コーポレートガバナンス・コード改訂のポイントとスチュワードシップ・コードとの違い

上場企業に遵守が求められる経営の原則「コーポレートガバナンス・コード」が、2018年に改訂されました。企業は新しい「コード」(規則)に沿った経営が求められています。 本記事では、コーポレートガバナンス・コードの基礎知識を紹介したうえで、2018年に改訂された理由と、改訂の内容を解説。 また、コーポレートガバナンス・コードと混同されやすいスチュワードシップ・コードとの違いについても紹介します。

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コーポレートガバナンス・コードの目的は国際競争力へのテコ入れと東京株式市場の国際的価値向上

コーポレートガバナンス・コードは、コーポレートガバナンスを実現するためのガイドラインとして参照すべき規則、指針のことです。2015年に金融庁と東京証券取引所が策定しました。コーポレートガバナンスとは、「会社は経営者ではなく、株主のもの」という考え方のもと、企業経営を監視する仕組みです。

コーポレートガバナンス・コードの主な目的は、「日本企業の国際競争力にテコ入れをすること」と、「国際金融市場としての東京株式市場の価値向上をねらうこと」でした。

・・自己資本利益率5.3%という日本企業の国際競争力にテコ入れ
コーポレートガバナンス・コードが策定された目的の1つは、日本企業の国際競争力に対するテコ入れです。経済産業省は2014年に「持続的成長への競争力とインセンティブ」を公表し、日本企業の国際競争力が低いことを明らかにしました。

伊藤レポートとも呼ばれるこの報告では、日本企業のROE(自己資本利益率)は5.3%で、アメリカ企業の22.6%、欧州企業の15.0%と比べると見劣りすることなどが紹介されました。[注1]

そこで金融庁と東京証券取引所は、日本企業の国際競争力の低さは、利益を配当や設備投資、賃金などに反映することに消極的な経営者の姿勢にあると考え、「国際基準」を盛り込んだコーポレートガバナンス・コードの導入に踏み込みました。

[注1] 経済産業省 持続的成長への競争力とインセンティブ
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf

国際金融市場としての東京株式市場の価値向上をねらう

コーポレートガバナンス・コードを導入したもうひとつの目的は、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コード策定に関わっていることからわかるとおり、国際金融市場としての東京株式市場の価値向上です。

政府や市場関係者には、海外投資家による対日投資の低迷に対して、危機感がありました。対日投資が低迷すれば、国際金融市場としての「東京」の地位が低下し、株式投資が減少すれば企業の時価総額も縮小してしまいます。

政府は、日本企業の魅力を海外投資家にも認められるほどに高めるには、コーポレートガバナンスの見直しが欠かせないと考えました。政府機関である金融庁がコーポレートガバナンス・コードの策定に関わっているのはそのためです。

コーポレートガバナンス・コードが改訂された理由とは

コーポレートガバナンス・コードが策定された2015年6月からわずか半年後の2015年12月末には、上場企業2,500社が、コードへの対応状況を公表しました。そして、2,500社の約8割が、コードの内容を実施しました。[注2]

また、独立社外取締役を2名以上専任する東証一部上場企業の比率は、2014年には21.5%でしたが、2015年には48.4%へと急増しました。その後も増え続け、2019年には93.4%に達しています。[注3]

金融庁と東京証券取引所が設置したフォローアップ会議は、「コーポレートガバナンス向上への動きが広がっている」と、コーポレートガバナンス・コードを高く評価しました。

それではなぜ、コーポレートガバナンス・コードを改訂することにしたのでしょうか。それは、コーポレートガバナンス改革を、より深めていくいく必要があったためです。
関係者が感じていた、コーポレートガバナンス改革の不十分さは、次のとおりです。

  • *経営陣による果断な経営判断が浸透したとは言い難い
  • *投資家と企業との対話が形式的なものになっている

「対話」については、金融庁が「投資家と企業の対話ガイドライン」を策定したほどで、コーポレートガバナンス改革はまだ道半ばだったわけです。

そこで金融庁と東京証券取引所は「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)を開いて検証をしたうえで、コーポレートガバナンス改革をさらに推し進めるためとして、改訂版を2018年に策定しました。

[注2]金融庁 会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」 意見書(2)
https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/statements_2.pdf

[注3] 東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況 株式会社 東京証券取引所
https://www.jpx.co.jp/listing/others/ind-executive/tvdivq0000001j9j-att/nlsgeu0000045s6o.pdf

スチュワードシップ・コードとの違い

コーポレートガバナンス・コード改訂の中身を紹介する前に、スチュワードシップ・コードについて解説します。
この2つのコードは、どちらもコーポレートガバナンス改革をテーマにしているうえに、両方に「コード」がつくので混同されがちです。

コーポレートガバナンス・コードは企業向けでスチュワードシップ・コードは投資家向け

スチュワードシップ・コードは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や金融機関などの機関投資家が、投資と対話を通じて、企業に持続的成長を促すための指針です。正式名称は「『責任ある機関投資家』の諸原則」といいます。

つまり、スチュワードシップ・コードは投資家向け、コーポレートガバナンス・コードは企業向けの指針です。この2つのコードは、コーポレートガバナンス改革において、どちらが欠けてもいけない存在になっています。

スチュワードシップ・コードの目的は、コーポレートガバナンス改革を「形式的なもの」から「実質的なもの」に深化させることです。そのために、例えば機関投資家に対し、企業と建設的な対話を進めるよう促しています。

スチュワードシップ・コードのいま

スチュワードシップ・コードは、定期的に有識者会議を開くなどして、更新の動きが続いています。2014年2月に作成されたスチュワードシップ・コードは、わずか3年後の2017年5月に改訂版が発表されました。
改訂の背景には「コーポレートガバナンス改革が、まだ形式的な対応にとどまっているのではないか」といった厳しい意見が出されたことなどがあります。機関投資家による企業への改革プレッシャーは、今後も強化されるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの詳細

それでは、コーポレートガバナンス・コードの詳細についてみていきましょう。

コーポレートガバナンス・コードは5章で構成

コーポレートガバナンス・コードは5つの章で構成されています。それぞれの章の概要を紹介します。
改訂のポイントについては後段で解説します。

第1章には株主の権利・平等性の確保を記載

コーポレートガバナンス・コードの第1章には「株主の権利・平等性の確保」について書かれています。上場企業には、株主の権利が実質的に確保されるよう、適切な対応が必要です。そのために、上場企業は株主の権利が守られるような環境を整備しなければなりません。
株主の平等性とは、少数株主や外国人株主に配慮し、その権利を確保することを指しています。

第2章では株主以外のステークホルダーとの適切な協働を解説

第2章には「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」について書かれています。株主以外のステークホルダーとして、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会を挙げています。

第3章は適切な情報開示と透明性の確保を解説

第3章には「適切な情報開示と透明性の確保」について書かれています。開示すべき情報として、財政状態、経営成績、財務、経営戦略、経営課題、リスク、ガバナンスを挙げています。
さらに、上場企業は法令に基づく情報開示以外でも、情報提供に主体的に取り組まなければならない、とも指摘しています。

第4章には取締役会などの責務が記載

第4章には「取締役会などの責務」について書かれています。責務として、受託者責任と説明責任を挙げています。
取締役会には、持続的成長と中長期的な企業価値の向上を実現し、収益力と資本効率を改善する責務があり、これを果たすには、次の3項目を実行しなければならないとしています。

  1. *1.企業戦略など、大きな方向性を示す
  2. *2.経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行う
  3. *3.独立した客観的な立場から、経営陣や取締役に対し実効性の高い監督を行う

第5章は株主との対話に着いて解説

第5章には「株主との対話」について書かれています。上場企業は、企業価値を向上させる観点から、株主総会以外の場でも、株主と建設的な対話をする必要があります。
経営陣幹部や取締役は、株主の声に耳を傾けたうえで、経営方針について明確に説明する努力が求められます。

2018年の改訂のポイントは大きく5つ

2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂(以下、2018年改訂)の主なポイントは、次の5点です。

  1. *経営資源の配分に関して
  2. *経営トップ選任のプロセスに関して
  3. *役員報酬の決定に関して
  4. *独立した委員会に関して
  5. *取締役会に関して

いずれも重要なので、1つずつ解説します。

経営資源の配分に関して

コーポレートガバナンス・コードではこれまでも、企業と投資家との対話を重視してきました。2018年改訂ではさらに踏み込んで、企業に対し、資本コストを踏まえた計画を策定するために、具体的な経営資源の配分を投資家に提示するように求めました。

経営トップ選任のプロセスに関して

2018年改訂では、経営トップ選任のプロセスを明確にするよう求めています。具体的には次のような内容になっています。

  • *取締役会が、後継者計画の策定・運用に主体的に関与する
  • *取締役会が、後継者候補育成の監督を行う
  • *客観性、適時性、透明性のある手続きにしたがって経営トップを選任する
  • *経営トップの解任手続きを確立する

役員報酬の決定に関して

役員報酬の決定について、2018年改訂では「客観性、透明性のある報酬制度を設計し、その制度にしたがって報酬額を決定するよう」、取締役会に求めています。

独立した委員会に関して

独立社外取締役の活用はコーポレートガバナンス・コードの大きなテーマになっていますが、2018年改訂でもこの点を深掘りしています。
十分な人数の独立社外取締役を選任するとともに、独立社外取締役を主要な構成員とする指名委員会や報酬委員会を設置するよう求めました。

取締役会に関して

取締役会に関しては、監督機能を強化するよう求めています。その具体策として、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立した取締役構成を挙げています。
さらに、適切な経験や能力、そして必要な財務、会計、法務に関する知識を有する監査役の専任することも求めています。

コードの改訂を自社のコーポレートガバナンス改善のきっかけに

「規則」は、つくりっぱなしではいずれ陳腐化します。それはコーポレートガバナンス・コードも同じで、改訂を繰り返すことで内容が深まり、その価値を維持できるでしょう。

企業の経営陣にとって、コーポレートガバナンス・コードの改訂は、自社のガバナンスをアップデートする良いきっかけになるはずです。
コーポレートガバナンス・コードを「知って終わり」にするのではなく、どうすれば自社にとって実効性のあるガバナンスをつくることができるのか、常に問い続け、改善していくことが求められています。

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