「売れる会社、売りにくい会社」

M&A
「M&A」という言葉が中小企業にも浸透し、未上場企業のオーナー経営者が保有株式の処分を親族や会社役職員に承継する以外に第三者へ売却するという選択肢も一般的となった。経営者同士の話の中で「M&A」が話題に上がることも増えたのではないだろうか。

目や耳にする機会が増えるにつれ、自分の会社も「売れるのでは?」という期待を持つオーナー経営者もいらっしゃるだろう。

しかし、M&Aを決断し実行に移した会社が全て順調に株式を売却できるわけではない。会社の財務状況などにより売却に苦労する会社は散見される。数年前に当社(フロンティア・マネジメント)が関与した案件はまさにその典型ではないだろうか。

当社では数年前、スポーツ用品メーカーを大手上場会社に売却する案件に携わらせていただいた。

同メーカーは創業が50年超の歴史ある会社であり、数十年にわたり同社製品は大きなシェアを有していた。一方で近年は競合の参入による価格競争や新たな販路開拓の遅れにより業績が落ち込み、非常に苦しんでいる状況でもあった。

オーナーより株式譲渡による他社との資本提携で会社を再建したいという相談をお受けし交渉を進めていく過程で主に2つの点が問題となった。

1. 業績は低迷しているが過去の利益の蓄積により純資産が大きい

2. 無借金のため経営が外部の目にさらされていない

この2点は、経営者の努力によるところであり、必ずしも悪いことではない。
しかし、M&Aの話になると、「業績は低迷しているが、純資産が大きい」「無借金経営」は、売却に苦労する典型的な要素となる。

純資産重視の「売り手」、CF重視の「買い手」

dudiligence柏森
中小企業のM&Aの場合、売り手側オーナー経営者は、純資産を株式譲渡価格の目線とするケースが多い。これは、出資額と過去の利益の蓄積である純資産であれば複雑な計算も不要であり株価の考え方としてシンプルでわかりやすいためと考えられる。

しかし、買い手としては、あくまで買収対象となる会社が将来生み出すキャッシュフローを期待しM&Aを検討している。
その場合、将来キャッシュフローが株式価値の源泉となるわけで、実質的には一時点における企業の清算価値である純資産を、株式価値とする手法は妥当とは言い難い。

このように売り手と買い手で株式価値にギャップが生じ、交渉が進まないことはM&Aではよくあるが、業績が低迷しているにもかかわらず純資産が大きい会社が売手となる場合、このギャップがさらに広がり、交渉がさらに難航する。

「無借金=良い会社」とは思われない

在庫 柏森
「無借金で外部の目にさらされない会社」
「無借金経営」と言えば優良企業の代名詞のようなイメージを持たれる方も多いであろう。もちろん銀行借入に頼らず自己資金のみで事業を運営できることは、資金繰りに苦慮することなくゆとりを持った経営ができるという観点でプラスの側面もある。

しかし、借入をしていない会社は、決算書を金融機関に見せる必要もない。未上場の企業であれば往々にして親族以外の株主がいるわけでもないため、適切な会計処理が行われない環境に陥りやすい。

これは悪意を持って不正な会計処理を行う粉飾決算を指しているのではない。当該会社が「適切である」と考える会計処理も、外部から見れば「適切と言えない」可能性がある、ということを申し上げている。

「在庫」(棚卸し資産)に対する考え方

今回のケースでは、在庫の考え方について買い手と売り手の間で違いが生じた。
売り手は数年滞留している在庫であっても、スポーツ用品という商品特性からみれば十分在庫としての価値はあると考えていた。
一方の買い手はというと在庫として計上してから一定期間が過ぎると全て評価を切り下げる処理を行っている。上場会社である買い手にとってはそれが「適切な会計処理」なのである。

このように「業績が低迷しているが純資産が大きい」、「経営が外部の目にさらされない」会社はM&Aを進めるにあたり交渉が難航する可能性が高い。

幸いにも今回ご紹介した案件では買い手・売り手双方が在庫評価の考え方と株式価値について一定の妥協点を見つけ、無事クロージングに至った。
しかし、うまくいくケースばかりではない。会社によっては、最終的に双方で合意が得られずM&Aが実行されないこともあり得る。

まとめ

前述のような課題がある会社はM&Aができないというわけではない。
株式譲渡価格の目線は、CFを前提にするとどれくらいの金額となるのか
保守的な会計処理を実施した場合、財務諸表はどのように変化するのか
などについて、事前に把握しておけば、M&Aをより有利なタイミングで実行することや、買い手が考える価格目線を把握しながら交渉を進めることも可能となる。

M&Aとは、売り手だけの思いで成功するものではない。上記のような価格や会計処理などにおける買い手の考え方を事前に把握しておくことで実際の交渉や手続きなどもスムーズに運ぶことができるのではないだろうか。

連載シリーズ第3回は「複数のグループ会社の一部を売却し、持株会社方式を導入した事例」を予定しています。

これまでのシリーズはこちら↓
「オーナー企業の出口戦略」①

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