2024年問題を抱える物流会社の特徴とM&Aが提供できるもの

物流業界の2024年問題(※)については、多くのところで語られている。今回改めて2024年問題について記載するが、主に金融機関の方など非物流業界に従事する方から見て、どのような物流会社が2024年問題を抱えている傾向があるのか、外部から見るポイントや物流会社の担当者と話をするポイントを記載する。
(※2024年4月以降、働き方改革関連法によってトラックドライバーの時間外労働に上限規制が設けられることで生じる諸問題のこと)

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直近の物流業界のM&Aで起きていること

直近の物流業界のM&Aで起きていること

2022年の日本企業向けのM&Aは、レコフデータ調べで4,304件と過去最高の件数を記録した。物流業界のM&A件数は、2021年に129件と過去最高の件数を記録したが、2022年もほとんど変わらず123件だった。

その物流のM&A件数の中身を見ていくと、2022年、2023年と質的な変化があることがわかる。オーナー系物流会社で、規模の大きな会社(売上高で数十億~百億円規模)がM&Aの道を選ぶ事例が増えているのだ。

2022年から2023年にかけてみると、愛媛県では神山運輸・神山トランスポートのグループが大和ハウス工業との株式交換で完全子会社化された。また同じ愛媛の大西物流がカトーレックに株式を譲渡し、大阪府の大信物流輸送が新潟運輸の傘下に入る。さらに岡山県の山本水産輸送を中心とするヤマスイグループが、農林中金キャピタルというファンドの傘下に入った。

ここで言えるのは、これまでM&Aの世界ではむしろ買手側となっていたような(売上高数十億円台後半以上の)未上場中堅オーナー会社が、株式を譲渡する事例が増えている印象である。

物流業界における2024年問題

物流業界における2024年問題

物流業界での2024年問題は多くのところで語られており、ここでは詳細を省くが、一般に時間外労働の上限規制の適用(年960時間)が2024年4月から始まることに由来する。

また中小企業が多い物流業界でも、同一労働、同一賃金を実現する法制度はすでに施行されており、中小企業向けに適用猶予されていた、月60時間超の時間外割増賃金率の引き上げ(25%→50%)も、2023年4月にすでに実施されている。

改善基準告示

物流業界では、よく「拘束時間(月間)293時間」というワードを耳にする。

これは厚生労働省から出されている改善基準告示に基づくものである。現行の改善基準告示では年間拘束時間3,516時間、月間293時間となっており、物流会社と話すときには、この時間の順守状況も通常確認する。

この改善基準告示が2024年4月に改正されることとなり、年間拘束時間3,300時間、月間284時間とする案が出されている。

ただ3,300を12(ヶ月)で除すると、284ではなく275となる。現在の293時間の順守も厳しいハードルとなっている中小物流会社にとっては、改善基準告示の改正がさらに重たいハードルとなってくる。

図表1_トラック運転者の「改善基準告示」改善のポイント

引用:自動車運転者の長時間労働改善に向けた厚生労働省のポータルサイト「トラック運転者の改善基準告示」より

図表2_改善基準告示で定める拘束時間と休息時間

引用:厚生労働省労働基準局「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」より

2024年問題の影響を受けやすい物流会社の特徴

2024年問題の影響を受けやすい物流会社の特徴

ここからは、物流会社が従業員の労働時間や拘束時間を延ばす要因となっている主な事象を記載している。

ここに挙げた要因の一つが当てはまるだけで直ちに2024年問題を抱えているとまでは言えないかもしれないが、これらの要因が複数重なると、より問題に直面している可能性が高まるといえる。

当然ではあるが、これらの問題があっても、2024年問題を抱えていない会社もあるし、また2024年春までに解決をするべく努力されている物流会社も多数ある。

①運送距離

1日当たりどれくらいの距離を運んでいるのか。当然運送業務や荷物にもよるものの、荷物の積み下ろしなどの時間も考慮すると、1日で運べる距離は200~300kmくらいになる。距離の長い業務が多い会社は、それだけ2024年問題の影響を受ける可能性が高い。

②車両の大きさ

顧客によっては、区域内の配送でも大型トラックを使う必要がある場合もあるが、一般にトラックの大きさが大きいほど、幹線輸送として長距離運送に従事している可能性が高い。そのため、トラックの大きさが10t以上になると長距離運送をしており、2024年問題の影響も受けやすい。

③荷待ち

物流会社単独では解決しにくい問題ではあるが、荷待ちが多いかというのもチェックポイントとなる。荷待ちが多いと物流センターや港などで数時間単位で待つこととなり、拘束時間が長くなる。

④荷積み、荷下ろし

荷物の積み下ろしが手積み、手下ろしか否かもチェックポイントとなる。その反対は、カゴ台車やパレットを使った積み下ろしとなるが、手積み、手下ろしの方が当然労力がかかるため、時間が長くなりやすい。

⑤物流会社のお客様

物流会社の販売先に事業会社や卸会社、小売業などの名前がある場合、一般的にその企業は元請、物流会社の名前がある場合は下請と言われる。下請の企業の方が、元請企業からの依頼を受けて様々な業務に対応しており、当然お客様あっての仕事ゆえに、対応すべきことも多くなる。

⑥週休二日制・企業規模

大手企業でないと週休二日制を実現できていないところは多いかもしれないが、週休二日制でない会社では週40時間を超える労働時間が全て時間外労働とカウントされるので、おのずと影響を受けやすくなる。

M&Aを活用した問題解決

M&Aを活用した問題解決

これらの問題の中には、自社単独で解決できないものも含まれていて、そうした場合は荷主や業界全体で解決するしかない。一方で、2024年問題を受けにくい物流領域に事業領域を変えるなど努力をされている会社もあるが、時にはトラックなども更新する必要が出てくる場合もあり、いうほど簡単ではない。

そこで、問題解決の一つの手段として、相手先の経営資源を活用させてもらう物流業界のM&Aが浮上する。そのメリットについて、以下に列挙する。

拠点数の増加

グループ入りすることで相手方の拠点数も加わり、配送ルートや仕事面での物流のオプションを増加することができる。

相手先施設・ノウハウの活用

大手などと手を組むと、休憩設備を備えたセンターなどもあり、中小運送会社が配送先で休憩先に困るなどといった事態も回避しやすくなる。また大手ほど研修・教育設備なども充実しており、ハードだけでなくソフトのノウハウも注入してもらいやすくなり、品質面の充実も図ることが可能となる。

運送の効率化

エリアの分担や、(簡単ではないが)リレーでの運送など運送業務の効率化、1行程での運送距離の短縮化ができる。その結果、日帰り業務などが増えれば、女性ドライバーなどの雇用もしやすくなる。

荷物の融通

運送会社の収益性を落としている一つの要因に片荷の問題がある。取扱量が多い大きな物流会社と手を組むことで、全体として荷量が増える可能性が増えるとともに、それに伴い片荷の問題を減らしやすくなる。

また、季節などにより荷物の量が増減する波動など、自社だけで対応するにはなかなか困難な問題も、グループに入ることで解決可能性が向上する。

システムの導入

中小企業では、デジタルタコグラフは導入されているものの、Transport Management System(TMS:運行管理システム)が導入されていないところもある。M&Aの相手先のサポートを得てTMSが導入されることで、運行や管理の効率化なども図ることができる。

物流業界で今後起こりうること

2024年問題の解決には、荷主の協力が必要な部分もあり、物流会社単独で対処しようとすると、おのずと困難な問題も多々ある。

そのため、①物流会社単独でできることの次に②物流会社同士で解決を図れる部分の動き、そこに③物流業界内で解決を図ろうとするところにM&Aが今後もさらに活用されることが想定される。

特に大手物流会社は荷物も多く、また多くの営業所などを持つことでネットワークも構築されている。その傘下に入ることで、荷量の安定、波動(季節による荷量の増減)の安定、運送距離の短縮や休憩設備の活用、さらには教育・研修制度の充実による物流品質の向上など、得られるものが多い。

また地域の企業同士で手を組み規模を大きくすることで、2024年問題を解決していこうという動きも目立ってきている。これらの両輪の動きで、物流業界のM&Aは当面は活発な動きが維持されていくものと考えられる。

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