新規事業立ち上げにおける「プロセスイノベーション」という視点

近年、経済の本格的な成熟化の中で新規事業開発やイノベーション推進の機運が高まっている。大企業・中小企業を問わず、「我が社も新規事業に本格的に取り組まねば」と力を入れている会社も多い。しかし、新規事業開発は難易度が高く一筋縄ではうまくいかない。「なかなか思うように進まない」「頓挫・失敗してしまった」と悩んでいる会社も少なくないだろう。

筆者がこのように悩んでいる会社にヒントになると考えているのが、新規事業立ち上げにおける「プロセスイノベーション」という視点である。本稿では、新規事業開発にすでに取り組んでいる、もしくは今後取り組もうとしている経営者や実務担当者を対象に、新規事業立ち上げにおけるプロセスイノベーションとは何か、またその実践からみえてきた発見と示唆について紹介したい。

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不幸な「新規事業あるある」

不幸な「新規事業あるある」

新規事業開発は一筋縄ではうまくいかない。例えば、以下のような失敗事例(いわば「新規事業あるある」)がいろんなところで起きている。読者の皆様にも心当たりがあるかもしれない。

  • 声の大きな役職上位者がなんとなく新規事業テーマを思いつきで決め、それで突き進むが、結果的にうまくいかない
  • コンサルティングファームからの新規事業の提案に乗っかって進めてみて、それっぽいビジネスモデルやプランは提示されるものの、肝心の社員たちの気持ちが今一つ乗らず、実行段階で頓挫
  • 新規事業組織ができ、メンバーが集められたものの、何から手を付けたらよいかさっぱり見当がつかない

新規事業に長年取り組んでこなかった結果、そのやり方を組織として忘れてしまっている。既存事業での成功体験をもとに、「社内のエースを投入すればうまくいくだろう」「コンサルに頼めば何とかなるだろう」と漠然と考えてしまう。過去の成功体験にとらわれたある種の「イノベーションのジレンマ」が、上記のような「新規事業あるある」を生み出していると考えられる。

さて、こうした「新規事業あるある」を避けるためにはどうしたらよいだろうか?

筆者は、長年の新規事業コンサルティングの経験を通じて、新規事業開発やイノベーション推進の「プロセス」に変革をもたらすことが重要と考えている。イノベーションのいくつかの類型の中に「プロセスイノベーション」があるが、イノベーション活動にこそ、このプロセスイノベーションが必要ではないだろうかという主張だ。

「プロセス」に変革を

「プロセス」に変革を

筆者は昨年、このFrontier Eyes Onlineにおいて、「イノベーション経営のDX」という概念を提唱した(「イノベーション経営にもDXが求められる時代」)。

これは、イノベーションを生み出すための構成要素であるアイデア、ヒト、ネットワークという三つについてデータ化(可視化)し、それらのデータをもとにイノベーションのマネジメントを行うのが有効ではなかろうかという問題提起でありコンセプトだ。

ここで論じている内容が、筆者がイメージする「イノベーション活動のプロセスイノベーション」の姿をコンセプチャルに示したものだが、もう少し具体的に「新規事業あるある」と対比して整理すると下図のとおりである。

図1_新規事業立ち上げのプロセスイノベーション

旧来のプロセス:「トップダウン×感覚」

これまでの新規事業開発の一般的なやり方を図の左に示している。ひとまず「新規事業推進部」のような名称のハコをつくり、そこに「なんとなくの感覚」で社員を集める。そして、役職上位者が半ば思いつきで事業のアイデアやテーマを決め、集められた社員たちが我流で事業開発を進めるというものだ。

こうしたやり方は、いわば「トップダウン×感覚」でのマネジメントと言える。おおむねこのようなやり方をしている会社はたくさんあるだろう。しかし、このやり方は一般にはうまくいかない。なぜなら、集められた人材が新規事業開発に適していなかったり、ピン止めされた新規事業テーマの筋が良いとは限らなかったりするからだ。

これからのプロセス:「ボトムアップ×データ」

これに対し、筆者がイメージするプロセスイノベーションは、図の右側に示したようなプロセスでありフレームワークだ。ポイントは、ヒトとアイデアの選定に細心の注意を払うという点である。

社員(タレント)のデータや情報を集め、能力・マインドの両面で誰が事業開発に適しているかを見極める。また新規事業アイデアについても、社内(外)からできる限り広く・たくさん集め、それらをデータ化し、客観的かつ多面的な評価を行うことによって真に筋の良さそうなもの、成功確率が高そうなものを見極める。

データをフル活用するという意味で、「イノベーション領域におけるデジタルトランスフォーメーション」とも言うべきアプローチだ。

この「新規事業立ち上げのプロセスイノベーション」を、筆者はクライアント支援において実践している。実践する中でいくつかの興味深い発見があったため、本稿ではそれらについて紹介したい。

「プロセスイノベーション」の実践を通じた四つの発見

「プロセスイノベーション」の実践を通じた四つの発見

先に結論を述べると、本稿では下図のとおり、ヒトの可視化からの二つの発見、アイデアの可視化からの二つの発見、計四つの発見について紹介したい。

図2_ヒトとアイデアの可視化からの発見

デザイン思考力を測る術の出現

新規事業開発はクリエイティブかつ難易度が高い取り組みであることから、それに取り組む人材には適性要件がある。具体的には、①デザイン思考力②チャレンジ精神③粘り強さの三つである。

図3_新規事業開発人材の3要件

デザイン思考力は、平たく言えば「発想力」である。筋のよい顧客課題や潜在ニーズを発見したり、革新的なソリューションを考案したりするためには、発想力=頭の柔らかさが不可欠である。

加えて、新規事業開発というリスクの高い、かついくつもの壁を乗り越えることが必要な業務に取り組むためには、マインドセットとして、チャレンジ精神と粘り強さ・柔軟性を兼ね備えていることも重要だ。

「チャレンジ精神」と「粘り強さ・柔軟性」は、新規事業以外の既存の業務を通じても窺い知ることができるが、これまで難点だったのは「デザイン思考力」が見えないという点だ。既存事業で活躍している、高く評価されている人が必ずしもデザイン思考力≒発想力が優れているとは限らない中で、デザイン思考力を測る術がなかった。

しかし、近年では、HRテックの隆盛の中で、ビジッツテクノロジーズ社の「デザイン思考テスト」など、あたかもTOEICで英語力を測るのと同様に一人ひとりのデザイン思考力を測ることができるようになってきた。

このデザイン思考テストをクライアント企業の社員を対象に実施した結果から、発見したのは大きく2点だ(会社によって傾向の違いはあるだろうが、おおむねどの企業にも共通する傾向ではないかと筆者はみている)。

管理職と一般社員の間に有意な差「なし」

役職別別にデザイン思考テストの結果を集計したところ、管理職と一般社員との間でデザイン思考力に優位な差はなかった。つまり、役職上位者の方が発想力に優れているわけではないということだ。加えてテストの高得点者は、20代から30代の若手一般社員に集中していた。

このことは、一部の役職上位者のアイデアを起点にトップダウンで新規事業開発を進めることはリスクがあることを示唆している。そうではなく、広く若手・中堅社員から出てきた様々なアイデアを起点にボトムアップで新規事業開発をする方が、成功確率が高いと考えられる。

日常業務での「創造力発揮度合い」が重要

また、所属部門別にデザイン思考テストの結果を集計したところ、商品企画、技術開発など、日々新たな価値を生み出すためのクリエイティブな業務を行っている部門に在籍する者ほどデザイン思考力が高い傾向が窺えた。

このことは、既存業務の中にいかにクリエイティブな要素を織り込むかによって社員の平均的なデザイン思考力、ひいては新規事業創出力が規定されることを示唆している。既存事業と新規事業とは人材のクリエイティビティによって接続されるということだ。

経営者は、ルーティンワークになりがちな既存業務においてクリエイティブな要素を増やし、社員が日々業務の中で創造性を発揮できるように仕向けていくことが重要だろう。

アイデアの原石は「灯台下暗し」

近年、社内でビジネスコンテストを行っている会社が増えてきている。広く社員から新規事業のアイデアを募り、それらの中からキラリと光るアイデアを選定し、予算もつけて事業開発を進めるという取り組みである。

こうしたボトムアップのアプローチが浸透しつつあることは、「トップダウン×感覚」の新規事業マネジメントからの脱却という意味で良いことだ。

しかしながら、こうしたボトムアップの仕組みがあったとしても、実際にビジコンにエントリーするのは一部の社員に限られるだろう。良いアイデアを持っていても、何らかの理由(面倒くさい、自分事と思わないなど)によって応募をしない「サイレントマジョリティー」が相当程度いることが一般的ではないだろうか。

こうしたサイレントマジョリティーの中に素晴らしいアイデアを持っている人がいることは否定できない。何らかの強制力や動機付けによって、いかに広くアイデアを出してもらうか。この点がアイデアの可視化の上で重要なポイントとなる。

筆者が支援しているとあるクライアントでは、フロントからバックエンドまで部門を問わず全社員から一つずつ新規事業アイデアを出してもらい、さらに、それらのアイデアに対して協業ベンチャーの独自のアルゴリズム適用しスコアリングするという取り組みを行った。

ここからの発見は、大きく2点あった。

  • 新規事業から縁遠いと思われがちな管理部門の社員も、何かしら新規事業のアイデアをもっている(口に出さないだけで、頭の中にはある)。優れたアイデア(=スコアの高いアイデア)を出した人は、様々な部門に偏在
  • 筆者のような経営・ビジネスコンサルタントの目から見ても「素晴らしい!」「これは外部の人間では思いつかない」と唸るような綺羅星のようなアイデアが複数出現

この発見は、上記でも指摘したように、新規事業のアイデア出しは社員総動員で、いわば「集合知」を活かしてやるべきことを示唆している。併せて、外部コンサルタントの提案アイデアを鵜呑みにして事業開発を進めることが危険であることも示唆している。

「自社の強みが活きる」アイデアが優れた新規事業に

外部ではなく社員から優れたアイデアが出る理由は、「自社のことを知り尽くしている」という点にあると筆者は考察している。

優れた新規事業アイデアにはいくつかの要件があるが、最も重要なのは「自社らしいか」「自社の強みが活きるか」という視点である。

この視点が弱い新規事業アイデアは仮に事業化できたとしても競争優位性は築けないし、事業を開発、推進する社員たちの気持ちも乗らないからだ。そして、自社らしいアイデア、自社の強みが活きるアイデアは当然ながら長年その会社で働いている社員が最も出しやすいというわけだ。

時折、「長年新規事業をやったことがない我が社の社員から、良い新規事業アイデアが出てくるとはとても思えない」と口にする経営幹部もいる。しかし、そのようなネガティブな決めつけは、もっともらしいようでアイデアの原石を見逃すことになるのではないかと思う。

社員の頭の中にこそ優れた新規事業アイデアがあるはずだと信じ、「灯台下暗し」にならないように留意することが重要と考えられる。

まとめ

以上、本稿では新規事業立ち上げのプロセスイノベーションについて、またその実践を通じたいくつかの発見について紹介した。まとめると次図になる。

図4_本稿のまとめ

今回紹介した新規事業のプロセスイノベーションが浸透すれば、わが国のイノベーション創出力は一段も二段もレベルアップすると筆者は信じている。筆者も微力ながら、こうしたアプローチの伝道師として引き続き様々な企業の支援をしていきたいと考えている。

※本稿に関する問い合わせ先
経営執行支援部門 マネージング・ディレクター 岩本 真行
(m.iwamoto@frontier-mgmt.com)

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