トレンドが2つに分かれたモビリティ分野

トヨタ自動車のe-Palette
図1 トヨタ自動車のe-Palette

まず、(1)のモビリティ・都市分野の分野では、企業の展示内容によって大きく2つのトレンドに分けられるように思う。

すなわち、次世代自動車の展開に合わせて普及する各種製品やサービスの展示のみを行っていた企業と、それだけにとどまらず、モビリティを包括する上位概念とそのビジョンまで踏み込んで提示をした企業だ。

前者に関しては、ブリヂストンや京セラなどのCES初出展企業が一部存在したものの、2019年と大枠変わらない展示内容であったとの声が聞かれた。

モビリティ単体という観点で見れば、CES 2018にトヨタの豊田章男社長がキーノートに登壇し「モビリティー・サービス企業を目指す」と発言。新しいモジュラー式コンセプトカーを中心としたトヨタのe-Paletteのビジョンを掲げたことはまだ記憶に新しい。

トヨタの展示ブースには今年もe-Paletteがあった(後述するように、トヨタが前者のグループに含まれるという意味では全くない)。同社が2019年10月の東京モーターショーで発表した、人工知能や自動運転などの人に寄り添う新しいテクノロジーにより「新しい時代の愛車」を具現化したコンセプトカー「LQ」も展示されていた。

TOYOTA LQ
図2 TOYOTA LQ

LQについて補足すると、この車両にはレベル4の自動運転システムとAIエージェント「YUI」を搭載。またパナソニック開発の自動バレーパーキングシステムとARHUBが用いられている。

パナソニックの自動パーキングシステムは、車両搭載カメラで生成した路面情報と、駐車場内路面の枠や停止線などの情報を用いた2次元マップを比較しながら自車位置を特定しつつ、車は駐車場の管制サーバからの指示で駐車位置まで自動走行する。歩行者は、車載カメラと駐車場内監視カメラがディープラーニングによって検知し、パーキング中の車両を安全に停止させるというものだ。

ARHUBは、車の前方景色に奥行き感のある映像を重ねて表示する技術で、ドライバーは少ない視点移動や焦点の調整で直感的な情報を得ることができる。速度情報やルート案内、障害物の警告の表示に生かされ、ダッシュボードの計器や既存のカーナビを見る必要がなくなることで運転の安全性が向上する想定だ。

一方で、Audiも同様に次世代コンセプト車「AI:ME」を展示した。

Audi AI:ME
図3 Audi AI:ME

これは2019年4月の上海モーターショーで披露され、「アウディ インテリジェンス エクスペリエンス」機能(2020年中頃より一部車種へ搭載を開始するという)の実現と搭載がうたわれていたものだ。家庭と職場に次ぐ「第3の生活空間」としての役割を担うとされる同機能には、アイトラッキング機能を使ったクルマとのコミュニケーションや車載VRゴーグルを活用したエンタメ体験、人工知能による個人のシート位置などの最適化など多岐に及ぶ。

新鮮な話題もあり、今回のCES2020では、サムスン電子と開発した「3D複合現実ヘッドアップディスプレイ」が新たに披露された。

同社HPによれば、「各画像について2つのビュー(左目用の1つのピクセルと右目用の隣接するピクセル)が生成され、画像はドライバーの前方8〜10mの距離に浮かんでいるように見える」という。

また、「この距離感は70m以上にまで変更することも可能。それにより、遠くを見て走行しているときに、画像を見るために目の焦点を合わせ直す必要がなくなる」とも記載されている。

パナソニック、サムスン電子が登場した同領域には、日本精機、コニカミノルタ、マクセルなど、海外では独自動車部品大手コンチネンタル社が共存、競争している。日本精機が開発中のヘッドアップディスプレイは、2020年に量産を始めるドイツ高級車メーカーの新型車に搭載されるという報道が昨年出ている。

将来ビジョンに踏み込んだ3プレイヤー

CES2020で展示されたモビリティ2
図4 CES2020で展示されたモビリティ2

CES2020で、モビリティを包括する上位概念とそのビジョンまで踏み込んで提示していた企業には、3つのプレイヤーが存在したように思う。

1つ目はすでに触れたトヨタだ。

トヨタは前述のような次世代自動車のモデルだけでなく、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」プロジェクトを発表した。モビリティを「都市」という上位概念で包括した考え方だ。

豊田章男社長は「ゼロから街を作り上げることは、たとえ今回のような小さな規模であったとしても、街のインフラの根幹となるデジタルオペレーティングシステムも含めた将来技術の開発に向けて、非常にユニークな機会となります。バーチャルとリアルの世界の両方でAIなどの将来技術を実証することで、街に住む人々、建物、車などモノとサービスが情報でつながることによるポテンシャルを最大化できると考えています」と語った。

ここから、トヨタが次世代自動車(コネクティッドカー)を先端的に開発していくために、あらゆる企業とアライアンスを組んでいくとの意気込みがうかがえた。ただ、トヨタのビジョンが、都市全体を事業領域の候補地としているのか、あるいは、あくまで事業の中心は車であり、「コネクティッド・シティ」は車の先鋭化のための手段に過ぎないのかは不明だ。

2つ目はAmazonだ。

AmazonはTech Westに自社専用の大きな展示会場を設けながら、Tech Eastのトヨタと現代自動車ブースの付近にもブースを展開していた。

こちらではAmazon Automotiveとして、Amazonが昨年出資したRivianのEV「R1S」、「R1T」を展示。自社配送用として用いられるとともに、やがてはAmazonサービス内で購入が可能になるだろう。

また、設置された購買体験コーナー(写真12)には人だかりができていた。ここでは買いたい車のカラーリングや仕様を自在にスマホで変更し、バーチャル上で走らせて見ることもできる。さらに、Alexaへの対応を強化するそうだ。

Amazon Automotive
図5 Amazon Automotive

2020年後半にはAlexaでのガソリン支払いに対応予定で、米国内にある1万1500店のExxonとMobilのスタンドにおいてAmazon PayとAlexaを使った支払いが可能になるという。このようにAmazonは消費者の購買行動と自社のロジスティクスという観点からモビリティをとらえ、産業全体を飲み込んでいこうとする姿勢がうかがえた。

モビリティの将来像を提示した3つ目としてBoschを挙げたい。

Boschといえば、800億ユーロ弱(2018年12月期)の売上をあげるドイツの巨大自動車部品・電動工具メーカーだが、Boschはブースを自動車関連企業の展示が多いTech East内North Hallではなく、ソニーやパナソニックなどの大手家電メーカーが軒を連ねるCentral Hallに出展していた。

ここにもBoschの戦略的意図が表れていると考える。

多くのメディアでは自動車セクターでは世界初のAI機能がついた透明なデジタルサンバイザー「バーチャルバイザー」や、目の網膜に画像を直接投影する次世代スマートグラスなど、Boschが新たに発表したデバイスに関する報道が目立っているようだ。

しかし、展示の全容は次世代モビリティの「IoTシャトル」をはじめ、国際宇宙ステーションの予測保守用のアプリケーション、車室内モニタリングシステム、医療診断向けのスマートなプラットフォーム、ホームコネクトのアプリを使ったあらゆる家電の制御・セキュリティシステムなど、あらゆる領域にわたっていた。

ドライバーセーフティシステム(ABS、ESP、エアバッグコントロールユニットなど)の開発の先駆者であるBoschは、すでにソフトウェア開発に毎年37億ユーロ(約4500億円)を投資していることにもわかるように、AI開発の最先端を行っている。

そこに、自動車や電動工具で培った機械製造の知見をかけ合わせ、世の中のあらゆるモノに対してインターネット化、スマート化を図ろうとしている。

なかでも最も印象的だったのはスマート冷蔵庫だ。

冷蔵庫内にはカメラがついており、中にモノを入れると自動でAIが製品を認識。外出先からでもスマホを通して今何が冷蔵庫の中にあるのかを確認できるようになっている。

ブースの担当者によると、現在こうしたシステムを実装しているのは世界でBoschだけだという。

このようにBoschはモビリティ領域で培ったコア技術と人材を軸に、大規模投資を行いながら事業領域を極限まで拡大していこうとしている。その射程はモビリティ、スマートホーム、新産業(宇宙・医療など)とすべてにわたっていることがうかがえた。

今後の日本企業の対応

CES2020で展示されたモビリティ3
図6 CES2020で展示されたモビリティ3

モビリティ・都市領域の各企業から得られた日本企業への示唆としては、あらゆる産業において「寡占化」の脅威がすぐそこに迫っており、対応が必要だということだ。

もちろん既存のサプライチェーンが寡占プレイヤーによって無効化されることはないだろうが、単一の製品やサービスを販売するというビジネスモデルでは、その交渉力や収益性において寡占化企業と比べて大いに劣後することは間違いない。

だからこそ、個別の事業や製品を先鋭化するとともに、それらを束ねて、かつ人間にとっての利便性やその他の普遍的価値に強く訴えかけるようなビジョンを提唱することが重要だ。また、精緻な戦略を練ったうえで、それを大胆に実行できるような実行基盤を築いていくことも必要だ。

我々日本人に馴染みのある企業が、CES会場の3エリアすべてで見られるようになることを期待するとともに、そのような企業の全世界における覇権獲得に向けて、是非ご支援をして参りたい。

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