新的なイノベーションとの関係について解説します。

2

ウクライナ侵攻で中古車価格が下落、は本当か?

2022年3月の中古車価格が前月と比較して大幅に下落した。これを受けてマスコミでは、今回の価格下落がロシアによるウクライナ侵攻に起因している可能性が高いと報道、さらなる落ち込みへの懸念を示した。果たして実際にはどうなのか。本稿では、我が国の中古車市場を振り返るとともに、今後の見通しなどについて考えたい。

3

鉄道会社が進む道 100年続くモデルからの脱却

鉄道会社にとって、コロナの感染拡大により、「移動機会の減少」というリスクが一気に顕在化した。鉄道各社は、小林一三(阪急電鉄創業者)が確立した都市部での大量輸送と沿線開発を前提とするビジネスモデルを、早急に進化させる必要性が高まっている。

4

集中戦略とは?企業が選択するべき経営戦略を事例とともに解説

経営戦略において、非常に重要な考え方の1つとされている「集中戦略」。大手企業でも採用されている戦略で、導入後に大きな成功を収めた事例も数多くあります。 しかし、世間では「集中戦略は死んだ」とも言われています。 そこで今回は、集中戦略の概要、メリット・デメリット、成功事例、失敗事例などを説明します。あわせて、「集中戦略は死んだ」と言われる理由や、今後選択すべき経営戦略についても解説します。

5

「SPYxFAMILY」(少年ジャンプ+掲載)に注目~ボーンデジタルの大ヒットアニメとなるか?~

2022年4月から放映開始されたアニメ「SPYxFAMILY」が注目されている。原作は週刊少年ジャンプ本誌には掲載されておらず、デジタル版「少年ジャンプ+」での連載のみ。デジタル発としては異例の大ヒット作のアニメ化に、大きな期待が寄せられている。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中