「暖簾」(のれん)の重要性

「暖簾」(のれん)の重要性

デュラム・セモリナ。
イタリアの平野に育った黄金色の麦。
一九七一年に自分達が輸出していたものが「孤独」だったと知ったら、イタリア人たちはおそらく仰天したことだろう。

短編集『カンガルー日和』(平凡社、講談社文庫)収録の『スパゲティーの年に』からの引用です。

この短編集には、切ない「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」、思わずくすっとなる「あしか祭り」、風刺「とんがり焼の盛衰」等々色とりどりの作品が所蔵されています。疲れ切って何もしたくないときにお薦めです。

デュラム・セモリナとは、主に地中海沿岸で栽培されるパスタ用の小麦粉です。パスタはイタリアの歴史、誇り、「暖簾」なのです。

BtoBでも暖簾は重要

BtoBでも暖簾は重要

さて、BtoB産業では暖簾はさほど重要と言われませんが、筆者はそうは思いません。確かにBtoCのような直接的なものではありませんが、BtoB産業においても暖簾の力は大きいと言えます。理由は以下に挙げます。

▼参考記事はコチラ
村上春樹さんから学ぶ経営 ⑲「ヘンケルの製品、一生ものです」

①会社への信頼

BtoB産業での取引企業選択は数値化可能な評価が多いでしょう。突き詰めれば性能あたりの価格です。とはいえ、「あの企業に任せれば安心だ」「あの企業と取引がしたい」という意識があるはずです。

②最終顧客は人間

BtoBはBtoBtoCである。すなわち、どんな事業でも最終顧客は我々人間です。官公庁向けに橋をつくろうと、携帯端末メーカー向けに電子部品を売ろうと、自動車メーカーに生産機械を売るとしても、最終的な享受者は人です。

すなわち、取引したい企業、憧れの企業、「高くてもしかたない」と思ってもらえる企業になることは事業形態に関係のない、経営の基本と考えます。端的にいえばファンを増やすということです。

大事なのはファンの獲得

ドラッカーは「事業とは顧客の創出」と喝破しましたが、それに倣えば、「利益とはファンの獲得」といえます。

顧客を創出できれば事業は成立しますが、利益の十分条件ではなく、顧客がファンになってはじめて利益が出るのだろうと思います。単なる供給業者として認識されていれば、コスト程度の対価しか払われないでしょうが、ファンになっていただければ違った価格を払って下さるでしょう。

最近、ネットの世界では「投げ銭」(ネット動画を視聴するファンが競って寄付をする)が話題です。一時間で数百万円を獲得する人も少なくないとか。世俗的な?例えですが、喜んで投げ銭をして頂ける存在かどうかは重要です。

ブランド企業の脅威の業績

ブランド企業の脅威の業績

そこで、憧れ企業の代表が何かと考えてみると・・・ファッションブランド企業。縁遠かったブランド企業に関する本を読み、各社のプレゼンテーション資料を確認してみました。

まず驚かされたのは業績です。ブランド企業には総合ブランド企業と、総合ブランドの傘に入らない独立系ブランドに大別されるようですが、いずれにしても素晴らしい業績です。

丸めていえば、LVMHグループは売上高6兆円で営業利益1.5兆円。ハイテク産業において、優秀な技術者が研究・開発し、生産設備に巨額投資をし、最先端製品を販売しても、利益額にして1.5兆円、率にして25%をあげることは簡単ではありません。

ブランド企業の努力

ブランド企業の努力

このところ話題の半導体業界ですが、ASML(オランダ)の最先端半導体製造装置は世界でここでしか製造できません。1台で200億円とも300億円とも言われる、人類史上最も高価な機械です。

一方、HERMESのバック、GUCCIの服。作ろうと思えば他の企業でもつくれるでしょう。しかし、この利益なのです。

ブランドの力を改めて思い知らされましたが、申し上げるまでもなく、それを維持するための努力・経営は大変なものでしょう。ブランドを維持するために、並々ならぬ後力をしています。

例えばGUCCIでは

  • GUCCIとは「フィレンツェ発祥の豊かな伝統に根差したMade in Italy」(イタリア以外では製造しない)
  • 小規模な家族経営の集合体。革職人を家族として処遇、職人にとってGUCCIは最高の職場
  • 「GUCCI world wide store manager meeting」。世界の店長650人すべてを本社にあつめ1週間にわたり、GUCCI哲学の教育

Louis Vuittonでは

  • セカンドブランド、入門ブランド、ライセンス販売、生産委託禁止(*かつて、いくつかの企業が安易なライセンス商売によって凋落したことと対照的です)
  • 150年間 値引き販売は一度もしたことがない
  • Louis Vuitton製品は貨幣ともいえるほどの信頼(値崩れしない)
  • 充実した修理、補修機能(*やっと最近になって変化がみられましたが、顧客に修理をさせないIT企業とは対照的です) 

以上の記述はラグジュアリーブランディングの研究で知られる長沢伸也(早稲田大学大学院経営管理研究科教授)氏の著作を10冊読み、参照しました。

大変勉強になりました。

また、本論から脱線しますが、ブランドは環境保全につながりうるとも思います。

何かの本で、日本の服の出荷点数は過去20年ほどで2倍になり30億着/年になった。しかし出荷金額はほとんど同じとありました。すなわち単価は半分になりました。

人口1.2億人の国で30億着とはすごいな、と思っていたところ、「余剰アパレル問題」の記事が掲載されました(ダイヤモンド・オンライン、松岡真宏、笠谷侑生)。

なんと、30億着のうち50%は「余剰」とのこと、すなわち破棄されているのでしょう。「高いけれど良い」ものを長く使う。これこそSDGsでありESGです。

暖簾とは哲学

事業とは顧客の獲得。利益とはファンの獲得、すなわち暖簾の確立です。利益率は「ファン度」に比例するのでしょう。そして、暖簾が成立するには哲学が不可欠です。今回イタリアの象徴パスタを冒頭に引用したのは、筆者が今年初めて知り、驚愕したあるイタリア企業について紹介したいがためでした。新しい企業ですが、GUCCI、LouisVuittonよりも驚かされました。

次回、その驚きの企業について、紹介したいと思います。

 
▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
「村上春樹さんから学ぶ経営」シリーズ

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