ESGを過小評価するな すべてを変える「ゲームチェンジャー」

ESG対応が、企業にとって急務となっている。対応に遅れた企業は、機関投資家のポートフォリオや取引先リストから容赦なく外されてしまう。企業側は「ゲームのルール」が変更されたことを、深く認識する必要に迫られている。

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ESGを過小評価してはならない

ESGの影響を、過小評価してはならない。

「社会の持続可能性」という21世紀の倫理が照らした、個々人の選択的行動こそが、企業を変え、社会を変える。

その影響は、資本市場だけに限らない。近い将来、労働市場、商取引市場などを通じて、企業の生殺与奪の決定要因となる。

サステナブル投資の規模はすでにGDP並み

サステナブル投資の規模はすでにGDP並み

ESGは、一義的には上場会社がその対象だ。

各社は、コーポレートガバナンス・コードに従って、気候変動などを中心にESG対応を急ぐ。資本市場の審判を受けるためだ。

NPO法人・日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)によると、2021年(2021年3月末時点)の「サステナブル投資」の残高は、前年比65.8%増の514兆円へと急増した。サステナブル投資とは、ESGなど「社会の持続可能性」の観点から投じられる投資資金を指す。

いまや、サステナブル投資の残高は、日本の年間GDPと同水準に達した。JSIFの調査に回答した機関投資家では、2021年の運用総額に占めるサステナブル投資の比率は61.5%にまで上昇している。

巨大化した資本は、その資本力を背景に、企業の生死を決定する。ターゲットとなる企業は、収益改善の流れに取り残された劣後企業(アンダーパフォーマー)だ。

群れから遅れた子羊を叱咤するか、切り捨てるか

群れから遅れた子羊を叱咤するか、切り捨てるか

米国では、羊の群れと牧羊犬の例えをよく使う。

上場企業が前者であり、機関投資家が後者だ。放牧では毎日のように羊の群れを動かす必要があり、牧羊犬がそれをサポートする。群れから遅れてモタモタしている子羊は、牧羊犬に吠えられ、群れに戻される。

従来の機関投資家の行動も同様だ。資本コストを賄うだけの収益性を具備した企業は機関投資家によるプレッシャーは不要だ。

むしろ、収益性の低い企業がターゲットとなり、機関投資家のプレッシャーを受ける(≒牧羊犬に吠えられる)。

ただし、(アクティビストの動きが典型だが)収益性の低い企業は、物理的に機関投資家らに見捨てられているわけではない。むしろ、機関投資家は当該企業の株式を保有し、株主として叱咤激励するのだ。

ESG対応が遅れれば、投資対象から外されるだけ

一方、ESGに基づいてサステナブル投資が行う選択的投資行為は、逆の作用だ。「ネガティブ・スクリーニング」と呼ばれる運用手法に代表されるように、ESG経営をしていない企業は、機関投資家に保有されて叱咤激励されることはない。

単純に、ポートフォリオから外される。

従来は、群れから遅れた子羊は、牧羊犬に吠えられ、ケアされていた。

しかし、ESGの世界では牧羊犬は不在だ。

反ESG企業と見なされれば、投資対象外となり、物理的に遺棄される。

ESG対応の遅れた企業とは取引しない

企業の審判を行うのは、資本市場だけではない。商取引市場、労働市場など他の市場を通じてもESGによる審判は行われる。

ESGという言葉が指し示す範囲は広い。日本ではカーボンニュートラルや気候変動に焦点が当たっているが、これはESGの一部に過ぎない。

アラブの春やBLM(Black Lives Matter)など人権問題、先進国と後進国の所得格差、同一国内での所得格差と格差の固定、児童労働問題、森林破壊、ジェンダーの多様性など。

ESGが対象とするのは、この社会を維持・発展させるために必要な全てだ。

NTTグループは、国内外の大口調達先を対象に、人権順守に対する取り組みを直接確認すると報じられた。人権遵守がされていなければ、取引停止も辞さないという。人権問題というESGへの取り組みの巧拙が商取引に実際に影響を与える事例だ。

グローバル調達網もESGで変化する。ベルギーなど欧州の一部の国では、食品スーパーが、ブラジル産牛肉製品を店頭から撤廃する。ブラジルの食肉加工大手による森林破壊への関連が疑われたためである。

若手アイコンの社会課題への関心

若手アイコンの社会課題への関心

商取引だけではない。人権などサステナビリティへの取り組みに消極的と見なされれば、優秀な人材、特にグローバル人材は入社を控えることとなる。反ESG企業は、資金も流れてこず、商取引も枯渇し、そして人材も入ってこない。

特に20代、30代の世代は、社会課題の解決への意識が驚くほど高い。この世代では、就職先を選ぶ際、「志望している企業がESGなど社会課題への取り組みを行っているかどうか」ということを一つの重要な判断基準にするといわれている。

各界で活躍する若い世代のアイコンも、社会課題への関心を公に情報発信している。テニスの大坂なおみさんは、BLMについてストレートに意思表示した。米国の歌手ビリー・アイリッシュさんも、BLMや気候変動について積極的に発言している。

ESG運動は、資本市場、商取引、労働市場を通じて浸透し、企業や個人の選択行為に影響を与える。企業や個人の選択は、大きな集合体となり、うねりを発生する。

企業は、ESG対応の巧拙というリトマス試験紙によって最後の審判を下される。

常識を疑ってESG社会を泳ぐ

常識を疑ってESG社会を泳ぐ

前述したように、ESGが対象とするのは、社会を維持・発展させるために必要な全てだ。“全て”は、今後更なる広がりを見せ、既存の概念を覆すだろう。

例えば、電気自動車(EV)。EVのバッテリーに欠かせないレアアース「コバルト」は、世界の埋蔵量の半分、産出量の2/3をコンゴ民主共和国が握っている。週刊ダイヤモンドの記事によると、同国では、日当僅か1~2米ドルで、児童が劣悪な環境で働かされている。

コバルトは「血のダイヤモンド」と呼ばれている。

日産やパナソニックなどがコバルトフリーのバッテリーの開発に動き出しているが、量産、実用化にはまだ時間がかかりそうだ。

EVがいかに気候変動問題に有効であっても、コバルト問題を解決しなければ、いつかESG運動の対象になる可能性がある。何がESG運動の焦点となるのか、なかなか予想はしづらい。

ESGの対象は「すべて」

ESGの対象は“全て”だ。我々は常に、現在の常識が崩れることを前提に、ESG社会を泳ぐ覚悟が求められる。

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