「オーナー企業×PEファンド」

Silver calculator with gray keyboard is lying

若い創業者がPEファンド(プライベートエクイティファンド)に株式を売却したと聞けば、どのような状況を想像するだろうか?

最大価値での売却、創業者利益の確保、アーリーリタイアメントなど、創業者が手にする経済的な対価と譲渡後の悠々自適な生活、あるいは手にした利益を基に新たな事業を立ち上げる、いわゆるシリアルアントレプレナーを想像される方も多いのではないか。

ファンドの社会的役割は認知されてきた。しかし、オーナー社長からは未だに「転売目的」「役職員がリストラされる」といった、ファンドに対する否定的なコメントが返ってくることも多い。

イメージ先行で、一面的な捉え方しかされていないのは残念だと思う。
ファンドの機能や役割を正しく理解し、「出口戦略」の選択肢から排除せずに自社にとって有効であるかどうか検討する機会を持つことを勧めたい。

あるレンタル業者の売却事案

shoukei
昨年、30代で自ら起業した会社(以下、A社)を売却するオーナー経営者のアドバイザーとして、ファンドへの譲渡を支援する機会があった。

自社サイトを通じてレンタル事業を行っている企業で、年率30%を超える成長を続けており、利益率は高く、金融負債もない。一見すると今すぐM&Aをしなければならない理由は見当たらない。

プロセスに入る前に、社長から現状の課題やパートナーとなる相手先に期待する点等を伺ったところ、極めて明快な答えが返ってきた。要は、急速に事業規模が拡大し、1人でマネジメントするのは限界に達しているということだ。

マーケットシェアは高いが、大手の参入もあり、競争を勝ち抜くために成長プランを実行するため投資資金が必要だった。

具体的に実行する必要がある主要施策として、以下を計画していた。

① 社屋の増築

② 物流拠点の拡充

③ バーコードやICタグを活用した在庫管理と業務フローの改善

④ 顧客データ分析とリピーターの囲い込み

⑤ スマホアプリの開発

⑥ 多様な顧客ニーズに対応した取扱商品の拡充

⑦ 法人営業の強化

この若い経営者は当初、ファンドをパートナーとすることにネガティブだった。しかし、複数の事業会社と、ファンドからの提案を比較検討した結果、結果的にファンドが設立したSPC(特別目的会社)に譲渡の上、自ら再出資するスキームを選択した。

事業会社からの提案も、譲渡対価において納得感のある条件提示だった。

しかし、最終的な判断基準は成長に必要となる適切な経営資源をスピーディに得られることに加え、企業の成長(=株式価値の向上)を目指す「同じ船に乗る」というファンドの提案に賛同できた点だ。

これまでの企業価値は創業者の取り分(=今回の譲渡対価)、取引実行後の企業価値向上は役割に応じてシェア(=社長は再出資した株式価値の向上、主要役職員へのストックオプションで享受)という合理的な考えもファンドから示されたことで、ネガティブなイメージも払拭された。

社長は引き続き経営を委任され、①~⑦の計画実行はファンドが派遣する社内外の人材から全面的にサポートを受けている。

まとめ

fundiroiro
本件のポイントは「社長自身が成長計画を描いていたこと」「経営が好調なうちに次のステージへの準備を始めたこと」と言える。

好業績で成長のポテンシャルはあるが次のステージに進む踊り場を迎えているような企業にとっては資金・人材・ネットワーク等のファンドの機能を活用することで、計画達成の確度やスピードを上げる有効な手段と考えられる。

今回は成長ステージにある企業の事例だが、本来のポテンシャルが発揮できていない低成長企業、事業再生の局面など、企業がステージを大きく転換する局面においてファンドという外部の機能が果たす役割は大きい。

第2回は『売れにくい「無借金」企業』を予定しています。

ランキング記事

1

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

2

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

3

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

4

注目を集めるCSV経営とは?実現のための戦略と事例を解説

CSVとは、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略語です。社会的価値を戦略的に追求すれば、経済的価値も自然に生まれるという考え方を指します。 社会の利益と一企業の利益を同時に追求できることから、持続可能な経営に必要な考え方として注目されているCSV。しかしCSRとの違いや具体的なメリット、経営への落とし込み方について詳しく知らない人も多いでしょう。 そこでこの記事では、CSV経営のメリット・デメリットや国内大手企業のCSV経営事例を解説。またCSVを実践するために必要な経営戦略についても、分かりやすく説明します。

5

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中