中国リテール OMOは収益モデルか

2月、アリババがOMO(Online Merges with Offline)の代表と言えるスーパーのフーマー(盒馬、Hema)、そして傘下のチェーンスーパー大潤発の売却を検討していると報道された。相手先は国有系の中糧集団(COFCOグループ)で、金額はフーマー200億元(約4,200億円)、大潤発は100億元(約2,100億円)と具体的であったが、アリババ、COFCOの両社は報道に対し否定コメントをだした。

リテールのオンラインとオフラインの融合モデルは実現するのか。中国リテール市場の変化を考察する。

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フーマーの開業

フーマーの開業

ECでは、取り扱いがしやすい日用品のほか、食品も常温品の取り扱いから広がり、生鮮が着目された。中国では、生鮮品EC企業の設立は2005年であり、スタートアップから大手プラットフォーマーらの取り組みははじまった。

生鮮品のECでの課題は次の点だと考える。

  1. 消費期限が短い商品の高ロス率
  2. 商品の非標準化
  3. コールドチェーンの高コスト
  4. 商品カテゴリーが運営会社により異なる

消費者にとり、オンラインオーダーと自宅配送は便利であるものの、生鮮商品の特性から品質、そして価格面で満足には遠い点があった。

アリババは、多様な商品の販売にリアル店舗の必要性を感じ、既存小売業への投資、M&Aを進めていく。

主な点では2014年に香港上場の百貨店、SC運営の銀泰商業に出資し、フーマー設立、ニューリテール宣言後の2017年に198億香港ドル(当時の為替レート換算で約2,700億円)で非上場私有化。同年、大手小売りチェーンのAuchan(欧尚)、RT-Mart(大潤発)を経営する香港上場の高鑫零售有限公司(Sun Art Retail Group Limited社)に224億香港ドル(当時の為替レート換算で3,200億円)、36.16%の持ち分を取得しグループ化した。

話をフーマーに戻す。2015年にタオバオのCFOからCEOに就任した張勇氏は、JD出身の侯毅氏と知り合い、同氏が温めてきた生鮮ビジネスモデルの実現に向けて進んだ。それが盒馬鮮生となり、総責任者に侯氏が就くこととなった。

アリババグループとして、フーマー開業にあたり彼らが提示した3条件は以下であった。

オンラインオーダーがオフラインより多いこと、30分でのコールド配送、そして利益である。

2016年にフーマーは開業し、アリババ創始者のジャック・マー氏は、これからはOMOがニューリテールの方向性であると説いた。

形態としてはオンラインでの自宅配送、リアル店舗でのショッピングと外食の組み合わせであり、店舗は販売、物流センター、配送拠点とレストランの複合体となる。

店内では、来店し購買する消費者とオンライン発注をピックアップする店員が売り場を回っている。更に購買した生鮮品を調理して食事が出来るグローサラントシステムもあり、内外からの視察者も多く大きな反響を呼んだ。

旗艦店である上海金橋店での2016年は面積4,500㎡に対し売り上げは2.5億元(約50.3億円)、坪効率は5.6万元/㎡(約118万円)であった。また初年度でオンライン:オフラインの日販比は40:60と出され当時の店舗としては非常にオンライン率の高さも目立った。(年次が異なるが、中国チェーン経営協会の「2020年TOP100スーパー」データによると、スーパーは面積により3分類される。

①大型スーパー〈6,000㎡以上〉
②スーパー〈2,000~6,000㎡〉
③社区スーパー〈2,000㎡以下〉

とあり、各坪効率はTOP100社のスーパー平均で①14,617元/㎡〈約30万円〉②15,248元/㎡〈約32万円〉③21,740元/㎡〈約45万円〉となる。住宅区近隣の社区スーパーの2倍強で、同規模平均の3.7倍である)

それから、小型店や会員制で大店舗を展開してきた米系ウォルマート(Sam’s Club)、 COSTCOに対抗しての店舗等、試験店も含め10種類超の業態のフーマーを開発・展開してきた。

ただし、これまでの結果として、2022年度に黒字化達成としながら、2023年3Q(~2023年12月)累計で欠損となり、8年間で投資回収には程遠い状況となっている。

他のOMOは

他のOMOは

スタート時のフーマーの盛況から、既存リアルチェーンスーパー、上場企業大手である永輝超市を始めとする各社は、OMO方式+店内外食事業を模索した。ECプラットフォーマー大手のJD創始者 劉氏は、2015年JD在社時の侯氏のリアル店舗提案を受けいれなかったが、フーマーの開業後、北京で7FRESHというフーマーと同種のスーパーを立ち上げた。

また、アリババは上述の出資先・大潤発などでOMOを促進。Sun Art社は、以前からECサイトを立ち上げていたが、アリババグループによるオンライン強化や、EC最大の販売日となるW11(11月11日)でのコラボなどコロナ前まで成果を出しているように見えた。

コロナ禍で、オンライン購買比率は高まり、社会消費品小売総額ベースで一時期25%を超えた一方、リアル店舗は休業を余儀なくされ小売業への負担は大きくなった。結果として、2024年時点では、どれも大きな成功とはいえない状況となっている。

モデルと採算

モデルと採算

コロナの影響だけでなく、ニューリテールのリードオフ役のフーマー単独では、2021年まで欠損が続いていた。

いけすでの鮮魚等の海産物や生産地直送の生鮮物等輸入、遠距離からの生鮮品展示販売、その加工での食事、またデイリー食品の販売と、高価・高鮮度の食材スーパー兼レストラン兼コンビニに、オンライン配送と複数の小売業態を集約させた店舗はコト消費の面もあり来店者を楽しませた。しかし、全国300店舗への配送、食品ロスなどのコストをまかなうことは出来なかった。

フーマーは開業時の中型(4,000㎡)高級店舗だけでなく、小型店舗、社区への展開、アウトレットスタイル、PB、会員制大型店と新しい取り組みを続け、効果がでたのは2022年(決算期:3月)で、利益を計上したと発表している。

この年、アリババグループは独立採算制を敷きフーマーもグループ内でのシナジー効果だけでなく収益を求められたことに応えた。

アリババの変化

アリババの変化

2023年度に組織を「1+6+N」に再編した。「1」=ホールディングスとして、投資持ち株及び新規事業インキュベーターの役割、「6」=主要事業:クラウド、EC、ライフ、インターナショナルデジタルビジネス、運輸、エンターテインメント、「N」=アリヘルス、Sun Art、フーマーなど多くの「小型業務」で構成される事業会社とするカテゴリー分けであった。

更に、フーマーの侯毅氏とニューリテールを推進したアリババCEOの張勇氏が組織若返り促進の方針を示し2023年9月に退任した。

フーマーの変化

フーマーの変化

利益計上した2022年に約200店舗から350店舗まで閉店と開店を繰り返しながら増店とサプライチェーンの強化を実施した。しかし、市況は高価格品志向から低価格志向に移行していた。

コスト低減に関連して出された施策はいくつかのメディアで否定的に報道され、サプライヤー数の絞り込みと値下げ要求、一部正社員から外部ワーカーへの転換のほか、一時期は会員サービスの低減も実施された。

商品戦略では、2022年で35%まで増加させたPB商品のさらなる拡大と共に、リアル店舗でのSKU5,000から2,000まで大幅削減を進めた。

経済スローダウンが明確になった2023年は、消費総額は対前年比増であるものの低価格戦略がECプラットフォーマー主導でリアル店舗でも目立つようになった。(W11(ダブルイレブン)から見える中国発ECの未来 | Frontier Eyes Online by フロンティア・マネジメント (frontier-eyes.online) )

市況をとらえたマーケティングの変更であり、サプライチェーンに自信を持つ同社だからこその変更であったと考える。

低価格戦略

低価格戦略

PB比率が高く、低価格戦略をとるスーパーとしては、会員制のウォルマートのSam’s Club、同じく米系のCOSTCO、一部地域で展開しているALDIが中国でも存在感を増している。

ウォルマートは、2024年1月期(4Q)で中国市場売り上げは前年同期比11.3%増の40億米ドル。EC売り上げも同11%増で、年間売り上げは179億ドル(推定)となる。更にEC比率は48%とOMOを実現しているように取れる。

2023年末でのSam‘s Club店舗数は47店で今後年6~7店舗開業を検討するなど、中国市場でのディスカウントマーケットに手ごたえを感じている。

しかし、従来会員制で低価格及びPB商品を有している同社とフーマーの顧客は同じなのだろうか。元来フーマーへ期待するのは、高級食材や、高付加価値商品としている消費者が中心であったものを、低価格志向に切り替えて従来と同じ消費者層がフォローするのか。それとも欧米系のディスカウンターとの競争に勝ち抜くのかが興味ある点であった。

フーマーのCEO交代と今後

フーマーのCEO交代と今後

今年3月に侯氏がフーマーを退任しCFOの厳氏がCEOに就任することを発表した。侯氏は同社から離れ、今後フーマーが低価格、PB路線と収益性を維持できるのかが新たな興味ある点である。

冒頭のCOFCOによる買収ニュースはその前後の出来事であった。市場では、昨年からの張勇氏の退職、香港上場申請の検討延期、また中心業務のECがPDD(アメリカではTEMU)など低価格プラットフォーマーに押されていることから「N」カテゴリーのチェーンリテールは売却するとの観測が出たと考える。

初めは否定していたものの、3月に張勇氏が中国系ファンドであるFirstred社のパートナーに就任。

4月には、同氏と侯氏が20億米ドルでフーマー買収をするといくつかのメディアで報道されたがフーマーは否定している。

中国社会消費品小売総額は1~4月累計で対前年比+4.1%だが、小売業別でみるとスーパー+1.8%、コンビニエンスストア(CVS)+4.8%、専門店+5.7%、ブランド店-0.6%、そして百貨店は-3.5%である。

高級店、テナントの伸びは鈍く、日用品、食品類を中心とした小売業では大型、中型店を主体とするスーパーより、小型店のCVSの伸びが大きい。

今後、食を主体とした小売業は会員制の大型ディスカウントストア、従来のチェーンスーパー、そしてCVS等小型チェーン、またデリバリー比率の高い外食チェーンとの競合が続き、新しいビジネスモデルへの変化が起きるのではないだろうか。

まとめ

今後の市場動向での観察ポイント

  • OMO 高級商品から低価格商品主体に移行するのか
  • アリババ フーマーの出口戦略は行われるのか
  • リテール店舗の小型化は進むのか

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