自動車部品メーカーは生き残れるか(2)

自動車生産台数は回復の兆しが見えつつあるが、「生産台数の回復=自動車部品メーカーの経営が安泰」であるかというと、そう簡単ではない。自動車部品メーカーの経営は、各種費用の高騰だけに限らず、今後EV化の進展などから深刻な影響を受けることになる。この記事では、自動車部品メーカーの生き残りに向けた昨今の動向を具体的な事例を挙げながら考察する。

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自動車部品メーカーは生き残れるか EV化と半導体不足

半導体不足解消後も自動車部品メーカーの苦境は続く

半導体不足解消後も自動車部品メーカーの苦境は続く

トヨタ自動車は2023年4月27日、2022年度のトヨタ生産台数を発表した。発表によると、2022年度の国内生産台数は1973年度以来の低水準となる前年対比5.4%減少したものの、グローバルにおいては2016年度を上回り、過去最高を記録した。

日系OEM各社の国内生産台数はコロナ以降、いまだ2018年当時の水準には戻り切ってはいない状況にある(グラフ①参照)。

一方で、半導体不足の影響には出口が見えつつある。筆者が携わっている案件では、期初の生産台数計画に関しては遅れをとっているものの、昨年来よく耳にしていた「デコミット」(コミットできなかったという意味)という単語は少なくなってきたように思われる。

日系OEM国内生産台数推移(2018年同月対比)

半導体不足の影響がなくなれば、自動車部品メーカーが安泰かというとそうではない。

EV化が進むことによって、30%超の部品がなくなるといわれている(詳細は「自動車部品メーカーは生き残れるか」をご参照ください)。

また、電子部品などの部品が増えることによって、EV化によって残る部品であっても相対的に付加価値が下がることでコストダウン圧力が強くなることが予想される。短期的には費用面でエネルギー・燃料費の高騰、鋼材関連の高騰、人件費の高騰などが生じており、これらの費用高騰は将来も継続するとみられていることから、将来的に損益はさらに厳しくなるものとみられる。

昨今の費用高騰を受けた経営としての意思決定

昨今の費用高騰を受けた経営としての意思決定

昨今の国内自動車部品メーカーの動きの一つとして、単価改定がされている。単価改定の種類としては大きく2種類となっており、1点目はエネルギー・燃料費などの市場要因における価格高騰における改定、2点目はそもそもの見積もりにおける前提条件の修正・改定である。

特にインパクトが大きい2点目とは、自動車OEMと自動車部品メーカーの見積もりロジックは過去の右肩上がりの生産台数増加、もしくは安定した生産台数を前提としているものが多く、かつ前提条件としても30年前と同じというものも存在しており、実態の乖離が大きくなっている場合もある。

そのため、当初の見積もりロジックと実態とを比較し、適切かつ公正な単価を請求することのハードルは高いものの、自動車部品メーカーが自律的な事業運営していくためには必要なものと考える。

しかし、単価改定の申し出の精度・前提においては各社においてばらつきが大きく、目論見通りに単価改定が実施できている企業は実は少ないとみている。これまでの筆者の経験から実際の製品別損益、目標原価、見積もり段階での各科目の比較ができていない自動車部品メーカーが多い。そのため、費用面での単価上昇がどれくらいどの製品にて影響が生じているのか、見積もり段階との相違点などが把握できていない。そのため、直近1年での単価上昇幅は見積もることが出来るものの、見積もりから比較して適切な改定幅を算定できない、改定幅に関して適正であるという証左を示すことが出来ておらず、単価改定交渉が思うように進められていないことが多い。さらには外注先からの価格改定に対しても改定幅が適切であるかを評価できておらず、そのまま改定幅を認めることで自社にてマイナスを吸収することになっているケースも見られる。

また、単価改定幅は自社と相手の交渉力によって決まるものと考える。自社にしかできない技術、自社でしか製造していない製品、代替可能性によって変わり、交渉相手の心象・受け取りやすさ、これらを見極めたうえでの自社として交渉の強弱を決めて実施することが有用である。

一方、同業他社が単価改定を行う中で、あえて単価改定を行わず、価格優位性を発揮してシェアをとるという戦略も選択肢の一つだろう。

いずれにせよ、まずは自社の製品別収支を把握し、見積もりなどと比較する。そして単価改定やシェアアップの影響度を認識したうえで、経営として意思決定を行うことが重要と考える。

本質的な儲ける力の確立に向けて

本質的な儲ける力の確立に向けて

単価改定ができた場合、利益インパクトは大きく、損益を大きく改善することになる。一方で、中長期的には単価改定は自社の価格競争力を落としかねず、諸刃の剣でもある。

そのため、一時的な単価改定で損益が改善したとしても、根本的な事業継続における課題解決はできておらず、単価改定は課題解決までの時間を生み出すものにしかすぎない。

そのため、自動車部品メーカーに求められることは今後のEV化や自動車国内生産台数の低下に向けて、本質的な「儲ける力」をつけるための打ち手を検討・実施していくことである。

当社ご支援中堅自動車部品メーカーの事例

当社ご支援中堅自動車部品メーカーの事例

ここからは、筆者が実際に経験、ご支援した事例をご紹介する。

顧客複線化に試みる自動車部品メーカー

エンジン部品メーカーのA社は特定OEM(α社)依存が80%を超え、昨今ではα社の生産台数減少に伴って業績が悪化していた。

過去からの長期安定取引のため、見積もりは過去の前提を踏襲し、実態とは大きく乖離している現状だった。単価改定交渉においては、これまで見えてこなかった製品別収支を作成し、損益悪化要因を製品・科目単位で明らかにし、自社の交渉力も踏まえて実施。また、この単価改定交渉に加えて、自動車部品以外の業界においての収益性も明らかにし、自社として競争に勝ちうる領域を特定し、社長も含めた全社での営業活動を進めて成果を挙げつつある。

自社ノウハウのBtoCへの適用を試みる自動車部品メーカー

内装部品メーカーB社も特定OEM(β社)依存が80%を超え、β社の車種ミックス・工場再編に伴い、売上高が急激に低下し、業績が悪化していた。

複数車種を生産することを前提にした原価低減を実施した経緯もあり、車種ミックス変更に伴って、損益悪化が生じていたのだ。

そうした状況を打開するため、自社でしか生産できない製品、および競争力のある製品で、開発費用などの負担に関して価格交渉を行った。また、自社での開発ノウハウを活用したBtoC領域への進出も試みている。

BtoC領域進出においては顧客ニーズの強さを察知するため、地場企業へのヒアリングだけではなく、クラウドファンディングを用いることでニーズの把握を進めている。

まとめ:第三者の視点での自社の実態把握を

繰り返しになるが、どのような方策を取るにせよ、まずは自社の現状を正しく把握することが必要だ。思いがけず改善余地が大きいことも、予想以上に危機が深刻であることもある。

打ち手の検討にかけられる時間的余裕や、必要な施策効果の大きさを見極める観点からも、客観的な第三者の視点での実態把握を行うことが好ましい。

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