社会主義から改革開放、倒産制度の整備まで

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中国では1986年、「企業破産法」が施行された。当時は社会主義における計画経済から市場経済へ移行する過度期だったため、企業破産を容易に認めにくい状況が続いていた。その後、2007年には再建型の手続きを盛り込んだ「中国企業破産法」が制定された。しかし、企業破産を受理することで失業した労働者が増えることを中国政府がおそれたこともあり、中国企業破産法は積極的に活用されなかった。

そうしたなか、中国経済の成長鈍化とともに、中国の倒産件数は増大。特に、2017年から2018年にかけての中国における倒産事件数は大幅に増加した(2018年の中国の裁判所による倒産事件受理件数は1万8823件〈前年比97.3%増〉、新規終結件数は1万1669件〈前年比86.5%増〉)。

中国政府は企業側の構造改革と、「ゾンビ企業」を市場から退出させる仕組みの必要性を認識。2018年9月には「第十三回全国人民代表大会常務委員会の立法計画」において企業破産法の改正計画を公表し、2019年6月には、中央政府の13部門が共同で「市場退出仕組みの整備を加速する改革案」を公表した。

こうした動きもあり、中国では、ゾンビ企業を市場から退出させる仕組みや、プレ・パッケージおよび裁判外の再編手続に関する制度、そしてかねてから懸案だった個人の倒産制度が検討されることになった。

また、2019年には、倒産専門の裁判所が深圳(しん・せん)、北京、上海に設立。倒産専門裁判所は日本にない制度で、中国がアメリカの破産裁判所の制度を見習ったものと思われる。 

日本の倒産制度との違いとは

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一方、日本ではバブル経済が1992年に崩壊して以降、金融不況の到来とともに、法的倒産事件(破産、民事再生、会社更生など)が大幅に増えた。

2000年代前半には、倒産件数が年間約1万9000件とピークに。金融機関の財務状況を早期に改善させる必要性が高まり、当時の小泉純一郎政権は早期不良債権処理のために産業再生機構、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会などの制度を設置。そして、法的倒産手続きを回避するために、私的整理によって早期に不良債権を処理する政策がとられた。

結果として私的整理は、金融機関が主導権を持つ、企業価値の棄損を回避する手続きとして幅広く浸透した。その後は景気回復を受けて日本の法的倒産事件数は大きく減り、2018年には約8200件で、ピーク時の半分以下になっている。

現在、日本における事業再生の処理は、金融機関が主導する私的整理が主流になった。法的倒産手続きは、大規模な粉飾などで債権者の全員同意がとりにくい案件など私的整理で処理が困難な案件に限定されているのが実情だ。

これに対し中国では、政府が企業の新陳代謝を図るために倒産制度を活用しようと本気で考え始めたこともあり、今後も増加していく可能性が高い。

倒産制度もIT化、中国の戦略とは

中国では現在、全国各地の裁判所が「全国企業破産更生事件情報ネットワーク」というオープンプラットフォームで債権者集会を招集している。ここでは遠隔地にいる債権者、また時間の都合で現場に行けなかった債権者が集会の生放送を見たり、オンライン投票に参加したりすることで債権者集会への参加の機会を保証している。この仕組みは、集会招集のコストと債権者の手続き参加費用を減らし、倒産事件の円滑な処理促進にも有効になっている。

また、倒産した債務者の財産をネットオークションにかける取り組みも広まりつつある。温州中級人民法院(浙江省)が2015年に先行して以来、四川省や湖南省、江西省などほかの地方裁判所でも、倒産した債務者の財産をネットオークションで売却する規則を検討しはじめている。

一方の日本では、まだITを利用した倒産裁判制度の効率化は十分に図られておらず、今後の検討が期待されている。

上場企業の倒産 日中で異なる考え方

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日本では、上場会社が法的倒産した場合、東京証券取引所の上場廃止基準にのっとって、原則速やかに上場廃止になる。これは、金融機関などの債権者よりも地位が低い株主に株主責任があるためで、債務超過の会社が法的倒産した場合、資本は100%なくなり、株主の権利も消滅することになる。

一方の中国では、株主の権利に対する考え方と資本市場に対する考え方が日本とは異なる。中国では、更生手続き中も時価総額に関わらず上場が継続し(株価が1元になっても維持される)、更生手続きが終わったときに計画内容に応じて上場が維持できるかが決まる。

中国では、更生手続きをしている会社の債務を株式化する「デット・エクイティ・スワップ(DES)」の利用は、債権者にとっても経済合理性の点で好ましいと考えられている。非上場企業が上場企業を取り込むような「裏口上場」の規制が日本ほど厳しくなく、上場の資格をほしいがために、法的倒産を申し立てた再生企業のスポンサーになる非上場会社が多数存在している。

日本では、債権者よりも地位が低い株主の権利は、再生会社が債務超過した場合はその地位を奪われることが当然と考えられるが、中国では債権者の利益になるのであれば、既存株主の権利を継続するかどうかは日本ほど問題視されていないように思われる。加えて、株式が上場することの価値が重視され、上場自体が実質的に売買の対象となっていることも、経済合理性を重視する中国らしい考えだ。

中国における上場会社におけるDESによる再建事例として、四川瀘天化更生事件がある。四川瀘天化股份有限会社は、1959年に成立された国有の四川瀘州ガス化学工場であったが、1999年に四川省政府の承認を得て、合成アンモニア、尿素などの生産事業を切り出した法人を設立し、その後、深圳証券取引所において上場した。

しかし近年は、市場環境の悪化などで深刻な経営上の危機に陥った。その後、瀘州市中級人民法院が2017年12月、同社の更生手続開始申立を受理。同社の更生計画は2018年7月、瀘州中級人民法院によって認められた。この事件では、上場会社の上場を維持しながら、大規模なスポンサーの導入で、実質的な支配者の変更をともなわない再建計画が策定された。

この計画に基づいて、債務の株式化と戦略的投資家の資本による資本蓄積ファンドが設立。このファンドを通じて債務の返済が図られている。その結果、最終的に金融債務を100%弁済することができ、会社の自己資本比率も約31%まで回復し、1株当たり純利益は-0.81人民元から0.22人民元にまで増加した。

こうした事例からみても、中国における上場会社の法的倒産手続きは、上場会社としての地位を利用して、DESを活用して債権者の経済合理性を図るという手法がますます利用されていくものと思われる。

日本の倒産手続き自体は、現時点で大きな問題は生じていない。しかし、上場会社の倒産=上場廃止ということ自体が、最終的な債権者の経済合理性の実現のためになっているか、そして、上場会社が法的倒産に移行することが経営者の心理的なハードルとなっていないか、それぞれについて検証が必要ではないだろうか。

そのためにも、先に述べた東京証券取引所の基準は厳格すぎるのではないか。監理ポストに入ることはやむを得ないが、日本も中国と同様に、時価総額の基準を更生手続き中は撤廃して、更生計画を認可する時点で、上場廃止か否かを判断するという基準に変更してもいいのではないだろうか。

個人破産法がない中国

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中国では、個人破産法がまだ制定されていない。借りた金は返さなければならないという農業文明の考え方と、詐欺的倒産の横行やモラルハザードの蔓延を懸念する中国政府の正義感が個人破産法の未制定につながっている面もある。

だが、個人の債務が免責される制度がないため、会社が法的倒産手続きで清算できたとしても、経営者個人の免責が保証されていないため、経営者は法的倒産手続きをとりにくいと言われている。そのため、個人破産法が制定されていないことが、自己の会社で企業破産法(再建手続きを含む)の申請をするという正規の処理が浸透しない大きな要因になっている。

そうしたなか、中国政府は今後、個人破産制度の導入を検討していく見込みだ。この制度が導入されれば、企業破産法(更生手続きを含む)の申請の増加に拍車がかかり、日本企業も取引先の夜逃げの心配が少なくなることから、これまでより安心して中国企業とビジネスができるようになるのではないだろうか。

倒産関連ビジネス 中国で今後発展の可能性

日本では1990年代の後半以降、倒産関連ビジネスが浸透し、弁護士や会計士といった有資格者のほかに、証券会社やコンサルティング会社、事業再生ファンドが倒産関連ビジネスに絡み、2000年代に隆盛を迎えた。

一方、中国ではここ数年になって倒産関連ビジネスが活発になってきている。なかでも比較的規模の大きな法律事務所が、この倒産関連事件をビジネスとしてとらえて、人員を増強中という。日本企業も中国の倒産ビジネス実務家との情報交換をして、中国企業への投資の機会を検討してもいいだろう。

中国の倒産制度は、市場経済の浸透やアメリカなど他の国の意見を勘案し、年々進化している状況だ。かつての中国では、夜逃げをする企業が多く、中国企業が信用できないという時代があったかもしれない。しかし、中国の制度や経済の進化速度は速く、従来のような固定観念は、日本企業が中国企業とビジネスをする上での大きな妨げになる可能性がある。

倒産や事業再生は、新陳代謝により経済を強化するための静脈ビジネスに他ならない。静脈ビジネスが正常になって初めて前向きな動脈ビジネスの発展があるはずであり、中国はこの点の改革を素早く成し遂げるだろう。日本企業も、中国の倒産制度の進化や発展について関心を払っていくべきではないだろうか。

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