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CES2020 現地からの報告~5Gからスタートアップ動向まで~ (5)スタートアップが走る道
CESがスタートアップの祭典として、世界的に有数の規模を誇ることをご存じだろうか。 もちろんグローバル家電や自動車メーカーなどの派手な発表を前にすると、その存在感はかすむが、CES2020には約1,200社のスタートアップが集結していた。その大半は“Eureka Park”というエリアにブースを設置。本記事ではEureka Park中心に、テーマを絞って話題を集めていたスタートアップを紹介する。
イスラエル、イギリス…革新的ソリューション提供のスタートアップ
ヘルスケア、ウェルネス関連として興味深い展示を行っていたのは、Nutriccoと、DnaNudgeの2社だ。
イスラエル発のNutriccoはユーザーの食生活や健康状態に応じて、最適な健康サプリメントを提供するマシンを開発した。NutriccoのNutricco Smart Dispensing Machineは、コーヒーマシンサイズのディスペンサーに予め10種類程度の健康サプリメントを充填しておけば、ユーザープロフィールや毎日の食生活をスマホから入力するだけで、最適な種類・量のサプリメントが提供されるという仕組みだ。
イギリスのスタートアップDnaNudgeも併せて紹介したい。DnaNudgeのリストバンド型のプロダクトはDnaBandと呼ばれる。ユーザーは購入時にDNA検査を受診し、それに応じてユーザー固有のバーコードリーダーが搭載されたDnaBandを手に入れる。このバーコードリーダーを用いてスーパーマーケットで並ぶ食品をスキャンすると、その食品がユーザーの体に合う/合わない食べ物か、判別してくれるという仕組みだ。
両プロダクトとも、ユーザーの生体情報や日常生活から情報を集めて分析して、ユーザー自身の理解・想像を上回るソリューションを提供する点が革新的だ。
私たちは時に、自分の健康を誰よりも知っているのは自分だ、と思い込んでしまう。
しかし本当にそうだろうか。恥ずかしながら、CES米国出張から帰国後、筆者は39℃超の熱を記録するほど体調を崩してしまった。長時間移動や生活環境の変化が原因と推察するが、こういった日々の変化に機微に対応してくれる健康サプリメントディスペンサーや食生活アドバイス機能付きバンドがあったら、どれだけ便利だろうか。そんな力強いビジョンと未来を予感させる2社の展示だった。
注目度低い日本のスタートアップ
一方で、スタートアップという領域に関して、日本勢の注目度は決して高くなかった。国単位ではJ-Startupsとして会場の一角を形成していたが、やはりEureka Parkで人気を博していたのは、イスラエル勢、フランス勢だろう。両国とも産業政策としてスタートアップ育成に本腰を入れており、その成果が表れる結果となった。
Samsung C-Labの展示は1企業の社内インキュベーションプログラムにも関わらず、ブース面積はJ-Startupsの一角を優に超える広さだった。
2012年に始まったCreative Lab(C-Lab Inside。社外スタートアップ対象のC-Lab Outsideの展示もあった)は1年間という期限を設けて、社員を現業以外のイノベーションプロジェクトに従事させるプログラムだが、C-Lab発の注目すべきスタートアップを挙げるならば、”Selfie Type”と“Sunnyside”だ。
Selfie Typeはセルフィーカメラ(インカメラ)で指の動きを捉えるバーチャルキーボード(写真16)、Sunnysideは窓の形をしたライティングデバイスで、人工的に日光を作り出す。どちらもアイデア先行プロダクトである点は否めないが、Samsungという大企業の傘の下でこうした尖ったプロダクトが創造され続けている点は非常に示唆深い。
さて、一方で日本企業はどうだったか。Eureka Parkで日本勢の存在感が薄かったことは先述の通りだ。国内スタートアップ育成については、話が産業政策含めて多方面にまで広がってしまうため、ここでは大企業による社内インキュベーションに限定して論じたい。
CES2020に出展していた日本の大企業にも社内スタートアップ育成やオープンイノベーション、CVCに注力している企業は少なくない。
具体名を挙げれば、ソニー(CVC “Innovation Fund”やインキュベーションプログラム“SSAP”など)やパナソニック(社内インキュベーション”Game Changer Catapult“)などは一定の成功を納めたと言えるのではないか。
ただ、こういった成功例はまだ限定的で、全体としては取り組みが遅れている。あまねく企業がSamsungと同じように積極的に振る舞えというのは無理筋だが、大企業内部から立ち上げ期にグローバル市場獲得を目標に掲げるスタートアップが出てこなければ、今回のCESで感じた日本勢との決定的な差は拡大する一方ではないか。
国内大手では各社で社内インキュベーションの取り組みが始まっている、との声を耳にする。粗削りでも構わないので、CESのようなイベントに展示することで、外部からのフィードバックを取り込んでいくのも一策と考える。
来年度訪問者へのメッセージ
もし来年以降、CES(Eureka Park)に有望スタートアップ探索を目的に足を運ぼうとしている方がいれば、伝えたいことがある。
2020年は約1,200のスタートアップが出展していたが、アイデア勝負の企業も多く、このうち、資金調達ラウンドを順調に重ねて、実際にプロダクト/サービスが市場に出るケースはほんの一握りだ。
そんな1年後には息絶えているかもしれない玉石混交のスタートアップの大群を前に、将来の生存者を見極めるのは至難の業。
では、Eureka Parkではどう振舞うのが正解か。
答えは簡単だ。とにかくスタートアップブースの担当者に話しかけることだ。他会場のグローバル大企業とは異なり、スタートアップブースには創業幹部が直接対応してくれることが多い。スタートアップとの会話から得た”生の声“は日本への貴重な手土産になることは間違いない。
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