東京証券取引所と金融庁が制定した、コーポレートガバナンス・コードの適用が2015年6月に始まって以来、多くの上場企業がコードの趣旨を汲み取りながらコーポレートガバナンスの強化に取り組んでいます。

この取り組みに加えて、グループ経営で子会社を抱える企業では、子会社による不祥事の是正が課題です。

本記事では、経済産業省が2019年6月に策定したガイドラインを中心に、グループ戦略を効果的に実行しながら、企業価値を最大化するためのグループガバナンスの必要性や目的を解説していきます。

グループガバナンスの目的は会社法だけでない

グループガバナンスは、企業グループ全体の価値を最大化することを目指す仕組みです。グループガバナンスは会社法上の規制対応という側面もある一方で、株主から寄せられる、企業価値最大化のための企業統制という期待にも応えられます。

会社法で定義

会社法上、企業の取締役会には「業務の適正を確保するための体制」を整えることが要請されています。いわゆる内部統制システムを親会社だけでなく、企業グループ全体に設置することが求められています。また、企業グループ集団を形成する各社は、それぞれ取締役会を頂点とした自律的なガバナンスの強化が必要とされています。

このように、会社法上で要請されているグループガバナンスは、親会社と子会社からなる企業グループ集団の業務を適正にすることを目的としています。したがって、企業グループ集団として取締役会レベルのガバナンスに加え、内部統制システムを整備することが求められているのです。

株主からの期待

取締役会は、企業の経営や業務執行に関する意思決定を株主から委託された機関であり、委託を受けた責務を適切に遂行し、株主にその遂行の結果を報告することが求められています。企業グループとしてビジネスを行っていれば、グループ全体の戦略の策定や実行、結果の説明を株主に対して行うことが必要になります。

グループガバナンスは、企業価値を最大化するために企業グループ集団を適切に統制してほしい、という株主や資本市場から期待されているものでもるのです。

経済産業省が策定したガイドライン

グループガバナンスを巡っては、経済産業省が2019年6月、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、グループガバナンス指針)を公表しました。他社の取り組み事例の紹介や企業アンケートの結果が掲載されていて、多様なグループ経営のあり方を示したうえで、ベストプラクティスをまとめています。あり方

なぜグループガバナンス指針がつくられたのか。策定の経緯は

グループガバナンス指針は、グループガバナンスの問題に本格的に切り込む初の取り組みとして、注目されています。これまでのガバナンスの議論は法人単位が基本であったのに対し、実際の経営はグループ単位で行われることが一般的であるため、グループ経営のガバナンスを機能させることが課題でした。グループガバナンス指針では、「空白地帯」(グループガバナンス指針5ページ)として十分な議論が行われていなかったグループ企業全体におけるガバナンスの問題について、コーポレートガバナンス・コードを補完するものとなっています。

グループガバナンス指針は6章構成

グループガバナンス指針は、グループ設計や事業ポートフォリオマネジメント、内部統制システムなどのあり方を示したもので、100ページ以上におよぶ内容となっています。
グループガバナンス指針の構成は、以下のとおり、計6章で構成されています。

  1. 第1章 はじめに(グループガバナンス指針の目的、位置付け、対象など)
  2. 第2章 グループ設計のあり方
  3. 第3章 事業ポートフォリオマネジメントのあり方
  4. 第4章 内部統制システムのあり方
  5. 第5章 子会社経営陣の指名・報酬のあり方
  6. 第6章 上場子会社に関するガバナンスのあり方

「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」各章ごとのポイント解説

次に、グループガバナンス指針の構成に沿って、各章ごとのポイントを解説します。

1章は指針の目的・対象などが記されている

1章では、指針の目的、位置付け、対象などを説明しています。グループガバナンス指針は、コーポレートガバナンス・コードと整合性を保ちつつ、グループガバナンスのあり方を示すことで、コーポレートガバナンス・コードを補完する位置付けにあります。実質的なグループガバナンスのあり方を示すために、経済産業省は企業に対してヒアリングやアンケートを実施し、その結果に基づき、一般的に有意義と考えられる手法を提示しています。

グループ経営のあり方は企業によって多種多様であるため、指針に記載した取り組みを一律に要請するものではありませんが、各企業がグループガバナンスのあり方を検討する際には、グループガバナンス指針が実務に即したものとして検討することが期待されています。

2章ではガバナンスの実効性と子会社の意思決定両立を記している

2章では、グループ設計のあり方として、各企業の事業特性や多角化、グローバル化などの状況に応じて、グループの中長期の企業価値向上と持続的成長を実現するための合理的なあり方を検討するべき、と指摘しています。グループ本社は、グループ全体としてシナジー最大化のための戦略の策定や実行、共通インフラの提供などの重要な役割を担います。

また、グループ本社の取締役会は、全体のガバナンスの実効性に加えて、子会社における機動的な意思決定を両立させる観点から、グループ各社の業務執行などに対する適切な関与のあり方を検討すべきであるともしています。

3章はポートフォリオマネジメントのあり方を解説

3章では、グループ全体のポートフォリオマネジメント(経営資源の最適配分)は、シナジー発揮や持続的な収益性の確保の観点から、定期的に見直し、その最適化を図るべきだとしています。その際、自社にとってのコア事業を見極め、その強化のためのM&Aとノンコア事業の整理を通じて、コア事業に対する経営資源の集中投資が戦略的に行われることが重要としています。

また、グループ本社の取締役会の役割として、事業ポートフォリオマネジメントのための仕組みの構築や、その運用の監督が期待されています。その際、経済合理性に基づく冷静な議論を行うため、社外取締役の主体的な関与が重要であるとしています。

4章ではグループ全体での内部統制システム構築・運用の重要性を説明

4章では、グループの企業価値の維持や向上の観点から、グループ全体での実効的な内部統制システムの構築や運用が重要としています。その具体的な設計に当たっては、各企業の経営方針や子会社の体制などに応じて、監視型や一体運用型の選択、組み合わせが検討されるべきとしています。

また、内部統制システムの高度化に向けては、I Tの活用などによって効率性とのバランスを図ることも重要としています。

5章は統一的な報酬政策を解説

5章では、子会社経営陣の指名に関する親会社の関与のあり方としては、グループとしての一体的運営や企業価値向上の観点から、親会社の取締役会や指名委員会、報酬委員会において、例えば、主要な完全子会社の経営トップを審議対象とすることが検討されるべきとしています。

また、グループとしての経営陣の報酬のあり方では、企業価値向上に向けてグループ各社の経営陣に適切なインセンティブを付与するため、グループ企業理念や経営戦略を頂点とした統一的な報酬政策を構築することが重要としています。

6章は投資家に対する情報開示と説明責任を解説

6章では、上場子会社においては、支配株主である親会社と上場子会社の一般株主との間に、構造的な利益相反のリスクが存在しています。親会社における対応のあり方としては、上場子会社として維持することが最適かどうか、定期的に検討することが必要としています。また、その合理的理由や、子会社のガバナンス体制の実効性確保について、取締役会で審議し、投資家に対して情報開示を通じて説明責任を果たすべきとしています。

一方で、上場子会社も、親会社と一般株主との間に利益相反リスクがあることを踏まえて、上場子会社としての独立した意思決定を担保するための実行的なガバナンス体制が構築されるべきだとしています。上場子会社の独立社外取締役には、業務執行を監督する役割を果たすための執行人からの独立性に加えて、一般株主の利益を確保する役割も期待されているため、親会社からの独立性も求められています。

自社グループに最適なグループガバナンスのあり方を検討することが重要

グループ形成の動きが今後、各企業で強まった際、重要になるのがグループガバナンスです。そのため、自社グループに適したあり方を考えていく必要があります。経済産業省のグループガバナンス指針は、多様なグループ経営のあり方を示し、有意義とされる手法をまとめています。利用価値、自社のグループガバナンスを検討するに当たって利用価値は高いと言えるので、ぜひ参考にしてみてください。

参考:経済産業省『グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針 (グループガイドライン)』 | 経済産業省

関連記事

東証新市場区分で、 M&Aは増加する

東証の新市場区分が、2022年4月から開始される。新市場区分においては流通時価総額や流通株式比率などの要件が付与されることに加え、一連のコーポレートガバナンス改革により、M&A件数が増加すると見込まれる。

武士道精神とコーポレートガバナンス・コード㊦日本的経営の行き詰まり

東京証券取引所は2021年6月、コーポレートガバナンス・コード(CGC)を改定し、社外取締役による監督強化を打ち出した。後半では、武士道精神をはじめとする日本人の気質とCGCの浸透について論じるとともに、日本企業に求められる企業風土改革について言及する。

武士道精神とコーポレートガバナンス・コード㊤ CGCの現状

東京証券取引所は2021年6月、コーポレートガバナンス・コード(CGC)を改定し、社外取締役による監督強化を打ち出した。しかし、CGCが形式的に完備されている上場会社においても、製品不正や様々なコンプライアンス違反の不祥事が後を絶たない。この記事では、CGCの限界と日本の武士道精神に焦点を当てて論じるものである。

ランキング記事

1

EVは本当に最適か?⑤ 基幹産業=自動車を守る為に

ゼロカーボン社会に向け、EV(電気自動車)は本当に最適なのだろうか?シリーズ最終回は、日本が技術的優位に立つ「Hy-CAFE」(Hy:水素/C:Cold fusion/A:Ammonia/F:Fuel cell/燃料電池/E:e-fuel」を生かした、自動車の次世代エネルギー革命についてまとめた。

2

村上春樹さんから学ぶ経営⑯「文章はいい、論旨も明確、だがテーマがない」

前回のテーマは「変えてはならないことがある」でした。そこで今回は、本田宗一郎氏――「社の連中に技術的な話をしたことがない。話すことは、みな技術の基礎になっている思想についてである」「技術はテンポが早く、すぐ陳腐化してしまう。技術はあくまでも末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ」(『起業家の本質』プレジデント社)――のようなお話です。それでは今月の文章です。

3

「安すぎる日本」で国民は苦しむか? 最低賃金引上げの合理性を問う

最低賃金引上げが叫ばれている。日本の賃金は国際的に見て安いらしい。一般消費財でも、スターバックスコーヒーやマクドナルドなどグローバルブランドの商品が日本では先進国中で最低価格となっており、「安すぎる日本」として話題になっている。最低賃金引き上げは、本当に筋のよい政策なのだろうか。

4

相続登記義務化のインパクトとは?

不動産を相続した場合、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する必要があり、この手続きを「相続登記」と呼ぶ。従来相続登記は任意であったが、2021年6月の法改正により2024年を目途に義務化されることになった。相続登記義務化の背景と、そのインパクトは何かを考察する。

5

プロスポーツチームの戦略オプション②~スタジアム・アミューズメント化経営の要所

コロナ禍において、プロスポーツチームが取り得る戦略オプションは、どのようなものがあるだろうか。今回は取り組みが活性化してきている「スタジアム・アミューズメント化」経営について、その提供価値と実現スキームに焦点を当てて解説していく。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中