オーナー経営者の出口戦略⑦ 事業承継M&Aを検討するタイミング

社長業に定年はない。高齢化と後継者不足に悩む中小企業オーナーにとって、事業承継M&Aはオーナーにとってのリタイアメントプランとして重要な手段となる。本稿では、事業承継M&Aのタイミングとして、「引退時期の2、3年前」が最適であると、お示ししたい。

シェアする
ツイート

「引退」手段としての事業承継M&A

事業承継M&Aが拡大する背景には言わずもがな、国内中小企業オーナーの高齢化と後継者不足がある。一般的な会社員なら定年制度があり、60歳代で勤めた会社を退職することになるだろう。その後も仕事をするかどうかというのは、本人の意思次第だ。

しかし、中小企業オーナーは一定の年齢を迎えればそこで社長業を辞められるわけというではない

親族内に後継者がいる場合、親族内事業承継にて代表権と共に株式を後継者に譲れば、一応は社長業の職責から解放される。

後継者がいない場合は、第三者に事業を譲り受けてもらうことで、オーナーはその職責を他に譲ることができる。いわゆる事業承継M&Aだ。

M&Aはオーナーにとってのリタイアメントプランとして重要な手段として認知されてきた。しかし、私たちが日々の業務で感じるのはいつ実行に移すべきか判断できずに先送りされている方が非常に多いということだ。

引退時期の2~3年前にM&Aを実行するのが得策

M&Aの成立=社長業の引退となるだろうか。

ケースバイケースであるものの即引退というのは容易でない。
M&Aにより事業を承継する買い手から、遺留や数年間の引継ぎを求められる場合が多いからだ。

以下、その要因について事例を交えて整理する。
オーナー経営者に紐づく付加価値が大きければ、それを承継できることが買手側のM&A実行の前提となるからだ。

1 オーナー経営者の求心力

自分がM&Aで事業を売却したら残される従業員はどうなるのか。
これはよくM&Aを志向するオーナーから聞かれる質問だ。
最終契約においても「雇用契約はそのまま引き継がれ、不合理な雇用条件の変更は行わない」とする条項が入れられることが一般的である。
昨今では採用難から人材獲得を重要な目的の一つとしてM&Aを検討する買い手も増えている。買い手としては、買収後に対象会社の優秀な従業員が自発的に辞めてしまうことが、大きなリスクとなっている。

コストをかけ買収したのに、離職者が増えることで計画通りに収益を上げることが出来ず、当初の目的を達成できない事態になり得る。

対象会社の従業員のつなぎ止め施策として、経済的なインセンティブを用いるなど様々な施策が考えられる。

しかし、最も効果が大きいのは、会社の求心力だったオーナー社長の存在だ。
元オーナーに一定期間残留してもらい、体制が落ち着くまでの間、従業員の繋ぎ止める役割を期待されることも多い。

2 オーナーに集まる、人脈や情報の付加価値

情報というのは企業にとって事業を展開する上でなくてはならないリソースだろう。
特に仕入先、取引先、同業者、地元の金融機関とのやり取りで蓄積される情報や信用力は、企業にとって長年の事業活動によって培われた貴重な資産といっても過言ではない。

中小企業は、属人的な付き合いの中でオーナーに情報が入ってくるため、そのほとんどがオーナーに集約されてしまっていることが多い。

以前、食品加工会社の案件を担当したことがあったが、地元の生産者から「今年はどういった産品の取れ高など好調か、不調か」等の経営のジャッジに必要となる重要な情報はオーナーに直接入ってくるものだった。

オーナー社長が日々の取引や付き合いの中で形成されたネットワークを短期間で引き継ぐのが難しい。しかし、時間がかかっても引き継いでもらわないと、買い手としては対象会社を買収する意味が薄れてしまうという事例だ。
このケースでも2年の引継ぎ期間を求められた。

3 買い手側の人材は十分か

オーナー社長が完全に引退するには、買い手側からマネジメント出来る人材を送り込んでもらう必要があるが、実際には容易でないケースも多い。
中小規模であっても企業をマネジメントできる人材を豊富に抱える企業は多くない。
異業種の企業であれば、事業特性の理解や適切な判断を行う知識のキャッチアップに一定の時間を要する。
また、エリアが離れていれば優秀な人材を遠方に張り付けなければならず、買収主体の企業にとっても痛いところである。
つまり、短期的にはオーナー社長に代わる人材を出せないというパターンだ。

引き接ぎ期間の確保を

これまで見てきた理由を考慮すると、やはり「M&Aの成立=即オーナーの引退」ではないということがわかる。

買い手から引継ぎ期間として遺留を求められることは一般的である。
買い手から派遣されてきた後任に対し、円滑な承継を進めるため、2~3年は引き続き、顧問や会長という形で、関与を続けていく覚悟が必要という認識をもっておく必要がある。

今の体力や事業意欲を鑑みると、あと2~3年で引退を考えているのであれば、そこからM&Aの活動を始めるのでは、遅い。円滑な事業承継期間を2~3年と逆算した場合、今からM&Aの活動を始めるというのが答えなのではないだろうか。

ハッピーなリタイヤに向け

引き継ぎ期間を想定した上での事業承継M&Aを進めることが、オーナー社長にとってのハッピーリタイアに繋がり、対象会社、買い手企業を含めた3者にとっての最適解となるだろう。

これまでのシリーズはこちら↓
オーナー企業の出口戦略①
オーナー企業の出口戦略② 売れにくい「無借金」企業
オーナー企業の出口戦略③ 複数のグループ会社の一部を売却し、持株会社方式を導入した事例
オーナー企業の出口戦略④ 留意すべき7つの事項
オーナー企業の出口戦略⑤ コロナ禍でも売却できる企業
オーナー経営者の出口戦略⑥ 同族企業に潜む少数株主問題

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

コメントが送信されました。

関連記事