欧米に対して遅れている日本の中古車市場

欧米に対して遅れている日本の中古車市場

まず、我が国の中古車市場をみていこう。

我が国では少し前まで、中古車市場が大きく注目される機会は少なかった。これは、市場自体が欧米ほど発達してこなかったためである。

例えば、個人が自動車を購入する際の「新車:中古車」の比率は、米国が1:3、英国が2:7程度と中古車の方が多いのに対し、日本では逆に5:2程度と、新車が中古車の2倍以上を占めている。

また、日本自動車販売協会連合会からは、日本国民の保有車両台数のうち、新車が69%、中古車が27%、とのデータも示されている。

中古車市場が日本で注目されてこなかった背景

日本で欧米のように中古車市場が拡大してこなかった背景には、いくつかの要因がある。

第一の理由は、トヨタ自動車を筆頭にグローバルで知名度の高い完成車メーカーが多いこと。国内には新車ディーラーが充実しており供給体制も整っていることから、新車が入手しやすい状況にある。

第二の理由が、税金や維持費の問題。エコカー減税対応型の新車の方が税金も安く、車検までの期間が新車の方が長いことから維持費も安価に抑えられる。新車に有利な政策が取られている。

第三は、日本人が新しいモノへの嗜好性が高い点。今でこそ様々な分野で「リサイクル」という視点は重要視されているが、そもそも「中古品」でなく「新品」を志向する傾向が根強く残っている。

住宅市場とよく似ている

中古市場が発達してこなかったという点では、住宅もよく似ている。現状で流通している持家系住宅のうち、概ね77%を新築住宅が占め、中古住宅は23%にとどまっている。

新築住宅を選ぶ理由としては、

(1)新築の方が気持ちが良いから
(2)中古はリフォーム費用などで割高になるから
(3)隠れた不具合が心配だから
(国土交通省「住宅市場動向調査」より)

などとなっている。

建て替えサイクルが30年と言われる日本と、70~100年住み続けることが主流である欧米とは、大きく市場が異なっているのである。

自動車に関しても、意識は、ほぼ同様と考えて良いだろう。

中古車の市場規模は2~3兆円

それでも近年では、中古車の流通網の整備が進んだことなどもあり、日本の中古車の小売市場は現在、年間2~3兆円程度と言われている(国内で公表されている中古車登録台数の統計には業者間転売が多く含まれることから、個人消費者ベースでみた小売市場の実態はつかみにくい)。

一昔前までの「中古車業界」は、全国各地に中古車の買取業者と販売業者が点在する地場産業的な色彩も強かった。

しかし近年では、IDOM(ガリバー)、ビッグモーター、ネクステージなど、全国展開する大手各社が着実に規模を拡大させ、徐々に、上位企業のシェアが高まりつつある状況にある。

2020年以降に中古車に対する注目度が上昇

2020年以降に中古車に対する注目度が上昇

これまで欧米に対して拡大が遅れていた日本の中古車市場であるが、ここ数年、様相が変わってきた。

以下、需要面と供給面の両面から、みていこう。

需要面での変化~三密を避けた移動手段として注目

まず、需要面では、きっかっけとなったのが、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大だった。

三密を避けるために、バスや電車といった公共交通機関の利用を控え、代わりの移動手段として自家用車を利用する人たちが増加した。いわゆる「ポストコロナの新しい生活スタイル」への変化にマッチしたと言える。

新型コロナの第一波の影響が大きく出た2020年半ばには、特に地方で、軽自動車の中古車需給が真っ先にタイトになった。

相対的に安価で調達できる手軽な移動手段として人気化したのである。地方では駐車場スペースの確保が容易であることも一因となった。

供給面での変化~半導体不足による新車不足

一方、供給面での変化は、2021年に顕在化した半導体不足である。

周知のように、半導体不足の影響を受けて、21年後半以降、国内の自動車生産は減産を余儀なくされた。

例えばトヨタ自動車では、22/3期の日本の販売台数は、期初には217万台を計画していたが、半導体不足の影響を受けて、実際には200万台弱にとどまった。

これを受けて新車は品薄となり、人気車種では納入されるまで8カ月から1年待ちの状態が続いている。とりわけ人気の高いトヨタ自動車のランドクルーザーなどでは、現在でも納車まで、なんと4年待ちとなっている。

消費者にとってみれば、すぐに入手できて価格も手頃な中古車に目が向くのは、自然な流れと言える。

活況を呈しているオートオークション

図1 USSのオートオークション成約台数

消費者が購入する中古車の元となっているのが、オートオークションである。中古車の販売業者は、主にオートオークションで中古車を仕入れて、これを小売りに回している。

以下、オートオークション最大手のユー・エス・エスの統計を参考に、最近の市場の動きを追ってみたい。

オークションの成約台数は順調な回復トレンド

少し前を振り返ると、2019年10月に実施された消費税率引き上げの反動により、同年11月以降はオートオークションの不振が続いていた。

そして、これに拍車をかけたのが新型コロナだった。

新型コロナの感染者増加を受けて日本政府も他国同様に、20年春先から経済活動に全面的な規制をかけた。これを受けてオークションの成約台数は20年4~5月に激減、前年同月比で20%以上の大幅なマイナスに見舞われた。

ところが、市場関係者が懸念する中、落ち込みは比較的短期間で収束した。

すぐに需要は盛り返し、夏以降はむしろ、中古車への注目度は新型コロナ以前よりも高まってきた。

20年9月に成約台数は前年同月比プラスに転じると、図1に示したように、その後は大きく落ち込むことなく順調に回復トレンドを続けている。

中古車落札単価、22年2月には初の100万円超え

図2  USSのオートオークションでの成約車両単価

中古車の需給がタイト化していることを背景に、21年以降は、単価も大幅に切り上がっている。

ユー・エス・エスのオークションで落札された成約車両の一台当たりの年間平均単価は、19/3期68.4万円、20/3期68.8万円と、それまでは60万円台後半で大きな変化はなかった。

ところが、コロナ禍の影響を受け始めた21/3期には76.8万円に上昇、22/3期には90.9万円まで一気に上昇した。

単価が上昇している背景には、

(1)型式の新しい車の人気が高まっていること
(2)輸入車をはじめ高単価車の人気が高まっていること

などが挙げられる。

従来の「安さ」を追求した購入層だけではなく、「新車に近い感覚」(納期の長い新車購入をあきらめて中古車を購入することに決めた)を志向する層が増加していることを示している。

月次でみると、22年2月には、初めて中古車の単価は100万円の大台を突破した(図2参照)。

ウクライナ侵攻が中古車価格にも影響?

ウクライナ侵攻が中古車価格にも影響?

さて、それでは、冒頭で述べたロシアのウクライナ侵攻に伴う影響について考えよう。

日本では、オートオークションで年間700万台強の自動車が落札される。

多くは国内の消費者に販売されるが、全体の25~30%が輸出に回っている。そして、その最大の輸出先はロシアである。

今回のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、その流れは変化したのだろうか?

ロシア向け中古車輸出が実質ストップ

図3 日本からの中古車輸出の国別内訳(2021年)

図3に示すように、2021年には、中古車の全輸出台数のうち13%がロシアに出荷されている。

しかし、2022年3月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、貿易業者は信用リスクなどを考慮し、ロシア向けの中古車輸出を控えている現状にある。

実際に、足元でロシア向けの出荷台数は大きく落ち込んでいる。

3月のオークション成約単価が下落

一方、オートオークションの一台当たり成約車両単価が、過去最高を記録した2022年2月の100.6万円から、3月には91.1万円へと9%下落した。

これを受けてNHKをはじめとしたマスコミでは、「ロシア向けの輸出が止まったことで中古車相場が下落した」と一斉に報じた。

今回の単価下落は季節要因の範囲内とみるのが自然

しかし筆者は、この2つの事象は直接的な関連性は薄く、3月の統計だけで中古車の価格が下落トレンドに入ったと判断するのは早計だと考えている。

前掲の図2をもう一度、ご覧頂きたい。3月には毎年、車両単価は下落している。

これは、車種構成の季節要因である。期末月である3月には、出荷タイミングの問題から、ミックスが悪化する傾向が強く現れるのである。

具体的なデータを見ると、今年は2月→3月で単価は9.5万円下落した。しかし、昨年の同時期も9.4万円下落しており、その幅はほぼ同じ。今回の価格下落は季節要因の範囲内であると考える方が自然だろう。

確かにロシア向けの輸出は止まっている。しかし一方で、性能が良く故障の少ない日本製の中古車に対しては、まだまだ多くの国から引き合いが強い。

ユー・エス・エスでも、「3月の統計をみて輸出全体の勢いが変わったとは考えていない」とコメントしている。

4月以降の動向を確認する必要があるとは言え、中古車販売を取り巻く環境に大きな変化はない。「輸出の冷え込み→価格のさらなる下落」、とのシナリオは、短期的には想定しづらいと考えている。

中古車へシフトする流れは続きそう

最近では、自動車に対する意識は大きく変わっている。

カーシェアリングやサブスクなどを利用し、そもそも自前で車を所有しないスタイルも増加している。自動車の持ち方に対する考え方は、今後も一層、多様化が進むだろう。

その中で、マイカーへこだわる顧客層も多く存在する。安価で手軽な中古車へシフトする流れは、当面、続きそうだ。

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