工場を持たない「ファブレス経営」のメリットとは? コア事業に経営資源を集中

ビジネス誌などが発表する高収益企業ランキング上位を占める企業の中には、「ファブレス経営」を取り入れているメーカー企業がいくつか存在します。 ファブレス経営とは、生産設備や工場をもたずに、製造をアウトソーシングすることが大きな特徴です。本記事では、ファブレス経営の仕組みやメリット・デメリットを、具体的な導入事例を挙げながら解説します。

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ファブレス経営とは? 生産工場を持たない製造業のビジネスモデル

ファブレス(fabless)経営とは、工場(fab=fabrication facility)を持たず(less)、自社ブランドの製品の生産・組立をアウトソースするビジネスモデルを指します。

従来のメーカーと異なり、製造設備のや投資や自社の生産工場を持たないため、経営資源を企画・研究・開発・営業のコア業務に注ぎ込無ことが可能です。市場への新規参入を図るベンチャー企業や、高収益型のビジネスモデルを目指すメーカー企業がファブレス経営を取り入れるケースが目立ちます。

ファブレス経営のメリット、デメリット

ファブレス経営にはメリット、デメリットを解説します。

ファブレス経営の3つのメリット

ファブレスのメリットは次の3点です。

生産ラインへの設備投資が必要ない
製造の工程をアウトソースするため、生産ラインへの設備投資が必要ないのは大きなメリットです。

特に半導体業界では、製品のライフサイクルが数年単位と短いため、常に生産ラインを更新しなければなりません。

ファブレス企業はこの設備投資のリスクを減らし、注力すべき事業へ投資することができます。

企画・研究・開発・営業などにリソースを集中できる
ファブレス経営は、製品の生産・組立に費やすリソースを他のコア事業へ集中できます。

企画・研究・開発・営業・コンサルティング・マーケティングなど、人材や経営戦略に投資し、コア・コンピタンスとして育てることも可能です。

ファブレス経営なら、低収益な生産・組立にリソースを奪われず、企業競争力を産む創造性やアイデアを育てられます。

市場の変化に合わせた感度の高い経営が可能
ここ数年、AIやIoT、ロボティクスなど新しいデジタルテクノロジーが次々と登場し、ビジネス環境は急速に変化しています。

ファブレス経営は商品の研究開発から事業化までのスピードが速いため、マーケットの変化へ敏感に対応し、スピーディーで感度の高い経営が可能です。

ファブレス経営の3つのデメリット

一方、ファブレス経営には次の3つのデメリットが存在します。

製品の核となる技術やノウハウが漏洩するリスク
ファブレスメーカーは委託先企業に製品の技術やノウハウを伝え、製品の生産・組立の工程をアウトソースします。

そのため、製品の核となるアイデアを盗用されたり、外部に流出・情報漏えいするリスクがあります。

協力工場を選定する際は、第一に信頼関係の構築が必要です。

委託先の生産設備に投資するなど、生産現場に直接関わることができる仕組みを作るのも効果的です。

生産・組立のノウハウを蓄積できない
ファブレス企業は自社の生産工場を持たず、生産・組立を行う従業員も雇用しません。

そのため、製品の生産・組立のノウハウは蓄積されません。

生産現場からのフィードバックを商品開発や機能改善に活かすために、積極的に生産現場を直接視察するなどの対策が必要です。

品質管理・工程管理が難しい
自社で製造しないため、製品の生産・組立は、国内だけでなく海外の委託先で行われることケースもあります。

そのような場合、生産現場に委託元の目が届きにくく、ずさんな品質管理や工程管理が横行する事例も少なくありません。

不良品が出た場合は、両者が協力して原因究明を行うなど、品質管理・工程管理をチェックする仕組みを作りましょう。

高い収益を上げるファブレス企業の3つの事例

ファブレス経営を取り入れている代表的な企業の事例を3つ紹介します。

任天堂:中国企業へのアウトソースで垂直分業を実現

家庭用ゲーム機やゲームソフトを展開する任天堂は、代表的なファブレス企業のひとつです。

2018年だけで約1,700万台を売り上げたニンテンドースイッチは、ほぼすべての部品を鴻海精密工業などの中国企業にアウトソースしています。

半導体と同様、家庭用ゲーム機のライフサイクルは非常に短く、数年単位で生産ラインの更新が求められるためです。

2020年現在、ニンテンドースイッチの売り上げは好調ですが、任天堂はリスクも考慮した高付加価値経営を行っています。

Apple:ファブレス経営で企画・設計・デザインの独自性を確立

MacやiPhone、iPadなどの美しく革新的な製品を産み出しつづけるAppleは、ファブレス経営で製品の企画・設計・デザインにリソースを集中させることで、独自の地位を築きました。

生産工程をアウトソースするEMS企業は決して固定せず、常に条件を見直すことで、性能や費用対効果を向上させています。

また、一部の供給メーカーの生産設備に自ら投資し、生産工程を直接管理することで、品質管理を向上させ、デザインの流出を防ぐことにも成功しています。

キーエンス:生産工場を持たず、企画・開発・コンサルティングに特化

センサー類や測定機器などを製造・販売するキーエンスは、ファブレス経営で成功をおさめた国内企業のひとつです。

キーエンスは生産・組立の工程を自社で行わず、企画・開発・コンサルティング・営業に注力することで、高収益を実現。

生産・組立はアウトソースするものの、自社の担当者が生産現場に足を運び、隠れたニーズや問題点を発見して、現場の声を吸い上げることにも成功しています。

「ファウンドリ」とは? 半導体の受託製造に注力するメーカー

ファブレス経営と同時に注目されているのが、生産を引き受ける「ファウンドリ(foundry)」です。

ファウンドリとは、半導体部品を生産する工場のこと製品の企画・研究・開発・営業に特化したファブレスに対し、ファブレス企業からの依頼を受け、垂直分業型の受託製造を行います。

ファブレス企業の受託にファウンドリが多いのは、半導体製品は商品としてのライフサイクルが短いため、生産設備に多大な投資を行うことを躊躇するメーカーが多いためです。ファブレスメーカーが研究開発を行い、ファウンドリが生産工場を貸し出すことで、共生関係が生まれています。

ファウンドリと同様に、受託生産工場として、OEM(Original Equipment Manufacturer)やEMS(Electronics Manufacturing Service)があります。OEMとは、委託者のブランド名を借りて自社の製品を製造するビジネスモデルです。

一方、EMSは付加価値の低い電子部品などを受託製造するビジネスモデルですが、設計から生産までをワンストップで請け負う点がファウンドリと違います。いずれにせよ、メーカーはより付加価値の高い事業に注力し、ビジネスの「選択と集中」を実現できます。

ファブレス経営でコア事業に注力し、高収益なビジネスモデルを築く

上記で紹介した企業以外にも、ファブレス経営を取り入れているメーカーは数多く存在しています。

情報化社会となった現代では消費者ニーズの変化は激しく、数十年と続いていた老舗企業が赤字に転落したり、倒産したりするケースも増えています。

だからこそ、フレキシブルにニーズに対応するファブレス経営は、今後も増加していくはずです。

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