コンビニの抱える構造的問題

閉鎖されたコンビニ、隣にはセブンーイレブンと深夜スーパー

一連のコンビニ騒動の背景には、「働き方改革」や「コーポレートガバナンス」といった企業と個人(社員)の関係を見直す社会的な機運に加えて、コンビニビジネスの構造や管理体制に解決すべき課題があることも否定できない。今後の環境変化も見据えて、加盟店オーナーはもちろん、従業員、取引先、株主など全てのステークホルダーの利益に資するビジネスモデルの再構築がコンビニ業界の喫緊の課題だ。

コンビニを巡る問題は論点や関係者が多く、それを解決するのは絡まった糸を解くような作業だ。まず、問題の構造を整理するために、これら3つに区分して考えていくことが肝要だ。

コンビニ問題の主要論点である「24時間営業」

コンビニ問題の主要論点である「24時間営業」で言うと、①は深夜営業のオペレーションを維持できない店舗や加盟店の存在、②は人員不足とアルバイト時給の高騰だ。そして肝心の③は、店舗作業工数が過大となりすぎたビジネスモデル設計である。

 

顕在化した危機(①)に対しては、適切な情報収集、真摯な個別対応、情報開示等を続けていくしかない。また、②は手をつけようがない外部与件であるため、個別企業にできることは、将来予測と、それに基づく事業変革やリスク管理等に限られる。問題は③の構造問題だ。これを解決せずに①と②を続けても、次々と予想もしない方向からメディア批判に晒される「いたちごっこ」を続けるはめとなる。

 

コンビニの労働生産性が低くなる仕組みとは

小売業界の労働生産性と資本装備(物価調整指数)

出典:財務省「法人企業統計」よりフロンティア・マネジメント作成

 

コンビニ業界に限らず、小売業界全般に言えることだが、店舗における労働生産性が改善しないのは、「資本装備(従業員1人当たりの設備金額)」が低いことが主因である。労働時間が長期化したり、収益の配分を巡ってFCチェーンの本部と加盟店に軋轢が生じたりするのは、あくまでもその結果に過ぎない。

 

上記の図では、財務省「法人企業統計」をもとに小売業の労働生産性(従業員一人当たりの粗利益金額)と資本装備の推移を示した。これら2つの指標を示す線グラフがほぼパラレルに推移していることがから、1990年代後半の労働生産性(ヒト)の低迷は、それを支えるモノ(設備)の供給不足による影響で概ね説明可能だ。つまり、長期化するデフレ(賃金も停滞)局面における最適戦略として、設備投資を増やさず、人的サービスを強化してきたのが、コンビニ業界を含む我が国の小売業の基本方針だったと言える。

 

なお、①労働生産性と②資本装備の差額(図中棒グラフ)は、設備や機械の力を借りた影響も除いた「狭義の労働生産性」といえるが、小売業におけるトレンドは、1970~80年代はPOSシステム等の店舗系のシステム実装によって、2000年代は本部系のシステム実装で改善傾向にあったが、ここ数年は低迷している。

 

増え続けた、コンビニの仕事

コンビニ過去30年の歴史

過去30年の歴史を振り返ると(上図)、コンビニ業界の成長は、画期的な新商品や生活インフラとしての新規サービスの導入によって牽引されてきたことが分かる。ここで見過ごしてはならないのは、それらの新商品・サービスの多くが、店舗スタッフが習得すべき業務マニュアルや実際の作業工数負担の増加に支えられてきたという事実だ。淹れ立てのコンビニコーヒーや手軽に食べられる揚げ物商品は店舗スタッフの調理・保守作業が前提であるし、キャッシュレス決済や商品の発送・受取も、レジ作業を複雑化している。

 

コンビニ危機の根底にある課題解決に向けた最重要施策は、設備投資の強化や本部支援による店舗の作業工数の削減である。具体的には、セルフレジ、電子棚札、近い勝手のよい什器、無人店舗の試験運用などだ。これらの対応のスピードを上げることに加えて、店舗管理者である加盟店オーナーの実務(公共料金収納の伝票処理、スタッフのシフト管理、発注作業等)をデジタル活用でサポートすることも効果的であろう。

 

解決に動き出すコンビニ業界

コンビニ 設備投資

 

大手コンビニの多くは、上記のような生産性改善を目指した設備投資や店舗支援施策に着手している。その結果として、深夜営業のオペレーションを保全できるのであれば、民間企業(その多くが上場企業)であるコンビニは今後も24時間営業という消費者サービスを続ける権利があるし、続けるべきであると筆者は考えている。

 

24時間営業のコンビニ店舗は、防犯、災害時支援、見守りの機能を深夜時間においても地域社会に提供している(むしろ深夜にこそ必要)。同じく24時間体制で社会インフラ機能を提供しているサービス業に従事する人々(タクシー運転手や深夜ドライバー)の憩いの場だ。

 

2月6日に経済産業省は、有識者会議「新たなコンビニの在り方検討会」の報告書を公表した。当報告書では、行政が民間企業であるコンビニのビジネスモデルや契約体系に積極的に関与・意見する理由を「コンビニ店舗は公共インフラであり、コンビニ問題は個別企業の経営問題を超えた社会課題」と説明している。

 

24時間営業のコンビニ店舗網が自他共に認める「社会インフラ」なのであれば、その成否は世論調査や加盟店オーナーの聴き取り調査による多数決で決めるべきではない。コンビニと同じく24時間稼働を前提とする社会インフラ(一般道路/高速道路、橋梁、上下水道、電気・ガス等、河川堤防等)に対する投資は、多数決によって可否を判断すると過少投資に陥るというのが、伝統的な公共経済学の定石である。

 

まとめ

24時間営業という「看板」は、民間・上場企業であるコンビニにとって重要な知財・無形資産であり、これをいたずらに放棄して大幅な収益悪化を招くことは、加盟店オーナー以外のステークホルダー(社員、取引先、株主)の利益に反する行為である。あくまでも加盟店オーナーの自由意思に依拠して決定されることが前提だが、24時間営業という従来サービスを継続できるような環境整備を行うことこそが、消費者(地域社会)、加盟店オーナー、本部企業および関係者の「三方よし」を実現する唯一の道であろう。

 

関連記事

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

EVは本当に最適か?② ガソリン車はなくなるのか 次世代燃料「e-fuel」とは

日本の自動車産業にとって、EVは最適な手段なのであろうか。第2回では、次世代燃料「e-fuel」について紹介するとともに、それが将来のHEV(ハイブリッド車)とBEV(外部充電式電気自動車)の販売シェアに及ぼす影響などについて考察する。

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

ランキング記事

1

プロスポーツチームの戦略オプション コロナ禍でとるべき選択とは

近年、国内においてサッカー、野球、バスケットボールを中心に各種競技でプロスポーツチームが多数誕生しており、スポーツ市場は拡大傾向にある。一方、経営状況が厳しいチームが多く、組織の維持・発展に向けては、地域・チーム特性を活かした独自戦略の構築が求められている。

2

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

3

マスクの基準ない国、日本 JIS規格採用で生活の「質」改善を

マスク着用は、「生活習慣」として定着した。COVID-19(新型コロナウイルス)感染症の拡大から約1年半、性能や品質に基準のなかった日本で、業界団体によりJIS規格導入の動きが進む。本稿ではマスクの機能的な進化と課題、今後の方向性について考察した。

4

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

5

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中