医療財政のひっ迫と医療機関経営へのしわ寄せ

医療機能・病床の分化・強化・連携は従来から医療財政の健全化の観点から言われてきたが、コロナ禍という未曽有の危機では、本質的な意味でも病院・病床機能の分化・強化・連携が求められることを顕在化させた。

経営の安定化は医療機関自らの責務である。医療と介護の橋渡し、健康寿命の延伸、働き方改革とメンタルヘルスへの意識の高まり、そしてコロナ禍に直面して顕在化した在宅健康管理の重要性といった社会課題の中に、医療制度改革の動向に右往左往しないための経営のヒントがあるのではないか。

診療報酬制度改定の度に…

コロナの感染拡大で、日本の医療提供体制の在り方に、これまでにない注目が集まっている。全国どこでも同じ価格ですべての国民が平等に医療を受けられるという国民皆保険のおかげで、日本は安定的かつ高水準の医療基盤を整備し、世界でも有数の長寿国となった。

しかしながら、2018年度の概算医療費は42.6兆円にのぼり、そのGDP比率は8%弱に及ぶ。深刻な少子高齢化の進展により、国民皆保険制度は財政的な観点から危機的な状況である。制度の崩壊を避けるべく、診療報酬制度はこれまで度々改定され、そのたびに医療機関の経営は大きな影響を受けてきた。
DPCと呼ばれる包括支払制度の下、過剰な医療提供に対しては厳しく査定の目が光るようになっている。病床や病棟の機能分化の要請は、診療点数の各種要件として細かく定められ、そのための人的・物的体制整備のための負担も重い。

その結果、多くの医療機関は診療報酬制度の改定要件に「ついていくので精一杯」というのが本音ではないだろうか。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の 3 団体が合同で行った2019年度の病院経営調査によると、調査対象病院のうち赤字病院の占める割合が4割を超えている。

中小企業は約70%が赤字であり、それに比べれば、状況はまだよいという見方もある。
しかし、コロナ禍の影響で追加コスト負担や、通常の診療が滞っている事態は深刻だ。生命や健康を守る社会インフラの経営という点で、経営崩壊の回避する必要がある。

乏しい戦略余地

コロナ対応策のため追加コスト負担を余儀なくされる一方、感染リスクへの不安から足許では患者数減少の影響も出てきている。医療機関の経営環境は今後さらに厳しくなるであろう。もっとも、コロナ禍以前に日本の医療機関経営は、制度上、経営改善のために戦略余地が限られる。

保険診療の枠組みにおいては、サービス単価は公定され、提供サービスがいかに優れていても原則として単価アップはできない。とすると、経営としての打ち手は、

1 サービス総量を増やす
2 サービス1単位あたりのコストを下げる

のいずれしかない。

しかしながら、より多くの患者を診るとしても、医療従事者の数と時間は有限であり、限界はある。そもそも、1日に多数の患者の診療をこなそうとすれば “3分診療”などと批判されてしまう。

コスト削減をしようにも、付加価値の源泉である専門人材の労務費削減は困難だ。
薬価や医材料も等しく単価削減の影響を受けており、医療機関が薬価差益を確保することもますます困難になっている。ニッチに特化して運営の効率化を実現したとしても、当該分野の診療点数が2年ごとの診療報酬改定で削減されてしまえば、その努力も水の泡である。
2020年の診療報酬改定では、透析に特化したクリニックは大きな影響を受けそうな状況である。

患者のニーズにいかに寄り添えるか

誤解を恐れずに言えば、診療報酬制度の下で、医療機関の経営努力は、診療点数の最大化のため、定められた要件枠組みに治療行為をいかに定型化して落とし込むかというところにあった。患者は治療行為の対象にすぎず、患者効用の最大化は二次的な要素でしかない。心ある医療従事者が、日々の治療現場で目の前の患者ニーズとの板挟みで苦しむのは、究極的にはこのあたりに理由があるのかもしれない。

例えば、高度で安心・安全な医療体制整備のために推進されている病床・病棟の機能分化は、診療ステージごとに患者に転院・転床を強いる。病状の推移によって病院と自宅や介護施設とを往復せざるを得ない高齢患者やその家族の身体的・精神的負担は相当なものである。
折しも、コロナの重症患者の入院病床を確保するために軽症感染者は在宅での療養を余儀なくされる現状は、同様の負担は必ずしも高齢患者の問題だけではないことを示している。

まとめ

診療報酬制度に忠実に対応しているだけでは、残念ながら個々具体的な患者の目の前のニーズには応えることはできない。満たされない患者ニーズの集積は、全体として医療機関に対する信頼感を知らず知らずのうちに傷つけることになる。

㊦「新たな収益源」に続く

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