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医療機関 経営崩壊を避けるために㊦ 新たな収益源
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を受け、感染症蔓延時に医療の経営崩壊をどう防ぐかが、論点に上がっている。後半では、医療機関の新たな収益源について考察する。
独自サービスの構築への好機
医療保険制度に基づく診療報酬点数が今後大きく増加することは望めないとすれば、従来の制度の枠組みで拾えていない患者ニーズを丁寧に拾って、伝統的な保険収益では想定していないサービスの在り方を考えてはいかがであろうか。診療報酬制度の枠組みに縛られるのでなく、目の前の患者のニーズをよく観察して、独自のサービスの在り方を模索するのである。
独自のサービスを収益化するには、それにどの程度の支払いをしてもらえるかということをしっかり検討しなければならない。公定価格によるサービス提供では検討する必要がなかった戦略ファクターである。しかしながら、今後、コロナ禍の長期化で国民の生活パターンは大きく変容を強いられる。新たなサービスが、受け入れられる好機かもしれないのだ。
保険外収益の可能性
医療機関による保険外収益の取り組みというと、海外からの富裕層向けメディカルツーリズム、先端医療や美容医療のような自由診療、レーシック施術や歯科矯正等が思い浮かぶ。これらは、日本では保険診療でカバーされない医療行為であって、それが自由診療という形で提供されているにすぎない。
しかし、医療従事者の専門的知見は、本来的な医療行為にとどまらず、国民生活のもっと身近なところでも求められている。このことは、テレビやオンラインメディアで医師や看護師の出演や解説コメントが人気のコンテンツであることからも伺える。医療はもっと国民生活に寄り添ってもよいのではないか。
健康ブームの中で流行りのジョギングやフィットネスだが、熱が入るあまり筋肉や関節を痛める人は多い。ジョギング仲間に医療従事者がいると安心であるが、医療機関の運営するスポーツ施設はまだそれほど多くない。いくつかの大手病院グループでは併設するフィットネスジムが地域住民にとても好評で、ビジネスとしても非常にうまくいっていると聞く。
医療機関や介護施設では保険適用内のリハビリの提供には熱心であるが、症状固定後の保険適用外の在宅リハビリ等の提供はできず、リハビリ中断による症状悪化の事例は少なくない。在宅リハビリを遠隔で手軽にサポートするサービスができれば、保険診療枠外のサービスとして一定の需要が見込めるであろう。
オンライン診療の解禁
コロナ感染拡大を受けて、オンライン診療による初診も解禁された。しかしながら、来院患者が減る代わりにオンライン診療になるのであるから、それだけでは収益の上積みとはならない。
対面での診療以上に時間がかかる傾向もあり、むしろ減収になるケースもあろう。
オンライン診療は、これまで多忙なため来院できなかった潜在患者層の開拓と、彼らに対する通院や入院によらない施術や保険外サービスを提供することと組み合わることで、初めてプラスアルファの収益拡大をもたらす。
ウェアラブル機器を利用してパーソナルヘルスレコード(PHR)を記録するサービスは昨今非常に安価に利用できるようになっている。これらを活用してオンラインサロンの主宰ができれば、コロナの影響で気軽にクリニックに通えなくなった患者に対して、単なる通院診療の代替のみならず、新しいコミュニティの提供として収益化のチャンスがあるのではないか。
パートナーを探そう
伝統的な保険診療以外の新しい収益機会を模索するといっても、医療機関が安易に収益事業に取り組むについて否定的な向きも多い。これまでに自由診療をめぐるトラブルは少なくないし、そもそも医療法人は、収益事業を自由に営むことはできないのが原則である。公定価格の保険診療での事業運営経験しかない医療機関が単体で独自の収益事業を始めるのは容易ではないかもしれない。
しかしながら、医療法人が収益事業を営むことに制約があるとしても、医師個人が別途営利事業を営むことに何ら制約はない。グループ事業ということで、医療法人と独立した営利法人を別途運営する方法も検討できよう。
少子高齢化の進展の中で、国民の健康意識は高まっており、今回のコロナ禍はこれを助長している。既に、多くの異業種企業で、健康は今後のビジネス戦略の中核的キーワードである。医師・病院を頂点とするBtoBの事業展開をしてきた伝統的な医薬品・医療機器・医材料の産業と異なり、BtoCのビジネスを得意とする小売業界、IT業界、通信業界、金融業界等さまざまな異業種の企業達が、得意とする顧客起点の発想で次々と新しい健康サービスを開発し始めている。
医療機関側も、これまでに付き合ったことのない企業とも積極的に意見交換して、国民生活の日常から生じるニーズを自分達の収益として取り込む検討を始めてはいかがであろうか。
まとめ
コロナ禍の影響が長期化しそうな世情の中で、各医療機関が国民の新たな健康ニーズに合致する患者起点のサービスを提供できれば、それは大いに歓迎されるはずである。そして患者視点の真の意味でのBtoCサービスの提供は、2年ごとの診療報酬制度の改定に翻弄される不安定な経営を安定化させる突破口となるはずである。
▼過去記事はこちら
医療機関 経営崩壊を避けるために㊤ 診療報酬を考える
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