「DingTalk」 (釘釘)とは

「DingTalk」 (釘釘)とは

DingTalkは簡単に言うと「中国版slack」であり、「zoom」とも同様の機能を持つと言える。

DingTalk(釘釘・DingDing、以下ディントーク)は2014年に初版提供を開始。2021年1月の6.0バージョン発表時に、使用者数4億人超、企業、学校等組織使用数は1,700万以上と公表している。運営しているのはアリババグループであり、ディントーク(チャイナ)インフォメーションテクロノジー社など、グループ企業での連携を行っている。

ディントーク社は、アリババグループが中国の中小企業向けに設立したコミュニケーション、コラボのモバイルオフィスプラットフォームだ。

コンタクトリスト、コミュニケーションメッセージング、ビデオ会議、ライブ配信、ドライブストレージのサービス提供により企業同士のコミュニケーションとコラボレーションの効率向上支援を目的としている。

ディントーク社は、サービス提供開始後の2018年に設立。資本金は20億元(約320億円)、出資者はDingTalk(Singapore) Private Limited.となっている。

ディントーク社は通信関連で、国有系の中国聨合網絡通信(チャイナユニコム)と提携している。中国最大の通信企業である中国移動通信(チャイナモバイル)は2019年、米連邦通信委員会(FCC)より米国参入を却下されているが、米国事業免許を取得していたチャイナユニコムに対しFCCは2021年3月に同免許取り消し手続き開始を発表している。

slack、zoomとの比較

「DingTalk」 (釘釘)とは

他にも類似したビジネスツールを提供するシステムや、企業はいくつも存在するが、代表的なものとしてslack、zoomについて、開発の歴史を簡単に振り返りたい。

その「slack」は米国でSlack Technology社(代表スチュワート・バターフィールド氏)が2013年に初版を発表した、SaaS型のチャットツールである(SaaS =Software as a Service アプリ、サービスをインターネットを通じて利用)。

主要なサービスとしてメッセージ、ビデオ会議、チャットボットがあり、2020年12月にsalesforce社が277億米㌦にて同社と買収契約を締結発表した。

zoom社(代表エリック・ユアン氏、中国名は袁征)はSlackに先立つ2011年に設立され、日本でも使用頻度が高いオンライン、ビデオ会議ツールで知られている。2019年に上場し、コロナ下でのリモートワークから評価を高め時価総額764億米㌦(2021年4月1日現在)となっている。

DingTalkの使い方

DingTalkの使い方

2020年1-2月のコロナ感染拡大下でディントークは急激に中国ユーザー数を増やし、20年4月にグローバル版DingTalk Liteを展開。

基本的に企業のデジタル化サポートを目的として開発、リニューアルを続けている。
以後、2021年1月に6.0版が発表されており、その内容を基に説明する。

内容分類は、1.組織オンライン化、2.オンラインコミュニケーション、3.業務のオンライン化、4.オンラインでのコラボ、5.エコシステムとなり それぞれの機能は下記となる。

1.組織オンライン化、

従業員健康管理、企業リスト管理、情報共有化、人事評価

2.オンラインコミュニケーション

これが一般的に知られている機能で、メッセージのやり取り、ビデオ会議、電話会議、電話、ライブ発信、連絡先自動グルーピング等がある。特徴的な点としてビデオ会議は最大302人、グループチャット1,000人参加可能で、更にメッセージに対してリマインド機能「DING」があり、メッセージ未読者へ確認を行うものである。リモートワークでの業務管理にも使える。またテンセントが提供していた機能に対抗し、中国ならではのボーナス機能も加えている(優秀社員表彰、御祝金送付システム)

3.業務のオンライン化

受払い管理(一度に最大200件社員費用支払い等)、社員の顧客対応履歴、AIによる顧客自動対応、データ管理、インプット漏れの「DING」によるインプットリマインド

4.オンラインでのコラボ

タスクとその期限作成、ファイル、資料の自動同期化、グループ、社内スケジュール管理、勤怠管理、給与計算(最新税法基準)と更にスマーフォンとのデータ同期化を行う。

5.エコシステム

プラットフォーム機能で 技能学習、新職業分類、保管およびリモート研修として活用が可能。

教育現場で急速に普及

メッセージや必要なインプット漏れに対するリマインド機能については、物理的に離れている社員が実際業務を行っているのか、また管理されている事を促す機能とも言え、日本とはやや異なる考えと取る方もいると思う。

また、2020年1-2月で急激に利用者数を増やした要因として学生、学校との取組がある。上記機能の展開であり、オンラインでの学習だけでなく学校側全体の資料ファイル、検索、提出課題、回答内容分析と教師側の業務効率化へ向けている。

安全性は? DingTalk

DingTalkの使い方

国際認証であるISO/IEC27001:2013データ安全管理システムと ISO/IEC27018 :2014 クラウド環境における個人情報保護、ISO/IEC20000 ITサービスを提供する組織のITサービスマネジメントの適正を取得。また、米国公認会計士協会(AICPA:American Institute of CPAs)が定める米国保証業務基準AT101に基づくSOC2(Service Organization Controls 2)Type1 レポートでセキュリティ及び可用性基準が確認されている。また、アリババグループはビッグデータ安全管理での実績もある点は、信頼できる。

中国政府との関わりは?

強いて言えば、中国企業である事からデータの中国政府に転送されるとの懸念を示す企業もあるかもしれない。

その観点からの事例で米国企業zoom社は、昨年急増したオンライン会議で会議設定のセキュリティで他人の会議への割り込み(zoom爆弾)や中国のサーバーを経由してデータ転送した点を指摘され大きな問題となった。

代表のユアン氏が中国出身である事を理由に、中国当局にデータが渡された懸念を拡げる差別発言もでた。

zoomはデータセンターを中国を経由しない事とともに、中国での法人サービスを停止する事を発表した。それでも疑いを持つネットユーザーがいる様で、根が深い問題である。

 

その他のツールについて テンセントとバイトダンス

その他のツールについて テンセントとバイトダンス
  
ここでは、中国のライバル企業について触れる。アリババの競合であるテンセントと日本でも有名なTikTok(ティックトック)を運営しているByteDance(バイトダンス)社の2社となる。

いずれもが、PCだけでなくスマホとの連動、機能性を重視している。

テンセントの動き

テンセントはオフィスツールとして企業微信を2016年に発表し、コロナでのニーズ急増により、海外では「WeCom」名で拡大に努めている。

2020年12月時点で導入企業数550万、ユーザー数1.3億人、WeChat(ウィーチャット)ユーザー4億人とも連携している。

WeChatユーザーとのつながりを重視しており、WeComからWeChatユーザーを追加したりWeChatグループを作成、「友達」への送信が出来たりする。

これまでもWeChatで顧客と繋がり商談を行うユーザーも多い事から、同機能を拡大し、個々の業務を管理化しようとするものと言える。

ByteDanceの動き

その他のツールについて テンセントとバイトダンス

ByteDance社は当初、社内向けのコミュニケーションに、外部アプリケーションを使用していた。しかし、自社で設計し外部提供を始めたのが 飛書(FeiShu、海外版Lark)だ。

コミュニケーション、スケジュール管理、資料共有の面を中心とした機能であり、フラットな組織体系の企業を対象としていると取れる。普及拡大の意図もあり2020年に使用企業、組織に無料提供を宣言している。

DingTalk、WeComと比較すると、後発のLarkは連動するアプリケーションが少なく、ISV(独立系ソフトウエアベンダ)との取組も示唆されている。

DingTalkとテンセント、バイトダンスとの比較

3社の管理機能を見ると下記となる (2020年5月時点)

モジュール 機能 飛書 DingTalk 企業微信
名簿管理 メンバーの一括インポート あり あり あり
ユーザー情報の編集 あり あり あり
ユーザーの無効化 あり 退職・削除 あり
発信ユーザー あり あり 削除のみ可能
アドレス帳の閲覧権限の設定 あり あり あり
アドレス帳情報表示制御 あり、各メンバーの異なる情報表示は不可 あり、各メンバーの異なる情報は、個人ごとに設定が必要 あり、各メンバーの異なる情報表示の設定可能
会議室管理 会議室の一括インポート/エクスポート あり
ワークベンチ/アプリケーション 申請承認 あり
アプリケーションの可視性に関する権限の設定 あり あり あり
アプリケーションの有効化/無効化 あり あり あり
企業の自作アプリケーション あり あり あり
関連ミニプログラム あり
データ 帳票 あり あり
アカウント管理 あり
エンタイトルメントデータ あり あり
会員利用データ あり あり
安全 ウォーターマーク あり あり あり
管理者ログ あり あり あり
二次検証 あり
ユーザー管理 スーパー管理員設定 あり あり あり
通常管理者設定 あり あり あり
マネジメントグループ あり
代理店サービスプロバイダ あり
顧客の連絡先 顧客管理 あり
お客様グループ あり
クイックレスポンス構成 あり
チャット管理 クラウドメッセージのセーブタイム設定 あり
メンバー作成グループチャット番号設定 あり あり
メッセージ既読/未読スイッチ あり あり
外部コミュニケーション管理 外部通信許可設定 あり あり
セットアップ スタートページの設定 あり あり
ワークベンチの設定 あり あり あり

日本、海外での広がり

海外版DingTalk Liteは、多言語及びiOS,Mac,Windows,Androidなど多くのシステムに対応し、積極的に展開を進めている。4億人にもなるユーザーの海外比率は公表されていないが、日本での導入例として、翰林日本語学院、獺祭で知られる旭酒造が公式ウェブ上で紹介されており、中国同様教育と企業組織への導入機会をうかがっている。

食品を用いて、各国他地域のファンをつなぎ、同時に「ウェブ飲み会」を開くなど、今後の新製品プレゼン、またライブコマースにもつながる販売活動の場としても、さらに利用されていくと考える

DingTalk がビジネスツールの中心に?

アリババは釘雲一体戦略(ディントーク、クラウドの一体化)に沿ってディントーク6.0版を公開している。アリババクラウド(阿里雲)の張建鋒総裁によると、ディントークはコミュニケーションツールではなく、中国で最適な企業コラボとアプリケーションの開発プラットフォームとする事を目標としている。

その為、6.0版で ディントークとグループの宜搭(YiDA Make work easy& happy )にてローコード(注1)開発行い、より速く新しいアプリケーション開発を行う。

業務内容により専属のワークベンチを提供。オフィスワークをより効率化するためのキットの提供を行えるとしている。

最大の強調点はローコード開発で、張氏はこれにより今後3年で1,000万のアプリケーションが供給できると期待している。(注2)

注1:日本及び他国でDX推進に対する課題として、IT人材不足、現システムの保守、改修の限界が挙げられる。
注2:ローコード、ノーコード開発。従来の専門的な開発知識のない点、コンパイル(プログラミング言語への変換)が不要としている点から開発速度が速まると期待されている。

企業の「国籍」による影響

日本、海外での広がり

この点では今後YiDAと共にDingTalkを海外でも導入検討するケースが増える可能性がある。

技術面以外から見ると、米国企業のzoomは、代表エリック・ユアン氏が中国出身であり、開発チームの一部を中国に置いている事から、米国などから中国政府とのつながりについて疑義を避ける事もあり、中国から事実上撤退をしている。

アリババと中国政府の関係を注視

アリババはDingTalkの実質責任者であった陳氏は退職、CTO朱氏は異動とグループ内での人事再編もあり、体制変化を見る必要がある。

同時に製品は米中経済摩擦のあおりを受ける可能性だけでなく、創始者ジャック・マー氏と中国政府との蜜月の終焉からアリババ集団と政府の関係も見ていく必要があるかもしれない。

そんな中、4月10日に中国国家市場監督管理総局は、アリババ集団にEC業務の一部が独禁法違反にあたるとして、182.28億元(約3,000億円)の罰金を科した。

欧州委員会が競争法違反でグーグルに科した制裁金は累計で約95億米ドル(約1兆円)。だが、アリババへの罰金は一件での金額としては過去IT関連での最高額に近く、同金額は2020年アリババ集団純利益1,559億元の11.69%にあたる。

関係修復に、張勇(ダニエル・チャン)CEOは、法令順守体制の構築と時代と国家発展に対応していくと発表。この発言を市場は好評価し、株価は上昇となった。ITによる市場の急激な変化と寡占化に対し、他のプラットフォームへの政府からの警告とも取れ、対応を進めていくと見られる。

アプリ開発との連動に注目

アリババが企業向け、及び教育面での普及を先行させたことに対し、テンセントもWeChatのネットワークを活かし、企業用に追随している。どちらも、使用者側にとって一長一短があるのは事実だ。

ローコード、ノーコードによるアプリ開発と連動させたDingTalkが、政府との関係を含め今後どのような広がりを見せるか注目される。

「国籍」による不安は残る

業務でビデオ会議、資料投影のみ使用する点では、各アプリで大きな差異は無いが、利用する国によって使用しにくいなどの制限が掛かる事がある。

米中など大国がITをめぐるつばぜり合いを続ける中、開発企業の「国籍」により、一部の使用側に不安をもたらす傾向は、続くと考えられる。

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