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コストリーダーシップ戦略とは?差別化戦略・集中戦略との違いや企業の成功事例を解説
新商品・新サービスを開発する際、「いくらで生産して、いくらで販売するのか」という価格設定が重要なポイントになります。商品・サービスの価格を検討するうえでキーワードとなるのは「コストリーダーシップ戦略」です。今回はコストリーダーシップ戦略の概要のほか、差別化戦略や集中戦略との違い、メリット、リスク、実践した企業の事例などについて解説していきます。
コストリーダーシップ戦略は ポーターの3つの基本戦略のひとつ
コストリーダーシップ戦略とは、他社よりも低コスト・低価格を実現することによって競争優位性を獲得する戦略フレームワークのことです。アメリカの経営学者でハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が提唱した「3つの基本戦略」の1つとして知られています。
ポーターの3つの基本戦略
マイケル・ポーター氏は、市場において競争優位性を獲得するためには3つの基本戦略があるとしました。
コストリーダーシップ戦略
上図のとおり、コスト面で競争優位性を築くのがコストリーダーシップ戦略です。コストの削減によって商品・サービスを安価で提供し、市場の価格決定権を握ることで、競合他社との競争に打ち勝っていきます。
コストリーダーシップ戦略が実現されている状態では、市場価格の下落によって収益を担保できなくなった企業は撤退せざるを得なくなります。
コストリーダーシップ戦略をとっている企業例としては、次の企業などが挙げられます。
- サイゼリヤ
- ユニクロ
- ニトリ
- マクドナルド
- Amazon
- ソフトバンク
- すき家
- HIS
- コストコ
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差別化戦略
差別化戦略とは、コスト以外の要素によって競争優位性を獲得する戦略フレームワークです。
競合他社にはない独自の特徴を活かし、商品やサービスを差別化することで、顧客を獲得します。
差別化戦略の成功例としては、次の企業が挙げられます。
- スターバックス
- モスバーガー
- オリエンタルランド
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集中戦略(コスト集中戦略・差別化集中戦略)
集中戦略とは、対象とする市場を特定のセグメントに絞って競争優位性を獲得する戦略フレームワークです。業界における特定のエリア、特定の顧客層などに経営資源を集中投下していきます。
集中戦略での成功例としては、次の企業などが挙げられるでしょう。
- スズキ
- シャープ
- 住友林業
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差別化戦略や集中戦略との違い
コストリーダーシップ戦略と差別化戦略は、コストで勝負するのか、コスト以外の要素で勝負するのかという点で大きく異なります。
上図のように、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略は並列で語られるべき戦略ですが、集中戦略は位置付けが違います。集中戦略は、特定のセグメントに絞って集中的にコストリーダーシップ戦略、もしくは差別化戦略を展開していきます。
業界全体に対して行うのがコストリーダーシップ戦略と差別化戦略であり、この2つの戦略を特定のセグメントに絞って行うのが集中戦略という関係です。
その他の類似する戦略、用語の意味についても、次で理解しておきましょう。
低価格戦略との違い
「低価格戦略」は、販売価格を下げてマーケットシェアを獲得する戦略という点でコストリーダーシップ戦略に類似しています。
しかし、低価格戦略は利益を度外視した「安売り」を実施するため、コストを抑えたうえで販売価格を下げ、収益性を担保するコストリーダーシップ戦略とは目的の面で大きく異なります。
プライスリーダーシップとの違い
「プライスリーダー」とは、商品の価格設定において業界で主導権を握るリーダー企業を指します。
コスト削減によって競争力を得るコストリーダーシップとは異なる概念ですが、コストリーダーシップ戦略の導入によってプライスリーダー企業になる、という傾向もあります。
コストリーダーシップ戦略を実行する方法
コストリーダーシップ戦略は安さを武器にして市場で戦いますが、ここで言う「安さ」とは採算度外視で安売りすることではありません。原価・コストを下げることで、商品やサービスを安く提供することが本質です。
つまり、コストリーダーシップ戦略を実行するにあたっては、「いかに低コストで生産・販売するか」が焦点になってきます。
ここではコストを下げるための大原則として、「規模の経済性」「経験効果」「学習曲線による経済性」の3つを理解しておきましょう。
規模の経済性(スケールメリット)
規模の経済性(スケールメリット)とは、規模の拡大によって得られる効果や優位性を指します。
具体的には、生産量の増加によって1製品あたりの生産コストが下がるという状態です。大規模な設備投資を行うことで生産量を増加させ、規模の経済性を働かせるケースが好例でしょう。
生産量の増加によって生産単価が下がる現象は、大きく2つの要因で説明されます。
固定費が分散される
固定費は、製品を生産しても生産しなくても発生するコストです。ベーカリーを例に挙げると、お店の家賃やオーブンなどの設備費が固定費になります。製造量が多いほど固定費は分散され、1製品あたりの固定費は低くなります。
変動費を低減できる
変動費は、製品の生産量が増えるほど増加するコストです。ベーカリーで言えば、小麦粉や砂糖が変動費になります。
パンの製造量が増えれば変動費も増加しますが、大量の仕入れを一括して行うことで、価格交渉力を高めて好条件での購入ができるようになります。
こうした方法で、仕入れコストを低減できるケースがあるのです。
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経験効果(経験曲線)
経験曲線(経験効果)とは、累積生産量が増加するにつれて1製品あたりの生産コストが下がるという関係性を表す曲線です。一般的には、累積生産量が2倍になると、1製品あたりのコストが10~30%ほど減少すると言われています。
学習曲線による経済性
また学習曲線(ラーニングカーブ)は、労働者の学習・経験則によって作業能率が上がったり作業の専門化が進んだりすることで、より効率的な生産が可能になるという関係を表した曲線です。
経験曲線はお金や時間を含むコスト全体を示しており、一方の学習曲線は作業にかかる時間を表しています。経験曲線、学習曲線を考慮して取り組むことで、生産におけるコストカットが可能になります。
コストリーダーシップ戦略のメリット
コストリーダーシップ戦略によって低コスト化を実現できれば、販売数増加や利益増加といったメリットが得られます。
販売数増加
コストリーダーシップ戦略によって低コストでの生産が可能になれば、相場よりも安く販売できるようになります。類似する他社製品より価格が安ければ、顧客にとって手に取りやすい商品・サービスとなり、販売数の増加が期待できます。
利益の向上
コストの削減に応じて、必ずしも販売価格を下げなければならないということはありません。コストを下げつつ販売価格を据え置くと、高い利益率を得られるという利点もあるのです。
また他社と比べて利益率が高ければ、不況で売れ行きが低迷しても利益が圧迫されにくくなります。
元の価格設定 :原価800円、販売価格1,000円(利益200円)
原価を200円下げた場合 :原価600円、販売価格1,000円(利益400円)
販売価格を100円下げた場合 :原価600円、販売価格900円(利益300円)
コストリーダーシップ戦略のデメリットやリスク
コストリーダーシップ戦略のデメリットや考え得るリスクとしては、主に以下の3点があげられます。
コストや時間を要する
コストリーダーシップ戦略によって低コスト化を実現するには、大量生産によって規模の経済性を働かせることが重要です。大規模な設備投資や作業員の増員が欠かせず、多額の初期投資が必要になります。
また、経験曲線による経済性によっても低コスト化を図れますが、累積の生産量を増やす必要があるのでコストだけでなく時間もかかります。
価格競争から薄利多売に陥る恐れがある
コストを削減して価格を下げると他社が追随してくるケースも考えられます。競合他社も価格を下げて価格競争に発展すると、より安い価格で販売しなければ競争優位性を保てないため、さらなる値下げを強いられて結果的に利益率は下がっていきます。
ブランドイメージが損なわれる場合がある
すでに一定のブランド力のある商品・サービスは、コストリーダーシップ戦略がマイナスに働く恐れがあります。価格を下げることでブランドイメージが損なわれ、逆に顧客が離れてしまうケースも少なくありません。また、コスト削減に集中するあまりに品質の低下を招く事態は避けなければいけません。
コストリーダーシップ戦略を取るべき企業とは?
コストリーダーシップ戦略で十分な成果をあげるには、一定の経営資源が必要になります。その意味で、コストリーダーシップ戦略は潤沢な経営資源をもつ大手企業に有利な戦略だと言えるでしょう。
また、経験値や技術の優位性もコストリーダーシップ戦略をとるうえで重要な要素になります。
そのため、経営資源が豊富でなく経験値も少ないスタートアップ企業や中小企業にとって、コストリーダーシップ戦略は非常にハードルが高い戦略になります。大手企業に価格競争を挑まれたら、勝算は低いと言わざるを得ません。
では、中小企業が価格競争を避けて市場で勝つためにはどうすればよいのでしょうか。
経営資源が豊富でない企業が価格競争を避けて競争優位性を獲得するには、価格以外の面で差別化を図るのが有効です。つまり、差別化戦略です。
商品やサービスの価格以外にストロングポイントがあれば、価格競争に付き合う必要はありません。
差別化戦略は「付加価値戦略」と言い換えることもできます。たとえば、新たな機能を加えた商品や品質にこだわり抜いた商品、手厚いアフターサポートが付いた商品など、独自の付加価値を提供できるかどうかが重要です。
コストリーダーシップ戦略で成功した企業例
実際にコストリーダーシップ戦略を実行し、成功をおさめた企業の事例を3つご紹介します。
サイゼリヤ
外食チェーンのサイゼリヤでは、コストを削減するためのシステム構築により、低価格なイタリア料理の提供を実現しています。
例えば、次のような取り組みです。
- 自社農場の所有
- コールドチェーン(低温物流体系)での配送システム構築
- 店舗での調理を最低限にするための食材加工
こうした生産性向上を推進するために、専門の部署を設置しています。徹底した生産性向上とコスト削減によって、圧倒的な価格競争力を維持しているのです。
ユニクロ
ユニクロではSPAという手法で、コストリーダーシップ戦略をとっています。
SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)とは、自社でアパレル商品の企画・製造・販売過程を一貫して行う体制です。
中間業者を減らして手数料を抑えたり、販売状況に応じて柔軟に生産量を調整したりすることでコストを削減し、低価格での販売を実現しています。
ニトリ
ニトリもユニクロと同様で、商品企画、原材料の仕入から生産、販売、配送までの過程を一貫して自社で担うシステムによって低価格を維持しています。
そのため、自社で物流センターや配送のための拠点も設けて運営しているのです。
こうした取り組みを始めたのは、会長の似鳥氏が「製品の価格がコストによって定められる」という常識を疑い、顧客が満足する低価格での販売を目指したためです。
さらに1980年代には、原材料の調達や生産拠点を海外に構築することも進められました。当時、海外のビジネスに関する十分なノウハウや知識がないなどの理由で競合他社は追随しませんでしたが、結果としてニトリは低価格を実現し、シェアを広げています。
コストリーダーシップ戦略と差別化戦略で独自の強さを
本記事で解説したコストリーダーシップ戦略や差別化戦略は、どちらかを二者択一で採用するものではありません。
マイケル・ポーター氏は低コスト化と差別化を同時に実現するのは不可能だと言いますが、近年注目されているブルーオーシャン戦略の基礎となる「バリューイノベーション」は、低コスト化と価値向上を同時に実現することで新たな市場をつくり出すという考え方です。
3C分析やSWOT分析、ファイブフォース(5フォース)分析などを用いて、商品・サービスの可能性、自社の経営資源、業界内でのポジションなどを十分に考慮し、レッドオーシャンからブルーオーシャンへの参入も視野に入れながら最適な戦略を見極めていきましょう。
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