「革新的な暮らしやすさ」を実現するスーパーシティ構想

スーパーシティとは、AIやビッグデータなどの最新テクノロジーを活用し、社会の課題を解決する未来都市です。

スーパーシティでは、都市OSを軸にして、地域住民に様々なサービスを提供し、住民福祉・利便向上を図ります。

都市OSとは、様々なデータを分野横断的に収集・整理するデータ連携基盤のことです。この仕組みにより、都市内、都市間でのサービス連携やデータ連携が円滑に進みます。

現在日本では、少子高齢化や労働人口減少、地方の過疎化や空き家、都市部の交通渋滞やCO2排出など、様々な課題があります。

このような課題を、最先端技術と規制改革によって解決する試みとしてスタートしたのがスーパーシティ構想なのです。

スーパーシティ法案の成立。内閣府が推進する構想とは?

日本では、2020年5月27日にスーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)が成立しました。[注1]

内閣府特命担当大臣(地方創生)のもと、革新的な暮らしやすさを実現する最先端都市「スーパーシティ」の実現に向けた動きが活発になっています。

スーパーシティの具体像として内閣府は、以下の3つの要素を満たす「まるごと未来都市」の実現を目指すとしています。[注2]

  1. 移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全の10領域のうち少なくとも5領域以上をカバーし、生活全般にまたがること
  2. 2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現すること
  3. 住民が参画し、住民目線でより良い未来社会の実現がなされるようネットワークを最大限に利用すること

3つの要素をそれぞれ詳しく見ていきましょう

①生活全般を横断

エネルギー・交通など個別の分野にとどまらず、生活全般にまたがることが必要です。

以下の10領域のうち、少なくとも5領域以上をカバーする必要があります。

移動 自動走行、データ活用による交通量管理・駐車管理、
マルチモード輸送(MaaS)など
物流 自動配送、ドローン配送 など
支払い キャッシュレス など
行政 パーソナルデータストア(PDS)、オープンデータプラットホームワンストップ窓口、
APIガバメント、ワンスオンリー など
医療・介護 AIホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療・医薬品配達 など
教育 AI活用、遠隔教育 など
エネルギー・水 データ活用によるスマートシステム など
環境・ゴミ データ活用によるスマートシステム など
防災 緊急時の自立エネルギー供給、防災システム など
防犯・安全 ロボット監視 など

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関連記事:MaaS(Mobility as a Service)とは?交通手段の未来の展望を解説

②未来社会の加速実現

一時的な最先端技術の実証実験にとどまらず、未来社会での生活を先行して現実にすることが必要です。

例えば、域内では自動走行のみ限定したり、現金や紙の書類を廃止するなど、2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現する必要があります。

③住民の参画

技術開発側・供給側の目線でなく、住民目線で理想の未来社会を追求する必要があります。

住民が参画し、住民目線でより良い未来社会を実現できるよう、ネットワークを最大限に利用することが重要です。

スーパーシティ構想の課題

上述のように、スーパーシティには、各種サービスの垣根を越えるプラットフォーム「都市OS」が必要です。

都市OSは、行政、物流、交通、観光、防災、社会福祉、教育、金融、環境、水道、電力など、様々なデータを横断的に収集・整理します。

その際に避けて通れないのが、データプライバシーの問題です。

個人情報が一元化されることで超監視社会につながるのではないか、という懸念の声は少なくありません。

トロントのスマートシティプロジェクトで見えた課題

カナダのトロントでは、Googleの兄弟会社「サイドウォークラボ」がスマートシティプロジェクトを主導していました。

同社は、街に埋め込んだ多数のセンサーやカメラから様々なデータを収集・運用していました。

しかし、2020年5月7日、プロジェクトの中止を発表。[注3]

新型コロナウイルスの感染拡大も理由の一つに違いありませんが、地元住民からプライバシーの侵害を訴える反発の声が上がっていたのも事実です。

プライバシーに関わる各種データを、住民の権利を侵害することなく管理する仕組みを構築するとともに、住民の理解を得ることがスーパーシティ実現のカギになるでしょう。

「スーパーシティ」と「スマートシティ」の違いとは?

スマートシティとは、都市の各分野において先進技術の導入・実証を目指すものです。

各国の取り組みとしては、エネルギーや交通などの個別分野において、個別の最先端技術の実証実験を進めるものがメインです。

これに対し、スーパーシティは各分野を横断するデータ連携基盤(都市OS)を軸にして、「まるごと未来都市」をつくることを目指しています。

加えて、スーパーシティは技術者や企業の目線ではなく、住民目線でより良い未来を実現しようとする点においてもスマートシティとは一線を画する取り組みです。

スマートシティの事例

海外におけるスマートシティの事例を3つご紹介します。

Wi-Fiを都市のICT基盤とするバルセロナ

バルセロナでは、2000年からスマートシティプロジェクトが進んでおり、Wi-Fiを都市のICT共通基盤とすることでサービスや生活に大きな変革がもたらされています。

街中にセンサーを張り巡らし、様々なデータを「センティーロ」という統合システムに集約しているのが特徴です。[注4]

  • スマートパーキング:駐車場の空き状況をセンサーで検知・提供することで渋滞緩和を実現。
  • スマートガベージシステム:ゴミ収集箱の空き状況をセンサーで検知することでタイムリーなゴミ収集を実現。収集回数や収集車の走行距離が減少し、コスト削減と同時に排気ガス削減にも成功。
  • スプリンクラー:公園のスプリンクラーは湿度センサーによって噴水の流量を制御。年間約25%の節水と6,000万円近い水道費のコストダウンを実現。
  • 街灯:街灯にセンサーを設置して照度・点灯時間を制御。交通量や通行量、治安情報なども加味して最適化することで電力使用量を約30%削減するとともに犯罪抑止効果も発揮。

AIによる交通円滑化を図る杭州

中国・杭州におけるスマートシティプロジェクトは、セントラルシステムを活用した都市交通の包括的なコントロールと、道路状況の可視化による交通管理が代表的な取り組みです。

杭州では、アリババ系列企業と行政が連携し、交通違反や渋滞対策を推進しています。

道路のライブカメラ映像をAIが自動で収集し、異常を認めた場合に警察に自動で通報する仕組みが運用されているのです。

また、交通状況に応じて信号機を自動で切り換えることで、一部地域の自動車走行速度が15%上昇。

杭州の交通円滑化に大きく寄与しています。[注5]

世界一のスマートシティを目指すドバイ

ドバイは世界一のスマートシティを目指して、都市全体をICTインフラで整備し、官民問わずあらゆる情報をインターネット上で利用できる環境づくりを進めています。

電子政府を推進するドバイでは、スマホから24時間・365日、年中無休で行政サービスを利用可能です。

また、ブロックチェーンの導入によって各種代金や学費などを仮想通貨で支払うことができます。

その他、自動運転車や空中タクシー、ロボット警察などの導入が始まっているのも特徴的です。[注6]

スーパーシティで根本から変わる社会

スーパーシティ構想によって、自動運転やキャッシュレス決済、ドローンによる自動配送、遠隔診療や遠隔教育など、SF映画に描かれていたような未来の街づくりが現実のものになろうとしています。

データプライバシーの問題などクリアすべき課題はありますが、スーパーシティ構想を好意的に捉える人は多く、企業にとっても新事業・新サービスを見いだすチャンスです。

政府はスーパーシティ構想の実現に向けて、「スーパーシティ・オープンラボ」を立ち上げました。

スーパーシティ・オープンラボとは、技術やノウハウを持つ事業者と、地域の負を解決したい地域自治体をつなぐ枠組みです。[注7]

既に多くの事業者が参加し、スーパーシティ構想の推進をサポートしており、この動きは今後さらに活発になっていくと予想されます。

当面はスーパーシティ構想から目が離せそうにありません。

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参考
[注1] スーパーシティ|内閣府 地方創生推進事務局 国家戦略特区
[注2] 「スーパーシティ」構想について(内閣府地⽅創⽣推進事務局 令和2年6⽉)
[注3] Why we’re no longer pursuing the Quayside project — and what’s next for Sidewalk Labs
[注4]報告書|オープンガバメントの実現に関する調査研究
[注5] 資料1 中国杭州市現地視察報告
[注6] ドバイ現地視察報告 (平成31年1月24日) 資料2
[注7] スーパーシティ・オープンラボ

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