新規事業を生み出すフレームワーク~人事と経営の視点から

新規事業のプランを考えて、事業化する。新たな成長機会を創出したいと考えない企業はありません。ただ、その意欲がどれだけ高いか? 既存事業が順調に成長していると、危機感が薄れて先送りにしてしまう場合もあるでしょう。ゆえに、本気で新規事業に取り組もうと考える企業は既存事業の閉塞感によるものが多いかもしれません。今回は、そうした新規事業の創出を人事と経営の視点から考えてみたいと思います。

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売り上げ比率20%未満が8割

売り上げ比率20%未満が8割

新規事業の創出意欲を事業投資の資金という視点からみると、2023年は2022年に続いて増加傾向になっています。投資の方向としてはDXや社会課題の解決に加え、地域活性化など多岐に渡るテーマがあがります。アフターコロナで企業が攻めの姿勢を明らかにしてきたことが鮮明になってきました。

ただ、プラン創出も簡単ではありません。さらにプランが事業化されて主力事業になるのは相当に難度が高いと言わざるを得ません。新規事業開発に対して積極的で、専門の部門をつくって取り組んでいる企業でも成功体験があると感じている企業は僅かです。

2010年以降の新規事業開発において生まれた事業は、「自社の売上への貢献度が20%未満」という回答が約8割(2022年、bridge調査)。それでも、企業の成長には新規事業を創出することは必要。そうした背景から社内を巻き込み、外部の力を借りてでも成功させたいと考える企業が増えてきました。

「自分には無理」当惑する社員

「自分には無理」当惑する社員

当方にも新規事業の立ち上げに向けた相談が相当に舞い込む状況になってきています。本業は人事領域ですが、前職では事業開発支援のコンサルティング事業を統括する責任者でしたので、それなりの取り組み実績があります。

そうしたご縁からお声がけをいただくのですが、産業構造的に閉塞感のある企業では高い危機意識から経営トップの号令の下、1年に一つ以上は新規事業を立ち上げろとか、全社員が新規事業のアイディアを考えて、経営に提出すること………など、周囲が戸惑うくらいに新規事業のプランを求めているケースも出てきているようです。

取引先の製造業の会社では創業以来、新規事業のプランを考えることなんてやったことがありませんでした。先日、そんな会社の経営から連絡があり、社員が新規事業のプランを考えることの重要性を指導してほしいと言われ、ワークショップを行いました。対象は部長クラスの30人。普段は現場を仕切る責任者が研修会場に介して、当方の講義を聞くことになりました。

その後はグループ分けして、新規事業のプランを考えることになりますが、壇上からみえる参加者が

「現場の仕事を任せてきたが、心配だ」
「新規事業のプランを考えることなんて、自分には無理」

といった不安と疑問を抱えているのをありありと感じました。

同じような状況で、社員に新規事業のプランを考えることが求められているケースは増えているように思います。別の会社ですが、新規事業のプランを社員が年に一つ考えて提出することになった会社の社員に取り組みに向き合う想いを聞いたところ、

「これまで本業をしっかり行ってきた社員からすれば、どうしていいのかわからない」
「自分のやるべき仕事をしっかりやれば十分と指導されてきたので、ついていけない」

といった嘆きを聞きました。

この会社はコロナで業績が下降して、社員に堅実性を高く求めていました。いわゆる自分の仕事をしっかり行い、収益を稼ぐ。経費は極力おさえることだけマネジメント受けていた、3年間からの大転換です。ついていけないと嘆く社員の気持ちはわかる気がします。

ただ経営サイドの視点からすれば、社員が大転換についてきて欲しいと願うのは間違っているわけでありません。ただ、前提として社員の意識や備えている資質を理解して取り組むことが重要だと思います。

人材不足の課題が上位に

人材不足の課題が上位に

新規事業の立ち上げ支援を行っているSony Startup Acceleration Programの調査によると、
新規事業創出を阻害する課題の上位4位のうち人材不足に関連する課題が3件ランクインしています。

1位 事業開発を支援するアクセラレーター人材が不足している
2位 事業開発を推進するリーダー人材が不足している
4位 事業開発を推進する自立・自律型人材が不足している

新規事業を考える人だけでなく、できたあとの実践に関わる人もいない。つまり、社内の人材に大きな期待をすることが間違っていると思った方がいいという結果ではないでしょうか。

ちなみに新規事業が果敢に創出されているように思えるベンチャー企業でも程度の差はあれ、似たような状況です。採用上の理由から新規事業のプランが数多く創出されているようにアピールしていますが、そこまでの状況ではないようです。

企業の経営者が新規事業のプランを考えるように大号令をかけても、それほど盛り上がらない状況があちこちで起きています。どうしたらいいのでしょうか?

社員の意識や資質を理解せよ

ここで考えて欲しいのは在籍する社員の資質です。多くの企業は入社する前に適正テストを行います。その適正テストを見返していただきたいと思います。

適正テストにより、入社後の配属の参考になる人材のポテンシャルが記載されているはずです。性格特性では主体性や変革性が高いとか、意思伝達力や行動性、決断性など、新規事業を考えて実行することに適した人材候補が社内に何人かいるでしょう。

すると、採用機会にこうしたポテンシャルを備えた人材の採用があまり行われていない。既存の配属先が適正とはかけ離れており、活躍の度合いが高くないなどの状況が明らかになるはずです。

そもそも、新規事業を考えることに適した人材は社内に数多といるわけはない。ゆえに、適した人材には取り組める機会を提供して、企業の新規事業開発に貢献していただくべきです。

こうした視点から新規事業のプランが創出される状態を考えれば、適任となる人材を見出し、その人材に積極的にかかわる機会を提供することが効果的であることがみえてきます。

世間的に新規事業のプランが数多く出て、事業化しているように見える企業の大半は、全社に対して形式的にはアナウンスするものの、適任と想定できる人材が積極的に参加できるように職場推進担当に任用するなど工夫を凝らしています。こうした人材を発掘して、新規事業のプランを考える機会を提供するには人事と経営が連携して取り組むことが重要です。

人事と経営の連携が重要

多くの企業は事業部制で、社員は一つの役割をこなすことを期待されています。ゆえに全社にとって重要な役割であっても、事業部の業績の視点から考えれば、取り組んで欲しくない。そのようなマネジメントが行われて、新規事業のプランを創出できるポテンシャルのある人材でも取り組むことが難しい環境におかれているケースをよく見受けます。

以前に新規事業のプランを考えるワークショップの支援をしたとき、秀逸のプランを起案してくれた若手社員いました。その社員は社長賞をもらい、嬉しそうに職場に戻りました。

ところが、半年後に彼は退職してしまいました。彼が職場に戻ると、ワークショップに参加した時間分の埋め合わせのようなハードワークを強いられ、社長賞をもらったことも現場の同僚から孤立の機会になってしまったのです。製造業の現場では、組織の一体感を重視する風土が強く、新規事業のプランを考えることで社内的に高い評価を得ても、その行動は組織の輪を乱すものと捉えられてしまったようです。

とても残念な結果となりました。このようなことが起きている会社は意外と多いのではないでしょうか? 新規事業のプランを考えることは誰にでもできますが、秀逸なプランを創出することができるのは限られたポテンシャル=能力が必要です。こうした芽をつまないためにも、人事と経営が連携して取り組んでいただきたいと思います。

最後に、継続的に取り組むのであれば、新規事業のプランを創出する能力の高い人材をある程度採用していくべきでしょう。おそらく、結果論的にそうした人材がいたに過ぎない状況は望ましくありません。適正テストで候補者を見出し、入社後の配属やキャリアを考えて採用をしていくようにすれば、企業の風土も経営者の期待する風土に変わっていくことでしょう。

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