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ラストワンマイル 即配サービス・物流の勝ち筋とは?
ECを活用したお届けサービス、取り分け即配サービスのニーズは拡大傾向にある。Uber Eatsや出前館等のプラットフォーマー、マクドナルド、すかいらーく等の外食産業、ヤマダ電機、セブン-イレブン等の流通業が参入しているが、いずれも本格的な収益化に向けては道半ばの状況にある。 即配サービスの「ラストワンマイル」を制するためには、今後より一層の事業強化が求められている。
ラストワンマイルとは
「ラストワンマイル」とは、最も近い物流拠点からエンドユーザーまでの配送サービスを指す。
ECの普及で配送量が増加し、求められる水準が高まっている一方で、人手不足や不在・再配達による効率の悪化など多くの問題を抱えている。
ラストワンマイルの背景にある「時短ニーズ」の台頭
スマートフォンの普及により、「時間価値」が非常に高まりをみせている。
従来は、移動時間等の細切れの時間は何かを行うことが難しい価値の低いものであったが、現在はスマートフォン1つで多くの事が出来る「価値のあるもの」に変化した。
そのため、人々は無意識的に時間の使い方に敏感になり、いかにして時間価値を高めるかに重きが置かれるようになった。
それと表裏一体をなす形で、時短商品・サービスが拡大している。
従来より提供されているタクシー、家事代行等のサービスに加え、最近ではミールキット、お掃除ロボット、シェアオフィス等の商品・サービスが広がりをみせている。
時短ニーズのコアターゲットは
このような時短サービスは勿論多くの消費者がターゲットとなるが、コアターゲットとしては、移動コストが高い(≒身体的・物理的制約が高い)障害者・高齢者・妊婦・ワーキングマザー、時間コストが高い(≒忙しい・高所得)富裕層等が挙げられる。
高齢化や共働きの進展等のメガトレンドを踏まえると、コアターゲットの層は今後も拡大が見込まれ、合わせて時短サービスは質・量共に更に拡充されることが求められる。
デジタルシフトの進展
時短サービスの中でも、デジタルチャネルを活用したサービスが特に顕著に広がりを見せている。
莫大な投資により大手流通の顧客がアマゾンに奪われるアマゾン・エフェクト、スマートフォンやSNSの普及に伴うD2C(Direct to Consumer、メーカーが流通を介さずに自社のECサイトで直接販売する仕組み)、サブスクモデル/リユースモデル(流通-エンドユーザー間/エンドユーザー同士の取引)の拡大が、その最たる例になる。
EC化で遅れをとる、日本
「令和2年電子商取引に関する市場調査」(経済産業省)によると、2020年度の全産業を対象とした物販系の国内EC化率は約8%とグローバルの約18%と比較すると遅れをとっているものの、2010年度(同2.8%)と比較すると急速に拡大している。
また、今般のコロナ禍により、半ば強制的に拡大することが見込まれている。
特に、台頭しているのは即配ニーズだ。
同レポートによると2016-2020年の5年間において、物販系ECの市場が約1.5倍に伸長している中、即配サービスは同期間において約2.3倍(注)に伸長しており、市場の拡大がより顕著となっている。
(注)出前館やUberEatsなど飲食宅配代行業者または自ら即時配送を行っている主要外食チェーンにおける宅配サービスの売上高をFMIが独自に試算
多数のプレイヤーの台頭
このような即配ニーズの急拡大に伴い、多くの企業が参入を試みている。プレイヤーを大別すると、①プラットフォーマー、②外食プレイヤー、③流通プレイヤーの3つに分類される。
各々の特徴は以下の通りとなる。
①プラットフォーマー
・マーケットプレイスの運営・展開に特化
(自社で商品・サービスは保持せず、外食や流通・メーカー等の加盟店商品を取り扱う)
・配送の担い手は、(一部自社で保持しているプレイヤーも存在するものの)多くは個人事業主の配送ドライバー
・配送時間は最短10-30分程度
・主な収益源は消費者からの配送料・サービス料と加盟店からの手数料
・主なコストは各種マーケットプレイス運営費用と配送ドライバーへの支払い
②外食プレイヤー
・自社商品を取り扱い、独自のWEB/アプリ等による展開を実施
・配送の担い手は、基本的には自社雇用の人材(店舗での通常業務の隙間時間の活用、又は想定オーダーを見越したシフト調整で対応)、一部外部の配送業者
・配送時間は最短30分程度
・主な収益源は消費者からの商品代金・配送料・サービス料
・主なコストは各種自社WEB/アプリ運営費用と追加の人件費又は配送業者への支払い
③流通プレイヤー
・自社商品を取り扱い、独自のWEB/アプリ等による展開を実施
・配送の担い手は、自社(又は加盟店)雇用の人材と配送業者の組み合わせ
・配送時間は最短30-90分程度
・主な収益源は消費者からの商品代金・配送料・サービス料
・主なコストは各種自社WEB/アプリ運営費用と追加の人件費又は配送業者への支払い
即配の直面している課題
ここまで解説してきた通り、即配サービスのニーズは拡大基調にあり、多くのプレイヤーが進出してきている一方で、展開エリア・ユーザの更なる拡大や参入プレイヤーの収益化に向けては様々なハードルが存在する。
すべてを挙げるときりがないため、ここでは主要な3点について扱っていく。
①配送員の確保とコストの適正化
最近のメガトレンドの一つとして、労働力不足があることは自明であるが、配送ドライバーの確保という観点においてもその傾向は顕著である。
都心では、企業に属する配送ドライバーや昨今の働き方の多様化の中で、増加傾向にある個人事業主の配送ドライバーが一定程度存在するため、現時点でそこまで大きな支障とはなっていない。
しかし、地方に展開するとなると配送ドライバーの確保は大きな課題として挙げられる。
即配サービスはその特性上、突発的なオーダーに対してクイックに応えていく必要があり、その需要を事前に確実に見込むことが難しい。
一方で、確実にオーダーに応えていくために配送ドライバーを固定的に確保・準備しておくと、オーダーが無い時間帯はその人件費は埋没コストとなり、収益圧迫の要因となる。
そのため、サービスを維持していくための配送ドライバーの安定的な確保と、埋没コストの極小化によるコストの適正化という一見トレードオフの関係にある事象をいかに最適化していくかがポイントとなる。
②消費者負担の抑制
WEB/アプリ等を活用した即配サービスの展開は、当該インフラの構築や運用・保守、そして配送する人件費等の追加コストがかかり、参入プレイヤーの収益を確保するためには商品売買以外の追加の収益が必要になる。
そこで各社は、消費者から配送料・サービス料を追加的に収受しているわけだが、この金額感が消費者からすると大きな負担となり、結果的に当該サービスの広がりに際しての障壁となりかねない。
具体的な金額感を一例で示すと、配送料として50-800円/件、サービス料として商品代金の10-50% (商品売価上乗せ又は別途サービス料として収受)が追加されており、その負担額は決して少額とは言えない状況にある。
各社の収益を確保しつつ、消費者負担をいかに減らすかといった、こちらもある種トレードオフの関係にある事象の解決が求められている。
③商品・サービスの魅力度強化
当然のことではあるが、消費者にとって魅力的なサービスでないと利用されず、普及させることはできない。
外食産業であれば、オーダーを受け次第、都度調理し配送すれば良いため、店舗で展開している商品を基本的には欠品なく提供可能である。
流通業となると必ずしもそうはいかず、在庫との兼ね合いに左右されることとなる。
事実、一部流通業の即配サービスにおいては、欠品リスクに鑑み、在庫が安定的に保持されている商品は取り扱いがあるものの、デイリー品、生鮮品のような欠品リスクが高く、且つ、賞味(消費)期限が短いものは取り扱っていないものも見られる。
但し、欠品リスクやそこから派生するオペレーションの煩雑性や混乱を回避するため、商品を絞れば絞るほど、消費者にとっての当該即配サービスの魅力度は下がり、結果的に使われないサービスとなってしまう。そのジレンマをいかに解いていくかが重要となる。
ラストワンマイルを制するために求められる方向性
それでは、ラストワンマイルを制するため、何が求められるのか。①多角的なパートナーシップ、②周辺ビジネスの強化、③在庫連携のインフラ整備の3項目について提案したい。
①多角的な配送パートナーシップの構築と配送コストの柔軟性担保
配送を担うプレイヤーは大手の配送業者、各地域に根付いた中堅・中小の配送業者、個人事業主の配送ドライバー、個人事業主の配送ドライバーをプラットフォーム化して束ねるベンチャー企業等の多くの登場人物が存在する。
そのため、配送ドライバーを安定的に確保するためには、自社単独、ないしは配送業者1社への委託に留まらず、エリアと配送プレイヤーの特性に合わせて、複数先とのパートナーシップを構築することが重要となる。
その上で、統一されたKPIを基に配送パートナーを評価し競争させ、配送ドライバーの確保並びにサービスレベルの担保を図ることがポイントとなる。
加えて重要なことは、配送コストの抑制である。多角的なパートナーシップの構築により安定的に配送ドライバーを確保できたとしても、その費用がオーダー数に関係なく固定的にかかるとなると、収益が成り立たない。
その1つの解が配送システムとそれに合わせた契約スキームの構築である。
例えば、UerEatsが既に取り組んでいるように、オーダーの都度、システム上において自動でエリア毎のパートナーに配送可否を確認し、確認の結果、配送可であれば消費者に受注可と返信する一連のインフラである。
配送プレイヤーは配送可であれば受託し、当然連動する形で委託元も支払いは件数当たりとなり、配送費の最適化が行える。
②周辺ビジネスの強化
消費者の配送料・サービス料負担を軽減しつつ、参入プレイヤーの収益性を担保するためには、純粋に参入プレイヤーにとっての新たな収益源の確保を行うことが必要である。
そのためには、消費者がアクセスするWEB/アプリ上で如何に他の登場人物から収益を得るかというポイントに着眼していくことがその第一歩となる。
例えば、WEB/アプリ上でのB2Bビジネスの展開が一案となる。メーカーにとって消費者との接点は重要であり、その接点はリアル店舗からデジタルの世界にシフトしているため、当該プラットフォームは貴重な存在となる。
具体的なB2B向けサービスとして、メーカーの広告宣伝やテストマーケティングを行い、それに伴う広告宣伝費やマーケティングフィーを授受するという一般的なビジネスに加え、消費者の属性別購買データを基にしたメーカー向け商品開発コンサルティング等に広げていくことも考えられる。
③在庫連携のインフラ整備
商品・サービスの魅力度向上に向けてまず行うことは、自社店舗で取り扱っているものを確実に即配サービスにおいても提供していくことである。
そのためには、店舗在庫と即配サービスにおけるWEB/アプリ上の在庫を連携し、欠品時を除き、各商品・サービスを選択可能にしていく必要がある。
また、欠品を減らすことで機会ロスを最小化するために、日々の発注時においても、店舗に加えて即配サービスにおける購買も念頭において行っていくことが重要である。
その上で、自社では取り扱っていない他外食・流通プレイヤーの商品・サービスへも取り扱いを増やし、当該WEB/アプリにアクセスすれば、多種多様な商品・サービスを即配で届けてもらえるという世界観もその先には考えられる。
なお、別の論点ではあるが、その際には他プレイヤーとのオーダー等のデータ連携、複数店舗を回る上での配送ルート最適化の仕組み整備等も合わせて必要となる点を補足しておきたい。
最後に ~既存事業への影響も多大なラストワンマイルの取組み
これまで解説してきた通り、時間価値が高まりを見せる中でラストワンマイルの各種サービスに対するニーズは拡大傾向にある。その意味で本サービスは勿論各プレイヤーにとっての新たな収益獲得に向けた位置付けであることは疑う余地がないが、それに加えて時代変化に合わせたサービスを的確に提供できている企業かという消費者判断の要素にも繋がる。表現を変えると、ラストワンマイルの需要に十分且つ迅速に対応できない企業は「時代の変化に対応できない企業」とのレッテルを貼られ、結果的に既存事業へのマイナスの影響を及ぼすといっても言い過ぎではないのではないだろうか。
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