スケールメリット(規模の経済)とは?使い方やシナジー効果との違い、具体例をわかりやすく解説

企業や事業の規模拡大にともなって生まれる経済的効果を、総称して「スケールメリット」と言います。ビジネスの現場でよく使われていますが、誤用されるケースも少なくありません。本記事では、スケールメリットの本来の意味や使い方、シナジー効果との違い、業界ごとの具体例などについて詳しく解説します。

シェアする
ポストする

スケールメリット(規模の経済)とは

スケールメリット(規模の経済)とは

スケールメリットとは、簡単に言うとビジネスのスケールアップで得られる効果や優位性のことです。英語では「economies of scale」や「advantages of scale」、日本語では「規模の経済(規模の経済性)」や「規模効果」などと言い換えられます。

スケールアップの例としては、同種製品の大量生産や同業他社との合併などが挙げられます。

例えば、あるベーカリーが200万円のオーブンを導入した場合を考えてみましょう。このオーブンを使って原価50円のロールパンを1個焼きました。この場合、ロールパン1個あたりの製造費用は200万50円です。

では、このオーブンでロールパンを1万個焼いたらどうなるでしょう? 1個あたりの製造費用は250円となります。10万個焼いたら、1個あたりの製造費用は70円です。

ロールパンを1万個焼く場合:(50円 × 10,000個 + 2,000,000円) ÷ 10,000個 = 250円/個
ロールパンを10万個焼く場合: (50円 × 100,000個 + 2,000,000円) ÷ 100,000個 = 70円/個

このように、設備費や人件費、家賃などの固定費の割合は製造量が多くなるほど少なくなります。製造規模の拡大でコストが削減され、利益率が高まっていく。これが「スケールメリットが生まれる」ということなのです。

「シナジー効果」や「範囲の経済」との違い

スケールメリットと混同されやすい言葉として、「シナジー効果」や「範囲の経済」があります。

シナジー効果との違い

シナジー効果とスケールメリットの違いは、その対象や具体的な効果に表れます。
シナジー効果とは、複数の要素が補完しあって生まれる「相乗効果」です。
異なる事業を同時に実施することで得られるシナジー効果に対し、スケールメリットは同一の事業において規模を拡大することにより生まれます。

範囲の経済との違い

範囲の経済とは、1つの企業で扱う製品の種類や事業を増やして全体のコストを下げることです。
1つの製品にかかるコスト(固定費・変動費)は製造量により変わりますが、社内の管理部門(広報・人事・事務など)にかかる固定費は変わりません。
そのため、1つの企業に製品や事業が集約されてコストが低減されている状態を範囲の経済と呼ぶのです。

スケールメリットの使用例

スケールメリットは、一般的に以下のような文章で用いられます。

▼例文

  • 産業用ロボットを導入して工場を拡大し、スケールメリットの活用に成功した。
  • 外食産業は、店舗数増加やエリア拡大によってスケールメリットを享受している。
  • 全国展開するFCに加盟して、大きなスケールメリットを得る。
  • 一括大量仕入れを行い、スケールメリットを得る小売店は多い。
  • グループ会社の統合によってスケールメリットを生み出した。

スケールメリットによる効果の具体例

スケールメリットによる効果の具体例

次に、スケールメリットによって、具体的にどのような効果が得られるのかを説明します。

生産効率の向上やコスト削減

大量生産によりコストが削減され、生産効率が高まるのは、スケールメリットによる効果の一例です。製品が売れる前提ですが、同じ製品を大量に生産するほど設備機器の稼働率が高まります。

同じような製造工程のルーティン化によって、作業者の習熟度も高まります。作業の質やスピードの向上が期待できるため、結果的に生産効率が向上し、人件費の削減にもつながるのです。

知名度や信頼性の向上

スケールメリットを生み出すと、企業・製品の知名度や信頼が高まり、新規顧客の獲得にもつながります。わかりやすい例が、コンビニやスーパー、飲食店などのチェーン展開です。

販売数や店舗数の増加に伴い、展開するエリアが拡大すれば、より多くの消費者に認知されて知名度が向上します。広範囲にわたる広告宣伝によって「どこでも変える商品」「どこに行ってもある店」という認識が浸透すると、信頼やブランド力が高まるのです。
その結果、競合他社に対する優位性が生まれ、集客や売上の向上につながっていくでしょう。

スケールメリットの注意点|スケールデメリットとは

スケールメリットの注意点|スケールデメリットとは

スケールメリットには生産性の向上やコスト削減、認知度アップによる売上増加が期待できる一方で、デメリットもあります。

このデメリットを指す「スケールデメリット」について、具体例を3つ紹介します。

余剰在庫の発生

規模を拡大することによって製品の大量生産が可能になる一方、販売しきれずに大量の在庫を抱えてしまうことも考えられます。この場合、かえって廃棄に余計なコストがかかってしまいます。
スケールデメリットを生じさせないためには、適切な生産量の見極めと、余らせずに販売する仕組みの整備が重要です。

機動力の低下

事業統合などによる規模拡大は、組織としての判断や決定のスピードの遅延というスケールデメリットを生じさせる恐れがあります。融通の利かない企業の体質や、伝言ゲームのような不確かな伝達、組織文化の違いなどを原因として、決定が遅れてしまうのです。
このような点に注意して、円滑な意思疎通を意識した事業統合を推し進める必要があります。

品質やサービスの低下

自社で事業規模を拡大していくためには、仕入先も重要です。
スケールメリットを得るために事業拡大を図っても、仕入先の業績不振や倒産があると、事業が立ち行かなくなります。もちろん、仕入先の変更や追加はできますが、コストの増加や品質低下の可能性は否定できません。

フランチャイズビジネスにおいても、出店範囲の拡大を優先して、スケールデメリットが発生するケースがあります。家賃の高い場所や立地の悪い場所に出店すると、結果的に利益率が低下してしまうのです。

スケールメリットを活用した事例

スケールメリットを活用した事例

スケールメリットは様々な業界で得ることが可能です。ここではスケールメリットを活かした具体的な事例をご紹介します。

  • 製造業
  • 運送業
  • 小売業・飲食業
  • 教育業
  • 人材業

製造業は「固定費削減」

製造業では、工場の建設や機械の導入に巨額な投資が必要です。工場が稼働率が上がって生産量が増加すると、固定費率が下がり、スケールメリットが生じます。

特に、近年の製造業においては、FA(工場自動化)の急速な進展が顕著です。製造から出荷までの工程でより多くを自動化できれば、人件費の割合も減少し、さらなるスケールメリットが期待できるでしょう。

具体例として、開発や生産コストがかさむEV(電気自動車)などの領域で、スケールメリットを追求するための日産自動車とホンダの協業が直近で検討されています(2024年7月時点)。部品点数が少ないEVは、エンジン車と比べて量産効果が重要なのです。

▼関連記事はこちら
EVへの移行とエンジン部品の今(1)マフラー

運送業は「配送の効率化」

運送業もスケールメリットを活用して配送を効率化することにより、固定費の削減が見込めます。運送にはガソリンなどのエネルギー代、車検費用、修理費などの車両の維持費や人件費といったコストが必要です。

より多くの荷物を目的地ごとに分けて1台のトラックなどに混載することで、荷物1つ当たりの配送にかかるコストを抑えられます。
また、物流拠点の増加によって、輸送ルートを効率化できるといった側面も挙げられます。

▼関連記事はこちら
2024年問題を抱える物流会社の特徴とM&Aが提供できるもの

小売業や飲食業は「仕入れコスト削減」

小売業や飲食業におけるスケールメリットは、大量仕入れによるコスト削減に現れます。
店舗拡大によって販売量を増やす際は、当然のことながら商品や材料の仕入れを増やすことが必要です。

その際、全店舗分の商品や材料をまとめて大量発注することで、仕入れ先から有利な条件を引き出し、コストを削減できる可能性が高まります。コスト削減より販売価格の引き下げも可能になれば、より高い集客効果が見込めるでしょう。

また、店舗数の拡大によって知名度や信頼度が向上するというスケールメリットや、複数企業の共同出資によって発行した商品券やクーポンで集客拡大が見込めるというスケールメリットもあります。

▼関連記事はこちら
再編余地を残すドラッグストア業界  売上高1兆円が生き残りの鍵

教育業は「経営の効率化」

教育業界でも学校や塾の統合・再編の狙いの一つにスケールメリットの享受があります。
複数の学校が組織・業務を統合すると、より効率的な運営体制を構築できるでしょう。

よりレベルの高い教育・研究のためには、施設・設備への投資が欠かせません。統合・再編によって学生の数が増え、スケールメリットを得られれば、投資もしやすくなるでしょう。

また、塾など営利目的の場合も同様です。

多くの教室をもち講師を雇うことで、多くの生徒を受け入れられます。
その分、塾の実績が増えて、知名度もあがるでしょう。
そうしてさらに生徒が増え、講師の経験が蓄積されることで、より充実した教育プログラムを提供できるようになります。

人材業は「ブランド力向上」

人材業界では、事業規模がブランド力になります。
事業を拡大して広告費や人件費が上がっても、取引先や登録者数が増えればスケールメリットを得られ、結果的に利益増につながるのです。

企業合併でもスケールメリットを享受できる

企業の合併は、M&Aの手段の一つです。
スケールメリットの効果を得ることは、企業合併の目的となることがあります。同業種の企業が合併すると一気にシェアが伸び、製品・サービスの販売網拡大が可能です。

企業だけでなく、市区町村の合併によってもスケールメリットが生まれます。複数の自治体が単一の大組織になると、サービスや活動の範囲が広域化し、財政基盤を強化できるのです。

スケールメリットの効果は業界を問わず享受できる

規模拡大によって得られるスケールメリットは、製造業や小売業、飲食業でよく使われる用語です。
加えて、企業の合併や大学の統合・再編などでもスケールメリットの効果は見込めます。

業界や事業形態を問わず、どんな企業でもスケールメリットによる恩恵を受けられる可能性があるのです。ビジネスではスケールメリットを意識することで、より幅広い成長戦略を展開できるでしょう。

▼関連記事はこちら
コストリーダーシップ戦略とは?差別化戦略との違いや企業の成功事例を解説

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事