イノベーション経営にもDXが求められる時代

新規事業創出やイノベーション推進の機運が本格的に高まっている。一部の大企業だけでなく、多くの中堅・中小企業にとっても重要なイシューになりつつあるのが近年の特徴だ。本稿では、イノベーション経営にどのような進化の段階があるのかを整理しつつ、新規事業開発やイノベーションを効果的に推進するために今後求められる「イノベーション経営のDX(=イノベーション3.0)」というコンセプト・切り口について解説する。

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高まる新規事業とイノベーションの機運

高まる新規事業とイノベーションの機運

筆者は10年以上にわたって「新規事業開発」「イノベーション推進」のコンサルティング支援に従事してきているが、一昔前までは一部の企業に限られた経営アジェンダだった「新規事業」「イノベーション」が、近年では多くの会社の経営アジェンダになってきたことを肌で感じている。

まず、新規事業を“本気で”検討しようとする企業が増えてきた。既存事業の成熟化が一層進み、衰退に向かうのも遠くない状況の中で、既存事業の売上・収益を補完する新規事業の創出がいよいよ喫緊の課題になってきた企業は明らかに増加している。

実際、当社にも、大企業から中堅・中小企業に至るまで新規事業に関する相談が多数寄せられている。また、新規事業に再現性を求める動きも活発化している。過去に幸運に恵まれていくつかの新規事業が成功したとしても、それに再現性が伴わなければ将来の持続的成長はおぼつかない。

新規事業を博打だと割り切らず、成功確率を少しでも上げるためのナレッジマネジメント、人財育成、組織設計を強化しようとする動きが高まってきているのも近年の特徴だ。

こうした動きを「企業のイノベーション経営のステージ」に照らして整理してみよう。

企業のイノベーションに対する取り組みのステージは、イノベーション0.0(新規事業未経験)、1.0(単品の新規事業での成功)、2.0(成功の再現化)の大きく3つに分けられる。この3段階に照らすと、イノベーション0.0から1.0に向かおうとするモメンタムと、イノベーション1.0から2.0に向かうとするモメンタムがともに高まってきていると捉えることができる。

※後述するが、本稿で主張したいのは、今後はイノベーション2.0の先のイノベーション3.0に進む必要があるという点である。

図1企業のイノベーションの3段階

イノベーションのステージを引き上げるために必要なこととは?

イノベーションのステージを引き上げるために必要なこととは?

では実際にイノベーション経営のステージを上げるにはどうしたらよいだろうか?

イノベーション0.0から1.0への引き上げは、最初の一歩となる新規事業の成功事例の創出が必要になる。

しかし、新規事業の経験・ノウハウが一切なく、またそれをリードする人財も社内にいない状況においては、自力で成功事例を創出するのは現実的に難しい。コンサルティングファームを使ったり、筋の良い協業相手からビジネスプランを持ち込んでもらったりするなど、他力をうまく使うのが現実的なアプローチとなる。

一方で、イノベーション1.0から2.0への引き上げはもう少し話が複雑だ。一般に新規事業の再現化を阻む3つのエラーがあり、これらのエラーが発生しないようにマネージすることが必要となる。3つのエラーは以下のとおりだ。

新規事業の再現化を阻む3つのエラー

エラー1:新規事業のテーマ設定の筋が悪い

テーマの筋の良し悪しが見極められず、しばしば筋の悪いテーマを追いかけてしまう。テーマ設定の筋が悪いといくらビジネスモデルをこねくり回してもまともな事業にはならないので失敗に終わる。

エラー2:新規事業の推進リーダーの意思が弱い

新規事業開発はいばらの道で、次から次へと課題や壁を乗り越えていかなければならない。推進リーダーの意思が弱いといばらの道の途中であきらめてしまう。強い意志をもったリーダーの抜擢が必須だが、現実にはそうなっていないケースも散見される。

エラー3:最適なチームビルディングになっていない

新規事業やイノベーションには少なからず「創発」が必要であるため、多様な人財がバランスよくチームにアサインされることが重要である。似た者同士の寄せ集め、烏合の衆で新規事業開発をするのはご法度だが、それに近いチームビルディングになっているケースが散見される。

なぜこうしたエラーが往々にして発生してしまうのだろうか?

筆者はつまるところ「データに基づかず、感覚でやってしまっている」点にあると考えている。かつて同様に感覚で行われていた人事領域においては、近年HRテックの導入が進みデータドリブンになってきた。これと同様に、新規事業開発やイノベーション推進の領域においてもデジタルの実装と活用、すなわち「イノベーションDX」が必要だと考えられる。

イノベーションDXの「3つの切り口」

イノベーションDXの「3つの切り口」

では具体的にイノベーションDXとは何をすればよいのか?

DXの切り口はネットワーク、ヒト、アイデアの3つだ。これら3つをデジタル化し、データドリブンでPDCAサイクルを回す。これがDX時代のイノベーション経営のスタンダードになっていくと筆者は考えている。

図2イノベーションDVの3つの切り口

ネットワークの可視化

「イノベーションは組み合わせである」とよく言われるように、新規事業やイノベーションのアイデアは人と人との交流・コミュニケーションの中から生まれてくる。

したがって、社員の社内外における「つながり」のネットワークを可視化し、その構造を解析・考察することは、イノベーションの土壌を測る上で重要だ。実際、ネットワーク科学では学者の研究によって様々なことがわかり始めている。

例えば、「組織ネットワークが垂直型(ヒエラルキー)よりも水平型(フラット/ネットワーク)の方がアイデアが生まれやすい」、「チームの創造性は、異分野連携、経験豊富な人が含まれること、人員の新陳代謝によって規定される」といったことが明らかになっている。

組織ネットワークを可視化・解析するツール(Organizational Network Analysis= ONA)も出てきているので、こうしたツールを活用しながらイノベーティブなネットワーク構造へと徐々に変えていく努力が必要だろう。社外とのネットワークについては、名刺管理サービス「Sansan」を使い、名刺のデータを解析することで、その会社の「オープンイノベーション度合い」が測れるかもしれない。

ヒトの可視化

いわゆるタレントマネジメントである。年齢、性別、学歴、職歴、人事評価などのデモグラフィック情報ではなく、その人の気質・性格・地頭特性などのサイコグラフィック情報の可視化がイノベーション推進においては重要である。

最近ではイノベーションに必要とされている「デザイン思考」の力を測るテスト(ビジッツテクノロジーズ社の「デザイン思考テスト」)なども登場している。こうしたHRテックを積極的に活用することで新規事業開発に素養ある人財を発掘・抜擢していくこと、いわば「イノベーションのためのタレントマネジメント」が、新規事業の成功確率を高める上で極めて重要になると考えられる。

アイデアの可視化

一般に、どのアイデアの筋が良いのかあるいは悪いのかの判断は極めて難しい。

難しいからこそ、役職上位者の主観と一存で決めるのではなく、たくさんの人の目を入れて多面的・民主的に決めるアプローチも大事になってくる。ここにDXの活用余地がある。

上記のビジッツテクノロジーズ社は、独自の技術に基づき、集合知によってアイデアの筋の良し悪しを評価するソリューションをもっている。これまで一部の人の主観によって判断されていたアイデアの良し悪しを、データに基づいて適正化・客観化する流れが様々なDXソリューションの登場とともに進むと考えられる。

イノベーション3.0へ

3つの切り口でイノベーションDXを実装しながら新規事業やイノベーションの成功確率や再現性を高めていくことが、令和の時代のイノベーション経営の基本形になっていくと筆者は考えている。これを「イノベーション3.0」と呼ぶことにしたい。

図3イノベーション3.0

イノベーション1.0のステージの企業が、2.0を飛ばして3.0に進むことも可能だ。筆者としても、大企業、中堅・中小企業を問わず、イノベーション3.0を志向する企業に対して効果的な支援をしていきたい。

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