コーポレート・ガバナンス・コード改訂を視野に 内部通報制度から考える企業統治

菅義偉内閣が発足して3カ月が経過した。コーポレート・ガバナンスは2020年11月に開催された政府の成長戦略会議においても議題に挙がったように、現在も日本経済と企業の課題の一つだ。2021年にはコーポレート・ガバナンス・コード(CGC)も改訂される見通しであり、本稿では特に内部通報制度の視点からガバナンスの強化を考察したい。

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限られる、社外取締役活躍の場

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内閣官房成長戦略会議のまとめでは、この5年間で独立社外取締役を2名以上選任した企業は、東証一部上場企業の48.8%(2015年)から95.3%(2020年)に増加。取締役会の3分の1以上の独立社外取締役を選任した企業の割合は、12.1%(2015年)から58.7%(2020年)に増えている。他方、東証一部上場企業のなかで指名委員会等設置会社は2,173社中63社と、2.8%にすぎない(注1)。同じく、監査等委員会設置会社は661社、30.4%だ(注2)。

これらの数字から読み取れるのは、独立社外取締役の数は着実に増えている一方、指名委員会、報酬委員会、監査委員会といった会社執行部を監督する場を与えられている社外取締役、独立社外取締役はまだ少数派であるという現実だ。
社外取締役たちの活躍の場は取締役会にほとんど限られていると言えるかもしれない。

注1 日本取締役協会「指名委員会等設置会社リスト」(2020年8月3日現在)日本取引所グループがまとめた2020年7月31日時点の上場会社数から算出。
注2 日本取締役協会「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査」、2020年8月1日 

経営陣から独立した窓口を 補充原則のもつ意味

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CGC原則2-5では、内部通報に関する取締役会の役割として次のように遵守を求めている。

「(略)[上場会社は内部通報で]伝えられた情報や懸念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。」

さらに補充原則①では踏み込んだ対応を求めている。

「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。」

公益通報者保護法(2006年4月施行)の改正法が2020年6月に公布されたことで、
上場企業を中心に内部通報制度の整備は進んでいる。

▽参考記事:
内部通報者を守るために 公益通報者保護法改正案、実務上のポイント

経営者配下のコンプライアンス部門

筆者にも、複数の企業から運用中の内部通報制度について実務上の質問や、制度の再構築に関する相談などが寄せられており、ディスカッションや意見交換を通じて学ぶところが多い。

内部通報制度について企業の有価証券報告書などでガバナンス体制を見比べると、内部通報を所管する部署やコンプライアンス委員会等の会議体、あるいはチーフ・コンプライアンス・オフィサーが代表取締役やCEO、取締役会の配下に置かれている企業が目立つ。

従業員の不正に関する通報や情報、調査結果について、経営幹部に報告し知ってもらうのは当然のことと考えられる。

では、取締役や執行役、あるいは執行役員の不正に関する通報が寄せられた場合、やはり報告先は代表取締役や取締役会で良いのだろうか。この問いに答えるのが、先に掲げたCGC原則2-5の補充原則①だ。

内部通報で寄せられた不正の情報、特に経営幹部、執行幹部の関与が疑われる通報については、社外取締役や監査役に事実解明と調査後の対処、組織の改善において大いに活躍してもらいたい。
それを可能とするには、内部通報のレポーティング先の変更であろうし、監査委員会の設置も有効だ。内部通報とカバナンスの観点から有報等を見比べてみて、そのような組織図をあまり目にしない。

真の多様性とは

多様性イメージ

監査委員会等を通じて社外取締役や監査役の経営幹部、執行幹部に対する監督強化を図るならば、当然、社外取締役・監査役の人選もこれまでと少し変わってきておかしくない。
だが、社外取締役のバックグラウンドを見ると、一般的に多いのは元職を含む企業経営者、弁護士、会計士、学識経験者、元官僚といった肩書きが目立つ。

成長戦略会議においても「取締役会の機能発揮を促すとともに、女性、外国人、異なる企業で働いた経験のある者による多様性確保を図るため、コーポレート・ガバナンス・コードの見直しを図るべきではないか」との論点が掲げられている。確かに、同会議がまとめた日本企業の取締役会における女性取締役の比率は8.8%。47.4%のフランスを筆頭に、独、英国、米国と比べても著しく低い。

女性や外国人の登用が、取締役会における多様性を求める上で重要なのは言うまでもない。
真の多様性とは、女性や外国人の登用に限らない。
企業が会議体においてもコンプライアンスやガバナンスの強化を図りたいと考えれば、上述した一般的に多い五つの肩書(企業経営者、弁護士、会計士、学識経験者、元官僚)をもつ人材に限らず、不正対応の専門家・実務者、リスクの専門家等も潜在的な候補者になるのではないか(注3)。
企業の実情に合わせて、性別・国籍を含め、様々な経験を持つ社外取締役・社外監査役に迎えることで真に多様性を確保したと言えるのではないかと考える。
(注3)企業によっては、企業不正の調査・対応に豊富な経験を有する弁護士等を社外取締役に迎えている。

海外投資家の目

CGCには”Comply or Explain”「従わざれば説明せよ」という哲学が根底にある。
一般的に日本人なら、Comply、従うのみだろう。しかし、投資家、特にコーポレート・ガバナンスの先輩国である英国を始め欧米の投資家は、日本企業がどのように独自のコーポレート・ガバナンスを構築し、機能させているか、Explainすることも期待しているだろう。

筆者も例外ではないので自戒を込めて言うが、日本人は概して、批判に対する反論や説明・説得することに弱い。また、近年は変わりつつあると見るが、突出することを嫌う風潮はまだ残っており、必然、横並び意識はなくならない。
その一端が上述した企業の社外取締役・監査役の人選にも現れていると言うと、言い過ぎだろうか。

コーポレート・ガバナンス・コードの改定で求められること

最後に内部通報と社外取締役、監査委員会の関係に話を戻す。内部通報制度も通じて経営幹部、執行幹部を監督する監査委員会、あるいは監査役会に、執行(会社)寄りの社外取締役や監査役を揃えた企業は、国内外の株主や投資家の目にどのように映るだろう。その企業の経営と監督の緊張関係について、投資家が納得する説明をしなければならないのがCGCの考え方だ。CGCは2021年にも改定される見通しだ。自社のガバナンス強化への道のりの長さを、内部通報と社外取締役、監査役、監査委員会の関係と、人選から計ってはどうだろうか。
(了)

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