ついに来た日産・ホンダ協業 文化の違いを乗り越えられるか

「ついに来た」というのが率直な感想である。

3月15日、日産自動車とホンダが、自動車の電動化と知能化に向けて包括的な協業の検討を始めると発表した。電気自動車(EV)の中核部品や車載ソフトウェアなど幅広い分野で共通化を目指し、事業を効率化するという。

両社の協業は4年前にも取りざたされたことがある。筆者もいずれ協業する可能性は十分あると見ていた組み合わせだ。成否のカギは「水と油」ともいわれる企業文化の違いを乗り越えられるかにありそうだ。

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過去に統合報道も立ち消え

過去に統合報道も立ち消え

日産とホンダの組み合わせは過去にも取りざたされた。2020年、英紙フィナンシャル・タイムズが、日本政府当局者が両社に統合するよう働きかけたと報じた。

最初に企業側に打診があったのは2019年末で、両社とも提案を拒否し、コロナ禍の混乱もあって計画は立ち消えになったという。当時日刊工業新聞の記者だった筆者はこの報に触れ、「経済合理性から十分ありうる組み合わせだし、日本の自動車産業という点から見てもよい組み合わせだが、統合は難しいだろう」と思った。

トヨタとの差が広がる

トヨタとの差が広がる

トヨタ自動車はこの10年間で、世界販売を着々と積み上げ、グループで安定的に年1000万台を越えるようになった。スズキ、マツダ、SUBARUとは資本提携し勢力を拡大してきた。

かたや、ホンダと日産は拡大路線が裏目に出て世界販売は縮小、トヨタとの差が開いている(2023年の世界販売はホンダが398万台で国内2位、日産337万台で国内3位)。

国内の自動車メーカーというくくりでみれば、「トヨタ一強体制」が鮮明になる中で、自動車産業の健全な発展には、トヨタの対抗馬が必要だと筆者は感じていた。日産とホンダの世界販売を合わせるとトヨタに比肩する規模感となり、よい組み合わせだ。だが、その組み合わせを実現するには企業文化の違いが大きな壁になるだろうとも考えていた。

「水と油」の企業文化

「水と油」の企業文化

両社の社風を知る関係者であれば、この考えに賛同していただけるだろう。私も記者時代に何度も直接両社を取材して社風の違いを強く感じた。

例えば、ホンダには個性の強い役職員が多い。創業者の本田宗一郎氏に憧れて入社した人も多く、独創的な精神が一部で受け継がれていると感じる。「ワイガヤ」の文化が残り、取材対応も各人が自由に発言するため、整合が取れなくて原稿執筆に困った経験もある。

ホンダの国内拠点では外国人の従業員をほとんど見かけなかった。現在、外国籍の役員はゼロである。ただし、ホンダは米国を筆頭に地域の独立性が強く、本社が各地の判断を尊重する面が強いように見えた。

日産は、カルロス・ゴーン元会長という強烈なリーダーがいたため、その他役職員の個性は見えにくい反面、統率は取れていた。日本本社にも外国人が多く、役職員の多国籍化が進んでいる。

当時、ホンダはハイブリッド車に力を入れ、日産はEVに傾注。電動化や技術の方向性も一致していない部分が多かった。両社と長い取引関係があるサプライヤー幹部は「両社の文化は水と油だ」と表現する。

両社を取り巻く環境は激変

両社を取り巻く環境は激変

それほど文化が異なる両社トップが並んで会見に臨む姿を見て隔世の感を禁じ得ない。

カルロス・ゴーン元会長が去り、エンジン志向の強かったホンダの三部敏宏社長が脱エンジン宣言をした。15日の会見で、日産の内田誠社長は「新興メーカーが圧倒的な価格競争力で市場を席捲している。業界の常識、手法に縛られていては到底、太刀打ちできない」と危機感をあらわにしたが、米国や中国を中心に新興EV勢力が台頭するなど競争環境も大きく変わった。

先述のフィナンシャル・タイムズの報道では、ホンダが日産とルノーとの複雑な資本構造を理由に拒否した、と伝えた。その後、日産は、積年の課題だったルノーとの不均衡な出資関係を対等化することに成功。日産の資本構造の変化も、両トップの背中を押したことは想像に難くない。

問われる踏み込んだ協業

問われる踏み込んだ協業

協業は検討に入った段階で、これからが肝心である。報道によると、車載電池やモーター、駆動装置「eアクスル」を共通化するといい、調達面でスケールメリットが享受しやすい。

日産系・ホンダ系サプライヤーは、トヨタ系と比べて業績が低迷しているメーカーが目立っており、関連部品のサプライヤーの再編に発展するかもしれない。

一方、開発はプロセスや要件が異なるだけでなく、企業文化の違いが大きな足かせとなりそうだ。企業文化は一朝一夕では変わらない。激しい国際競争で生き残るには、大きな効果が期待できるプラットフォーム(車台)の共通化など、踏み込んだ協業が求められる可能性があり、文化の違いを乗り越えられるか問われる。

実りある協業期待

冒頭の「ついに来た」というのは、なかなか進まなかったことが動き始めたという意味合いのほかに、期待感も込めている。

両社が実りある協業を実現し、トヨタグループの好敵手となって日本の自動車産業を活性化させてほしい。

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