「植物性肉」は日本に根付くのか。食文化への浸透に重要なことは?

プラントベースドフード、植物性肉、大豆ミート……いわゆる「大豆など植物由来食品で作った肉を再現したもの」の拡大が著しい。先行する欧米での市場拡大とその理由、日本における発展の可能性とそのポイントを考察する。

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拡大する「植物性肉」の市場

拡大する「植物性肉」の市場

普段の生活の中でプラントベースドフードや植物性肉、大豆ミートなどのいわゆる「植物由来の代替肉」を目にする機会が増えてきている(※本記事では、「(大豆など)植物由来の代替肉」を対象とし、植物以外を由来とする微生物発酵や培養肉、肉以外の食感等を再現した代替魚類や代替卵などは対象外として扱う)。買い物に行けば、お肉コーナーの隣やお店によっては特設コーナーがあることや、冷凍食品コーナーに置いてあるケースもある。

モスバーガーやロッテリア、フレッシュネスバーガーのようなハンバーガーショップを始め、イートインの店舗でも植物性肉メニューが見られるようになり、当社六本木オフィス近くのアークヒルズ内では植物性肉の専門の店(イートイン・テイクアウト)までできている。

代替タンパク質・PBF・植物性肉の関係性

実感覚を裏付ける数字もある。日本能率協会総合研究所「MDB有望市場予測レポート」によると、日本国内において、大豆ミートに限定した市場規模は2019年に15億円だったものが2025年には40億円に達すると見込まれるという。

また、ブルームバーグ・インテリジェンスのレポートによると、グローバルの大豆ミートを含むPlant Based Food(PBF:植物性食品)の全体の市場規模は2020年に294億ドル、10年後の2030年には1,619億ドルに達すると予測されている。さらに、The Good Food Instituteのレポートでは、代替タンパク質市場への投資が2010年~2019年の投資総額が59億ドルであったのに対し、2020年は単年で31億ドルと、注目が上がっている様子が見て取れる。

世界の市場規模予測

しかし、日本において植物性肉は本当に定着していくのだろうか。

日本より「植物性肉」が先行する欧米。その理由は?

日本より「植物性肉」が先行する欧米。その理由は?

そもそも植物性肉とは、いったいどんなものだろうか。これだけ目にする機会があれば、一度は試してみようと思う人も少なくないだろう。食欲を刺激するレシピと共に紹介されれば、料理に使えるミンチタイプ・乾燥肉にも食指が動くかもしれない。では、それを2度3度と食べたいと思うだろうか。そういう行動を起こす理由・仕組みはあるのだろうか。

日本の考察をする前に、まずは先行する欧米を見てみよう。前述のとおり、市場規模として大きく先行している事は間違いない。PRESIDENT Onlineの「ソーセージにサヨナラ? ドイツが世界No.1ヴィーガン大国へ」によると、ドイツでは2017年7月から2018年6月の間にドイツで発売された食品および飲料の14%がヴィーガン(その5年前は4%)とかなりの割合を占めているという。完全なベジタリアンではない「フレキシタリアン(菜食中心に時々は肉もOK)」という言葉がイギリスで生まれ欧米諸国で広く浸透している事からも、コアな菜食主義者のみに広がっている訳ではない事がわかる。

欧米で植物性肉を摂取する理由としては、主に以下が考えられる。

  • 環境負荷の軽減(畜産時の穀物消費削減、糞やげっぷによるメタンガス排出の減少)
  • 食料資源枯渇への対応策(世界的なたんぱく質危機対応)
  • 畜産への抵抗(動物愛護)
  • 健康増進(過剰な肉摂取の抑制、たんぱく質と一緒に食物繊維も接種)
  • アレルギー等による動物性肉の禁忌

「健康増進」「アレルギー」を除き、高尚な理由に感じるのは私だけではないはずだ。倫理的な根拠は頭では理解しつつも、日本では馴染みにくく、まだ決定的な購買理由になり難いのではないだろうか。日常買いする食品においてはなおさらだ。

健康の面で考えても、日本では肉の消費が一人当たり年間51kgでアメリカの128kgの半分にも及ばず、食べすぎというほど肉を摂取していない(United Nations Food and Agricultural Organizationより)。

豆腐や納豆、がんもどきなど、日本では肉食文化が花開くはるか以前より大豆による加工食品が存在し、日常食として食卓を彩っている。植物由来を突き詰めた精進料理のような文化も鎌倉時代からあると言われており、その点も理由にはならない。アレルギーは有効なものだろう。ただし購買層が限られるし、代替対応先として大豆加工食品ではなく植物性肉を皆が選ぶかというと、疑問だ。

食文化やマインドセットが欧米と大きく異なる日本では、この市場において欧米が進んでいるからといって、「欧米の〇年遅れ」のように、彼らが辿ってきた道をそのまま当てはめて考える事はできないだろう。日本独自の事情を鑑みて、改めて考える必要がある。

日米での食文化・考え方の差異

日本で「植物性肉」を根付かせるために重要なこと

一過性のブームでもなく、一部のコアなユーザーだけでもなく、日本の食文化の一つとして植物性肉を根付かせるには何が重要か。

それはやはり、「美味しさ」なのだろう。

なんだ当たり前ではないかと思われるかもしれないが、これは非常に重要な点だ。美味しさに優れないものを我慢して食する社会的・経済的理由がない以上、また食べたいと思わせる味や食感が重要である(安価な大豆加工食品が多く流通している日本では、経済的理由は見出しにくい)。食文化として習慣化し、リピートさせるのであれば尚更だ。

では、今の植物性肉はそのレベルにあるだろうか。これは筆者の私見も入るが、残念ながら「NO」と考える。「肉に遜色ない美味しさ」のものもあるが、タレをたっぷり付けたハンバーグや肉団子など、素材の味が感じにくいものに集中している。幾度となくインタビューを行い、植物性肉に好印象を持たれた方々、植物性肉発展に寄与している方々ともお話をして来たが、「大豆ミートにしては美味しい」、「(このメニューなら)普通の肉と変わらない」といった声は聞けても、「肉を超える美味しさだ」という声はついぞ聴く事は無かった。

だからといって、この国での植物性肉の未来を否定的にとらえる必要はないかもしれない。人が植物性肉を肉以上に美味しいと捉える日はまだ先かもしれないが、研究開発を続けてその領域にたどり着く事が不可能とは思わない。実際にこれまでの企業努力により「動物の肉と遜色ない」という今のクオリティほど品質を引き上げたのだ。

それまでは肉とそん色ないクオリティのメニューで、消費者には植物性肉の認知を広め、企業としてはブランドを浸透させていけばよい。肉と変わらない美味しさのメニューが一定数あるのであれば、価格やプロモーションによって広げる、そして継続させることも可能と考える。

地球環境に優しく、健康にもよいとされる食品が、味としても高い水準へ上り、消費量が増える事で価格も抑えられ、安価に市場に出回る事で更に消費が伸びる……そんな好循環が生まれる事を願ってやまない。

※動物肉のクオリティを上回らないまでも戦える調理法や勝負する食品を特化、ニーズのある顧客ターゲットを絞るといった戦い方も可能であり、そこは各企業の強み・戦略と組み合わせての検討となります。自分たちのブランドをどう浸透させるか、そもそもどういう戦い方を展開すべきかなど、貴社固有の状況に応じたご相談などございましたら、本サイト内の「問い合わせ」よりご連絡頂ければ、個別にご相談に応じさせて頂きます。

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