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オーナー企業の出口戦略⑤ コロナ禍でも売却できる企業
シリーズ「オーナー企業の出口戦略」第5回目は、「コロナ禍でも売却できる企業」と題して、第三者承継していくために、企業として事前に準備しておくべきポイントについて紹介する。
景気に左右されにくいM&Aニーズ
レコフデータ調べによると、日本国内でのM&A件数の推移は、2019年で年間4,088件と過去最多を更新した。2020年は、上半期(1-6月)時点で1,808件(前年同期比13.4%減)、6月単月も287件(同比7.7%減)と、リーマン・ショック後と同様に、コロナ禍による景気低迷から、M&A件数は鈍化傾向にある。
しかしながら、2020年上半期のM&A件数は、リーマン・ショック後のボトムである2011年通年の件数(1,687件)を既に越えている。6月単月のIN-IN(国内企業同士の案件)は215件(同比7.0%増)と、底堅いニーズが存在している。リーマン・ショック当時と比べ、大きく異なった動きを見せている。
事業承継がM&Aを生む
その大きな要因の一つとして考えられるのが、事業承継問題だ。
「中小企業白書2019」によると、1995年から2018年までの23年間で、経営者年齢の「山」は47歳から69歳へ上昇。経営の担い手となる60歳未満の数も、1992年から2017年までの25年間で、45%以上減少するなど、事業承継問題は年々深刻さを増している。
事業承継のタイミングについては、景気環境の如何にかかわらず、経営者側の年齢に大きく起因する。そのため、足元のような景気環境が不透明な中においても、経営者年齢の「山」の上昇と共に、第三者承継含めた事業承継へ取組む経営者が増えるのは必然と言える。
では、そのような経営者達が、年齢などに起因し、事業承継へ取り組んだ場合、いつでも、経営者サイドが希望するタイミングで事業承継が実現出来るのだろうか。
景況感が悪化する局面において企業がとる行動としては、不要不急の投資を抑制し手元流動性の確保を優先するのが一般的だ。投資の手段であるM&Aも当然対象が厳選されることは、容易に想像される。
将来、自社の譲渡を検討する可能性があれば、「いつでも売れる(選ばれる)会社」であることの重要性が増している。
M&Aに対するマインドの変化
前述の通り、日本国内におけるM&Aは、近年飛躍的に裾野が広がり、一般的化した。その背景は譲渡を検討する売手企業の増加もさることながら、強力な買い手となる企業も増えているからだ。
大手企業のみならず、近年は、未上場の中堅・中小企業においても積極的にM&Aへ取組む事例が増えている。
しかしながら、コロナ禍の影響もあり、幅広くM&Aを検討していた強力な買い手企業のマインドも変化しつつあるというのが現場の実感だ。投資対象となる企業の選別を厳しくし始めており、場合によっては、検討中であったM&Aの検討自体を全面的にストップするような事例も出ている。
そのため、事業面のことはさることながら、それ以外のネガティブ要因については、交渉プロセス前の段階で解決しておくことが重要となる。
「売却しにくい企業の三大要素」
今まで第三者承継に関する相談を受けた企業からの事例を踏まえると、売却しにくい企業の特徴として、以下のような三大要素があげられる。
1 株主の分散
2 負債が重たく、債務償還にかかる期間が長い
3 純資産は厚いものの、収益力が乏しい
①「株主の分散」への対処 (議決権3分の2超の確保)
株主の分散に関し、過去に出会った事例としては、保有者はオーナーの親族であり、オーナー自身としては、売却などの意思決定をした際も同意は容易に得られるものと考えていた。
しかしながら、第三者承継をする際、親族へ株の売却を打診したところ、同意を得られず、プロセスを進める上での大きな障害となったといった事例は、非常に典型的なケースだ。
過去の事例から言えることとして、血縁関係などがあるからといって、決して同意は容易に得られるというものではないということをお伝えしたい。仮に少数株主であっても、株主としての権利意識が高まっており、保有する株式の多寡にかかわらず、株主の分散へのリスクは高まっている。
M&Aのプロセスが進み、あと一歩というところで、想定外のリアクションを受け、プロセスを進めるためのハードルになるケースは多い。
このような状況になるとデッドロック状態に陥り、通常の経営の意思決定にも支障が生じる可能性もある。オーナー経営者においては、資本政策の自由度を確保するため、既存株主との関係性が良好な内に、株式の集約手続きを進めておき、少なくとも議決権の3分の2超を保有した形での事業運営を行うことが望まれる。
②負債が重たく、債務償還にかかる期間が長い
次に、負債が重たく、債務償還が長期間にわたるような企業については、承継後も問題なく債務償還を行うだけの収益を、少なくとも債務償還年数以上の期間にわたって確保出来る可能性や、成長性などについて見込める必要がある。
多額な負債を抱えるような企業をグループに迎え入れる場合、買手企業のクレジットへは一定程度のマイナス影響を及ぼすこととなる。その影響度合いが、許容できる範囲を超えるような場合、グループに迎え入れることを断念せざるを得ないといった事となるだろう。また、親族内やMBOなどで承継する場合においては、新たな親会社の存在などによるクレジットの補完などのメリットは想定できない。
その結果、成長を志向した新規投資などを検討した場合においても、コーポレートとしての調達余力が限定的であるために、新規投資を実現出来ない可能性も考えられる。
③純資産は厚いものの、収益力が乏しい
シリーズ②売れにくい「無借金」企業
でも触れたが、過去の「蓄積」(純資産)に対する評価を求める株主側の想いと、現在及び将来の「収益力」(FCF)を見ている承継側の想いには、ギャップが生じるケースが多い。
そのため、企業に対する評価などが折り合わず、結果として、売却しにくい企業となってしまうケースなどもある。
この②「負債が重たく、債務償還年数が長い」企業や、③「純資産は厚いが、収益力の乏しい」企業については、いずれも自社の肥大化するバランスシートに対する相応の収益力(FCF)を確保出来ていないという共通の課題を抱えている。
これらのケースの解決方法として、
①組織再編
②「非事業用資産」と「事業用資産」の分離
③オーナー家固有の資産の切り出し
などを行うことで、財務をスリム化しておくことが必要だ。
将来、売却を検討した段階において、買手企業が検討をしやすいという点に加え、オーナー経営者としても、売却の範囲をどの部分まで行うのか(オーナー家固有の資産は売却しないなど)といった、選択のオプションを持ちながら検討を進められる点からも有用だ。
まとめ
経営者となったその瞬間から、いつかは次の経営者へバトンタッチをする瞬間が訪れる。そのため、将来の後継者が承継を“したい”、あるいは “しやすい”と思えるような企業にしておくことは、現経営者として、極めて重要な責務だ。第三者から承継“したくない”と思われる状態は、経営上の課題を多く抱える会社と言わざるを得ない。承継する相手が親族であれば、親族内における不幸の連鎖を断つためにも、課題に対して手当した後に承継すべきではないだろうか。
今のうちから、外部の目線を入れ、客観的に「売れる会社、買いたくなる会社」になる取り組みを進めることを推奨したい。
連載シリーズ第5回はオーナー企業の出口戦略⑤ コロナ禍でも売却できる企業を予定しています。
これまでのシリーズはこちら↓
オーナー企業の出口戦略①
オーナー企業の出口戦略② 売れにくい「無借金」企業
オーナー企業の出口戦略③ 複数のグループ会社の一部を売却し、持株会社方式を導入した事例
オーナー企業の出口戦略④ 留意すべき7つの事項
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