米中対立は続く

米中対立は続く

バイデン政権は、気候変動など中国と協力できそうなところでは協力する一方、引き続き厳しい姿勢で中国に対応していくことになる。

経済分野での中国に対するトランプ政権とバイデン政権の大きな姿勢の違いは、「懲罰性」である。

トランプ大統領は安全保障の分野では懲罰的な対策は実行してこなかったが、経済の分野では「米中貿易摩擦」とも言われるように、懲罰的とも言える関税制裁や輸出規制を連発し、日本を含む世界経済に不安定な影響を与えた。

バイデン氏はそのような過剰な制裁関税はとらないスタンスで、こちらでも「多国間主義」で中国に対抗していくことが予想される。

よって、経済・金融関係者を悩ませてきた、トランプ政権時代の予測ができない不透明な状況は、和らぐとみられる。

米中対立は続く

ただ、バイデン氏は中国に懲罰的な経済制裁を実行しないにしても、ファーウェイへの半導体供給の規制など、トランプ大統領が4年間でやってきたこと全てが、バイデン政権ですぐに覆ることはないだろう。

中国依存を抑制

中国依存を抑制

また、バイデン氏は安全保障の視点から、中国経済への依存を少なくする方針だ。

例えば、米国のジーナ・レモンド新商務長官は1月下旬、議会公聴会の席で発言し、ファーウェイやZTEなど中国の大手ハイテク企業を非難し、中国の干渉から米国の通信網を守るためあらゆる措置を講じていく姿勢を強調した。

バイデン政権ではトランプ政権下とは違った形で、新たな米中間の経済覇権争いが展開される可能性がある。米中間の衝突によって世界経済に何かしらの動揺が走る可能性は、今後も排除できない。

トランプ政権の終焉によって、なくなるリスクもあれば、バイデン政権の誕生によって生じるリスクもある。要は、バイデン時代ではスマートディカップリングが生じる可能性がある。

バイ(二国間)からマルチ(多国間)の対立へ

バイ(二国間)からマルチ(多国間)の対立へ

中国からすれば、「アメリカファースト」を貫いたトランプ時代は、米国との真正面の対立、“バイ(二国間)”の脅威に直面してきた。だが、バイデン時代は、“マルチ(多国間)”の脅威に直面することを中国は警戒しているはずだ。

中国の中長期的な繁栄を描く習政権としては、バイで懲罰的な圧力を加えるトランプ氏より、マルチで中国包囲網を構築する可能性があるバイデン氏の方が、厄介な存在と思っているのかも知れない。

王毅外相、来日の意味

王毅外相、来日の意味

例えば、中国の王毅外相は、新型コロナウイルスの第3波が訪れる中、2020年11月に日本と韓国を急遽訪問した。その背景には、中国は経済的にも、今のうちから日本や韓国などと関係を維持し、米国による対中包囲網を崩したい狙いがあると考えられる。

板挟みの日本

板挟みの日本

トランプ政権とバイデン政権には連続性もある。その最もたるものが対中政策で、バイデン政権も基本的には中国と対立する路線を継承する。気候変動など中国と協力できそうなところでは協力し、また、トランプ政権による懲罰的とも言える貿易規制や追加関税などの措置は発動しないだろうが、経済や安全保障、人権など、基本的には厳しい姿勢で中国に対応していくことになる。

要は、バイデン政権はトランプ政権ほど露骨な貿易戦争を自ら仕掛けないだろうが、必要に応じて貿易規制や関税などを発動、もしくはトランプ政権が発動した措置の一部を継続することが考えられる。

また、国際協調を重視するバイデン政権は、基本的にはトランプ政権以上に同盟国との関係(その役割)を重視し、多国間の枠組みで中国に対応していこうとする。よって、日本は米中対立が続く中、その狭間で難しい舵取りを余儀なくされる可能性がある。だが、日本は安全保障上も米国と相反する姿勢は取れないことから、中国とどう向き合うかが実際の課題となり、その行方によっては日系企業の経営にも難題が生じてくる恐れもある。

日系企業への影響は

まず、米中対立によって日中関係も悪化すれば、例えば、中国側が日本に対してある品目の輸出入制限や禁輸、関税引き上げなどの対抗措置をとってくる可能性がある。米国と同程度の措置か、それよりは程度の軽い措置かはその時の政治情勢に影響するだろうが、2030年には経済力で米国と並ぶともいわれる中国からすれば、経済力で劣る日本への対抗手段のハードルは決して高くないだろう。2010年9月、尖閣諸島で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突し、中国人船長が逮捕されたことをきっかけに、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出停止・制限に乗り出した。

また、中国各地にある日系企業への影響も考えられる。例えば、各地にある日系企業の事務所や工場への地元当局による立入検査強化、不買運動拡大による売り上げ激減、また現地の日本権益への嫌がらせや襲撃などが挙げられる。2005年、当時の小泉純一郎首相の靖国神社を参拝し、中国では反日感情が高まり各地で日本製品の不買運動が起こった。2012年には、当時の民主党政権が尖閣諸島の国有化を宣言したことがきっかけで、中国各地では反日デモが拡大し、パナソニックの工場やトヨタの販売店などが放火され、日系のスーパーや百貨店などが破壊や略奪の被害に遭った。

さらには、在中邦人の拘束という問題がある。今年に入っても1月、中国国内でスパイ容疑で拘束されていた日本人男性2人の懲役刑が確定したことが明らかになった。1人は2016年に拘束され懲役6年の判決を受け、もう1人は2015年に拘束され懲役12年の判決を受けたが、2人は北京にある裁判所に控訴していたが去年棄却された。

2019年9月にも北海道大学の教授が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束される出来事があり、2015年以降、中国ではスパイ容疑で少なくとも日本人15人が拘束されたが、どのような行為がスパイ容疑に当たったなどかははっきりしていない。

一方、昨年、中国では香港国家安全維持法が施行され、同法に基づく民主派メンバーの逮捕が相次いでいる。香港国家安全維持法を巡っては、違反の基準や適用範囲が曖昧であり、香港で活動する外国企業や外国人からは、いつ自分たちが逮捕・拘束されるのかと不安の声が拡がっている。

2020年7月に米国商工会議所が実施した調査結果によると、香港に進出する米国企業の76パーセントが国家安全維持法を「非常に懸念している」と回答し、ジェトロなどが去年10月にまとめた調査結果でも、香港に進出する67%あまりの日本企業が香港国家安全維持法を懸念していると回答し、34%あまりが香港からの縮小や撤退、統括機能の見直しを検討していると回答した。

米中両国と「同距離」は難しい

以上のようなことは、米中対立によって日中関係が悪化した場合に発生する恐れのある例である。当然ながら、中国としてもバイデン政権が主導する多国間による対中包囲網を崩すべく、日本や韓国など近隣諸国との関係重視に動いてくる可能性もある。だが、国際政治学上、日本が米中両国と同時並行で良好な関係を維持・発展するというシナリオは考えにくい。新型コロナウイルスの感染拡大やテロの拡散など、世界情勢では誰もが予想しない事態が次々と起こっており、その度に世界経済や日系企業は大きな被害を被ってきた。バイデン政権下の米中対立でどのようなことが起こるか、そして、それによって各企業の経営や駐在員の安全にどんな影響ができるかを事前に情報収集・分析し、被害を最小化できる危機管理対策を前もって講じておくことは何よりも重要である。


和田大樹(わだだいじゅ)

OSCアドバイザー/清和大学講師。岐阜女子大学特別研究員、日本安全保障・危機管理学会 主任研究員、言論NPO地球規模課題10分野評価委員などを兼務。
専門分野は国際政治学、国際安全保障論、地政学リスクなど。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「2020年生き残りの戦略 -世界はこう動く!」(創成社 2020年1月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)、「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)など。
プロフィールはこちら (https://researchmap.jp/daiju0415
(筆者の論考は個人的見解をまとめたもので、所属機関とは関係ありません)
Email: mrshinyuri@yahoo.co.jp

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