不動産証券化とは?


不動産の証券化は、資産の証券化の一つであり、特に不動産から得られるキャッシュフロー(=賃料や不動産の売却益)を証券化することを指します。「資産の証券化」とは、「ある資産から得られるキャッシュフローを原資として、有価証券等の流動性の高い投資商品を発行する過程 」と整理できます。(※1)

証券化の対象となる安定的なキャッシュフローを生み出す資産は、以下のように幅広く存在します。

  • 不動産
  • 住宅ローン
  • 商業不動産ローン
  • 銀行の貸付債権
  • オートローン債権
  • ショッピングクレジット債権
  • リース債権
  • 特許権・著作権などの知的財産権

これらの中でも不動産は中核を形成しています。(※2)

「証券化」は、上記の証券化対象資産(原資産)を所有する企業など(オリジネーター)が、証券化対象資産を、証券化するために設立する媒体(SPV=Special Purpose Vehicle)に譲渡し、そのSPVへの出資証券等を発行するという形で行われます。証券化により発行された証券の取得によって、投資家は自らが原資産を保有することなく、原資産が生み出すキャッシュフローへの投資が可能となります。(※3)

不動産証券化の類型

不動産証券化は、根拠とする法律により複数のスキームが存在していますが、不動産証券化の代表的な例としては、不動産投資信託証券(REIT=Real Estate Investment Trust)と呼ばれる金融商品が挙げられます。REITとは、投資信託及び投資法人に関する法律(通称「投信法」)を根拠法として設立される投資法人が発行する「投資証券」のことで、通常の株式会社で発行される株式にあたります。

投資法人は、市場等から不動産を取得し、取得した不動産から得られる賃料収入や保有不動産の売却等によって得られる利益を、投資証券の保有者に、その保有の割合に応じて分配します。そして、REITは上場株式と同様に取引所に上場されることで、証券会社を通じて個人でも売買が可能となります。また、上場しているREITは通称J-REITと呼ばれています。(※4)

J-REITは、現在東京証券取引所に61銘柄(※5)上場しています。その投資対象は、オフィスビル、商業施設、住宅・住居、ホテルから底地に至るまで、不動産であれば非常に多岐に渡っています。(※6)

その他にも、以下のようなスキームが存在しており、証券化を行う資産や投資家の種類・人数等に応じて、オリジネーターによって適切なものが選択されます。

  • 資産の流動化に関する法律(通称「資産流動化法」)に基づいて設立される特定目的会社(通称「TMK」)を利用したスキーム
  • 会社法改正により設立が可能となった合同会社と、匿名組合出資を利用したスキーム(通称「GK-TK」スキーム)
  • 不動産特定共同事業法を利用するスキーム(現在ではあまり利用されていません)

不動産証券化の意義・メリット


では、企業はなぜ不動産の証券化を行うのでしょうか。また、不動産の証券化によるメリットとは何なのでしょうか。

オリジネーターのメリット

まず、証券化の主体となるオリジネーターにとってのメリットを解説します。

資産のオフバランス

資産の証券化を行う際、オリジネーターは、SPVに原資産を譲渡するため、自らのバランスシートにて保有していた資産をオフバランスできます。

例えば、不動産開発を行うデベロッパーは、開発した不動産をSPVに譲渡することで、当該不動産は自らのバランスシートの有形固定資産からSPVのバランスシートへと移ります。そして、SPVへ譲渡した際の売却代金により、当該不動産に関するローンを返済することができるため、デベロッパー自らのバランスシートが軽くなります。

なお、SPVがデベロッパーから不動産を購入する際、以下を通じて資金調達を行います。

  • SPV自らが銀行から調達する借入金(デット)
  • 投資証券(株式会社では株にあたります)を発行することで投資家から調達する出資金(エクイティ)

この投資証券の一例が、上述の通り現在取引所で売買されているREITとなります。

つまりデベロッパーにとっては、開発が完了した不動産を証券化の手法でオフバランスすることで、新たにローンを組めるため、別の不動産の開発に着手できる・不動産の売却により売却益を得られる等のメリットがあります。

収益機会の拡大

さらに証券化を行う際、設立されたSPVによる不動産の運用や、SPVが保有する物件の管理等をオリジネーターが自らのグループ会社に委託することで、運用手数料や物件の管理手数料に関する収入を得られるため、不動産会社の収益機会の拡大としても意義を有しています。(※7)

投資家のメリット

一方で、証券化された証券を取得する投資家にとってのメリットについては、以下の2点になります。

投資対象の拡大

例えば個人が現物不動産への投資を行うためには多くの場合、多額の資金が必要になるほか、投資対象は主にマンションやアパートといった住居用不動産に限られます。また、物件についても管理を自ら行う必要があり、すぐに物件を売却ができない等の流動性リスクもあります。

しかし、REITへの投資を行うことで、個人でもオフィスビルやホテルといった不動産(を保有する投資法人)に対して小額から投資が可能となります。また、不動産の管理を不動産のプロである投資法人に任せられる、市場で売却することですぐに換金もできる等の利点が存在しています。

さらに、不動産の証券化は、上場しているREITだけでなく、金融機関等の機関投資家のみが投資家となることができる非上場のスキーム等、様々な手法が存在しています。多額の資産を運用する必要がある機関投資家や年金基金にとっては、伝統的な株や債券に替わるオルタナティブ投資の選択肢が増えることで運用の幅が広がります。

二重課税の回避

通常、株式会社においては、法人において得られた利益に対してまず法人税が課され、税引き後の当期純利益を、株主に対して配当金という形で分配します。このとき、株主が受け取る配当金にも課税が行われるため、法人と個人、双方に課税の義務が生じます。

一方、不動産証券化においては、一定の条件(※8)を満たすことで、SPVは、不動産から得られる賃料及び売却益に関して、法人税の課税を回避することができると定められています。

つまり、不動産証券化の手法を用いることで、投資家は、SPVが得られる収益の全てが課税されずに投資家へ還元されるようになるというメリットを享受できます(SPVから投資家に対して行われる配当に関する課税義務は当然生じます)。

不動産証券化ビジネスの市場規模

上記の通り、不動産投資における各プレーヤーに様々なメリットがあることから、不動産証券化市場は拡大を続けています。

個人が投資可能な不動産証券化商品の代表格であるJ-REITは、2001年9月に三井不動産と三菱地所が設立した、「日本ビルファンド投資法人」及び「ジャパンリアルエステイト投資法人」の上場によって、その歴史が始まりました。

現在では、上記の通り全61銘柄、各銘柄が保有する不動産の資産規模は2022年3月時点で約21兆円(※9)まで市場は成長しています。J-REIT市場は、2001年の運用開始からリーマン・ショック等の大きな市場変動の影響も受けました。しかし、今まで一貫して資産規模が成長していることを考えると、今後も堅調な成長が続く可能性が高いと考えられます。

また近年では、J-REITに限らず、主に機関投資家が投資家となる非上場の不動産ファンドについても、資産規模にして約24兆円(※10)まで拡大しており、活況を呈しています。

まとめ

不動産証券化は、上記の通りオリジネーターと、投資する側、どちらにもメリットがあります。個人による資産形成の重要性が益々増加している現在、不動産証券化市場もそれに伴って今後さらに拡大していくことが見込まれます。

また、REITにおいては、デベロッパー等の不動産会社にとどまらず、鉄道会社や金融機関等、様々なプレーヤーの参入が続いています。今後の不動産証券化市場に注目していきましょう。

  • (※1)不動産証券化協会『不動産証券化ハンドブック 2019』 12ページ
  • (※2)不動産証券化協会『マスター養成講座テキスト 不動産証券化の概要』 10ページ
  • (※3)不動産証券化の概念は幅広く、オフィスビルや住居、商業施設、底地等の不動産そのものから得られるキャッシュフローを証券化したものから、住宅ローンをひとまとめにして証券化したRMBS(Residential Mortgage Backed Securities)や、商業不動産ローンを証券化したCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)なども不動産証券化に含まれますが、本稿では、前者の不動産そのものの証券化について取り上げています。なお、いわゆるサブプライムローンの証券化商品が不良債権化したことにより、リーマン・ショックの引き金となったことはご案内の通りです。
  • (※4)取引所に上場せず、機関投資家のみが投資家となる私募のREITも存在しています。
  • (※5)2022年4月現在。
  • (※6)REITの先進国である米国においては、このような一般的な不動産だけでなく、データセンターや刑務所といった資産を保有している投資法人も存在します。
  • (※7)ただし、オリジネーターが、自らのグループ会社等が運用を行うSPVへ自らが保有する不動産を売却するケースにおいては、オリジネーターが利益を得るためにSPVに不当に高額で不動産を購入させるといった、投資家の不利益となる利益相反行為が発生しないよう、利益相反回避措置の必要性が生じる場合もあります。
  • (※8)満たす必要のある条件は「導管性要件」と呼ばれますが、不動産証券化のどのスキームを選択するかによって内容は異なります。
  • (※9)不動産証券化協会 『ARES マンスリーレポート(2022年3月)』
  • (※10)株式会社三井住友トラスト基礎研究所 『不動産私募ファンドに関する実態調査 2022年1月』

参考文献
1.『不動産証券化ハンドブック 2019』 不動産証券化協会
2.『不動産証券化の概論』 不動産証券化協会

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