バリュエーション(企業価値評価)とは

企業を買収・売却する際にはその金額を決定する必要がありますが、その値付けを行うことを「バリュエーション(Valuation)」または「企業価値評価」と言います。原価がわかる商品と違い、企業の価値は画一的に価格を付けられるものではないため、その値付けには金融工学に基づいた様々な評価手法が用いられます。

その際、売り手側と買い手側双方が納得する金額を導き出せなければ取引が成立しないため、確立した評価手法を用いることには非常に意義があるのです。また、こうした手法で導き出される価値を「公正価値(Fair Value)」と言います。

企業の価値を測るために見なければいけない指標は主に「企業価値(Enterprise Value)」と「株式価値(Equity Value)」があります(他に「事業価値」と言われる指標もありますが、価値算定の場面で実際に用いられることは少ないため割愛します)。

そして企業を買収する際には、当然企業全体の価値をベースに値付けを行うため、「企業価値」を算出することから始まります。企業価値とは端的に言うと自己資本と外部資本を合わせた“動力”を基にどれだけのキャッシュを生み出す力があるのかを知る指標です。

ただし、実際に動く金額は株式に対する対価ですから、「株式価値」が必要になってくるわけです。また、この株式価値はいわゆる「資本金」や「純資産」とは異なるため、「市場価格(Market Value)」が付いていない企業については所定の価値算定手法を用いて算出していくことになります。

このあたりの関係性が慣れない人にとっては複雑なため、しっかりと理解する必要があるでしょう。企業価値は以下の式で求められます。

企業価値=株式価値+ネット有利子負債(総有利子負債−現預金)

なお、上場企業には株価が付いているため、理論上は価値算定などせずとも「会社の値段=株式価値=時価総額」と言えます。ただし、時価総額100億円の会社を100億円で買収できるかと言うと、そう言うわけでもありません。

第三者が既存株主から株式を買い取ろうとする場合、会社への将来性や愛着などの理由で市場価格での取引に応じないケースがあるためです。したがって多くの場合、上場企業の買収の際に行われる公開買付(TOB)では通常数十%のプレミアが市場価格に上乗せされます。

バリュエーション手法と活用実態

それでは次にバリュエーションにはどのような手法分類があり、現場でどのように用いられているのか見ていきましょう。

バリュエーションには主に以下の3つの手法分類があります。それぞれの手法に優劣があるわけではなく、実際の現場ではこれらの手法を組み合わせて価値レンジを導き出した上で、両者の話し合いにより最終的な取引価格を決定していくことになります。

  1. コストアプローチ
  2. インカムアプローチ
  3. マーケットアプローチ

またそれぞれの手法分類の中にも、具体的な評価方法がいくつか存在します。

コストアプローチ

一つ目はコストアプローチです。コストと言う名ではありますが、企業の純資産を基準に対象企業の価値評価を行ないます。主な手法として「簿価純資産法」と「時価純資産法」とがあります。帳簿上の総資産から負債を引いて算出する純資産を時価総額とすることは共通ですが、その違いは保有資産を時価評価に洗い替えするか否かです。

コストアプローチはバランスシートをそのまま使って価値評価していくため、最もシンプルな手法とされています。しかし、このアプローチでは対象企業の“今”しか反映できず、会社が存続していけば当然発生する将来キャッシュフローを計算に加味することができない点がデメリットです。したがって、通常のM&A取引では余程小さな案件か清算前提の場合でない限り、この手法は見受けられません。

インカムアプローチ

二つ目はインカムアプローチです。インカムとは対象企業のキャッシュフローを指します。つまり、対象企業が現在と将来にどれくらいの収入を生み出すことができるのか、と言う視点で価値評価していきます。代表的なものには「DCF法(Discounted Cash Flow)」あるいは「収益還元法」「配当還元法」と言う評価方法があります。

その中でもDCF法はM&Aのみならず、新規プロジェクトの収益性分析等にも用いられるなど最も利用頻度が高く、かつ信頼性の高い評価手法です。バリュエーションの中では最も複雑な計算を要する点も高い信頼の裏付けになっていると言えるでしょう。

DCF法

DCF法はその名の通り、対象企業が将来に渡って生み出すと思われるキャッシュを現在価値(Present Value)に割り引いて価値評価を行う評価手法です。詳細な計算方法については割愛し、概要を説明します。

まず、対象企業のリーズナブルな事業計画に基づいた向こう数年間のキャッシュフロー合計と、その後会社が永続する前提で得られるキャッシュフローの総額とを足し上げていきます。この事業計画値以降の概算値を「永続価値(ターミナルバリュー/Terminal Value)」と言います。

またこの時、計算するキャッシュフローは「フリーキャッシュフロー(税引後営業利益+減価償却費-正味運転資本増価額−設備投資)」を用います。それら将来のFCFをそのまま計算に織り込んでしまうと諸条件(例えばインフレや金利変動)による変化を加味できていないことになるため、割引率(Discount Rate)を用いて金額を割り引き、「現在価値の総和(Net Present Value)≒現在の企業価値」として導き出していきます。

この際に用いる割引率は「加重平均資本コスト(WACC)」というものですが、おそらくバリュエーションの中で最も専門的な領域になります。そのため詳細については割愛しますが、対象企業が外部から資金調達する際の平均的なコスト水準を意味します。

マーケットアプローチ

三つ目はマーケットアプローチです。マーケットとは株式市場あるいはM&A市場のことを指し、他の取引実績を基に対象企業の価値評価を行います。代表的なものとして「類似会社比較法(マルチプル法)」や「類似取引比較法」「類似業種比準法」と言う評価方法があります。

その中でもマルチプル法は特にM&Aディールが本格的に始まる前の簡易価値算定の際に必ずと言っていいほど用いられる手法です。慣れている人は暗算で大まかな価値レンジが算出できるようになるため、非常に便利であり、ゆえに広く市民権を得ている手法と言えます。

マルチプル法

マルチプル法とは日本語で言い換えると「倍率法」であり、様々な指標に任意の倍率をかけることで対象企業の企業価値を算定する手法です。主な指標については以下の通りです。

  1. 売上高倍率(Price Sales Ratio)
  2. EBIT倍率(Earning Before Interests and Taxes Ratio)
  3. EBITDA倍率(Earning Before Interests, Taxes, and Depreciation and Amortization Ratio)
  4. 株価収益率(Price Earning Ratio)
  5. 株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)

上記のうちM&Aの場面において最もよく使われるマルチプルは「EBITDA倍率」です。なぜなら、インカムアプローチの章でも解説した通り、企業価値は企業が将来に渡って生み出し得るキャッシュフローに基づいて算定されるものであり、その意味で「EBITDA(営業利益+支払利息+税金+減価償却費)」はキャッシュフローと近似した概念であるためです。

そして倍率は業界平均を用いることが一般的です。対象会社の属する業界の中でも特に類似する企業(上場企業)を複数社選定し、それら企業の企業価値(時価総額+ネット有利子負債)をEBITDAで割った数値の平均をとることで計算に使用する倍率を求めることができます。

この手法は手軽に価値レンジを算出できる一方、どの類似企業を選定するかによって倍率の決定に恣意性が介在するため、DCF法などとの併用で用いられることが多いです。

まとめ

以上のように、企業価値評価には様々な手法があり、公正価値を導き出す道筋は数多く存在します。しかし、こうした理論的に確からしい手段をたくさん用いていても、それが本当の意味で“公正”な価値なのか、と言うのはまた別の話です。

例えば、本文中に最もよく使われ信頼されているバリュエーション手法としてDCF法をあげましたが、この手法にも不備があります。それは計算にいくつもの要素を必要とし、さらにその要素の多くはあらゆる仮定のもと算出されているに過ぎないため、計算する側の恣意性が拭えない点です。

一例をあげると、永続価値をどう設定するかと言う点はかなり先の未来の話であるため、現在の実情をもってどの程度現実的かを判断することは難しく、最終的には当事者間で納得するものに落ち着かせる他ありません。

よりフェアで合理的な結果を導き出すためにも、第三者のプロに評価を依頼することが賢明でしょう。また、当事者としてもそのような勘所を養うことは重要です。もしご関心であれば弊社が提供する講座にて基礎を学ばれてはいかがでしょうか。

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