自動車業界のリサイクルプラスチック 欧州規制強化と日本の挑戦

2023年7月、欧州委員会が自動車産業の循環型経済を強化するための新しい規制案を発表した。新車製造に使用されるプラスチックに、一定割合のリサイクル材を使うことを義務づけるなどの内容が主な柱だ。この動きは、EU全体での環境・気候変動対応を目的とする一方で、廃プラスチックの選別や改質技術で先行する欧州が、輸入完成車への新たな障壁を設けるための新たなゲームルール作りとも取ることができる。日本メーカーが今後目指すべき方向性を考察した。

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欧州発 規制ドリブンで広がる自動車向けのリサイクルプラスチック

日本の自動車産業への影響

2023年7月13日に欧州委員会(※)が発表した規制案では、新車の製造に使用されるプラスチックの25%にリサイクル材を使用することが義務付けられた。そのうち25%は、廃車部品からリサイクルされなければならない。

欧州委員会は、リサイクルを目的とした部品解体等にインセンティブを与え、発展の後押しをする方針を、この規制と並行して示している。

2035年にかけての段階的導入で、EU全体での環境・気候変動対応と、循環型経済の発展を目的としている。

※欧州委員会(European Commission)=EUの主要機関の一つ。立法準備を行い、EU法の施行と遵守を担当する。

日本の自動車産業への影響

日本の自動車産業への影響

日本の自動車産業への影響も少なくない。

自動車工業会の統計データによると、日本から欧州には、2017年から2022年の5年間で、年平均72万台が輸出されている。完成車1台あたり約200kgのプラスチックが使用されているので、規制が有効化された場合、3.6万トンのリサイクル材で部品を製造しなければ、欧州への完成車輸出ができなくなる。

また、完成車の仕向け地に関わらず、部品やその生産ラインは共有されているものが多く、実際には、少なくともその約3倍である約10万トン(うち2.5万トンは廃車由来)のリサイクル材の需要が発生すると予想する。

日本国内のリサイクル材は、業界最大手の生産能力が3万トン強のため、その3社分、金額にして200億円程の規模感となる。

走行中の振動やエンジンの熱にさらされる自動車で使用されるプラスチックは、高い品質が求められ、リサイクル材でそのスペックを満たせるものは限られている。

そんな中、欧州の規制強化をにらんだ完成車メーカーからのRFQ(見積もり依頼)には、プラスチックのリサイクル率がうたわれはじめており、国内では限られた良質なリサイクル材の奪い合いが繰り広げられている。

先を行く家電業界

先を行く家電業界

一方で家電製品に目を転じると、2001年に施行された家電リサイクル法のもと、素材循環の仕組みが出来上がっている。

当時、一般ごみの埋め立て処分場の容量不足が問題視されていた。廃家電4品目(冷蔵庫、エアコン、洗濯機、テレビ)の廃棄量は当時年間約60万トン、大型ごみに占める割合は約15%もあり、この削減が家電リサイクル法の目的であった。

消費者は、家電リサイクル料金を支払い、冷蔵庫や洗濯機などの家電を処分する。回収とリサイクルは、それぞれの家電メーカーが2つのチームに分かれ、各社の法的責任のもと、実行されている。

パナソニック、ダイキン等を中心としたAチームは既存業者に委託。三菱電機、シャープを中心としたBチームは外部パートナー含めたコンソーシアムを組み、合弁会社を設立して処理している。やり方は違うものの、金属部品からプラスチックまであますことなく、リサイクル・活用されており、2022年におけるリサイクル率は、単純平均で約85%を記録している。

プラスチックのリサイクルで大きな課題の1つが「選別」である。1つの製品に複数の種類のプラスチックが使用されており、それが選別できず混ざり合うと、物性が大きく劣化するためだ。

家電メーカーや関係各社は、独自に技術を開発するだけでなく、その内容を共有し、業界全体で課題解消に取り組んだ。結果として、プラスチックが持つ比重や、帯電性の違い等を利用し、100%に近い純度での選別に成功。前述の85%リサイクル率に繋がっている。

リサイクル料金を消費者からもらい、業界全体で技術課題を解消し、日本国内で付加価値を生み出し、経済貢献している。非常に大きな成功例と言える。

日本の自動車業界がとるべき方向性

変化の局面にある自動車業界でも、個社間を超えた全体での取り組みが求められている。

その場合、トライアルや物性評価時に発生する開発費を誰が負担するかといった問題が発生する。特に、裾野の広い自動車業界では、中小のパートナー企業からの協力も必要である。彼らの手弁当に頼りすぎるわけにはいかない。

自動車業界において、新車を購入する際、6000円から1万8000円のリサイクル料金を消費者が支払って、業界でプールされている。名目としては、廃車処理の際に発生するシュレッダーダストの処理料金であるが、リサイクルが進めばシュレッダーダスト自体を減らす事ができる。よって、家電の例のように、開発費原資として活用することもできる。

廃プラスチックは、石油資源が限られる日本では、貴重な資源としてのポテンシャルがある。
国内で回収から選別、洗浄、改質と付加価値を高め、循環させることにより、日本全体の経済発展への貢献が期待できる。

一方で、2020年の財務省の発表によると、約90万トンのリサイクル材が海外に輸出されている。その多くが、十分な付加価値が付けられていない状態で輸出されており、国内で取り入れるべき価値が流出していると言える。

家電業界での成功事例はあるものの、日本全体で見たときはまだまだ課題や改善の余地は大きい。

これまで数々の技術革新を経てグローバルで成長してきた日本の完成車メーカーや部品メーカーが、コンソーシアムを組み、個社間や業界の垣根を超え、この課題に取り組み、Made in/by Japanの新たなイニシアチブを創出することに期待したい。

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