ジャストインタイムとは?メリットや3原則について解説【事例あり】

トヨタ自動車株式会社が生み出し有名となった「ジャストインタイム」。 各工程に必要な部品を、流れるように停滞なく生産する原理原則を据えた生産方式で、幅広い業種業界の生産現場に導入されています。 知名度が高い一方で、具体的なメリットや事例についてはわからないという人も多いのではないでしょうか。 そこで、本記事では、ジャストインタイムのメリットや3原則、社会的影響を与えた事例について解説します。

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ジャストインタイムの意味

ジャストインタイムは、生産ラインのムダを排除するため、必要な部品を必要なだけ供給する生産方式です。
生産の過程で生じる過剰在庫の解消による企業の業績向上を狙いとしています。

この生産方式は、トヨタ自動車創業者・豊田喜一郎氏が生み出しました。
生産現場に定着したのは、1940年代後半ですが、喜一郎氏は、本社工場が竣工した1938年の雑誌インタビューで、自社の生産方式をジャストインタイムと表現しています(注2)。

その後、ジャストインタイムは、3代目の石田退三らが喜一郎氏の遺志を継いで磨き上げ、今では同社のみならず、製造業の効率化に欠かせない生産方式です。

ジャストインタイムのメリット

ジャストインタイムは、製品生産で生じる無駄の排除とともに、多品種少量生産により顧客の多様なニーズの充足を可能にします。

メリットはそうした効用に付随する内容だと考えてよいでしょう。

この生産方式のメリットは、在庫量の適正化とコストの削減、販売機会獲得の三つに集約されます。

メリットを知っておくと、ジャストインタイムの本質を掴みやすくなるため、正確に理解しましょう。

在庫量の適正化

1つ目のメリットは在庫量の適正化です。
必要な部品だけを前工程に送る生産方式は、過剰在庫を抱えるリスクの低減を可能としています。

商品名・品番・保管場所など作業内容を明記した指示書「かんばん」を使った生産管理方式である「かんばん方式」も、在庫の圧縮を支えています。

かんばんは、組立ラインへの部品の運搬を指示をする引き取りかんばんと生産指示かんばんの2種類があり、工程間の情報を媒介する役割を担っています(注3)。

これにより、前工程は、かんばんの指示通りに生産することで無駄を省ける一方、後工程もかんばんを見ると部品使用の詳細を確認できる仕組みとなっているのです。

コストの削減

在庫の適正化によってコストを削減できる点も大きなメリットです。

一般的な生産現場では、生産にかかる原材料費や人件費、光熱費のほか、在庫管理のコストなどの固定費を抱えています。

ジャストインタイムによる在庫の適正化は、場所や時間、雇用コストを圧縮するため、あらゆる固定費の削減が可能です。

販売機会の獲得

販売機会の獲得を後押しするメリットもあります。

製造から検品までの所要時間が短く、スムーズな納品が可能となり、「早く製品を手に入れたい」という顧客ニーズを満たせるからです。

スムーズな納品は、後工程引き取り生産により実現できます。

後工程引き取り生産は完全受注生産と違い、必要な部品が前工程で準備されているからです。

この結果、各工程の待ち時間短縮を実現します。

ジャストインタイムの3原則

ジャストインタイムは、必ずしもすべての現場に適用できるわけではありません。

前提条件に加え、3原則を満たす製造現場でなければ、生産効率の低下を招く可能性があります。

ここからは、前提条件である平準化生産、3つの原則である工程の流れ化、必要なタクトの決定、後工程引取りを紹介します。

前提条件となる平準化生産

重要な前提条件となるのが平準化生産。平均化した生産体制が構築できなければ、高品質な製品の安定供給が難しいためです。。

平準化は、生産予定の数量と品目を分析後、数量の多いものから進めていきます。

これと並行し、前工程と後工程の関連性を明確にして整流化を進め、ロットサイズの最小化を考えつつ平準化計画を決定します。

こうした試行錯誤の結果、各工程の負荷のバラツキがなくなり、労働力と機械設備効率の向上が促されるのです。

工程の流れ化

3原則の1つ目は、工程の流れ化です。
これは工程内、工程間での物の停滞をなくし、一個流し生産を行うことで、生産工程の修正に必要な要素だといわれています。

一個流し生産は、1工程に始まり、続いて2工程から3工程といった具合に、1つの製品を順序立てて生産します。

工程がシンプルで、作業停滞の原因がすぐに特定できるため、問題点が修正しやすくなるのです(注4)。

必要数による作業速度決定

3原則の2つ目は、生産の必要数によるタクトタイム(作業速度)の決定です。

計画生産数から逆算した作業速度での生産は、余分な作業時間を減らせます。

タクトタイムは、1日の労働時間/1日の必要数で計算します。

例えば、1日の稼働時間8時間(480分)に対し、1日の必要生産数が480個である場合、タクトタイムは1分です。

もし必要数が減少した場合、作業人員の削減などで作業速度を落として対応できます。

後工程引取り

3つ目の原則は後工程引取りです。
後工程引取りは、後工程で必要な部品を、必要なタイミングで必要な分量だけ前工程から引き取る生産方式です。

前工程は、後工程が引き取った分量だけを生産します。

従来の生産方式と比べて、必要以上の分量を生産しないため、過剰在庫や固定費などの削減につながります。

ジャストインタイムが社会的影響を与えた事例

ジャストインタイムは、高品質、低価格、迅速な生産を実現するシステムとして、製造業をはじめとする産業界に影響を与えました。

その影響は大きく、ものづくりに限らず、さまざまな分野に応用されています。
ここからは、ジャストインタイムがどのような社会的影響を与えたのか、その一例を紹介します。

サプライチェーン

商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達や製造、販売、消費などの一連の流れであるサプライチェーンは、大きな影響を受けた社会ジャンルです。

例えば、コンビニエンスストア大手の一角を成すセブン・イレブンは、ジャストインタイムの思想を応用し、単品管理と呼ばれる経営システムを開発しました。

単品管理は、商品の発注数量や陳列方法について単品単位で仮説を立て、販売結果を検証した後、仮説を見直す販売管理手法で、事業の高収益化を実現させています。

このほか、売れ筋や売れ行きに応じて商品を補充するプル販売システムも、ジャストインタイムを取り入れたサプライチェーンの手法と言えるでしょう。(注5)

ソフトウェア技術

ソフトウェア技術の開発手法にも、ジャストインタイムの思想が取り入れられています。

例としては、ソフトウェアの開発中に発生するさまざまな状況変化に対応しつつ開発を進めるアジャイル開発が挙げられます。

アジャイル開発は、必要に応じて分析・反復・実装・テストを繰り返す反復開発がベースです。

加えて、バグ発生時点で修正するフィードバック機能を包含しているため、ものづくり領域と遜色ないレベルで改善のサイクルを素早く回す仕組みを構築しています。

物流

ジャストインタイムは、物流システム「ジャストインタイム物流」を誕生させています。

ジャストインタイム物流は、必要な物を、顧客が求めるタイミングに、必要な量だけ配送する物流システムです。

大手物流企業や日本郵便が導入し、郵便物や荷物、小包の仕分け・発送作業の効率化、人件費や輸送費といったコストの大幅削減を実現しました。

ジャストインタイムは生産性向上に寄与する

ジャストインタイムは、必要に応じた製品供給実行のため、在庫量を減らし、生産性向上につながるのは確かです。
業務の見える化も進み、業務改善の推進効果も見込めます。

在庫切れ発生のリスクや都度の部品運搬に伴う下請け業者への負担増といった課題はありますが、導入によって事業が成功する可能性は高いといえるでしょう。

引用(参考)
注1:宮﨑茂次、太田宏「ジャストインタイム生産における管理技術の動向」情報処理、1990年

注2:トヨタの元工場責任者が教える 入門トヨタ生産方式|石井正光(KADOKAWA)

注3:宮﨑茂次、西山徳幸「トヨタ生産システムにおけるかんばん方式の最適運用法」日本経営工学会誌、1985年

注4:前田淳「トヨタシステムの構築とその意義」慶應義塾大学出版会、2009年

注5:小島貢利、田村隆善「ジャストインタイム の社会的影響に対する一考察」日本経営診断学会全国大会予稿集、2008年

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