「地方創生元年」から10年 今後重要な「3要素」とは

第2次安倍内閣が「地方創生元年」を宣言してから10年を迎えようとしている。「地方創生」という単語がかなり浸透した一方、具体的な取り組みや成果をはっきりと答えられる人は少ないのではないだろうか。現場で地方創生に取り組んできた筆者の経験をもとに、次の10年に重要となる三つの要素を考察したい。それらを満たす担い手候補は、地域に軸足を置くあの業種だと考える。

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40兆円の税金投入も…遠い目標達成

40兆円の税金投入も…遠い目標達成

「地方創生元年」とされる2015年に、国会及び地方自治体による人口ビジョン及び総合戦略の策定を経て第1期の事業が展開された。2020年12月には新たな指針となる「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」が、また、2021年6月には基本方針となる「まち・ひと・しごと創生基本方針2021について」が発表され、日本における地方創生は、現在第2期に突入している。

その「まち・ひと・しごと創生法」の第一条に、地方創生とは以下の様に定義されている。

「我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」。

これに対し直近の国会では、今まで約40兆円という多額の税金が投入されたにも関わらず、一部首都圏から地方への企業転出等はあるものの、上述の本来の目的達成には程遠く、地方行政への権限移譲が進んでいない事が課題として、議論されているのが実情と理解している。

点から面の難しさ 原因は経済性・インセンティブ欠如

点から面の難しさ 原因は経済性・インセンティブ欠如

筆者自身も2015年以前から地方創生を意識しつつ、様々な事項に取り組んできたが、現在に至るまでまだまだ十分な手応えを得るには至っていない。

主に取り組んだ内容とは、商店街の活性化、地域内同業の統合による活性化、地域ファンドへの支援、企業内リソースを活用した産学官連携のPJ参画、ボランティアベースでの地元人材育成のためのキャリア教育などである。

いずれも個別には意義深いと認識しているが、個別事情によって関係者の利害がたまたま合致したものもあった。残念ながら取り組みによって創出される経済性やインセンティブが伴わず、持続が困難になるケースも多く、再現性が低く面的展開がなかなか難しいと感じている。

これらの経験を踏まえながら、これからの10年において地域創生に重要な3つの視点について述べたい。

重要な視点1:改革のリーダーシップ

重要な視点1:改革のリーダーシップ

地域創生に重要な視点の一つ目は、関係者を束ねる改革のリーダーシップ。

先に述べた地元人材育成のためのキャリア教育を始めるきっかけになったのは、一般企業務めを経験した後に県立高校の教職へ転身した高校教師から声をかけられたことだった。筆者は学校現場に入り込み、様々なキャリアモデル集めるべく、多方面に人を口説きながら参加者を集め、キャリア教育のプログラム作成にあたった。

しかし、プログラム導入にあたっては他教師の対応は渋いものであった。ただでさえ教育現場は業務量が多く、学習課程の遅れは許されない中でこれ以上の取り組みは増やせない、そもそもキャリア教育の必要性が感じられないと、目の前にある慣習的な業務に意識が取られ、教育現場を時代に即したものに変化させていこうという発想が感じられなかった。

ただ、偶然にもその地域には役者が揃っていた。地域おこし協力隊として、地元の文化資本を観光資源に生かそうとするアーティスト。その活動を支援する行政職員。行政職員からアドバイザーとして雇われていた大学教授。そして先述の高校教師――。

本件においては、点で活動している彼ら地域のメンバーが、手を取り合うことができた。小さな事例を見せていくことで、結果的にその県立高校の教頭の理解を得て、キャリア教育プログラムは教職員や地元社会人の協力を得ながら4年間継続できた。

このように変化を伴う時は、必ずそれに賛同するものと反対するものが存在するのが、学校現場に限らず世の常である。改革を推進する際には、こうした人材を適度に巻き込みつつ、点の活動を横断的に繋ぎ、関係するステークホルダーのインセンティブとモチベーションを持たせるために大きなビジョンを提示できるリーダーシップが重要となる。加えて、それは一時的ではなく、成果が見えるまで粘り強く維持できなくてはならない。

重要な視点2:地域内外のコーディネート力

重要な視点2:地域内外のコーディネート力

二つ目は、地域内情報・コンテンツと域外情報・コンテンツのコーディネート力。

文化人類学の概念で「ディアスポラ」という言葉がある。日本語では「民族離散」といい、本来は、パレスチナ以外の地に移住したユダヤ人及びその社会を指した言葉だが、現在では民族に限らず、故郷や祖先の地を離れて暮らす人やコミュニティを指す広義な言葉となっている。

グローバル化が進んだ社会に於いて、このディアスポラ当事者が、移住国で身に着けた知識や経験を本国で生かす現象が起きている。例えばアフリカ地域では、かつて難民や移民として本国を離れた人材が血統的母国に戻り、経済発展に貢献している。

この観点が地方創生では必要になると筆者は考える。つまりこれだけのグローバル化が進む中で、世の中の視点はよりマクロ志向になりがちだ。一方、地方の課題やコンテンツは相対的に小さいので、少なくとも初めの段階ではミクロ視点で物事を捉えるべきだ。

ただ、マクロの情報量が多すぎてミクロ側のプライオリティが低くなり、重要性やキャパシティが要因で情報が捨てられてしまう。そこが大きな落とし穴となっている。域内にあるミクロ視点の情報と、グローバルも含む域外情報。この二つをどのようにつなぎ合わせ、“コーディネート”して価値創出をするかが、重要だ。

ここであえて“コーディネート”と表現しているのは、DX化が進むこれからの時代に一次情報を得てマッチングさせる事は比較的容易であるが、それだけでは価値は生まれないからだ。その一次情報を活かしつつ、どのようにデザイン、コーディネートするかが問われており、そのコーディネート役として期待されるのは、ディアスポラ当事者なのだ。

国内で見れば、Uターン転職、Iターン転職といった人材や、コロナ禍においてリモートワークの普及やオフィス移転といった働き方改革によって、域外と域内の情報を持つ人材が、地域に移住する機会も増えてくると予想される。これらの人材、つまりミクロとマクロの視点を兼ね備えた人材が、今後コーディネート役として活躍することで、地方創生が推進されることを期待する。

重要な視点3:リスクマネーの提供と経済性

重要な視点3:リスクマネーの提供と経済性

最後は、機動力のあるリスクマネーの提供と経済性の確保。言わずもがなだが、事業をスタートさせるためには、資金の確保とその事業を持続可能なものにするための経済性の確保が必要となる。

筆者が経験したケースでも、インバウンド増加というトレンドに乗り、情報配信サービス、街歩きアプリケーション、観光拠点づくり、地産品セレクトショップやEC等々の事業が立ち上がったが、コロナ禍という不測の事態によって全ての需要が蒸発し、例外なくサービスを終了させた。

ボランティアで行ったケースでも、相当な骨折りがあった。人材育成・教育といった、取り組みの意義が誰にとってもわかりやすいテーマだったからこそ、参画する“やりがい”を提供価値にボランティアで人を集められていた。だが、高校生の将来的なキャリアという短期的に成果を得づらいテーマは、例えボランティアだったとしてもその経済的な成果が見えないと関係者全員が持続的なモチベーションを保つことは難しく、次第に継続することが難しくなってしまった。

一方、経済性を補完する役割として冒頭の記述の通り、現在まで約40兆円という税金が地方創生関連に投下されてきた。だが、我々は明確なリターンを感じることができていない。

その原因は、税金というお金の特性上、そのお金を獲得する事にエネルギーが割かれ、獲得した資金のリターンに対する責任が不明確になりがちなことと、資金使途が縛られ柔軟な運用が難しいことにある。

国会で議論になっている地方分権によって、少しは機動的な運用ができるかもしれないが、税金という特性上限界があると思われる。

つまり本来であれば民間資金によって、地方創生が行われるのが理想ではあるが、上述の通りその成果が即効性に乏しく見えづらいため、資金投入に二の足を踏んでいるのが現状となっている。ここ最近ようやくSDGsの関係もあって、大手民間企業が地方創生に乗り出すケースも出ては来ているが、本格的参入とはまだまだ言い難い。

このように地方創生に関わる資金の問題は、長期視点で考えることが不可欠だ。たとえそのコンセプトがどれだけ素晴らしくてもリターンが不透明な故に躊躇している民間資金と、資金使途に関する制約が多い税金という二つのお金をどう活用していくのかが重要となる。

それらの関係者を巻き込むためには、魅力的な事業コンセプトが重要となるのははもちろんだが、定量的な中長期事業計画を描くことが第一歩になるのではないか。計画は楽観的シナリオだけに基づいたものにせず、一定の蓋然性をもったシナリオ、リスクシナリオ等をしっかり取り込むことが重要だ。

3要素を満たす地方創生の担い手は地方金融機関だ

ここまで、今後の地方創生における3要素を記載したが、この3要素を踏まえた具体的な担い手は果たして誰なのか。

地元に根付きながら、①地元のリーダーシップがとれる、②地域内外の情報を有している、③資金提供力がある、という3要素を最も満たしているのは、三つすべてが完全に満たされているわけではないにしても、地方銀行などの地方金融機関であると筆者は考えている。

規制緩和によって、エクイティビジネスに参入できる道が開かれた今、地方創生における地域金融機関のリーダーシップに期待したい。

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