ダイナミックプライシング(変動価格性)とは? 需要と供給に合わせた価格設定方法

ダイナミックプライシング(変動価格制)とは、需要と供給に合わせ、利益を最大化できる最適な値段設定を見つける手法です。

通常のマーケティングのように、商品の原価や仕入れ値などに応じて値付けをするのではなく、そのシーズンや販売時期の「消費者ニーズ」に応じて値付けを行うのがポイントです。

たとえば、ゴールデンウィークやお盆の時期などに航空料金やホテルの宿泊料が上がるのも、ダイナミックプライシングの身近な一例です。

従来は航空・ホテル業界など、消費者の需要と供給が予測しやすく、適正価格を算出しやすい分野で積極的に取り入れられてきたマーケティング手法でした。

しかし近年、様々な情報通信技術(ICT)が日常生活に溶け込むデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだことで、需要ピークの予測が難しい業界でも、適正価格を正確に算出できるようになりました。

たとえば、あらゆるモノがインターネットにつながり、センサーや測定器を通じて様々なデータを収集できる「モノのインターネット(IoT)」が登場するなど、顧客や商品の情報、市場の動向、天候の変化などをリアルタイムに分析できます。

そして、AI(人工知能)やディープラーニング(深層学習)を活用し、ビッグデータ分析することで正確に需要分析ができるようになりました。

そのため、消費者の需要と供給が1日単位で細かく変動するスポーツ観戦、ライブ、アミューズメント施設といった分野でも、ダイナミックプライシングが活用されはじめています。

DX時代のダイナミックプライシングの3プロセス

ダイナミックプライシングは大きく3つのプロセスに分けられます。

・「データの収集」
・「需要と供給の予測」
・「価格の設定」

まず、IoTなどを活用して価格設定に必要なビッグデータを取得します。

商品在庫、売れ行き、サービスの利用状況、市況、競合他社の動向など、従来のマーケティングにも使われる基本的なデータだけではなく、天候や周囲で行われるイベント、ソーシャルメディアにおけるトレンドといった細かなデータも収集します。

次にAIなどでビッグデータを解析し、その商品やサービスの需要と供給を予測して、最適な価格の算出を行います。機械学習やディープラーニングを繰り返し、サンプル数を増やすことで、どんどん予測精度を高めていきます。

ダイナミックプライシングのメリット・デメリット。常に収益を最大化できるとは限らない

ダイナミックプライシングもメリットだけではなく、デメリットが存在します。

需要のピークに合わせ、収益を最大化するためには、適切な価格設定(プライシング)のための投資が必要となりますし、価格が頻繁に変動する商品は消費者からの信頼を失うリスクもあります。

ここでは、ダイナミックプライシングのメリットとデメリットを紹介します。

ダイナミックプライシングのメリット。収益を最大化し、在庫や人的リソースを削減

ダイナミックプライシングの手法を用いれば、需要ピークに価格設定を吊り上げ、需要が低下した時に値下げすることで、理論上は常に利益を最大化できます。

消費者ニーズに合わせ、商品やサービスを適切なだけ供給するため、余剰在庫を抱えるリスクも減らせます。

また、人的リソースをAIやディープラーニングに置き換えれば、マーケティング部門を圧縮し、人件費を削減することも可能です。

余剰在庫や人件費といった赤字リスクを最小化しつつ、需給の見極めによってリターンを最大化できるのが、ダイナミックプライシングの強みです。

ダイナミックプライシングのデメリット:計算が複雑で、消費者の信頼を失うリスクも

一方、正確な価格設定(プライシング)を行うためには、専用システムの開発・運用や、ビッグデータへアクセスできる環境構築が必須です。

需給の見極めが単純な航空・ホテル業界以外では、ダイナミックプライシングに必要な計算が煩雑になりがちで、AIやディープラーニングに投資できない企業が優位に立つのは困難です。

また、ダイナミックプライシングによる頻繁な価格変動により、特に消費材などブランドイメージが強い商材は、消費者へ不信感を与えるリスクもあります。

ダイナミックプライシングの3つの活用事例

デジタルトランスフォーメーション時代の到来により、様々な分野でダイナミックプライシングの導入が進んでいます。

ここではスポーツ観戦、音楽ライブ、アミューズメント施設の3つの事例を取り上げ、具体的にどのような手法がとられたか、ダイナミックプライシングが何をもたらしたかを解説します。

【スポーツ観戦】チケット収入と入場者数が共に7~8%も増加

Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)の横浜・F・マリノスは、2018年シーズンからチケット価格の設定にダイナミックプライシングを取り入れています。

たとえば、2018年10月14日のYBCルヴァンカップ準決勝第2戦では、チケットの売れ行きを見てすべての座席を標準価格の2~3倍に値上げしました。

一方、雨天時の平日開催の試合など、入場者数が減少しやすいケースでは一部の座席を値下げしています。

同時に、チケットの上限価格を決め、システム側の推奨価格をそのまま採用しないことで、消費者の不信感を避けることにも成功しました。

【音楽ライブ】チケット価格を動的に変化させ、不正な転売を防止

エイベックス・エンタテインメント株式会社は、音楽ライブのチケット価格の決定にダイナミックプライシングの手法を用い、チケットの不正な転売を抑制することに成功しています。

ダイナミックプライシングでは、天候の変化やチケットの売れ行きに応じ、チケット価格が常に変動します。

そのため、転売業者が利益を予想しづらく、ファンが適正価格でチケットを入手しやすい環境が生まれました。

【アミューズメント施設】変動価格制の導入で入場者数の減少を食い止める

大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、2000年代に入場者数が減少したことをきっかけにダイナミックプライシングを取り入れました。

従来の入場料は一律でしたが、ダイナミックプライシングの導入後は、繁忙期や閑散期に合わせて価格を調整しています。

たとえば、中国の春節がある2月は8,200円、来場者数が少ない1月は7,400円に改定し、需要ピークに合わせた価格設定を行っています。

そのほか、コンビニ大手のローソンが、食品ロスを防ぐために「賞味期限が近い商品を電子タグで特定し、値引きを行う」など、独自性の高いダイナミックプライシングを試験導入しています。

ダイナミックプライシングの波は、身近なコンビニやスーパーにも広がりつつあります。ダイナミックプライシングは日常生活に溶け込みつつあり、消費者側の期待感も高まっています。

ダイナミックプライシングを導入する企業はあらゆる業界で増加している

ダイナミックプライシングの認知度はまだまだ高くはありません。しかし、ここ数年で導入に踏み切っている業界・企業は増加しています。

何気ない日常でも知らぬ間にダイナミックプライシングを実感する機会は増えていくでしょう。

プロダクトアウトかマーケットインか。議論が尽きないところではありますが、サービスや商品によってはダイナミックプライシングの導入で競争優位を気づくことができます。

参考
1日で500円値下がり USJが始めた「価格変動制」の裏側:日経クロストレンド
価格変動制「ダイナミックプライシング」によるチケット販売開始のお知らせ | ニュース一覧 | 横浜F・マリノス 公式サイト
国内アーティスト初採用!ダイナミックプライシングによる浜崎あゆみカウントダウンライヴ開催決定|エイベックス株式会社
ローソン、電子タグ(RFID)を活用した実証実験を実施 :日本経済新聞

関連記事

サプライチェーン攻撃とは?概要、リスク、被害事例と対策方法まで解説

自社のセキュリティ対策が万全であっても、サイバー攻撃を仕掛けられ、個人情報や機密情報が流出・漏えいする被害事例が多発しています。 それが、取引先企業や関連会社を踏み台にして、連鎖的な攻撃を仕掛ける「サプライチェーン攻撃」です。実際に、セキュリティ意識の高い世界的軍需企業が、サプライチェーン攻撃のターゲットとなり、不正アクセスによる情報漏えいの被害に遭った事例も存在します。 サプライチェーン攻撃の仕組みを知り、委託先の企業と連携し、緊密なセキュリティ対策を行う重要性が増しています。本稿では、サプライチェーン攻撃の特徴や脅威、対策方法について、実際の被害事例をもとに解説します。

「7割経済」時代の事業再生 Withコロナ ㊦「再生型M&A」

コロナ後の「7割経済」においては、めまぐるしく変化する経済環境への対応が求められる。事業再生も、開始時期を従来以上に早期化させるとともに、その手続きにかかる期間も短縮させる必要性がある。㊦では、具体的な打ち手として、「再生型M&A」の活用を提言したい。

アンゾフの成長マトリクスとは?多角化戦略などの4象限を事例とともに解説

近年、消費者ニーズの移り変わりの早さから、多くの業種においてプロダクトライフサイクルが短くなっています。もはや、企業が単一の事業で成長し続けることは難しく、常に新製品開発、新市場開拓、多角化経営などの成長戦略を模索していかなければいけません。 成長戦略を検討するうえで有効なフレームワークが、「アンゾフの成長マトリクス」です。今回は、アンゾフの成長マトリクスを中心に、企業の成長戦略・多角化戦略について考えていきましょう。

ランキング記事

1

「選択と集中」の誤算㊤ 大いなる誤訳

2020年3月1日、「経営の神様」と呼ばれたジャック・ウェルチ氏が死去しました。 1990年代後半、経済危機の最中にあった日本で、ウェルチ氏の存在はひときわ強い影響力を持ち、その言葉は「格言」として広まっていきました。しかし、最も有名な「選択と集中」という言葉に関しては、ウェルチ氏の意思が「誤訳」されて伝わっていました――。 フロンティア・マネジメントの代表取締役である松岡真宏が、機関誌「FRONTIER EYES vol.23」(2018年11月)に掲載した記事を再掲いたします。

2

村上春樹さんから学ぶ経営②~作品に潜む成功へのヒント~

前回予告いたしましたように、「村上春樹さんから学ぶ経営」を、シリーズでお届けして参ります。今回のテーマは、「差異化」です。まずは次の一文をお読みください。

3

「7割経済」時代の事業再生 Withコロナ ㊤バブル後30年の変化

コロナと共に生きるWithコロナ時代は、「7割経済」と言われている。これは、多くの産業で「コロナ前の水準に業績が回復することはない」ことを意味する。これまでの事業再生は、「経営改革を伴う再生計画を実行すれば、いずれ売上高も回復していく」という基本前提に立っているが、その前提が大きく崩れる。Withコロナ時代はこれまでとは異なる手法、事業再生の「ニューノーマル」が求められる。

4

新たな消費スタイル「トキ消費」とは?モノからコト、さらに次の消費行動へ

誰もがスマートフォンを持ち、SNSを通じてリアルタイムに情報や体験を共有する現代、「トキ消費」という新たな消費スタイルが生まれています。企業の経営者やマーケティング担当者は、最新の消費行動やニーズのトレンドを抑え、新たな戦略を立てなくてはいけません。本記事では、新たな消費スタイル「トキ消費」や「イミ消費」の特徴や、従来の「モノ消費」「コト消費」との違いについて、具体例を挙げながら解説します。

5

ASEAN トピック「コロナ鎖国」に強いアセアン諸国 食料・エネルギー自給率を比較

コロナウイルスの猛威により、世界中が「巣ごもり状態」、いわば世界中が「鎖国状態」という前代未聞の状況となった。中国では他の地域に先行して生産活動に復調の兆しとの知らせも聞こえるが、地球規模の影響は長期化する可能性が高く、体力の弱い国の財政破綻の可能性すらありうる。一方、近隣ASEAN諸国に目を向けると、食料やエネルギーの自給率の面では、案外強いことに改めて気づかされる。

人気のキーワード